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「LALWE《ロサンゼルス・レディース・レスリング・エンターテイメント》入門」

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「LALWE《ロサンゼルス・レディース・レスリング・エンターテイメント》入門」

 翌日、大きく顔を腫らしたアグネスとマチルダは学校中の噂の中心になっていた。会う友達、会う友達「大丈夫?」、「すごい痛そう。」、「男5人やっつけたんだって?」、「ダウンタウンの10人の愚連隊を秒殺したんだって?」と元々の話に尾ひれが着きまくり、1万倍ほどに話が拡がっていた。もちろん、噂の根源は、リンダとユングである。女子高校生の口に戸は建てられるものではなく、昼休みには先生たちの耳にも入り、校長室に呼び出された。
 緊張して校長室に入ったが怒られるでもなく、褒められるでもなく「程々にしなさい。次に何かやらかしたら停学よ!気をつけなさい!」との事だった。約10分のお説教の間、ふたりの意識は放課後に訪れる予定のLALWEの道場兼事務所とラマダに会うことでいっぱいで、校長の話は半分も残らなかった。
 
 部活を終え、2人は学校近くのスポーツ用品店でスポーツタオルと、洋菓子店でクッキーの詰め合わせを買って、メトロバスに乗り込んだ。
 約10分程でLALWEのホームページにあった住所にたどり着いた。さほど大きくない古いビルだった。1階がトレーニング場、2階が事務所のようだ。1階のトレーニング場の窓には、「ダイエットトレーニング教室実施中!」、「研修生募集中!」のカッティングシートと「10月の興行予定カレンダー」と「月末のタイトルマッチのポスター」が貼られていた。ポスターには赤と紫を基調としたかっこいいコスチュームのラマダの写真を中央に、左右に7人のレスラーの全身像の写真、下段に約20人程の、出場予定者の顔写真が並んでいた。部屋の中はブラインドが下りている為、外からは見えなかった。ふたりは恐る恐るインターホンを押した。
「はい、どちら様?」
と女の声が聞こえた。あまりの緊張で裏返った声でアグネスが
「昨日、ラマダ・ペックさんに助けられたアグネス・リッケンバッカーとマチルダ・ルークと言います。ラマダさんにお礼と身体が無事だったことのご報告に寄らせてもらったんですけど、ラマダさんいらっしゃいますか?」
「あぁ、ちょっと待って。(がやがやと話す声がスピーカーから聞こえるが、何を言っているかはわからない。しばらくして)今、ロードワークに行ってるんであと15分ほどかかるみたいだけど、待つかい?」
と返事があった。

「はい、お願いします。」
「じゃあ、左の階段から2階の事務所に上がっておいで。」
と言われ、2人は1階のドアを開け入っていった。
2階に上がると「LALWE OFFICE」とプレートの掛かったガラスドアがあり、ノックする前に、ドアが開き、わりと小柄な女性が
「いらっしゃい。聞いてるわよ、あなた達がヤングブレイブガールズね!さぁ、入って!」
と事務所に招き入れられた。10台ほどのデスクと各デスクにノートパソコン、2台の大型テレビに複合機にスチール棚と簡易の応接セット。普通の事務室と変わらない雰囲気の中、4,5人が作業をしている。2人は奥にある部屋に通された。
 大きく立派な木製デスクに皮張りの大きなイス。その前には10人は座れそうな、これまた大きなソファーがコの字型に置かれている。両サイドにはガラスのショーケースがあり、多数のベルトやトロフィーが飾られている。壁の上段には部屋一周分のパネル写真が飾ってある。
「コーヒーでいいかしら?ちょっと戻ってくるまでに時間かかるから、くつろいで待ってて。」
と女性は出ていった。すぐコーヒーが届いた。2人は少し口をつけただけで立ち上がり部屋をぐるりと見てまわった。

「すごいね、マチルダ・・・。たくさんの写真パネルとトロフィー・・・。あっ、この写真ラマダさんだ!」
と一枚を指さす。
「アグネス!これ、ラマダさんがチャンピオン撮ったときの写真よね!私、昨日、ユーチューブで見たの!」
「えっ、マチルダも見たの?私も見たわ!すごい試合だったわよねぇ。女の人でもこんなファイトができるんだって感動しちゃったわ!」
「そうね!私も感動したわ!チャンスがあれば、弟子入りしたいって思ったわ。」
「ん?弟子入り?」
「そう、今の柔道とは別の魅力を感じたわ・・・。」
「うん!それいい!いいよ!マチルダ!弟子入りお願いしちゃおうよ!」
「えぇ~っ、そんなの迷惑じゃない?突然弟子入りって・・・。」
「いや、何言ってんのよ、マチルダ!1階の窓に「研修生募集中!」ってあったじゃない。「善は急げ」よ!私は今日、弟子入りを申し込むわ!マチルダも一緒に弟子入りしましょ!」
「あんた、また暴走癖出てるわよ。今日はお礼と報告なんだから、バカなこと言わないでよ。お願いだから・・・。」
と、マチルダがアグネスの耳を引っ張り、言った。まさにその時、「ガチャっ」とドアが開くと同時に
「待たせたわね。身体の方はまぁ「ぼちぼちのケガ」で済んでよかったじゃない。」
とラマダがタオルで汗をぬぐいながら、昨日と同じ黒いトレーニングウエアで入ってきた。

「き、昨日は、あ、ありがとうございました。ご、ご迷惑おかけしまして、す、す、すいませんでした。」
とマチルダがどもりながら、直立不動で挨拶をした。アグネスは完全に固まってしまっている。
「まぁ、肩の力を抜いて、お掛けなさい。」
とラマダは優しくふたりに声をかけた。
「し、失礼します」
とマチルダがソファーに腰を下ろそうとした瞬間、アグネスが突然ラマダの足元に小走りで移動し、額を床のカーペットの押し付けた土下座姿勢で
「師匠!弟子入りさせてください!どうか、どうか、お願いします。」
と何度も頭をカーペットにこすりつけた。

「バカ!あんた何やってんの!」
とマチルダに襟を掴まれ、アグネスはソファーに引きずられていく。
「あー、びっくりした!あなた、なかなか強烈なキャラクターねぇ。まぁ、落ち着いて座ってくれる?このままじゃ何も話せないわ。」
とラマダは奥のソファーまで歩き、マチルダとアグネスに向かい合った席に座った。
部屋のすりガラスのガラスドアの向こうに3人の影が映り、ドアが少し開けられていて、くすくすと笑い声が聞こえた。
「こらっ!あんたら何のぞいてんだよ。」
とラマダが言うと、ドアが開き、3人の女が顔を出した。

「いやぁ、昨日の話聞いて、どんな子なのか興味持っちゃって。」
「で、いきなり「師匠!弟子入りさせて下さい!」でしょ!」
「できれば、一緒に話聞かせてもらいたいなぁ・・・と。」
「はぁ・・・。」
とラマダはため息をついて
「のぞき見するくらいなら入っておいで。」
3人が入ってきて横向きのソファーに座る。
「左の大きいのがアレサ、真ん中の中くらいのがウーピー、右の小さいのがケイト。3人ともうちのレスラーよ。」
とラマダが紹介した。アグネスとマチルダは立ち上がり
「はい、昨日、危ないところをラマダさんに助けられましたマチルダ・ルークです。(テーブルに2つの紙袋を置き)これ、昨日、汚してしまったタオルの換えとお礼のお菓子です。皆さんで食べてください。」
「私は「弟子入り希望」のアグネス・リッケンバッカーです。」
アグネスはラマダと3人に敬礼をして見せた。3人から大きな笑いが起こった。

「ラマダ、いい娘たち拾ったじゃない!今時、「弟子入り希望」って、そうそういないわよ。もう一人は若いのに礼儀もわきまえてるし。」
とアレサが言う。ウーピーとケイトも大きく頷いてる。
「まぁ、座りなさい。(アグネスとマチルダを座らせ)アレサ、あまり茶化さないで・・・。この娘たち、まだ高校生なのよ。それも昨日、偶然に事件現場に居合わせただけの関係よ。弟子にしてくれって言われても「はい、そうですか。」って簡単に受けれる話じゃないわよ。」
とラマダが答える。
「高校生じゃダメなんですか・・・。会ったばかりだからダメなんですか・・・。」
とアグネスがラマダに問いかける。
「昨日の今日で、あなたは、まだ混乱してると思うの。プロレスに入門するにしても、高校を卒業してからでも十分よ。ゆっくり考えなさい。」
と優しく答えたラマダを頬をプルプルさせながら見つめ続けるアグネス。部屋にはしばしの沈黙の時間が流れた。

「高校生がダメっていうなら、高校辞めます。会ったばかりがダメというなら毎日でも通います。(ゴンッ!とテーブルに両手をつき、頭をテーブルに打ち付けて)弟子入りしたいんです。よろしくお願いします!」
「ちょっと、アグネス!あんた、何無茶苦茶言ってんのよ!(マチルダはアマダの方を向き)すいません。この子、わけわかんないこと言っちゃって・・・。」
「止めないで、マチルダ。私は、この人の下で学びたいの。強くなりたいの・・・。」
とテーブルに頭を押し付けたまま動かない。
「はーぁ、困ったわねぇ・・・。」
とラマダは困り顔で仲間3人の顔を見る。するとウーピーとケイトが
「テストくらいしてあげたらどう?」
「そうよ、頭ごなしでダメと言うより、うちのメニューに着いてこれるかどうか、彼女自身に試してもらえば?」
「・・・・。わかったわ。アグネス、あなたトレーニングウエア持ってきてる?」
「はい、学校の体操服ならあります。」
「じゃぁ、着替えたら、下のジムに降りてきなさい。」
と言い残し、ラマダは部屋を出ていった。ラマダが部屋を出ると同時に、アレサ、ウーピー、ケイトの3人がアグネスとマチルダの前の席に移ってきた。マチルダが3人に
「テ、テストっていったい何するんですか・・・?いきなり試合とかじゃないですよね・・・。」
と聞いた。アレサがゆっくりと諭すように答えた。

「まあ、それは無いわね・・・。プロレスって派手に見えるけど、実は超地味なトレーニングの積み重ねなのよ。」
続いて、ウーピーが
「まずは、ケガをしない身体と集中力を切らさないための体力ってね。きっと、ゴッチファンのラマダのことだから、基礎的なトレーニングの反復ってのが課題として出されるわね。」
マチルダがキョトンとして聞く。
「ん?「ゴッチファン」って何ですか?」
ケイトがすかさず
「「カール・ゴッチ」ってプロレスの神様が20世紀に活躍しててね、めちゃくちゃ強いんだけど、強いだけでなく、強いレスラーを育てるのもすごい人で、彼女は時代が変わった今でも「カール・ゴッチ」に心酔してて、マシーントレーニングよりも「ゴッチ教室」で行われていたカール・ゴッチが他のレスラーを鍛えるための練習メニューを好むのよ。」
と答え、マチルダの前で、ヒンズースクワット、腕立て伏せ、レスラーブリッジをして見せた。マチルダは不安そうな顔でケイトに尋ねた。

「アグネスの体格で、プロレスってできるものなんでしょうか?」
「うーん、見た感じ、私の入門時より一回り小さいわねぇ。こう見えて、私もプロレスラーなのよ。一番小さい部類の下の方だけどね。まぁ、デカいにこしたことないけど、プロレスは、体力と根性とハートだからね。」
と右手の親指を胸に着きたてた。アレサが、
「ところで、あなたも一緒にテスト受けるの、マチルダ?」
「いえ、そんなつもりはなかったんですけど・・・。(とアグネスを見る)」
「一緒に受けて!!マチルダ、あなたと一緒なら、どんなことでも頑張れるわ!」
とアグネスはマチルダの両手をがっちり握り、マチルダの目を見る。
「じゃぁ、決まりね!お二人さん、さっさと着替えて!私たちも応援するわ!」
とアレサが立ち上がり声をかけた。ウーピーとケイトも立ち上がり、
「さぁ、早く脱いで脱いで!恥ずかしがってる暇は無いわよ!」
「あら、なかなかいい筋肉してるわねぇ。」
「なんやかんだ言いながら、ラマダが下で楽しみにしてるかもよ・・・。」




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