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三章 平和って良いですね

二十八話

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 職員室の奥のいつもの小部屋。

 お馴染みとなったこの部屋だけど、前の席に座るのはあまり馴染みの無い大屋敷先生だ。

 正直、なんで呼び出されたのか全く身に覚えがない。

 魔法概論の授業以外は全く接点が無いからだ。

 ここまで考えて、一つ身に覚えが出てきた。この前の授業でツクモの事で注意されたんだった。でも、あの時も一回注意されただけで、その後は何も言われなかったしな。

 本当に呼び出された理由が分からない。

 とりわけ無表情というわけじゃないけど、大屋敷先生は何を考えてるか分かりにくい。完全なポーカーフェイスだ。


「なんで呼ばれたか分からないって顔をしてるわね」
「ええ、まあ」


 それは仕方ありません。全く分かりませんからね。


「ふふ、単刀直入に言うわね」


 タメは無くて良いので、早めにお願いします。


「今日、そこの従魔にダンジョン内で魔石を与えていたわね」
「あ、はい。職員さんには申告しましたけど、それがいけなかったですか?」


 ドロップアイテム類は一度学校に提出する決まりがあるから、それで呼び出されたのか。

 でも、消耗品なんかはダンジョン内でそのまま使っても良い決まりだったはずだ。


「そうね。ドロップアイテムを使ったって言うよりも、エネミーにダンジョン内で魔石を与えた事が問題なのよ」
「?エネミーって言っても俺の従魔ですよ?そもそもエネミーに魔石を与えたらダメなんて聞いた事ないです」


 急に知らないルールを持ち出されても困る。

 ひょっとしたら校則で決まってるかもしれないけど、そうなったら素直に謝ろう。


「従魔だから、余計に不味いのよ」
「え?」
「あなた、従魔に魔石を与えた直後にスキルが生えたわよね?」


 それか。

 確かに【育成】と【能力閲覧】が生えたな。あまりの内容にずるじゃないかと思ったやつだ。


「あら、思い当たったようね」
「はい。【育成】と【能力閲覧】ですね」
「そう、それよ。このスキルの危険性は分かるでしょう?」
「危険性、ですか?」


 ダンジョン探索が劇的に楽になるとは思ったけど、危険性ってなんだ?

 急激にステータスが上がると危ないとかか?


「あら、何も分からないのね」


 大屋敷先生は言葉をきり、少し呆れたような顔をした。


「これも教育の賜物って事かしら。ねぇ、地上でスキルを使うとどうなるかしら?」
「えっと、俺の【危険察知】だと感度が鈍くなる気がします」
「そうね。じゃあ魔法を地上で使う人を見たことは?」
「無いです。それに地上ではほぼ使えないって教えてもらいました」


 そう地上だとスキルの効果は減衰して、ほとんどの人は使い物にならないはずだ。


「そうね。でも、使える人もいるし、スキルもある。現にあなたも地上で【危険察知】を使えてるわ」


 確かにそうだ。ダンジョンより感度は落ちるものの、【危険察知】は使えている。


「ステータスもそう。高いステータスを保持していれば、地上でも超一流のアスリートのように振る舞えたりもできるわ」


 そういうことか。

 ステータスをいじればより強くなれる。強くなればよりレベルを早く上げれるようになる。

 そうすれば、またステータスを上げれるようになれるって事か。


「塀を飛び越えたり、小さな火を出すだけでも犯罪は起こせるわよね」
「ステータスをいじれば、その可能性が高くなるって事ですね」
「そういうこと」


 大屋敷先生の瞳が妖しく光った気がする。

 ひょっとして、俺、消されちゃうのか!?
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