上 下
18 / 91
三章 平和って良いですね

十八話

しおりを挟む
 午後の授業は魔法概論だ。

 俺自身は今のところ魔法は使えないけど、敵や味方が使うからある程度理解しておかなければいけない。


「じゃあ、前回の続きだな。ダンジョンが発見された当初、それまで俗説や迷信なんていわれていた隠秘学オカルトを再編しようという動きがあった。これを第一次隠秘学運動と言って………」


 魔法概論の先生は大屋敷という女性の教師だ。

 見た目は20代半ばに見えるけど、噂ではダンジョンが初めて出現した頃から冒険者として活躍していたらしい。

 そうだとしたら、既に60歳は越えてるよな。下手したら70歳以上だ。

 高レベルの魔力が高い冒険者は老けにくいって聞くけど、本当だとしたらスゴイな。怖いぐらいだ。


「ちぅ。ちぅ。ちぅ」


 板書を写すシャーペンの動きに合わせて、ツクモが首を動かす。その可愛さに思わず気が散りそうになるけど、頑張って授業に集中する。

 意外と大屋敷先生は怖いからな。


「ここでダンジョンから魔導書が見付かった。今、大多数の冒険者が使う魔法の基になったものだな」


 俺の席は窓側の一番後ろだけど、ツクモの鳴き声で周りの生徒の気が散ってるのが分かる。

 こっちをチラチラ見ながら悶えるのを我慢してる感じだ。


「魔導書は大きく分けて地水火風の系統に分けられると考えられていて。これは世界各地に類似する考えが広く分布していたため、すんなりと受け入れられた」


 そういえば、ツクモは風魔法を持っていたよな。今度のダンジョン実習でちょっと見せてもらおう。

 地上だとスキルや魔法はほとんど使い物にならないらしいからな。

 ダンジョン内では魔法で辺り一面火の海にする冒険者も、地上に出ればタバコに火をつける程度の魔法にも苦労するみたいだ。

 ただ、俺の【危険察知】みたいに現象に現れないスキルは、減衰が多少は緩和するようだ。【危険察知】もダンジョン内みたいに警告音こそ鳴らないけど、なんとなく危ないっていうのは分かるからな。


「………小幡君!」
「え、は、はい?」


 唐突に名前を呼ばれてキョドる俺。

 つられてツクモもビックリしている。


「その君の従魔、どうにかしてもらえないかしら?皆の気が散って仕方ないわ」


 怒られてしまった。

 午前中は多めに見てもらえたのか、何も言われなかったけど、やっぱり邪魔になるよな。

 でも、どうしようか?


「ちぅ?」


 ツクモも心配そうにこっちを窺う。なんとなく不安そうに見えるな。


「あ、えーと。じゃあ、机の中に入っててもらいます。ほら、ツクモ。この中に入ってて」
「ちぅ」


 慌ててツクモを机の中に隠す。

 机はそっと頭だけ出して「ちぅ」と一声鳴いた。どうやら居心地はそれほど悪くはないみたいだ。


「どうでしょう」
「ええ、それなら大丈夫よ。あと、出来るだけでいいから鳴き声もあまり出させないようにね」
「はい、分かりました」


 怖かったぁ。

 なんかやっぱり迫力が違うな。歴戦の戦士って貫禄だ。

 ハプニングはあったものの、その後は何事も起こらず授業を終えて放課後を迎えるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天秤の絆 ~ベル・オブ・ウォッキング魔法学園~

LEKI
ファンタジー
五つの大陸と、大小様々な島々で構成されているクレティア。 その大陸の中で最も小さいグラナディール大陸にある、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園。 魔法剣士、魔法銃士、攻撃魔法士、補助魔法士、治癒魔法士、精霊術師、結界術師の七つの学科に分かれる学園に、精霊術師のユヅキが入学してくるところから物語は始まる。 幼馴染の魔法剣士であるナギト(一年生四回目)や、契約精霊であるアルバやセラータと共に、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園で過ごす日々の話。

勇者一行パーティから追放された治癒魔法師の物語

夢空莉羽
ファンタジー
【序章完結!第一章完結!第二章連載中!!】 リーナ・ルミエールは(自称)勇者一行のパーティーに所属していたが、治癒魔法しか使えないため、お前より使える(自称)聖女がいると言われ追放される。不満を持っていたリーナはすぐに受け入れるが、魔法の杖と冒険者ギルドカード以外は置いてけと言われてしまう。めんどくささから言うことを聞き、杖とカード以外を地面に置き、素早く去る。これからの行動を悩んだ末、まったり旅をすることに決める。 門を出た途端、魔物に襲われるが通りすがりの冒険者に助けられる。ただ、その冒険者がリーナを庇って腕に怪我をしてしまい、焦ったリーナは全力で治癒魔法を使う。その治癒能力の高さに驚いた冒険者――リオネルはリーナに、パーティーを組まないかと誘う。一人では何もできないリーナはその誘いに乗る。 ※閑話には重要なことがあったりするので読むのをおすすめします。 ※設定メモもありますが、メモなので、あんまり内容は書かれていません(九月七日追記) ※ファンタジー大賞にエントリーしています ※不定期投稿です

伝説の冒険者の息子は最強テイマーになったそうです

いいたか
ファンタジー
六月から更新開始の作品の第一話をお試しチラ見せ!!! 勇者の師匠、剣聖の兄、賢者の娘....様々な境遇からなった伝説のSランクパーティ。 彼らはいつの日からか散り散りになっていった。 そして、気付けば...。 賢者の娘の息子はすくすく育ち、テイマーとなった。 そして、勇者の師匠に鍛えられたせいで...。

体質が変わったので

JUN
キャラ文芸
 花粉症にある春突然なるように、幽霊が見える体質にも、ある日突然なるようだ。望んでもいないのに獲得する新体質に振り回される主人公怜の、今エピソードは――。回によって、恋愛やじんわりや色々あります。チビッ子編は、まだ体質が変わってません。

平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ
恋愛
私が選ばれるはずはない。 だって両親の期待を裏切った出来損ないなのだから。 ずっとそうやって生きてきた。 それなのに、今更...。 今更、その方は私の前に現れた。 期待してはダメ。 縋ってはいけない。 私はもう諦めたのだから。 ある国の片田舎に、異能者の番となる特別な印を持った少女がいた。 しかし、その少女にはいつまで経っても迎えは来なかった。 両親に虐げられ、奴隷にまで落ちた少女は、全てを諦めながら残された人生を生きる。 自分を助けてくれた優しい人達に感謝しながら。 そんなある日、彼女は出会ってしまった。 彼女を切り捨てた美しい番と。 他視点あり なろうでも連載中

処理中です...