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第3章
三話
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「改めて初めまして。僕、ドラゴと言います」
ルナからの無遠慮な視線を気にしながら、ドラゴン型精霊が頭を下げる。
「三郎と申す」
「ルナよ。さて、ドラゴ君。私も長くここで働いているけど、カードに宿る人工精霊がその姿を見せるなんて聞いた事も無いわ。これが魔石のボーナスアビリティなのかしら?」
「は、はい。そう………だと思います」
隠された顔をなんとか見ようと、ルナは三郎の背後に回り込み、肩越しに覗き見る。
その眼光は今まで三郎が見たことも無いほど鋭い。ドラゴは怯え、縮こまる。
「で、あなたは何が出来るの?」
「ぼ、僕ですか?」
「そうよ、他に誰がいるの?」
ルナの声音は優しい。しかし、有無を言わさぬ迫力があった。
それが証拠に、三郎が口を挟むことも出来ないのだ。
「え、えっと。こんな姿をしてますが、僕も一応冒険者カードなので、カードと同じ事は出来ますよ」
緊張のあまり、ドラゴは詰まりながらも言葉を発する。
その言葉を、ルナはいつの間にか取り出したメモ帳に一言一句逃さぬよう書き留める。
「例えば?」
「例えばですか?え~と………あ、ステータスの閲覧が出来ますよ」
「どうやって?」
「僕が読み上げても良いですし、何かに書き写す事も出来ます」
「じゃあ、ここに書いてみて」
すかさず、ドラゴの眼前に自分のメモ帳を差し出す。
あまりの勢いに、ドラゴは思わず仰け反った。
「えっと。じゃあ、いきますよ」
大きく息を吸い込むと、ドラゴは口から紅蓮の炎を吹いた。
三郎は驚いてドラゴを落としそうになるが、ルナは全く動じる様子もない。手にしたメモ帳が炎に包まれても身動ぎすらしなかった。
「出来ました」
炎が消えると、ドラゴは顔をあげた。
メモ帳は燃え尽きるどころか、焦げ目すらついていない。その代わり、紙一面にびっしりと三郎のステータスが書き記されていた。
「なるほど。炎に似せたマナを吹き付ける事により、文字を記しているのね。どうやら工程はともかく、魔導プリンターと同じ原理のようね」
メモ帳を一瞥すると、ルナはそう断じた。
「で、これだけなの?」
「あ、もちろん、協会の主精霊への報告も出来ます」
逃げるように三郎の掌から飛び立つと、机に設えてある端末に乗った。
三郎とルナが追うように机まで来ると、端末に繋がっている画面に光が灯る。
「あ、操作はお願いできますか?」
「わかったわ」
ルナはキーボードの前に座ると、操作していく。
いくつかの操作をすると、ドラゴを見て頷いた。
「確かに。情報のやり取りは変わらないみたいね」
「はい、だと思います。後、僕に出来る事と言えば、テイマーである御主人様の権限を使って、テイマーギルドのデータベースにアクセス出来る事、ミッション内容と地図を表示する事なんかですかね」
「そう、やっぱり普通の冒険者カードと同じ能力なのね。いえ、単独で入出力出来る分、ドラゴの方が便利かしら」
メモ帳にまとめ終わると、憑き物が落ちたようにルナの表情が柔らかくなった。
それを見て、三郎を秘かに安堵の息を漏らす。
「で、協会へのアクセスはこっちの端末を使わなきゃいけないのね?」
「え~と、はい。閲覧だけなら何処にいても大丈夫ですけど、報告は端末に座らないとダメです」
ドラゴは端末から降りると、また三郎の掌の上に戻ってきた。
どうやら、そこが一番居心地が良いようだ。
「あ、閲覧は出来るのね」
「はい。試しに何か見てみましょうか?」
「そうね、お願いするわ」
「任せてください」
ドラゴは羽を広げると、目を閉じた。
暫くその姿勢のままで固まっていた。
数分経過した後、羽を閉じて口を開いた。
「ルナ・スミス 女性 ミックスヒューマン 協会職員 年れ…………ゲグッ」
しかし、ドラゴの言葉は途中で途切れた。
三郎が反応すら出来ない素早さで、ルナがその首を掴んでいたのだ。
職員は協会内部において、レベル100相当の能力補正を受けている。だが、それを考慮してもあり得ないスピードだ。
「それ、どこ情報?」
三郎にはいきなり室温が10度程下がったような気がした。
それほどまでに底冷えがする声音だ。
「ゲ、ゲググッ」
気管を潰され、うめき声をあげる事しか出来ないドラゴ。
「ルナ殿、そのままでは喋れない。いや、しんでしまう!」
冷たい迫力に押されながらも、三郎が口を挟む。
なんとか掴むのを止めさせようとするが、ドラゴを掴むルナの腕はびくともしない。
能力補正の事を知らない三郎は、目の前のぽちゃぽちゃした腕の何処にこんな力が有るのかと目を見張った。
「あら死んでしまっては聞きたい事も聞けなくなってしまうわね」
ルナはほんの少し指の力を弱める。
その隙に、ドラゴはなんとか空気を体内に送ろうと荒い呼吸を繰り返す。
「これで、話せるでしょう?」
「う、うぅ…………」
命の危険を感じ震える。
慌てて言葉を紡ぎだす。
「ふ、普通に一般公開されている協会の職員紹介のページです」
「一般公開?」
「は、はい」
ドラゴの怯えきった目は、とても嘘を言える余裕を感じない。
ルナはドラゴの首をようやく解放した。
「ドラゴ君、それは秘匿情報に指定します」
「は、はひっ!!」
「三郎さん、ちよっと用事ができました。今日の講義はこれで終わりにします」
「あ、あぁ」
「では、お疲れ様でした」
三郎は笑っていない笑顔と言うものを初めて見た。
彼程の剛の者でも、心胆が凍えるような笑顔だ。
ルナは優雅に一礼すると、部屋から出ていくのだった。
後日、複数のベテラン女性職員から吊し上げをくらった幹部職員が、職員紹介のページを一新したのはまた別のお話である。
ルナからの無遠慮な視線を気にしながら、ドラゴン型精霊が頭を下げる。
「三郎と申す」
「ルナよ。さて、ドラゴ君。私も長くここで働いているけど、カードに宿る人工精霊がその姿を見せるなんて聞いた事も無いわ。これが魔石のボーナスアビリティなのかしら?」
「は、はい。そう………だと思います」
隠された顔をなんとか見ようと、ルナは三郎の背後に回り込み、肩越しに覗き見る。
その眼光は今まで三郎が見たことも無いほど鋭い。ドラゴは怯え、縮こまる。
「で、あなたは何が出来るの?」
「ぼ、僕ですか?」
「そうよ、他に誰がいるの?」
ルナの声音は優しい。しかし、有無を言わさぬ迫力があった。
それが証拠に、三郎が口を挟むことも出来ないのだ。
「え、えっと。こんな姿をしてますが、僕も一応冒険者カードなので、カードと同じ事は出来ますよ」
緊張のあまり、ドラゴは詰まりながらも言葉を発する。
その言葉を、ルナはいつの間にか取り出したメモ帳に一言一句逃さぬよう書き留める。
「例えば?」
「例えばですか?え~と………あ、ステータスの閲覧が出来ますよ」
「どうやって?」
「僕が読み上げても良いですし、何かに書き写す事も出来ます」
「じゃあ、ここに書いてみて」
すかさず、ドラゴの眼前に自分のメモ帳を差し出す。
あまりの勢いに、ドラゴは思わず仰け反った。
「えっと。じゃあ、いきますよ」
大きく息を吸い込むと、ドラゴは口から紅蓮の炎を吹いた。
三郎は驚いてドラゴを落としそうになるが、ルナは全く動じる様子もない。手にしたメモ帳が炎に包まれても身動ぎすらしなかった。
「出来ました」
炎が消えると、ドラゴは顔をあげた。
メモ帳は燃え尽きるどころか、焦げ目すらついていない。その代わり、紙一面にびっしりと三郎のステータスが書き記されていた。
「なるほど。炎に似せたマナを吹き付ける事により、文字を記しているのね。どうやら工程はともかく、魔導プリンターと同じ原理のようね」
メモ帳を一瞥すると、ルナはそう断じた。
「で、これだけなの?」
「あ、もちろん、協会の主精霊への報告も出来ます」
逃げるように三郎の掌から飛び立つと、机に設えてある端末に乗った。
三郎とルナが追うように机まで来ると、端末に繋がっている画面に光が灯る。
「あ、操作はお願いできますか?」
「わかったわ」
ルナはキーボードの前に座ると、操作していく。
いくつかの操作をすると、ドラゴを見て頷いた。
「確かに。情報のやり取りは変わらないみたいね」
「はい、だと思います。後、僕に出来る事と言えば、テイマーである御主人様の権限を使って、テイマーギルドのデータベースにアクセス出来る事、ミッション内容と地図を表示する事なんかですかね」
「そう、やっぱり普通の冒険者カードと同じ能力なのね。いえ、単独で入出力出来る分、ドラゴの方が便利かしら」
メモ帳にまとめ終わると、憑き物が落ちたようにルナの表情が柔らかくなった。
それを見て、三郎を秘かに安堵の息を漏らす。
「で、協会へのアクセスはこっちの端末を使わなきゃいけないのね?」
「え~と、はい。閲覧だけなら何処にいても大丈夫ですけど、報告は端末に座らないとダメです」
ドラゴは端末から降りると、また三郎の掌の上に戻ってきた。
どうやら、そこが一番居心地が良いようだ。
「あ、閲覧は出来るのね」
「はい。試しに何か見てみましょうか?」
「そうね、お願いするわ」
「任せてください」
ドラゴは羽を広げると、目を閉じた。
暫くその姿勢のままで固まっていた。
数分経過した後、羽を閉じて口を開いた。
「ルナ・スミス 女性 ミックスヒューマン 協会職員 年れ…………ゲグッ」
しかし、ドラゴの言葉は途中で途切れた。
三郎が反応すら出来ない素早さで、ルナがその首を掴んでいたのだ。
職員は協会内部において、レベル100相当の能力補正を受けている。だが、それを考慮してもあり得ないスピードだ。
「それ、どこ情報?」
三郎にはいきなり室温が10度程下がったような気がした。
それほどまでに底冷えがする声音だ。
「ゲ、ゲググッ」
気管を潰され、うめき声をあげる事しか出来ないドラゴ。
「ルナ殿、そのままでは喋れない。いや、しんでしまう!」
冷たい迫力に押されながらも、三郎が口を挟む。
なんとか掴むのを止めさせようとするが、ドラゴを掴むルナの腕はびくともしない。
能力補正の事を知らない三郎は、目の前のぽちゃぽちゃした腕の何処にこんな力が有るのかと目を見張った。
「あら死んでしまっては聞きたい事も聞けなくなってしまうわね」
ルナはほんの少し指の力を弱める。
その隙に、ドラゴはなんとか空気を体内に送ろうと荒い呼吸を繰り返す。
「これで、話せるでしょう?」
「う、うぅ…………」
命の危険を感じ震える。
慌てて言葉を紡ぎだす。
「ふ、普通に一般公開されている協会の職員紹介のページです」
「一般公開?」
「は、はい」
ドラゴの怯えきった目は、とても嘘を言える余裕を感じない。
ルナはドラゴの首をようやく解放した。
「ドラゴ君、それは秘匿情報に指定します」
「は、はひっ!!」
「三郎さん、ちよっと用事ができました。今日の講義はこれで終わりにします」
「あ、あぁ」
「では、お疲れ様でした」
三郎は笑っていない笑顔と言うものを初めて見た。
彼程の剛の者でも、心胆が凍えるような笑顔だ。
ルナは優雅に一礼すると、部屋から出ていくのだった。
後日、複数のベテラン女性職員から吊し上げをくらった幹部職員が、職員紹介のページを一新したのはまた別のお話である。
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