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第5章
六話
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従魔の契約が完了した頃に、ミドリは戻ってきた。
どうやら、キールを見付けることは出来なかったようだ。
砦の前、さっきまでコボルトとサイクロプスが戦っていた辺りは広場のようになっているが、他の場所を木々に覆われている所が殆どだ。なので、上空から見ただけでは分からなかったのかもしれない。
「シロー、匂いを辿れるか?」
「わん」
シローがキールの匂いを探す。
辺りを行ったり来たりしながら、僅かに残ったキールの匂いをやっと見付けると、それを辿って歩きだした。
三郎達はその後をぞろぞろとついていく。
シローが足を止めたのは、砦の裏手だった。
近くを流れる川から来る風が爽やかで、涼むには丁度良い場所だ。
「くぅ~ん」
シローは頻りに鼻をひくつかせて匂いを探すが、完全にここで消えている。
困惑した鳴き声を出しながら、辺りをくるくる回る。
「う~む、いったいキール殿は何処に行ったのやら………」
くるくる回るシローを撫でて落ち着けながら、三郎がひとりごちる。
「天に昇ったか、地に潜ったか………」
よく探すと、キールの足跡も微かに残っていたが、やはりシローが匂いを見失った場所で消えていた。
周りには争った形跡も無く、本当にどうしていなくなったのか見当もつかない。
ひょっとしたら鳥系魔獣に連れ去られたのかもしれない。
その可能性に思い至った時、三郎は自分の身体が沈んでいっている事に気付いた。
「な、なんじゃ?」
足元にいたシローを抱えて、その場から跳び退く。
一足跳びに子コボルトやクローのいる場所まで移動すると、すかさず振り返って今まで自分の立っていた場所を見る。
それまで何の変哲もなかった場所が、矩形に切り取られて沈みこんでいっていた。
何が起こっているか分からない三郎達は、咄嗟に近くの藪に身を潜ませる。クローも頑張って木の後に隠れた。隠れきっているかは微妙なところだが。
「………あれは」
ぽっかりと空いた穴から、四角い何かが出てきた。
最初、三郎は大きな蜘蛛かと思った。しかし、脚が四本しか無いうえ、つるつるとした光沢がある。
「ゴーレムの一種みたいですね」
「ゴーレム?」
「ええ、魔法使い、特に錬金術師なんかが作る魔法生物の一種です。どうやらあれは岩石で出来ているようですが、木や金属で出来たものもあります」
ドラゴの解説に、三郎は無言で頷く。ゴーレムの目的が分からない以上、あまりこちらを気取られるような事はしたくない。
三郎達が見詰める中、ゴーレムは四つの脚を器用に動かして、穴から出てくると砦に向き直る。
パッと見はどちらが前か分からないが、どうやら二つの円いレンズが並んで着いている方が前のようだ。
そのレンズが出たり入ったりしているが、後から見ている三郎達には分からない。
前後左右に動きながらレンズの出し入れをした後、ゴーレムの身体の上面後部から突起が出てきた。
「あれは何をしているのだ?」
「さぁ?」
突起を出したまま動かなくなったゴーレムを見ながらぽそりと呟く。
だが、その問いに答えられる者はこの場にはいない。
固唾を飲んで成り行きを見守っていたら、先程の穴から同じようなゴーレムが次々と出てきた。
その数は全部で十体。
それらは二体一組となって砦に向かった。
「砦を直しておるのか?」
「どうもそうみたいですね」
壁に取り付いたゴーレムが粘土を身体の下部から出すと、その後のゴーレムが青白い炎を出して、粘土を焼き固める。その作業を繰り返し行い、外壁を見る間に修復していく。
「なるほど、最低でも八百年以上前に造られたはずのこの砦が、なぜ今もまだ形を保っていたか議論がありましたが、こういうからくりでしたか」
「あのゴーレムとやらが壊れる度に直しておったのだな」
「そのようですね」
かなりのペースで補修される様子を感心して眺めていたら、袴の裾をシローが引っ張ってきた。
「わん」
小さな声で鳴くと、ゴーレムが出てきた穴の方に向かう。どうやら、見失っていたキールの匂いが穴の中からするようだ。
三郎はゴーレムの様子を気にしながらもシローの傍まで行くと、穴の中を覗きこむ。
穴の中には広い通路があり、ずっと奥に続いている。天井も高く、クローでも楽に通れそうだ。
薄暗いながらも壁には照明が点いており、歩くには不自由しなさそうだ。
「わん」
「そうか、この中にキール殿は入っていったのか」
三郎は躊躇せずに穴の中に飛び降りた。昇降用の梯子は掛かっていたが、まどろっこしかったのだ。
三郎に続き、シローとクローも飛び降りる。子コボルトがおっかなびっくり梯子を降りたのを見届けたミドリが最後に穴の中に入った。
どうやら、キールを見付けることは出来なかったようだ。
砦の前、さっきまでコボルトとサイクロプスが戦っていた辺りは広場のようになっているが、他の場所を木々に覆われている所が殆どだ。なので、上空から見ただけでは分からなかったのかもしれない。
「シロー、匂いを辿れるか?」
「わん」
シローがキールの匂いを探す。
辺りを行ったり来たりしながら、僅かに残ったキールの匂いをやっと見付けると、それを辿って歩きだした。
三郎達はその後をぞろぞろとついていく。
シローが足を止めたのは、砦の裏手だった。
近くを流れる川から来る風が爽やかで、涼むには丁度良い場所だ。
「くぅ~ん」
シローは頻りに鼻をひくつかせて匂いを探すが、完全にここで消えている。
困惑した鳴き声を出しながら、辺りをくるくる回る。
「う~む、いったいキール殿は何処に行ったのやら………」
くるくる回るシローを撫でて落ち着けながら、三郎がひとりごちる。
「天に昇ったか、地に潜ったか………」
よく探すと、キールの足跡も微かに残っていたが、やはりシローが匂いを見失った場所で消えていた。
周りには争った形跡も無く、本当にどうしていなくなったのか見当もつかない。
ひょっとしたら鳥系魔獣に連れ去られたのかもしれない。
その可能性に思い至った時、三郎は自分の身体が沈んでいっている事に気付いた。
「な、なんじゃ?」
足元にいたシローを抱えて、その場から跳び退く。
一足跳びに子コボルトやクローのいる場所まで移動すると、すかさず振り返って今まで自分の立っていた場所を見る。
それまで何の変哲もなかった場所が、矩形に切り取られて沈みこんでいっていた。
何が起こっているか分からない三郎達は、咄嗟に近くの藪に身を潜ませる。クローも頑張って木の後に隠れた。隠れきっているかは微妙なところだが。
「………あれは」
ぽっかりと空いた穴から、四角い何かが出てきた。
最初、三郎は大きな蜘蛛かと思った。しかし、脚が四本しか無いうえ、つるつるとした光沢がある。
「ゴーレムの一種みたいですね」
「ゴーレム?」
「ええ、魔法使い、特に錬金術師なんかが作る魔法生物の一種です。どうやらあれは岩石で出来ているようですが、木や金属で出来たものもあります」
ドラゴの解説に、三郎は無言で頷く。ゴーレムの目的が分からない以上、あまりこちらを気取られるような事はしたくない。
三郎達が見詰める中、ゴーレムは四つの脚を器用に動かして、穴から出てくると砦に向き直る。
パッと見はどちらが前か分からないが、どうやら二つの円いレンズが並んで着いている方が前のようだ。
そのレンズが出たり入ったりしているが、後から見ている三郎達には分からない。
前後左右に動きながらレンズの出し入れをした後、ゴーレムの身体の上面後部から突起が出てきた。
「あれは何をしているのだ?」
「さぁ?」
突起を出したまま動かなくなったゴーレムを見ながらぽそりと呟く。
だが、その問いに答えられる者はこの場にはいない。
固唾を飲んで成り行きを見守っていたら、先程の穴から同じようなゴーレムが次々と出てきた。
その数は全部で十体。
それらは二体一組となって砦に向かった。
「砦を直しておるのか?」
「どうもそうみたいですね」
壁に取り付いたゴーレムが粘土を身体の下部から出すと、その後のゴーレムが青白い炎を出して、粘土を焼き固める。その作業を繰り返し行い、外壁を見る間に修復していく。
「なるほど、最低でも八百年以上前に造られたはずのこの砦が、なぜ今もまだ形を保っていたか議論がありましたが、こういうからくりでしたか」
「あのゴーレムとやらが壊れる度に直しておったのだな」
「そのようですね」
かなりのペースで補修される様子を感心して眺めていたら、袴の裾をシローが引っ張ってきた。
「わん」
小さな声で鳴くと、ゴーレムが出てきた穴の方に向かう。どうやら、見失っていたキールの匂いが穴の中からするようだ。
三郎はゴーレムの様子を気にしながらもシローの傍まで行くと、穴の中を覗きこむ。
穴の中には広い通路があり、ずっと奥に続いている。天井も高く、クローでも楽に通れそうだ。
薄暗いながらも壁には照明が点いており、歩くには不自由しなさそうだ。
「わん」
「そうか、この中にキール殿は入っていったのか」
三郎は躊躇せずに穴の中に飛び降りた。昇降用の梯子は掛かっていたが、まどろっこしかったのだ。
三郎に続き、シローとクローも飛び降りる。子コボルトがおっかなびっくり梯子を降りたのを見届けたミドリが最後に穴の中に入った。
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