ひとしづくの、愛。

32

「晴人、話があるから聞いてほしい。」

ソファでテレビを見ていた晴人に声をかる。

「わかった、飲み物用意するね。」

一度席を立ち二人分の紅茶を淹れた晴人は、蒼斗の隣に並んで腰掛けた。
先日の騒動による傷は、もうあまり目立たなくなっていた。

「俺の家の所為で晴人を傷つけてごめんな。もう二度と同じ事が起きないように兄さんが話しをつけてくれたんだ。さっきその連絡をもらった。」

あの日の事を思い出したのか晴人が膝の上で拳を握ったのが目に入り、そっとその背中に手を添えた。

「そう、なんだ。僕はもう大丈夫だよ…。」

俯いて答える晴人の背中をさすりながら、本題に入るべく語りかける。

「それで、晴人にはもう一つ聞いてほしい事があるんだ。」

「うん？」

晴人が顔を上げてこちらを見る。

「前に治験の話をしたと思うんだけど、やっぱり俺はαになりたいんだ。」

治験の言葉を聞いた晴人は、不安げな表情で蒼斗のシャツを握りしめた。

「俺は、晴人と番になってずっと一緒にいたい。」

蒼斗は、晴人の目をしっかりと見据えてそう告げる。

「今のままでも十分幸せなのに…。」

そう言った晴人の手が震えているのがシャツ越しに伝わってくる。

「発情期にもう苦しい思いをさせたくないんだ。わかってもらえないかな。」

見つめ合った瞳に今にも溢れ落ちそうな涙を浮かべた晴人に、蒼斗は手を伸ばし指先でその雫を拭いとる、

「…ぅう、わか、った」

遂に堰を切った涙もそのままに、晴人は蒼斗の胸に顔を埋めた。
蒼斗はずっと背中をさすってくれている。

「ありがとう、晴人。絶対に悲しませたりしないから安心してよ。」

蒼斗は晴人を抱きしめ、ふわふわの髪にそっとキスをした。