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第11章 18歳の誕生日

第172話 もうすぐ18(2)※改題※

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将が18歳になれば、二人が結ばれることについて、法律的には何の障害もなくなる。

しかし、二人は依然、教師と生徒なわけで、そこにはモラルの壁が立ちはだかっている。

聡は教師として、社会人として、そのモラルに従っているわけだが、将を恋する一人の女性としては、苦しさは増すばかりだった。

おまけに傷ついた大悟に寄り添って暮らす将だから、聡と触れ合う回数は減ってしまった。

その代償行為なのか、聡はこのところ、将に抱かれる夢をしばしば見る。

夢の中で、聡は自由奔放に将を愛している。

淫らの限りを尽くして、お互い高みに登りつめるところで、いつも目が覚める。

鼓動は、まだ夢の続きで激しく脈打っているのに、聡は冷たい未明の空気の中に現実を認識しなくてはならない。

そして聡をゆっくりと包む自己嫌悪。

――いやだ。

9歳も若い男に欲情している自分が、みじめで憐れで醜いと思った。

幸い春休みで、教室で顔をあわせることはないから、こんな醜い自分は、人知れず抑えればよかったが、これからはそうもいかなくなるだろう……。

将の腕の中で聡は、もう一度将の匂いを吸い込んだ。

『一度でいいから将に抱かれてみたい』

これは聡の願望でもあるのだ。

でも……。

一度、抱かれてしまえば、むしろ落ち着くのかもしれない。

聡の考えは、希望的観測を引き出す。

正反対の場所にある理性が、『なんとあさましい、雌の思考』と自分を嘲笑しているのを自覚しつつも。

聡は、将に悟られないように、こっそりと記憶の引き出しを開ける。

今までに付き合った男との思い出を、順番に検索するように思い出す。

そして。セックスは、どの男とも、『最初』が一番のイベントだったことを改めて確認した。

初めて結ばれるまでの過程が、最も相手を想い、興奮する時期であった……それは否めない。

一旦結ばれてしまえば、その後いっときは狂ったように相手を求めるものの、だんだん単なるコミュニケーション手段として、その感情のほうはむしろ安定していったようにも思う。

(もちろん、博史のように、会えない期間が長い男は、別として)

安定のあとは、倦怠があり……その後、何か理由ができれば、そこで別れてしまったわけだが、聡は将についてそこまで考えが及ばなかった。

というより、無意識に及ばせなかった、というほうが正しい。

将の胸のあたりからは、あいかわらず干草のような香りがしている。

この香りを知って、果たしてどれぐらいの月日が経っただろうか。

その香りに陶然としている聡は、いっそ、『18の誕生日』というイベントに限定して、将と結ばれてもいいような気がしてきた。

いままで恋人だった男の中で、既に、結ばれるまでの日数は、最長を毎日更新し続けているのだから。

だが、もちろん心配はある。

1度、いや1日程度でおさまるのか、という心配。

そして、その後の教室で、そんな二人の淫靡なムードが出てしまわないか、という心配。

しかし、後者についての心配は、薄まっていた。

1週間とはいえ、同棲してしまった二人だが、その間、通常通り学校で『健全な教師と生徒』をきっちり演じていたではないか。

毎晩、抱き合って眠っていたのに、である。

と、将が聡を抱く腕の力をゆるめた。

そして自分の胸から離すと、聡を見つめて言った。

「考えといて。ま、ダメでも、アキラのこと好きなのは変わらないけど」

将はゆっくりと微笑んだ。

――いつのまに、こんなに男っぽい笑顔をするようになったんだろう。

聡は思わず見惚れた。

「……一番嬉しいプレゼントってことでサ。じゃ、俺、帰るわ」

将は、聡からすっかり離れてしまうと、立ち上がった。

3センチ伸びた、と今日確認したせいか、見上げる将はとても大きくなった気がする。

ジーンズを腰パンにしているにもかかわらず、足が長いせいか、そういう風に見えない。

「……もう?」

聡も将を追うように立ち上がった。聡の名残惜しげな顔に、将は柔らかい目で聡を見つめた。

「ん……。大悟が心配だから」

「そう」

聡は寂しさから視線をやや落とした。それでも大人の自覚が、もう一度、笑みをつくらせた。

将はいつになく素直に寂しい様子を見せる聡がいとおしくなり、肩を引き寄せると、軽く唇を重ねた。

「明日、学校で」

軽い口づけとはいえ、聡の唇の柔らかさを充分に堪能して、将は微笑んだ。

「ウン……。あ、明日、実力テストだから」

聡は思い出して顔をあげた。

「そうだった!……やべーや。ぜんぜん勉強してねーや」

将はわざとらしく、『ヤバイ』という顔と素振りをつくっておどけると、

「じゃあ!」

と明るく、鴨居をくぐるようにしてドアの外に出た。

突っ掛けを履いた聡が廊下から外をのぞくと、暗い街灯の下、手をふりながら振り返る将がいた。

 
 

聡との逢瀬を早めに切り上げて帰ってきたのに、大悟はまだ帰っていなかった。

電話をかけてもつながらない。カウンセリングにしては遅すぎる。

「……たく、どこいったんだ」

心配する将をよそに、大悟は何食わぬ顔で、夜10時すぎて戻ってきた。

「大悟、お前、どこいってたんだ」

近寄った将は、大悟から、酒臭さの代わりに、ヤニのような悪臭と化して染み付いた、煙草の臭いを嗅ぎつけた。

「ちょっと、気晴らしに。カウンセラーからも気晴らしをしろって言われたから」

大悟は笑みを浮かべながら答えた。今日は酒は飲んでいないらしい。

「何?ゲーセン?」

「いや……、パチンコ」

とたんに将は渋い顔をする。その顔を見て、大悟は

「閉店まで粘って勝ったんだぜ」

と言い訳をした。

「いくら」

「5万」

大悟は少し得意そうな顔をした。

「……ふーん。そう」

将は、そういってウーロン茶をグラスに注いだ。

18歳未満のくせに、と固いことを言うつもりは毛頭ない。将も遊んだことはあるから。

しかし、結局パチンコ屋が儲かるように出来てるんだ、と、つまらなくなるのに時間はかからなかった。

遊べる時間に対して、金がなくなるペースは速すぎる。それを引き止めるかのようにときどき勝たせてやる。

そんなシステムを知って以来、将はパチンコと聞くと、うさんくさいものの代表のように思え、またそれにハマって、湯水のように大金を擦る大人たちを馬鹿にしていたところがあるのだ。

それに比べると、安価な分、ゲーセンのほうが『まっとうな暇潰し』だと、将には思えていた。

だが、酒も飲まずに、元気が出たような大悟を見ると、気晴らし効果はあるのかな、とも思い「よかったな」と言っておいた。

大悟は一気に、ウーロン茶を飲み干すと、

「風呂入るわ。うータバコくせえ」とバスルームに消えた。

 

だが……その日に勝ったのが災いして、大悟は翌日からもパチンコに通い続けた。

案の定、負けがこんだ。

最初に大きく勝ったのが忘れられず、粘ってしまったせいで、毎日信じられない金額を失っていった。

そして……1ヶ月近く働かなかったせいで、もともと少なくなっていた貯えのほとんどをその週のうちに使い果たしてしまったのであった。
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