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第3章 クリスマスの約束
第57話 ホテル(3)
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ブライダルコーナーを出ると、博史はチェックインをしにあわただしくフロントへと行ってしまった。
まるで、将に最後の別れを惜しむ時間を猶予するかのように、聡と二人で、ラウンジに残す。
ラウンジの外の滝もクリスマスのライトアップがされていて、夜の中に幻想的な世界を浮かべていた。
あたりは、ディナー前の待ち合わせか、恋人同士ばかりだった。
将と聡も幸せそうなその中に溶け込んでいた。
なのに、二人ときたらまるで言葉が出てこないのだった。
時折思い出したように相手の顔を見つめて、そのたびに視線が沈んでいく。
訊きたいことはお互いいろいろあるのに。
時が徒に流れていく。
やっと将の口からでたのは
「あのドレスで、ケッコンすんのか、あいつと」
という言葉だった。聡は将の顔を見つめるとゆっくりと首を横に振った。
その目には決意があった。それに勇気百倍した将はさらに続ける。
「……今日、来てくれたってことは、期待して、いいんだろ」
聡はまたたきもせず将を見つめた。
なんて返事したらいいかわからない。
いっそこの気持ちにまかせてYESと言いたい。
言ったところでどうなるのだ。立場は変わらない。
でも、こんな状況だから、せめて気持ちだけでも伝えておきたい。
でも、そうしたところで、それでどうなるのか……。
だけど。
「私……将のこと……」
聡は観念してその言葉を口にだそうとした。
言いかけたところで、聡は体の側面に重圧を感じた。
聡の座るソファーのわきに博史が立って二人を見下ろしていた。
「……じゃ行こうか、聡。ディナーは部屋にルームサービスを用意してもらってるから」
博史は聡を促した。将には手をひっぱるようにして無理やり立たせたように見えた。
聡がすがるような目で見ている。
「鷹枝くん。付き合わせて悪かったね。みんなに聡は急用が出来たと伝えてくれ」
博史は聡の肩を抱きながら、そっけなく将に伝えると、そのままスタスタとエレベーターのほうへ向かって歩き出した。
拉致されるかのような聡は何度も将を振り返った。見る間に二人の距離が離れていく。
「待てよっ!」
将は二人を追った。
すると博史が振り返った。細い目をいっそう鋭くさせて将をにらみつける。
「先生にこれ以上何か用か?弟クン」
それっきり将は動けなくなった。目の前で二人がエレベーターに消えるのを見ているしかなかった。
エレベーターの扉が閉じるなり、博史は聡を箱の角に押しやると、他の客の目もはばからず唇を押し付けてきた。
今日はクリスマスイブということで、同乗する客も心得ていて皆知らないふりをしている。
逆に下手に抵抗するほうが恥になる、ということを博史は逆手にとったように、聡の唇を自分の唇で押さえ込む……。
ホテルの外に出た将は、再び白いものが舞い落ちているのに気がついた。
風にあおられて少し勢いが強くなっている雪の中に将は立ちすくんだ。
降ってくる先を確かめるように、空を見上げたところに、モザイクのような灯りを浮かべてホテルがそびえていた。
聡が連れて行かれたのはどのあたりなのか。
……どの灯りの中で、聡はあの男に抱かれているのか。
将はしばらく雪にかまわず、灯りを見つめていた。上をむいているのにもかかわらず、目尻から涙が一筋流れた。
まるで、将に最後の別れを惜しむ時間を猶予するかのように、聡と二人で、ラウンジに残す。
ラウンジの外の滝もクリスマスのライトアップがされていて、夜の中に幻想的な世界を浮かべていた。
あたりは、ディナー前の待ち合わせか、恋人同士ばかりだった。
将と聡も幸せそうなその中に溶け込んでいた。
なのに、二人ときたらまるで言葉が出てこないのだった。
時折思い出したように相手の顔を見つめて、そのたびに視線が沈んでいく。
訊きたいことはお互いいろいろあるのに。
時が徒に流れていく。
やっと将の口からでたのは
「あのドレスで、ケッコンすんのか、あいつと」
という言葉だった。聡は将の顔を見つめるとゆっくりと首を横に振った。
その目には決意があった。それに勇気百倍した将はさらに続ける。
「……今日、来てくれたってことは、期待して、いいんだろ」
聡はまたたきもせず将を見つめた。
なんて返事したらいいかわからない。
いっそこの気持ちにまかせてYESと言いたい。
言ったところでどうなるのだ。立場は変わらない。
でも、こんな状況だから、せめて気持ちだけでも伝えておきたい。
でも、そうしたところで、それでどうなるのか……。
だけど。
「私……将のこと……」
聡は観念してその言葉を口にだそうとした。
言いかけたところで、聡は体の側面に重圧を感じた。
聡の座るソファーのわきに博史が立って二人を見下ろしていた。
「……じゃ行こうか、聡。ディナーは部屋にルームサービスを用意してもらってるから」
博史は聡を促した。将には手をひっぱるようにして無理やり立たせたように見えた。
聡がすがるような目で見ている。
「鷹枝くん。付き合わせて悪かったね。みんなに聡は急用が出来たと伝えてくれ」
博史は聡の肩を抱きながら、そっけなく将に伝えると、そのままスタスタとエレベーターのほうへ向かって歩き出した。
拉致されるかのような聡は何度も将を振り返った。見る間に二人の距離が離れていく。
「待てよっ!」
将は二人を追った。
すると博史が振り返った。細い目をいっそう鋭くさせて将をにらみつける。
「先生にこれ以上何か用か?弟クン」
それっきり将は動けなくなった。目の前で二人がエレベーターに消えるのを見ているしかなかった。
エレベーターの扉が閉じるなり、博史は聡を箱の角に押しやると、他の客の目もはばからず唇を押し付けてきた。
今日はクリスマスイブということで、同乗する客も心得ていて皆知らないふりをしている。
逆に下手に抵抗するほうが恥になる、ということを博史は逆手にとったように、聡の唇を自分の唇で押さえ込む……。
ホテルの外に出た将は、再び白いものが舞い落ちているのに気がついた。
風にあおられて少し勢いが強くなっている雪の中に将は立ちすくんだ。
降ってくる先を確かめるように、空を見上げたところに、モザイクのような灯りを浮かべてホテルがそびえていた。
聡が連れて行かれたのはどのあたりなのか。
……どの灯りの中で、聡はあの男に抱かれているのか。
将はしばらく雪にかまわず、灯りを見つめていた。上をむいているのにもかかわらず、目尻から涙が一筋流れた。
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