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プロポーズ
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「お疲れ~、結婚しよ?」
3ヶ月くらい前に初めて言われたときは、結構ドキドキした。
「え?え?今なんて?」
「結婚しよって。ま、考えといてね。」
そういうと田中さんは去って行った。
私は矢部久美子24歳。大学を卒業してから車の整備工場に就職して事務の仕事をしている。職場の従業員は私を入れて8人だけど、私以外はみんな男。働き初めて1年半、男性陣からの軽いセクハラトークを流すのにも慣れてきたところだ。
田中さんは、3つ年上の先輩で、田中洋平という。事務の仕事をやりながら整備の仕事もやっていて、わりと器用な人だと思う。
私に事務の仕事を教えてくれたのも田中さんだ。時々あめちゃんをくれたりするいい先輩。細身の中背、特別ハンサムと言うわけでもなく、普通の人。私の主観だけど。あ、タイヤ持ち上げたりしているせいか、腕の筋肉はなかなかいい感じかな。
かといって私は筋肉フェチという訳でもなく、田中さんは、私の中で同僚としてのいい人。
そんな田中さんに、ある日突然プロポーズされたからびっくりした。
今までのいい先輩から、不覚にも気になる人くらいになってしまった。
それ以来田中さんは毎日仕事終わりに、プロポーズしてくるようになった。他の人の目もあって、最初はみんな好奇心満々で見てきたけど、最近はまた田中が言ってるよって感じで生暖かい目で見守られている気がする。
今日も
「矢部、お疲れ~。俺と結婚して。」
と言いながらあめちゃんをくれた。
これは、もうプロポーズじゃなくてただの挨拶だ。
だからいつもは
「はいはい、お疲れ様でーす。」
と流している。でも今日はちょっと聞いてみた。
「なんで私と結婚したいんですか?」
「結婚すれば、扶養手当もらえて、住宅手当増えるから」
「え、それって誰でもいいってことですね。」
「うん、でもここで働いていると出会いないから。」
田中さん、いい人だと思っていたけど、くそ野郎だった。
「サイッテーですね。」
ちょっと気になり始めていただけにショックとイラつきが声に出てしまった。
「う、ご、ごめん...そんなに怒ると思わなかった。もう言わないから。じゃ、また明日!」
田中さんはそそくさと帰って行った。
「はぁ...」
思わずため息がこぼれた。
ちょっと気まずい雰囲気になっちゃったな...。でも同じ職場だし、なるべく普通にしていようと思った。
それからというもの、田中さんは結婚しようと言わなくなった。私達はいたって普通の同僚として過ごしている。それにあいかわらず時々あめちゃんをくれたりする。
でも私は日に日に物足りなさを感じ始めてしまった。田中さんの軽すぎるプロポーズを受けるの結構好きだったかも。毎日言われていたら、その気になってしまうものなのかな。いつの間にか田中さんがいると、目で追うようになってしまっていた。
あ、田中さん月末で事務の仕事も忙しいのに、まだ車の整備もやってる。今日も残業するのかな。わりと働き者だよな。何だか整備している姿もカッコいい。ああ、あの車に向かう真剣な目で見つめられたい。
メガネレンチ持ってる手でギュッてされてみたい.....。
あれ?これって、重症かも。私は田中さんが好きなんだ。自覚したらいてもたってもいられなくなってしまった。
「田中さん、残業するんですか?」
「ああ、この書類のチェック、今日中にしないとな。」
「私も手伝いますよ。」
「ホント?サンキュー!助かるよ。」
残業が終わると田中さんは、
「お疲れ~、ありがとな。」
といいながら、またあめちゃんをくれた。
それだけで嬉しくなってしまう私は、恋する乙女だ。自分で思ったけど恋する乙女って恥ずかしいワードだわ。
私は思いきって言ってみた。
「お疲れ様です。田中さん、私と結婚してください。」
田中さんは、びっくりした顔になり、それから顔を真っ赤にした。
あ、この顔カワイイな。そんな顔されたら自惚れてしまう。でも田中さんは言った。
「え、仕返しかな?」
「わりと、本気ですけど?」
「まじかぁ。じゃあ、今のなかったことにして。」
私はショックで俯いた。
やばい、泣きそう。
「今までのやり直しさせてください。矢部久美子さん、結婚を前提にお付き合いしてください。」
私は泣いてしまうギリギリのところで顔を上げた。田中さんは赤い顔で手を差し出していた。私は田中さんの手を取って頷いた。
「田中さんは、わりと誰でもいいのかもしれませんけど、浮気は許しませんよ。」
田中さんはバツが悪そうな顔で言った。
「始めは誰でもいいから結婚したいって結構本気で思ってたんだけど...最低だったよな...。あの日嫌われちゃったかと思ったら、すげえショックだった。毎日言ってたらいつの間にか結婚相手は矢部さんしか考えられなくなっちゃってたみたいだ...。」
「それって、自分に自分で暗示をかけちゃったみたいな?」
ま、私も毎日言われて、その気になっちゃっから似たようなものかな。
「それに仕事に一生懸命なところとか、嬉しそうにあめ舐めてるところとか、カワイイなって思ってる。これは好きってことなんだと思う。」
「ちょっと曖昧ですね。まずは結婚を前提にお付き合いからはじめてみましょう?
よろしくお願いしますね。」
こうして私達のお付き合いが始まった。
さらに1年後、私達は結婚式をあげた。
田中さんが言った。
「共働きだから、まだ扶養手当でないや。」
「今更そこ?じゃ、これから養ってくださいね。」
「うん、頑張る。でもよく考えたら共働きの方が生活が安定するね。」
「よく考えなくても、そうですね。私も働けるうちは働きますよ。子供ができたりしたら、またどうするか考えましょう?」
「子供かぁ。それも楽しみだな。」
彼はちょっと顔を赤らめて、笑った。
私は彼の現金な発言も許せるくらいには幸せだなって思っている。
3ヶ月くらい前に初めて言われたときは、結構ドキドキした。
「え?え?今なんて?」
「結婚しよって。ま、考えといてね。」
そういうと田中さんは去って行った。
私は矢部久美子24歳。大学を卒業してから車の整備工場に就職して事務の仕事をしている。職場の従業員は私を入れて8人だけど、私以外はみんな男。働き初めて1年半、男性陣からの軽いセクハラトークを流すのにも慣れてきたところだ。
田中さんは、3つ年上の先輩で、田中洋平という。事務の仕事をやりながら整備の仕事もやっていて、わりと器用な人だと思う。
私に事務の仕事を教えてくれたのも田中さんだ。時々あめちゃんをくれたりするいい先輩。細身の中背、特別ハンサムと言うわけでもなく、普通の人。私の主観だけど。あ、タイヤ持ち上げたりしているせいか、腕の筋肉はなかなかいい感じかな。
かといって私は筋肉フェチという訳でもなく、田中さんは、私の中で同僚としてのいい人。
そんな田中さんに、ある日突然プロポーズされたからびっくりした。
今までのいい先輩から、不覚にも気になる人くらいになってしまった。
それ以来田中さんは毎日仕事終わりに、プロポーズしてくるようになった。他の人の目もあって、最初はみんな好奇心満々で見てきたけど、最近はまた田中が言ってるよって感じで生暖かい目で見守られている気がする。
今日も
「矢部、お疲れ~。俺と結婚して。」
と言いながらあめちゃんをくれた。
これは、もうプロポーズじゃなくてただの挨拶だ。
だからいつもは
「はいはい、お疲れ様でーす。」
と流している。でも今日はちょっと聞いてみた。
「なんで私と結婚したいんですか?」
「結婚すれば、扶養手当もらえて、住宅手当増えるから」
「え、それって誰でもいいってことですね。」
「うん、でもここで働いていると出会いないから。」
田中さん、いい人だと思っていたけど、くそ野郎だった。
「サイッテーですね。」
ちょっと気になり始めていただけにショックとイラつきが声に出てしまった。
「う、ご、ごめん...そんなに怒ると思わなかった。もう言わないから。じゃ、また明日!」
田中さんはそそくさと帰って行った。
「はぁ...」
思わずため息がこぼれた。
ちょっと気まずい雰囲気になっちゃったな...。でも同じ職場だし、なるべく普通にしていようと思った。
それからというもの、田中さんは結婚しようと言わなくなった。私達はいたって普通の同僚として過ごしている。それにあいかわらず時々あめちゃんをくれたりする。
でも私は日に日に物足りなさを感じ始めてしまった。田中さんの軽すぎるプロポーズを受けるの結構好きだったかも。毎日言われていたら、その気になってしまうものなのかな。いつの間にか田中さんがいると、目で追うようになってしまっていた。
あ、田中さん月末で事務の仕事も忙しいのに、まだ車の整備もやってる。今日も残業するのかな。わりと働き者だよな。何だか整備している姿もカッコいい。ああ、あの車に向かう真剣な目で見つめられたい。
メガネレンチ持ってる手でギュッてされてみたい.....。
あれ?これって、重症かも。私は田中さんが好きなんだ。自覚したらいてもたってもいられなくなってしまった。
「田中さん、残業するんですか?」
「ああ、この書類のチェック、今日中にしないとな。」
「私も手伝いますよ。」
「ホント?サンキュー!助かるよ。」
残業が終わると田中さんは、
「お疲れ~、ありがとな。」
といいながら、またあめちゃんをくれた。
それだけで嬉しくなってしまう私は、恋する乙女だ。自分で思ったけど恋する乙女って恥ずかしいワードだわ。
私は思いきって言ってみた。
「お疲れ様です。田中さん、私と結婚してください。」
田中さんは、びっくりした顔になり、それから顔を真っ赤にした。
あ、この顔カワイイな。そんな顔されたら自惚れてしまう。でも田中さんは言った。
「え、仕返しかな?」
「わりと、本気ですけど?」
「まじかぁ。じゃあ、今のなかったことにして。」
私はショックで俯いた。
やばい、泣きそう。
「今までのやり直しさせてください。矢部久美子さん、結婚を前提にお付き合いしてください。」
私は泣いてしまうギリギリのところで顔を上げた。田中さんは赤い顔で手を差し出していた。私は田中さんの手を取って頷いた。
「田中さんは、わりと誰でもいいのかもしれませんけど、浮気は許しませんよ。」
田中さんはバツが悪そうな顔で言った。
「始めは誰でもいいから結婚したいって結構本気で思ってたんだけど...最低だったよな...。あの日嫌われちゃったかと思ったら、すげえショックだった。毎日言ってたらいつの間にか結婚相手は矢部さんしか考えられなくなっちゃってたみたいだ...。」
「それって、自分に自分で暗示をかけちゃったみたいな?」
ま、私も毎日言われて、その気になっちゃっから似たようなものかな。
「それに仕事に一生懸命なところとか、嬉しそうにあめ舐めてるところとか、カワイイなって思ってる。これは好きってことなんだと思う。」
「ちょっと曖昧ですね。まずは結婚を前提にお付き合いからはじめてみましょう?
よろしくお願いしますね。」
こうして私達のお付き合いが始まった。
さらに1年後、私達は結婚式をあげた。
田中さんが言った。
「共働きだから、まだ扶養手当でないや。」
「今更そこ?じゃ、これから養ってくださいね。」
「うん、頑張る。でもよく考えたら共働きの方が生活が安定するね。」
「よく考えなくても、そうですね。私も働けるうちは働きますよ。子供ができたりしたら、またどうするか考えましょう?」
「子供かぁ。それも楽しみだな。」
彼はちょっと顔を赤らめて、笑った。
私は彼の現金な発言も許せるくらいには幸せだなって思っている。
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