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生贄の身代わり
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「あたくちは生贄とちて、きまちた。まおうちゃま、どうかあたくちの命とひきかえに、人間の国をおまもりくだちゃい。」
広間の真ん中で、まだ4歳のエミリア姫様は、正面に座っている魔王に向かって意味も分かっていないと思われるセリフを言った。王城にいた時、大臣に魔王の前で言うよう練習させられたセリフだ。もっとも意味が分かっていないから堂々と言えたのかもしれないけれど…私は姫様の斜め後ろで魔王に向かってひざまずきながら、痛み続ける胸を押さえた。
ここは薄暗い魔王城の謁見の間。正面の一段高いところに玉座があり魔王が座している。そして魔王の左右には 二人ずつ、魔族が立っていた。ひざまずいているので魔族たちの顔は見えないが、前方から鋭い視線を感じる。
「ほう、これが生贄とはな。」
魔王が声を発した。
魔王が立ち上がる気配がし、姫様に近づいてきた。そして姫様の首元へ魔王の手が伸びるのが視界に入る。。
「姫様っ!!」
魔王の手が姫様の首に伸びた瞬間、私は斜めうしろから、思わず姫様に抱き着く形で覆いかぶさった。
姫様が殺されるかもと思った瞬間身体が勝手に動いた。生贄をささげるのは人間の王と魔族の王が取り決めたこと。使用人が手をだしていいことではない。でも私は姫様の身体を抱きしめたまま、魔王の顔を見上げた。
魔王は長い黒髪に、黒目、肌は白く彫りの深い顔をしており、頭からは2本の湾曲した角が生えていた。
こちらを見てくる眼光が鋭く威圧感がすごい。思わずたじろぎそうになったけど、どうにか声をだした。
「まっ...魔王様、大変申し訳ございません。ご無礼をどうかお許しください。ですが…どうか、どうか姫様を殺さないでくださいませ。姫様はまだ4歳なのです。」
「お前はなんだ?」
「わたくしは姫様の護衛兼世話係のキャリーと申します。ここまで姫様に同行してまいりました。」
「ほう。では選択肢をやろう。姫をこのまま生贄にするか、お前が生贄になるか。」
私は姫様のお母さまに大恩があり、姫様が生まれたばかりの時から、そばで仕えてきた。私にとって姫様は目に入れても痛くないほどの存在。私は叫んだ。
「はいっ!お願いです。私を生贄にしてください。姫様を助けてくださるならわたくしは、どんな目にあってもかまいません。」
「なっ!魔王様っ!そのものでは、人間の王家の血が流れていないのでは?」
先程魔王のとなりにいた配下のひとりが言った。
「構わん。大きい方が喰うところが多いからな。」
魔王は片方の口角をあげながら言った。ゾクッとする笑みだった。
そして魔王は右横にいた魔族を見て言った。
「カル、姫を連れていけ。」
カルと呼ばれた魔族は、浅黒く、筋骨隆々な大男だった。
「御意っ!」
カルと呼ばれた男は姫様のところにくると、姫様を肩に担ぎあげた。私は姫様がどこに連れていかれるのか不安になって言った。
「厚かましいのは承知で申し上げます。姫様は国にも戻れない身なのです。どうか、この城でお健やかに育てていただけないでしょうか。」
「本当に厚かましいな。魔王城で人間の子供を育てろなど。今すぐ二人とも殺すという選択もあるのだが。」
私の背中を冷汗がつたう。
「それではお約束が違います。...どうか姫様の命だけはお助けください。」
「よかろう。」
魔王が鷹揚に言った。
これが姫様との最後の別れになるかもしれない。姫様に向かって言う。
「姫様どうか、どうか元気にお過ごしください。」
姫様がカルに担がれた状態で私を見た。目に涙がたまっている。いかつい男に担がれてさぞ怖い思いをされているはず。
「キャリーっ。いっちょにいて。」
「姫様っ。ごめんなさい。幸せになってくださいね。」
私はどうにか姫様に向かって微笑んで見せた。
「空き部屋に入れておけ。」
魔王がカルに無情に言った。
「はっ。」
カルは短く返事をすると姫様を担いで、出て行った。
「キャリー !いやー!キャリー...」
姫様が私泣きながら私を呼ぶ声が遠ざかっっていった。
姫様...私は目をつぶって涙をこらえた。
私は魔王を見上げ腹を決めて言った。
「寛大なご配慮感謝いたします。生贄としていかようにもしてくださいませ」
こうして私の長くはないかもしれない生贄生活が幕をあけたのであった。
広間の真ん中で、まだ4歳のエミリア姫様は、正面に座っている魔王に向かって意味も分かっていないと思われるセリフを言った。王城にいた時、大臣に魔王の前で言うよう練習させられたセリフだ。もっとも意味が分かっていないから堂々と言えたのかもしれないけれど…私は姫様の斜め後ろで魔王に向かってひざまずきながら、痛み続ける胸を押さえた。
ここは薄暗い魔王城の謁見の間。正面の一段高いところに玉座があり魔王が座している。そして魔王の左右には 二人ずつ、魔族が立っていた。ひざまずいているので魔族たちの顔は見えないが、前方から鋭い視線を感じる。
「ほう、これが生贄とはな。」
魔王が声を発した。
魔王が立ち上がる気配がし、姫様に近づいてきた。そして姫様の首元へ魔王の手が伸びるのが視界に入る。。
「姫様っ!!」
魔王の手が姫様の首に伸びた瞬間、私は斜めうしろから、思わず姫様に抱き着く形で覆いかぶさった。
姫様が殺されるかもと思った瞬間身体が勝手に動いた。生贄をささげるのは人間の王と魔族の王が取り決めたこと。使用人が手をだしていいことではない。でも私は姫様の身体を抱きしめたまま、魔王の顔を見上げた。
魔王は長い黒髪に、黒目、肌は白く彫りの深い顔をしており、頭からは2本の湾曲した角が生えていた。
こちらを見てくる眼光が鋭く威圧感がすごい。思わずたじろぎそうになったけど、どうにか声をだした。
「まっ...魔王様、大変申し訳ございません。ご無礼をどうかお許しください。ですが…どうか、どうか姫様を殺さないでくださいませ。姫様はまだ4歳なのです。」
「お前はなんだ?」
「わたくしは姫様の護衛兼世話係のキャリーと申します。ここまで姫様に同行してまいりました。」
「ほう。では選択肢をやろう。姫をこのまま生贄にするか、お前が生贄になるか。」
私は姫様のお母さまに大恩があり、姫様が生まれたばかりの時から、そばで仕えてきた。私にとって姫様は目に入れても痛くないほどの存在。私は叫んだ。
「はいっ!お願いです。私を生贄にしてください。姫様を助けてくださるならわたくしは、どんな目にあってもかまいません。」
「なっ!魔王様っ!そのものでは、人間の王家の血が流れていないのでは?」
先程魔王のとなりにいた配下のひとりが言った。
「構わん。大きい方が喰うところが多いからな。」
魔王は片方の口角をあげながら言った。ゾクッとする笑みだった。
そして魔王は右横にいた魔族を見て言った。
「カル、姫を連れていけ。」
カルと呼ばれた魔族は、浅黒く、筋骨隆々な大男だった。
「御意っ!」
カルと呼ばれた男は姫様のところにくると、姫様を肩に担ぎあげた。私は姫様がどこに連れていかれるのか不安になって言った。
「厚かましいのは承知で申し上げます。姫様は国にも戻れない身なのです。どうか、この城でお健やかに育てていただけないでしょうか。」
「本当に厚かましいな。魔王城で人間の子供を育てろなど。今すぐ二人とも殺すという選択もあるのだが。」
私の背中を冷汗がつたう。
「それではお約束が違います。...どうか姫様の命だけはお助けください。」
「よかろう。」
魔王が鷹揚に言った。
これが姫様との最後の別れになるかもしれない。姫様に向かって言う。
「姫様どうか、どうか元気にお過ごしください。」
姫様がカルに担がれた状態で私を見た。目に涙がたまっている。いかつい男に担がれてさぞ怖い思いをされているはず。
「キャリーっ。いっちょにいて。」
「姫様っ。ごめんなさい。幸せになってくださいね。」
私はどうにか姫様に向かって微笑んで見せた。
「空き部屋に入れておけ。」
魔王がカルに無情に言った。
「はっ。」
カルは短く返事をすると姫様を担いで、出て行った。
「キャリー !いやー!キャリー...」
姫様が私泣きながら私を呼ぶ声が遠ざかっっていった。
姫様...私は目をつぶって涙をこらえた。
私は魔王を見上げ腹を決めて言った。
「寛大なご配慮感謝いたします。生贄としていかようにもしてくださいませ」
こうして私の長くはないかもしれない生贄生活が幕をあけたのであった。
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