生贄の身代わりになりました

YOU

文字の大きさ
上 下
1 / 1

生贄の身代わり

しおりを挟む
「あたくちは生贄とちて、きまちた。まおうちゃま、どうかあたくちの命とひきかえに、人間の国をおまもりくだちゃい。」

広間の真ん中で、まだ4歳のエミリア姫様は、正面に座っている魔王に向かって意味も分かっていないと思われるセリフを言った。王城にいた時、大臣に魔王の前で言うよう練習させられたセリフだ。もっとも意味が分かっていないから堂々と言えたのかもしれないけれど…私は姫様の斜め後ろで魔王に向かってひざまずきながら、痛み続ける胸を押さえた。

ここは薄暗い魔王城の謁見の間。正面の一段高いところに玉座があり魔王が座している。そして魔王の左右には 二人ずつ、魔族が立っていた。ひざまずいているので魔族たちの顔は見えないが、前方から鋭い視線を感じる。

「ほう、これが生贄とはな。」

魔王が声を発した。
魔王が立ち上がる気配がし、姫様に近づいてきた。そして姫様の首元へ魔王の手が伸びるのが視界に入る。。

「姫様っ!!」

魔王の手が姫様の首に伸びた瞬間、私は斜めうしろから、思わず姫様に抱き着く形で覆いかぶさった。
姫様が殺されるかもと思った瞬間身体が勝手に動いた。生贄をささげるのは人間の王と魔族の王が取り決めたこと。使用人が手をだしていいことではない。でも私は姫様の身体を抱きしめたまま、魔王の顔を見上げた。
魔王は長い黒髪に、黒目、肌は白く彫りの深い顔をしており、頭からは2本の湾曲した角が生えていた。
こちらを見てくる眼光が鋭く威圧感がすごい。思わずたじろぎそうになったけど、どうにか声をだした。

「まっ...魔王様、大変申し訳ございません。ご無礼をどうかお許しください。ですが…どうか、どうか姫様を殺さないでくださいませ。姫様はまだ4歳なのです。」

「お前はなんだ?」

「わたくしは姫様の護衛兼世話係のキャリーと申します。ここまで姫様に同行してまいりました。」

「ほう。では選択肢をやろう。姫をこのまま生贄にするか、お前が生贄になるか。」

私は姫様のお母さまに大恩があり、姫様が生まれたばかりの時から、そばで仕えてきた。私にとって姫様は目に入れても痛くないほどの存在。私は叫んだ。

「はいっ!お願いです。私を生贄にしてください。姫様を助けてくださるならわたくしは、どんな目にあってもかまいません。」

「なっ!魔王様っ!そのものでは、人間の王家の血が流れていないのでは?」

先程魔王のとなりにいた配下のひとりが言った。

「構わん。大きい方が喰うところが多いからな。」

魔王は片方の口角をあげながら言った。ゾクッとする笑みだった。
 そして魔王は右横にいた魔族を見て言った。

「カル、姫を連れていけ。」

カルと呼ばれた魔族は、浅黒く、筋骨隆々な大男だった。

「御意っ!」

カルと呼ばれた男は姫様のところにくると、姫様を肩に担ぎあげた。私は姫様がどこに連れていかれるのか不安になって言った。

「厚かましいのは承知で申し上げます。姫様は国にも戻れない身なのです。どうか、この城でお健やかに育てていただけないでしょうか。」

「本当に厚かましいな。魔王城で人間の子供を育てろなど。今すぐ二人とも殺すという選択もあるのだが。」

私の背中を冷汗がつたう。

「それではお約束が違います。...どうか姫様の命だけはお助けください。」

「よかろう。」

魔王が鷹揚に言った。


これが姫様との最後の別れになるかもしれない。姫様に向かって言う。

「姫様どうか、どうか元気にお過ごしください。」

姫様がカルに担がれた状態で私を見た。目に涙がたまっている。いかつい男に担がれてさぞ怖い思いをされているはず。

「キャリーっ。いっちょにいて。」

「姫様っ。ごめんなさい。幸せになってくださいね。」


私はどうにか姫様に向かって微笑んで見せた。

「空き部屋に入れておけ。」

魔王がカルに無情に言った。

「はっ。」

カルは短く返事をすると姫様を担いで、出て行った。

「キャリー !いやー!キャリー...」

姫様が私泣きながら私を呼ぶ声が遠ざかっっていった。

姫様...私は目をつぶって涙をこらえた。
 
私は魔王を見上げ腹を決めて言った。

「寛大なご配慮感謝いたします。生贄としていかようにもしてくださいませ」






こうして私の長くはないかもしれない生贄生活が幕をあけたのであった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】

ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。 ※ムーンライトノベルにも掲載しています。

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

初めてのパーティプレイで魔導師様と修道士様に昼も夜も教え込まれる話

トリイチ
恋愛
新人魔法使いのエルフ娘、ミア。冒険者が集まる酒場で出会った魔導師ライデットと修道士ゼノスのパーティに誘われ加入することに。 ベテランのふたりに付いていくだけで精いっぱいのミアだったが、夜宿屋で高額の報酬を貰い喜びつつも戸惑う。 自分にはふたりに何のメリットなくも恩も返せてないと。 そんな時ゼノスから告げられる。 「…あるよ。ミアちゃんが俺たちに出来ること――」 pixiv、ムーンライトノベルズ、Fantia(続編有)にも投稿しております。 【https://fantia.jp/fanclubs/501495】

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

マッチョな俺に抱かれる小さい彼女

雪本 風香
恋愛
社会人チームで現役選手として活躍している俺。 身長190センチ、体重約100キロのガッチリした筋肉体質の俺の彼女は、148センチで童顔。 小さくてロリ顔の外見に似合わず、彼女はビックリするほど性に貪欲だった。 負け試合の後、フラストレーションが溜まった俺はその勢いのまま、彼女の家に行き……。 エロいことしかしていません。 ノクターンノベルズ様にも掲載しています。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

処理中です...