召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第106話 そしてわたしたちは書類仕事に戻った

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 『カンザ・アド王国』の併合から1ヶ月が経った。マードック三世は名前からカンザ・アドの文字を削り、マードック・ゼンと名乗っている。

 彼とその臣下……。いや、彼は臣籍に降りたのだから、臣下って言い方は違うな。部下と呼ぼう。彼とその部下たちは、わたしが特別に許可を出して『ゲート』魔法陣を使わせ、バルゾラ大陸へと呼び寄せている。そして睡眠学習装置と学校との往復で、必要知識を身に着けている最中だ。

 一方で、『カンザ・アド王国』の接収という大仕事が入ったためにスケジュールが遅れていた、コンザウ大陸南岸の西側にある国家群への攻撃だが、これも1ヶ月遅れで昨日始まった。魔獣軍団、魔竜軍団が共同で、3つある国のうち手前の国である『バルトン国』を現在攻撃中である。

 そして死霊軍団の兵員を満載した強襲揚陸艦や輸送艦等々が、戦艦、巡洋艦、駆逐艦などの火力支援のもと、『バルトン国』の先の半島にある『シアンフ王国』と『ジアンク王国』の兄弟国に同時に揚陸作戦を敢行している最中だ。残る魔像軍団は、しっかりと油断なく占領地域および併合した元『カンザ・アド王国』の領域を護っている。

 わたしは何時もの司令室で、溜息を吐いた。

「ふむ、魔像軍団だけだと、これ以上支配地域が広がるとつらいな」

「予定では、『カンザ・アド王国』を攻めるのは南岸の国々を全部攻め滅ぼしてからだったものね」

「ですが、戦闘ドロイドやアンドロイドは魔王様がご自分で創造しないといけませんが……。下級のロボットは、制御系の重要部分だけ魔王様が創れば残りの外装やら駆動系やらは、工場生産が可能になりました。
 結果として、増派できる魔像軍団兵士はなんとか予定数を満たしてます。それにあくまで盾役、使い捨てを前提にすれば、旧式ゴーレムなんかも使えます」

 アオイ、ミズホが資料整理をしながら、わたしの言葉に応える。わたしはそれに続けて言った。

「そうだな。それと豚鬼オーク人食い鬼オーガー邪鬼ゴブリンスプリガン邪妖精なんかの遺伝子改良と軽度洗脳教育がずいぶん進んでる。邪鬼ゴブリンスプリガン邪妖精は魔道軍団の下級構成員として配属するとして……。
 豚鬼オーク人食い鬼オーガーを中心にした部隊を改造人間の指揮官を付けて、コンザウ大陸へ派遣してやるか。あれだけ手を掛けたんだ。そろそろ活躍してもらわないと困る。」

「あと、大量生産した初期型の低位改造人間だけど。そろそろ軍団とまではいかなくても、兵団を編制できるぐらいの数が。改造人間兵団、仮称だけど、ソレの編制を進言する」

「了解、それは次の定例幹部会議にかけよう。すんなり通ると思う。……けど、改造人間の素体になる重犯罪者だけどさ。アーカル大陸ではかなり減少したね。ありがたいことだけど、改造人間の素体の確保先がね」

「コンザウ大陸で、同じ様に大量の重犯罪者が出ると思う。あくまで見込みだけど」

 そうだね。たぶんアーカル大陸のときみたいに、大量に出るんだろうなあテロリストとか。わたしはふと思う。

「そろそろ、改造人間の希望者を募るかな。犯罪者だけを素体にするんじゃなく。希望者は指揮官候補として扱ってさ。
 設備も揃ったし、医者や技術者たちの技量もかなり向上してる。一昔前だと低位改造人間の素材としてしか使えなかった低レベルの素体でも、中位ぐらいの改造人間には仕立てられる様になってる」

「そのうちに、改造人間たちで軍団を編制できる様になるかもしれませんねー」

「軍団にするには、軍司令官が。元帥改造人間大将?に相当する様な人材が、今の所いない」

「なるほど……」

 そうなんだよね。元帥にして大将閣下になれる人材が、居ないんだよね。改造人間の中に。あいつら皆、重犯罪者だから、今の所。だから脳改造で知的能力が落ちる事を覚悟の上で、重度の脳改造を施してるから。

 軍団の司令官にするには、高位の改造人間になれる素質と、自前の忠誠心の双方を兼ね備えてる人材が必要だ。自前の忠誠心があるならば、脳改造は改造された身体の制御のための、最低限の物で済む。

 と、ここでミズホが再度口を開いた。

「……アオイさんは、将来的に改造人間になるんですよね?」

「あ、うん。魔王様は、もう少し設備が整ってからって言ってる。プラン自体は4割進捗だって」

「わたしも改造人間になるのは、駄目でしょうか? そうなったら、わたしがその改造人間軍団に移籍して軍団長をやれるかと」

「「!!」」

 わたしとアオイは、一瞬驚く。しかしアオイはにっこり笑みを浮かべた。

「それは良い考えかも」

「あー……。ミズホも改造人間希望か。了解だ」

 ふむ、そうなるとアオイの他にもう1人、超高位改造人間のプランを練らなきゃならないな。仕事量をなんとかして減らさないと、そっちの仕事をする時間的余裕が取れないなあ。

 ……あれ?

「へえ……。タケル君について報告が来てるよ」

「ああ、あの最低勇者」

「女の娘に手を出しまくって2人ばかり妊娠させた、彼」

 そう、その彼だ。しかしアオイもミズホも、彼に対する態度が塩対応だね。ま、彼の自業自得だが。

「その事なんだけどさ。その女の娘たちは今、アーカル大陸のヴェード基地近郊の街で暮らしてるんだけど。タケル君、休暇のときに『ゲート』魔法陣の使用許可を願い出て、何をするのかと思ったらさ。その女の娘たちに土下座しに行ったらしい」

「「今更?」ですか?」

「まあ、今更なんだけどね。女の娘たちに殴られ蹴られても、土下座し続けたそうだ。赦してもらえなくても当然だが、詫びる事だけはさせてくれって、さ。
 なんとかかんとか、将来的に子供が生まれたら、ときどき面会はさせてもらえる許可は貰ったってさ」

 そう言うと、アオイもミズホも微妙そうな顔になった。まあ、さもありなん。

「その女の娘たち、甘い」

「わたしもそう思います」

「うん。まあ、鞭ばかりじゃなくタケル君には飴もちょっとは与えないと。飴だけだと、また増長とかするから鞭もしっかりとしないとね。
 何にせよ、彼は勇者時代が嘘の様に、心入れ替えて頑張ってるね。自力での飛行魔法も身に着けたし、飛行機の免許も取得見込みだと教官から報告が上がってる。このまま上手くいけば、正規のテストパイロットに昇格も近いかな。
 さて、仕事を続けるか」

 そしてわたしたちは、大量の書類を次々に捌いて行った。随分書類仕事も慣れたなあ、流石に。魔王軍発足初期の時代だったら、完全にギブアップしてる量だぞコレ。お茶の時間を見計らってザウエルが来るだろうから、ちゃんとお茶が出来る様に仕事を一段落つけておかないとな。
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