召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第67話 ザウエルの献策

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 ここは魔王軍本部基地司令室。今は執務を小休止して、お茶をしているところだ。なお、わたし、アオイ、ミズホ、文官たちと言った常駐メンバーの他に、ザウエルが何かしらの報告がてら来て、一緒にお茶を楽しんでいる。
 ザウエルがスプーンでプリンを口に運び、幸せそうに溜息をいた。

「はあぁ~っ、美味しいですねえ。この時間に来て、正解でした」

「まさかお茶を目的に来たの?」

「それもあります。ですが本題は別の事ですから、安心してください」

 お茶を啜りつつ、ザウエルはアオイに答える。ちなみにミズホは3年と少しぶりのプリンに、感動して涙を浮かべていた。それほど喜ばれるとは……。ああいや、アオイもあんな感じだったっけな。

 まあ皆が喜ぶなら、『睡眠圧縮』で睡眠時間を削ってでも、菓子を作った甲斐があったと言う物だ。特にアオイとミズホが喜んでくれるなら……。鉄之丞は食べられないから、仕方ないけど。まったく、『リューム・ナアド神聖国』も先代魔王も、誘拐同然に片道召喚なんて。正気の沙汰じゃないよ、まったく。

 やがてお茶が終了し、文官たちは各々の仕事に戻る。わたしとアオイ、それにミズホも執務机に着いた。ザウエルがわたしの席の真ん前に立って話し始める。

「魔王様、建国の記念式典の事ですが……。コンザウ大陸の諸国家へは、同時に書簡を送ることになっていましたよね」

「ああ。それがどうかしたかな?」

心理的衝撃インパクトに欠けます」

「む……」

 ザウエルの言う事にも、一理ある。一発ドカンとコンザウ大陸の諸国家に対し、魔物たち主導の国家建設を知らしめたいところではあった。だが問題がある。

「だけど普通に書簡を送る以外に、方法が無いよ。いや書簡を送るだけでも、潜入させている工作員とかに負担をかけるのに」

「いえ、どうせ記念式典では『グレート・スピーチ』で魔王様の演説を、まずはバルゾラ大陸全域に流しますよね。その後に、『通話水晶』で録画しておいたその映像を今度はアーカル大陸に魔王様が赴いて、また『グレート・スピーチ』使って流し直す予定だったじゃないですか。
 それじゃあ二度手間です。バルゾラ大陸でやった式典の内容を、同時にアーカル大陸とコンザウ大陸全域にも流しましょう」

「む、わたしは魔力はあるから魔力切れにはならないだろうけれどさ。原理的な問題で『グレート・スピーチ』でも『コンヴェイ・シンキング』でも、演説を流せるのは1大陸が限度じゃなかったかい?」

 不敵に笑うザウエルは、おもむろに懐から1通の書類を取り出して来た。

「僕ら魔道軍団が開発した、新しい魔道具があります。その名も『回線宝珠』! 魔王様から教わった、ネットワークの概念を応用した、その初期段階の物ですね。
 大きさは、一番小さな使い捨て用の物で親指の先ほど。中継点や起点などの基点に使う事ができる大きな物では魔族の頭ほどですね」

「……それは。本当に、ネットワーク回線の機能を代替できるのかい!?」

「いえ、残念ながら魔王様の仰っておられたパーソナルコンピューターの様な端末機の実現は、かなり遠い未来の事になりそうなので。ですが通信の環境としては、素晴らしい前進ですよ。
 この最少の使い捨て用の物を、コンザウ大陸にいる工作員にあちこちにばら撒かせます。勿論アーカル大陸にも、各地に配備します。そして基点用の大きな物を海軍の練習艦に載せて、練習航海を兼ねて3大陸間の中央洋あちこちに配置し、中継点とします」

 そしてザウエルは、自信満々と言った風情で大きく胸を張って言い放つ。

「あとは魔王様が起点用の宝珠に向けて、『グレート・スピーチ』の魔法を行使するだけです! いつも大陸中に声を響かせるのよりも楽に、魔力の消費も少なく、全世界に言葉と映像を届けられます! ……まあ、使い捨て用宝珠は、1回で砕け散りますから1回しか使えませんが」

「……いいね。現物の用意はもう出来てるのかい?」

「はい」

 さすが魔道軍団、頼りになるね。だてに最古参じゃ無いよ。しかし、わたしが教えた概念を応用か……。期待通り、いや期待以上だ。

「なら、早速使い捨て宝珠はコンザウ大陸にばら撒かせる様に頼むよ。アーカル大陸各地に配備する方と海軍の練習艦は、こちらで手配するとしようか。アオイ、ミズホ、書類の準備を頼めるかな?」

「うん」

「はいっ!」

 2人が、命令書その他の必要書類を取り出して、わたしがサインすればいいだけに仕上げてくれる。わたしはそれらに目を通してサインをした。即座に文官たちがその書類を持っていく。

 ザウエルは頷いて、わたしに向かい口を開く。

「では僕は魔道軍団の方へ戻って、使い捨て宝珠をコンザウ大陸へばら撒かせる様に指示を出します。魔王様は式典で行う演説内容をお願いしますね」

「おおっと……。それがあったなあ……」

「魔王様は一般の民に大人気なんですから、よろしくお願いしますよ。では!」

 わたしに向かって敬礼をし、ザウエルは司令室を退出する。わたし、アオイ、ミズホは答礼をしてそれを見送る。ザウエルが出て行った直後、わたしは肩を落とした。そしてわたしは、機械式タイプライターを引っ張り出して机上に置きつつ、呟く。

「……演説か。期待が重い……」

「魔王様を倒すのには、聖剣よりも仕事の山の方が効果的」

「今では、アオイさんの言葉に納得ですね。昔ならともかく」

 2人の言葉になんとなく凹みつつ、わたしはタイプライターを打ち始めた。ああ、ワードプロセッサが欲しい。いや、可能ならばパソコン1式が欲しい。わたしは演説内容を考えつつ、タイプライターでその文章を作成していった。
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