召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第55話 小道具を創ろう

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 わたしの工房にて、ザウエルが新勇者ミズホの一行の動向について報告を行っている。わたしはその報告を聞きながら、剣を打っていた。錬金術系魔法で創るよりも、魔剣の類は実際に打った方が魔力の乗りが良い。

 この剣は、新勇者ミズホと相対した際にわたしが使おうと思っている片手半剣バスタードソードだ。ただしサイズは身長3mのわたしの身体に合わせてあるので、両手持ちの大剣ツーハンデッドソードぐらいは優にある。

 ちなみに、その時に使おうと思っている盾も、既に用意している。表面が鏡面仕上げの、大盾ラージシールドだ。ただしサイズはこれまたわたしの身体に合わせてあるので、筒盾タワーシールドよりもでかい。

 熱せられた金属をハンマーが叩く音が、キン!キン!と響き渡る。わたしはハンマーを振り下ろしつつ、ザウエルに応えた。

「なるほど。ふんっ! ついに来たか。むんっ!」

「まあ、まだバルゾラ大陸へ到着したわけではありませんがね。アーカル大陸ではなく、確実に着実に、バルゾラ大陸へ向かっています。勇者ミズホは同行者3名に押し切られた様ですね」

「……新勇者一行の魔道士、エセルバートは転移魔法を使える。バルゾラ大陸は開発が進んで随分様変わりしたから、イメージできる転移先はさほど多くないと思う。でもまったく無いわけじゃない」

 アオイがやや不機嫌そうに言う。先ほどまでは、誕生祝いのプレゼントの仮面を受け取り、上機嫌だったのだが。やはり勇者パーティーの面々に対しては、思う所があるのだろう。

 わたしは打っていた剣を持ち上げ、様々な角度から見て歪みなどが無いか確かめつつ、言葉を発する。

「んー、となると一度上陸されたら、パッと本部基地近くまでやって来るかな? 本部基地内を荒らされたくないなあ。基地の手前で待ち構えようかな?」

「普通魔王様は根拠地、つまり魔王城の一番奥なり謁見の間なりで、どっしりと待ち構える物ですが。まあ、古臭くて使い物にならないって、魔王城を解体してストーンゴーレムの材料にしてしまうお方ですからねえ。虚飾もお嫌いですし。そんなのもアリでしょう」

「……警備の兵は、どうする?」

 アオイの問いに、わたしは少し考える。そして炭火の中に打っていた剣を差し込みながら、わたしは彼女に答えた。

「鉄之丞に頼んで、犠牲にしても勿体なくない低級の不死怪物を巡回させようか。あとは素材が安価なマッドゴーレムやクレイゴーレムを量産して警備させよう。いつも警備させてる兵は、勿体ないから勇者ミズホたちが来たらその間だけ、本部基地内部に回そう」

「了解いたしました。その様に手配いたしましょう」

「あとは……。最近ようやく真空管や、トランジスタにダイオードなどの半導体がわたしの手によらず生産できるようになったから、光電センサーによる警備装置を仕掛けておこうかな。非魔法的な監視手段も併用できれば、魔法的な監視手段を誤魔化す魔法を使われた場合でも対応できる。
 あー、でもまだまだ不良品多いんだよなあ。艦載砲や大砲の弾道計算用に、真空管コンピュータすっ飛ばしてトランジスタコンピュータ造ろうと思ってたのに。今現在の不良率だと、ちょっとなあ……。真空管コンピュータは、ちょっとどころじゃなく使い勝手悪いからなあ」

 そう言うわたしの視線の先には、大型の電卓があったりする。これはわたしが錬金術系の魔法や魔術を用い、電子部品を1から自作して作り上げた代物である。だが今後はこれがわたしの手作りではなく、工業的に作れる様になる。まだ不良品多いけど。

 アオイが思わずと言った様子で、言葉を漏らす。

「アナログの極地とも言える刀剣鍛冶の鍛冶場で、そんなデジタルな台詞が出て来るとは思わなかった……」

「は? あなろぐ? でじたる?」

「あー、ザウエル。その辺はちょっと定義や説明が難しいんだよ。わたしやアオイも、厳密な意味よりも感覚的に理解してるからね。追々教えていくから」

「はあ……。まったく分からないけれど、分かりました」

 困惑するザウエルを尻目に、わたしは熱していた創りかけの剣を炭火から取り出す。そして再び打ち始めた。

「むっ! よっ! はっ!」

「……この剣、どんな力を込めるの?」

「んー、単にひたすら頑丈で……。とうっ! 刃こぼれしても自己修復する。やっ! 大事なのは、剣の方じゃなしに……。ふんっ! 盾の方なんだけどね。えいっ!」

 アオイは、工房の鍛冶場の片隅に立て掛けてある盾を見遣る。それは完全に表面が鏡状になっており、アオイの姿がそこに映っていた。

「こっちの盾?」

「えいやっ! と、ふう……。うん、その盾。鏡だからね、光系の攻撃を跳ね返すことができる。ま、それ以外にちょっとした考え、と言うか賭けだね。その賭けに使う小細工の意味があるかな。賭けの内容は後で教えるよ。
 あー、こんなもんかな? 後は焼き入れして研ぎ、かな。既に魔力回路は鋳込いこんであるから、研ぎが終わった時点で儀式を行って魔力付与すれば本体は完成だ。あー、でも後は鞘も創らないと。グリップもちゃんとしておかないとな。柄頭にも細工しておく必要があるか」

 わたしは焼き入れのため、形が出来上がった剣を再度加熱する。と、アオイが呟く。

「……上手く行くといいけど」

「上手く行くさ。いや、行かせるさ。そのために色々準備してるんだからね。そこの壁際に立ってる『アレ』とか用意したんだしさ。
 ……? ザウエル、何を生暖かい視線で見てるのかな?」

「いえ、別に。……わたしと鉄之丞、それにバルゾラ大陸にはいませんが、オルトラムゥ、ガウルグルク、あとゼロも可能な限り御助力いたしますので、お忘れなきよう」

 ザウエルの言葉に、わたしとアオイは頷いた。さて、この剣が出来上がれば、勇者ミズホ一行を迎える準備はほぼ完了する。そうすれば、後は臨機応変に細かい修正を加えるだけだ。勇者ミズホ本人はともかく、他の3名はどう歓迎してやろうかね。
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