58 / 128
第55話 小道具を創ろう
しおりを挟む
わたしの工房にて、ザウエルが新勇者ミズホの一行の動向について報告を行っている。わたしはその報告を聞きながら、剣を打っていた。錬金術系魔法で創るよりも、魔剣の類は実際に打った方が魔力の乗りが良い。
この剣は、新勇者ミズホと相対した際にわたしが使おうと思っている片手半剣だ。ただしサイズは身長3mのわたしの身体に合わせてあるので、両手持ちの大剣ぐらいは優にある。
ちなみに、その時に使おうと思っている盾も、既に用意している。表面が鏡面仕上げの、大盾だ。ただしサイズはこれまたわたしの身体に合わせてあるので、筒盾よりもでかい。
熱せられた金属をハンマーが叩く音が、キン!キン!と響き渡る。わたしはハンマーを振り下ろしつつ、ザウエルに応えた。
「なるほど。ふんっ! ついに来たか。むんっ!」
「まあ、まだバルゾラ大陸へ到着したわけではありませんがね。アーカル大陸ではなく、確実に着実に、バルゾラ大陸へ向かっています。勇者ミズホは同行者3名に押し切られた様ですね」
「……新勇者一行の魔道士、エセルバートは転移魔法を使える。バルゾラ大陸は開発が進んで随分様変わりしたから、イメージできる転移先はさほど多くないと思う。でもまったく無いわけじゃない」
アオイがやや不機嫌そうに言う。先ほどまでは、誕生祝いのプレゼントの仮面を受け取り、上機嫌だったのだが。やはり勇者パーティーの面々に対しては、思う所があるのだろう。
わたしは打っていた剣を持ち上げ、様々な角度から見て歪みなどが無いか確かめつつ、言葉を発する。
「んー、となると一度上陸されたら、パッと本部基地近くまでやって来るかな? 本部基地内を荒らされたくないなあ。基地の手前で待ち構えようかな?」
「普通魔王様は根拠地、つまり魔王城の一番奥なり謁見の間なりで、どっしりと待ち構える物ですが。まあ、古臭くて使い物にならないって、魔王城を解体してストーンゴーレムの材料にしてしまうお方ですからねえ。虚飾もお嫌いですし。そんなのもアリでしょう」
「……警備の兵は、どうする?」
アオイの問いに、わたしは少し考える。そして炭火の中に打っていた剣を差し込みながら、わたしは彼女に答えた。
「鉄之丞に頼んで、犠牲にしても勿体なくない低級の不死怪物を巡回させようか。あとは素材が安価なマッドゴーレムやクレイゴーレムを量産して警備させよう。いつも警備させてる兵は、勿体ないから勇者ミズホたちが来たらその間だけ、本部基地内部に回そう」
「了解いたしました。その様に手配いたしましょう」
「あとは……。最近ようやく真空管や、トランジスタにダイオードなどの半導体がわたしの手によらず生産できるようになったから、光電センサーによる警備装置を仕掛けておこうかな。非魔法的な監視手段も併用できれば、魔法的な監視手段を誤魔化す魔法を使われた場合でも対応できる。
あー、でもまだまだ不良品多いんだよなあ。艦載砲や大砲の弾道計算用に、真空管コンピュータすっ飛ばしてトランジスタコンピュータ造ろうと思ってたのに。今現在の不良率だと、ちょっとなあ……。真空管コンピュータは、ちょっとどころじゃなく使い勝手悪いからなあ」
そう言うわたしの視線の先には、大型の電卓があったりする。これはわたしが錬金術系の魔法や魔術を用い、電子部品を1から自作して作り上げた代物である。だが今後はこれがわたしの手作りではなく、工業的に作れる様になる。まだ不良品多いけど。
アオイが思わずと言った様子で、言葉を漏らす。
「アナログの極地とも言える刀剣鍛冶の鍛冶場で、そんなデジタルな台詞が出て来るとは思わなかった……」
「は? あなろぐ? でじたる?」
「あー、ザウエル。その辺はちょっと定義や説明が難しいんだよ。わたしやアオイも、厳密な意味よりも感覚的に理解してるからね。追々教えていくから」
「はあ……。まったく分からないけれど、分かりました」
困惑するザウエルを尻目に、わたしは熱していた創りかけの剣を炭火から取り出す。そして再び打ち始めた。
「むっ! よっ! はっ!」
「……この剣、どんな力を込めるの?」
「んー、単にひたすら頑丈で……。とうっ! 刃こぼれしても自己修復する。やっ! 大事なのは、剣の方じゃなしに……。ふんっ! 盾の方なんだけどね。えいっ!」
アオイは、工房の鍛冶場の片隅に立て掛けてある盾を見遣る。それは完全に表面が鏡状になっており、アオイの姿がそこに映っていた。
「こっちの盾?」
「えいやっ! と、ふう……。うん、その盾。鏡だからね、光系の攻撃を跳ね返すことができる。ま、それ以外にちょっとした考え、と言うか賭けだね。その賭けに使う小細工の意味があるかな。賭けの内容は後で教えるよ。
あー、こんなもんかな? 後は焼き入れして研ぎ、かな。既に魔力回路は鋳込んであるから、研ぎが終わった時点で儀式を行って魔力付与すれば本体は完成だ。あー、でも後は鞘も創らないと。グリップもちゃんとしておかないとな。柄頭にも細工しておく必要があるか」
わたしは焼き入れのため、形が出来上がった剣を再度加熱する。と、アオイが呟く。
「……上手く行くといいけど」
「上手く行くさ。いや、行かせるさ。そのために色々準備してるんだからね。そこの壁際に立ってる『アレ』とか用意したんだしさ。
……? ザウエル、何を生暖かい視線で見てるのかな?」
「いえ、別に。……わたしと鉄之丞、それにバルゾラ大陸にはいませんが、オルトラムゥ、ガウルグルク、あとゼロも可能な限り御助力いたしますので、お忘れなきよう」
ザウエルの言葉に、わたしとアオイは頷いた。さて、この剣が出来上がれば、勇者ミズホ一行を迎える準備はほぼ完了する。そうすれば、後は臨機応変に細かい修正を加えるだけだ。勇者ミズホ本人はともかく、他の3名はどう歓迎してやろうかね。
この剣は、新勇者ミズホと相対した際にわたしが使おうと思っている片手半剣だ。ただしサイズは身長3mのわたしの身体に合わせてあるので、両手持ちの大剣ぐらいは優にある。
ちなみに、その時に使おうと思っている盾も、既に用意している。表面が鏡面仕上げの、大盾だ。ただしサイズはこれまたわたしの身体に合わせてあるので、筒盾よりもでかい。
熱せられた金属をハンマーが叩く音が、キン!キン!と響き渡る。わたしはハンマーを振り下ろしつつ、ザウエルに応えた。
「なるほど。ふんっ! ついに来たか。むんっ!」
「まあ、まだバルゾラ大陸へ到着したわけではありませんがね。アーカル大陸ではなく、確実に着実に、バルゾラ大陸へ向かっています。勇者ミズホは同行者3名に押し切られた様ですね」
「……新勇者一行の魔道士、エセルバートは転移魔法を使える。バルゾラ大陸は開発が進んで随分様変わりしたから、イメージできる転移先はさほど多くないと思う。でもまったく無いわけじゃない」
アオイがやや不機嫌そうに言う。先ほどまでは、誕生祝いのプレゼントの仮面を受け取り、上機嫌だったのだが。やはり勇者パーティーの面々に対しては、思う所があるのだろう。
わたしは打っていた剣を持ち上げ、様々な角度から見て歪みなどが無いか確かめつつ、言葉を発する。
「んー、となると一度上陸されたら、パッと本部基地近くまでやって来るかな? 本部基地内を荒らされたくないなあ。基地の手前で待ち構えようかな?」
「普通魔王様は根拠地、つまり魔王城の一番奥なり謁見の間なりで、どっしりと待ち構える物ですが。まあ、古臭くて使い物にならないって、魔王城を解体してストーンゴーレムの材料にしてしまうお方ですからねえ。虚飾もお嫌いですし。そんなのもアリでしょう」
「……警備の兵は、どうする?」
アオイの問いに、わたしは少し考える。そして炭火の中に打っていた剣を差し込みながら、わたしは彼女に答えた。
「鉄之丞に頼んで、犠牲にしても勿体なくない低級の不死怪物を巡回させようか。あとは素材が安価なマッドゴーレムやクレイゴーレムを量産して警備させよう。いつも警備させてる兵は、勿体ないから勇者ミズホたちが来たらその間だけ、本部基地内部に回そう」
「了解いたしました。その様に手配いたしましょう」
「あとは……。最近ようやく真空管や、トランジスタにダイオードなどの半導体がわたしの手によらず生産できるようになったから、光電センサーによる警備装置を仕掛けておこうかな。非魔法的な監視手段も併用できれば、魔法的な監視手段を誤魔化す魔法を使われた場合でも対応できる。
あー、でもまだまだ不良品多いんだよなあ。艦載砲や大砲の弾道計算用に、真空管コンピュータすっ飛ばしてトランジスタコンピュータ造ろうと思ってたのに。今現在の不良率だと、ちょっとなあ……。真空管コンピュータは、ちょっとどころじゃなく使い勝手悪いからなあ」
そう言うわたしの視線の先には、大型の電卓があったりする。これはわたしが錬金術系の魔法や魔術を用い、電子部品を1から自作して作り上げた代物である。だが今後はこれがわたしの手作りではなく、工業的に作れる様になる。まだ不良品多いけど。
アオイが思わずと言った様子で、言葉を漏らす。
「アナログの極地とも言える刀剣鍛冶の鍛冶場で、そんなデジタルな台詞が出て来るとは思わなかった……」
「は? あなろぐ? でじたる?」
「あー、ザウエル。その辺はちょっと定義や説明が難しいんだよ。わたしやアオイも、厳密な意味よりも感覚的に理解してるからね。追々教えていくから」
「はあ……。まったく分からないけれど、分かりました」
困惑するザウエルを尻目に、わたしは熱していた創りかけの剣を炭火から取り出す。そして再び打ち始めた。
「むっ! よっ! はっ!」
「……この剣、どんな力を込めるの?」
「んー、単にひたすら頑丈で……。とうっ! 刃こぼれしても自己修復する。やっ! 大事なのは、剣の方じゃなしに……。ふんっ! 盾の方なんだけどね。えいっ!」
アオイは、工房の鍛冶場の片隅に立て掛けてある盾を見遣る。それは完全に表面が鏡状になっており、アオイの姿がそこに映っていた。
「こっちの盾?」
「えいやっ! と、ふう……。うん、その盾。鏡だからね、光系の攻撃を跳ね返すことができる。ま、それ以外にちょっとした考え、と言うか賭けだね。その賭けに使う小細工の意味があるかな。賭けの内容は後で教えるよ。
あー、こんなもんかな? 後は焼き入れして研ぎ、かな。既に魔力回路は鋳込んであるから、研ぎが終わった時点で儀式を行って魔力付与すれば本体は完成だ。あー、でも後は鞘も創らないと。グリップもちゃんとしておかないとな。柄頭にも細工しておく必要があるか」
わたしは焼き入れのため、形が出来上がった剣を再度加熱する。と、アオイが呟く。
「……上手く行くといいけど」
「上手く行くさ。いや、行かせるさ。そのために色々準備してるんだからね。そこの壁際に立ってる『アレ』とか用意したんだしさ。
……? ザウエル、何を生暖かい視線で見てるのかな?」
「いえ、別に。……わたしと鉄之丞、それにバルゾラ大陸にはいませんが、オルトラムゥ、ガウルグルク、あとゼロも可能な限り御助力いたしますので、お忘れなきよう」
ザウエルの言葉に、わたしとアオイは頷いた。さて、この剣が出来上がれば、勇者ミズホ一行を迎える準備はほぼ完了する。そうすれば、後は臨機応変に細かい修正を加えるだけだ。勇者ミズホ本人はともかく、他の3名はどう歓迎してやろうかね。
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
解放の砦
さいはて旅行社
ファンタジー
その世界は人知れず、緩慢に滅びの道を進んでいた。
そこは剣と魔法のファンタジー世界。
転生して、リアムがものごころがついて喜んだのも、つかの間。
残念ながら、派手な攻撃魔法を使えるわけではなかった。
その上、待っていたのは貧しい男爵家の三男として生まれ、しかも魔物討伐に、事務作業、家事に、弟の世話と、忙しく地味に辛い日々。
けれど、この世界にはリアムに愛情を注いでくれる母親がいた。
それだけでリアムは幸せだった。
前世では家族にも仕事にも恵まれなかったから。
リアムは冒険者である最愛の母親を支えるために手伝いを頑張っていた。
だが、リアムが八歳のある日、母親が魔物に殺されてしまう。
母が亡くなってからも、クズ親父と二人のクソ兄貴たちとは冷えた家族関係のまま、リアムの冒険者生活は続いていく。
いつか和解をすることになるのか、はたまた。
B級冒険者の母親がやっていた砦の管理者を継いで、書類作成確認等の事務処理作業に精を出す。砦の守護獣である気分屋のクロとツンツンなシロ様にかまわれながら、A級、B級冒険者のスーパーアスリート超の身体能力を持っている脳筋たちに囲まれる。
平穏無事を祈りながらも、砦ではなぜか事件が起こり、騒がしい日々が続く。
前世で死んだ後に、
「キミは世界から排除されて可哀想だったから、次の人生ではオマケをあげよう」
そんな神様の言葉を、ほんの少しは楽しみにしていたのに。。。
オマケって何だったんだーーーっ、と神に問いたくなる境遇がリアムにはさらに待っていた。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる