召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第10話 魔竜征伐

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 今わたしたちは、ザウエルの転移魔法でカルトゥン山脈まで一気にやって来た。この山脈の奥地に、魔竜たちの本拠地が存在する。だがそこは流石に結界で守られており、直接そこへ魔法で転移することは叶わない。
 アオイがわたしの顔を見て、訊ねてくる。

「わたしが先代魔竜将を倒したときは、この辺から山中に分け入って歩いて相手の本拠地まで行ったけど……。歩いて行くつもり?」

「いや、相手を呼び出すつもりだけどね」

 わたしは『コンヴェイ・シンキング』の魔法を広域に用い、自らの意思をカルトゥン山脈全域に伝達した。

『魔竜将オルトラムゥ及び魔竜軍団に告げる。わたしは新たなる魔王、ブレイド・JOKERである。いちいち口上を述べるのも面倒だ。こうして親征してきた以上、もはやそんな段階では無いしな。
 だから要件は1つだけだ。わたしに従うか、滅びるか選べ。以上だ』

「……相変わらずの、馬鹿みたいな魔力量ですね」

「まあね。……お、早速来た」

 あきれ返った口調のザウエルに応えながら、わたしは目を遥か山脈の稜線に遣る。そこには100体近くの魔竜の群れが、こちらめがけて飛んでくるのが見えた。

 実際はもっと数がいるはずであるが、幼竜や若年の竜は連れて来なかった様だ。それでもなかなかの数が集まってはいるが、ただし編隊も組まず、漫然と集まって飛んでいるだけである。

 わたしはザウエルに訊ねる。

「……戦術の『せ』の字も無いが、あんなもんなのかね?低空進入するなり、こちらの魔法攻撃に備えて少数の編隊に別れて飛ぶなり……。第一、先ほどの宣戦布告?で、こちらの魔力量が馬鹿みたいに多いことは分かっているだろうに」

「……慢心してるんでしょう。これまではそれで圧倒できていたわけですからね」

「慢心か。わたしもそれには気を付けないといけないな。いい反面教師になってくれた礼をするとしようか」

 魔竜の群れは、ぐんぐんと近づいてくる。わたしはそちらの方向へ手を差し伸べ、『スタン』の魔法を広域に使用した。30~40体ばかりの魔竜が、まとめて麻痺状態になり落下する。

 可能であれば魔竜は戦力として取り込みたいので、できる限り殺さないように『スタン』の魔法を選択したのだがなあ……。中には落下の衝撃で、死ぬやつも出そうだ。

 更にザウエルの『サンダー・ボルト』の魔法が、そしてほぼ同時にアオイの『シャイン』の魔法が炸裂する。10体近くの魔竜が落雷に打たれ、感電して麻痺し地上へ落下する。別の10体弱が閃光に眼をやられて盲目状態になり、脱落していく。

 空を飛んでいる魔竜はこちらへ届く前に、半数以上が戦闘不能になっていた。空にいる魔竜のうち、一際大きな個体が大音響で叫ぶ。

「何をやっている! 炎を吐け! 冷気を吐け! 雷を吐け! それに使える者は、こちらも魔法で応戦しろ!」

 なるほど、たぶんアレが当代の魔竜将オルトラムゥか。わたしは『レジスト・オール』『レジスト・マジック』の魔法と、『全耐性強化』『耐状態異常』『抗魔』の魔道の術を重ねて自分たちに行使する。

 そこへ上空の魔竜たちが吐いた炎や冷気、雷が降り注ぎ、『マジック・ミサイル』『ファイヤ・ボルト』『アイス・ボルト』『ライトニング・ボルト』等々、様々な魔法の集中砲火が浴びせられる。

 しかしわたしが有り余る魔力に物を言わせて行使した防御魔法と防御魔術により、相手の攻撃はわたしには一切効果が無い。ふと目を遣れば、アオイもザウエルもほとんど傷を負っていなかった。

 わたしは念のために『コンティニュアル・ヒーリング』の魔法で、長時間わずかずつ回復する効果を2人に与える。

 と、わたしの超感覚に何やら引っ掛かる物があった。

「……アオイ、地下から敵が来る。ザウエルを守ってやってくれ。ザウエルはアオイの支援を。わたしは相手の親玉を訓練がてら、叩いてくる」

「了解」

「わかりました」

 わたしは背中にある重力制御用の翼を広げ、重力を操って一気に飛翔した。視界の隅に、地下から魔竜の一種である地竜がポコポコと沸いて出るのが見える。だがアオイはさすが勇者だけあって、地竜どもを物ともしていない。

 その間も、上空の魔竜の群れからの攻撃は、わたしに集中してくる。だがそれはわたしに対し、毛筋ほどの傷を与えることもできていない。数瞬の後、わたしはオルトラムゥとおぼしき魔竜の眼前に到着した。魔竜の長は叫ぶ。

「……やめろ! 効いておらん! ……貴様が魔王を僭称せんしょうしている馬の骨か。なるほど、魔力だけは大した物があるようだな」

僭称せんしょうではなしに、本当に魔王なんだがね。ちょっと不本意な事情の結果ではあるが。君が魔竜将オルトラムゥかね?」

「そうだ、俺がオルトラムゥだ。いいだろう、俺自ら貴様の相手をしてやる。貴様を噛み裂いて、その血肉を喰らってやろう」

 わたしはオルトラムゥの姿を、頭の天辺から尻尾の先まで仔細に眺めた。他の魔竜に比して、体躯が倍以上はある。その首元と尻尾の根本に、何やら装飾品の様な物を着用していた。首飾りと尻尾飾りだろうか。

 いや、前足の手首にあたる部分と、その指にも何やら宝石の嵌った腕輪や指輪がはまっている。ただの宝飾品ではない証拠に、強い魔力が感じられた。

 オルトラムゥが大きく息を吸い込む。おそらくは吐炎ブレスを使うつもりなのだろう。

「くらえ!」

 やはり吐炎ブレスだった。だがその熱量は尋常ではない。ただの炎ではない、プラズマ流とでも言うべき物が、その口から吐き出される。
 わたし自身はたぶんこの炎に耐えられるだろうが、今着ている衣類は灰になってしまう可能性が高い。それはもったいないので、『プロテクション・フロム・ヒート』の魔法と『耐高熱結界』の魔道の術を同時行使した。

 プラズマの吐息が、わたしに直撃する。その吐炎ブレスはまるでガラス板にホースで水をかけた時のように、周囲に飛び散って行く。勿論ながら、わたし自身には何ら影響を与えていない。

 無論、着用している衣類も無事だ。今着ている漆黒の長衣は、見た目は地味で質素だが、見えないところにそこそこ奢った代物である。灰にしてしまうのは惜しいのだ。

 とりあえず、お返しとばかりにわたしは『サンダー・ボルト』の魔法を使った。ちなみに、この魔法で決めるつもりは最初から無い。少しばかり確かめたいことがあったのだ。

「これで、どうかね?」

「はっ! そんなヘナヘナ魔法が俺に効くか!」

「……ほう?」

 『サンダー・ボルト』の魔法により天空から呼ばれた落雷は、たしかにオルトラムゥを捉えた。だがその雷は、オルトラムゥが身に着けている首飾りに吸い込まれるように消えていったのだ。

「なるほど。最初の『スタン』の魔法が君を捉えていたはずだったのに、君が無事で飛んでいるのは、その装飾品の守りによるものか」

「ふん、その通りだ。この『吸魔の首飾り』の力で、俺に向かってかけられた魔法は魔力に還元され、この指輪や腕輪、尻尾飾りに蓄えられる。
 貴様が魔法を使えば使うほど、俺の使える魔力は増し、貴様はただ消耗するだけだ」

「ふーん。……ふっ」

 わたしは鼻で笑ってやった。オルトラムゥは激昂する。

「なんだ! 何が可笑しい!」

「いや。……それで勝ったつもりかね?」

「何!? ……ふん、くっくっく。強がりはよせ。魔法が効かない以上、貴様に勝ち目はあるまい」

 一変して、わたしを嘲笑う様子を見せるオルトラムゥ。わたしはそれに応えて言った。

「んじゃ、試してみよう」

 次の瞬間、わたしの周囲に無数の魔法の矢が出現した。『マジック・ミサイル』の魔法である。いや、無数とは言い過ぎか。正確には65,536本だ。

 ぶっちゃけた話、魔力的にはまだまだ余裕なのだが、魔法の制御力の限界が先に来てこの本数になったのだ。もっと訓練、頑張らなきゃなあ。オルトラムゥは、あんぐりと口を開けて呆けている。

「じゃあ行くぞ」

「な、なに!?」

 わたしは65,536本の魔法の矢を一斉発射した。そして発射したらまた次の『マジック・ミサイル』の魔法を行使して新たに65,536本の魔法の矢を出現させる。そうしたら即座に発射し、また新たな魔法の矢を用意。

「ちょ、ちょっと待て……!! な、なにを……!! い、いや無駄だ、無駄!! この『吸魔の首飾り』は!! な、何いぃっ!?」

「あー、やっぱり限界はあったか」

 パン! パン! パパンパン!!

 何かが破裂するような、砕け散るような音が響く。オルトラムゥが身に着けていた指輪が次々に弾け飛び、次に腕輪が破壊され、尻尾飾りが粉々になった。魔力の吸収し過ぎである。

 そして最後に、『吸魔の首飾り』が宝石屑と貴金属の粉になって飛び散った。オルトラムゥの狼狽した声が響く。

「ば、馬鹿な……。『吸魔の首飾り』が……」

「これで君にはわたしの魔法が効くようになったわけだが……。どうするね? まだるならば、なんなら攻撃魔法なしで戦ってあげてもかまわないよ?」

「な!」

 と言うか、わたし的には魔法なしでの戦闘訓練を目論んでいたので、これに応じてもらわないとちょっと困るのだが。まあ幸いなことにオルトラムゥは怒り狂い、突っかかって来た。

「ば、馬鹿にするなああぁぁッ!!」

 どうやら頭に血が上っていても、完全に冷静さを失ったわけでは無いらしい。オルトラムゥは自らの魔力を振り絞り、『ストレングス』『アクセル』『プロテクション』『エンチャント』などの補助魔法を自らの肉体に行使し、わたしめがけて突っ込んで来た。わたしは拳を振るう。

「フン!」

「はぶっ!?」

 わたしの右拳は、突っ込んで来たオルトラムゥの顔面をもろに殴打した。のけぞるオルトラムゥ。そしてそこに左拳が突き刺さる。

「ぐばぁっ!!」

「……っと。オウリャッ!」

「ぐおおぉぉっ!?」

 オルトラムゥは苦し紛れに2本の前足を振り回す。わたしはそれを察知して体を躱し、相手の右前脚を掴まえて投げ飛ばした。オルトラムゥからすれば、悪夢を見ている気分だったろう。

 彼の体長は40mは優にある。その巨体が、たかだか3mの身長のわたしに良い様にやられっぱなしなのだ。

 ちなみにわたしは、相手を殴ったり投げ飛ばしたりする際に、重力制御、慣性制御、見かけ質量制御を併用している。まあ、そうでなければこれだけ体格差がある相手をポンポンのけぞらせたり投げ飛ばしたりはできない。

 オルトラムゥは投げ飛ばされた先の空中で何とか体勢を立て直し、こちらを化け物でも見るような目で睨みつける。

「ば、ばかな……。貴様何者だ……」

「言ったろう、魔王だと」

「くっ! おのれっ!」

 オルトラムゥはまた大きく息を吸い込む。吐炎ブレスの構えだ。だがね、さっき行使した『プロテクション・フロム・ヒート』と『耐高熱結界』は、まだ切れていないんだがね。

 わたしは真正面からオルトラムゥに突っ込む。オルトラムゥの吐炎ブレスは先ほどと同じように、ガラス板にホースで水をかけた時の様に飛び散る。だがオルトラムゥの狙いは別だった模様だ。

 オルトラムゥは効果の無い吐炎ブレスをオトリにして、こちらがそれに突っ込んで来るだろうと読んでいた様だ。プラズマの吐息を突っ切った直後、わたしの眼にはわたしを噛み砕こうとする、大きく開かれたあぎとが映っていた。

 いや、たしかにプラズマの吐炎ブレスはばまれて、視覚では見えなかったけれど……。でも正直なところ、改造人間の超感覚としては、ばっちり捉えていたから、オルトラムゥが何をしようとしてるか完全に解ってたんだけどね。

 だからわたしは、わたしを噛み砕こうとするオルトラムゥのその鼻面を、充分に手加減して殴り飛ばしてやった。いや、手加減しないと一撃で勝負ついちゃうし。そしたら訓練にならないじゃないか。
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