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第4話 三回目

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付き合うのに条件をつけた。

人前では触らない事。
学校では必要な事以外話しかけない事。
誰にも言わない事。
待ち伏せはしない事。

首を傾げながら了承した遼太だったが、三日後くらいにトンネル前で待ち伏せされた。
普通に考えても付き合う気が無い条件だったのでしょうがない。

彼の垂れ気味の目が少し怒っていた。

俺の自転車のサドル掴みながら言う。


「この条件で、どう付き合うつもり?」

「…嫌だったら付き合わない。今、待ち伏せしているから、今日で終わりだね。」

「また…意地悪だなお前。」

「そう思うなら、そうでいい。」

「また…、すぐに付け放す…仲良くしようよ。」

「どうやって?この街じゃ何してもすぐに噂になる。」

「噂ね…別に男同士が一緒に遊ぶくらいなら、ならないんじゃないの?」

「…。」

「俺だって、そんないきなりヤりたいとかじゃないし、普通にゲームとか学校の話とかでもいいし…、友也が警戒しすぎなんじゃないのか?」

「…。」

誰にでも優しく平等な態度を取る遼太。
たから男にも女にも人気がある。
その人気者を少し掠め取ってみたかっただけで、本気で向き合ってもらうと困る。
自分が遼太を楽しませるほど面白い人間じゃないから。

卑屈な自分が嫌になるけど変えられない。
明るく人懐っこい笑顔が普通に出来る遼太が眩しい。

黙る俺に聞いて来た。


「なあ、ゲームとかする?」

「…少しは。」

「俺の家行ってゲームしようよ、家が嫌だったらショッピングモールをブラつくとかさ、どっちがいい?」


どちらも嫌だったが、人目につかない方が良いと思い「家」と答えた。

遼太の後ろを自転車でついて走る事三十分くらい、結構な距離があった。
俺の家から二駅ほど先の街に住んでいた。
学校から帰る方角は一緒だが、川を越えた向こうの田園地帯の中、田舎らしく大きく構えた一軒家だった。

敷地内にビニールハウスがいくつかあり、納屋には大型の農耕車両が見えた。
農家を営んでいると見える遼太の実家、引き戸の玄関を開けると立派な角が生えた鹿の剥製が出迎えてくれた。

遼太が「ただいま」と言っても誰も出てこない。皆、出払っているよう。

同級生の家に上がるなんて何年ぶりだろうと、少し緊張した。
二階にある若干乱雑な遼太の部屋、二人で遊べるゲームソフトを選び、ひとしきりプレイを楽しんだ。

俺の家にもある数年前に発売されたカーレースのゲームは、かなりやり込んでいたので圧勝だった。

自慢気な俺を見て嬉しそうとも悔しそうとも見える顔をする遼太。

何度やっても勝てなくて残念そうにコントローラを握りしめて聞いてきた。


「上手だなお前、勉強だけしてたと思ってた。」

「ゲームくらいするよ普通に。」

「一人で…か?」

「…悪い?一人の方が集中できるし。」

「今は二人だけど、面白かったか?」

「まあ、遼太を叩きのめして気持ち良かった。」


ふいに手が耳元を隠す髪に触ろうとして来たので叩き落とした。
一緒に遊ぶだけみたいなことを言いながら触ろうとする遼太に腹が立った。


「…!!触るなよっ!!」

「人前じゃねぇし、別にいいじゃん。」

「家に人が帰ってくる。」

「まだ帰って来てない。」

「これから…。」


言い訳が止まらない口を塞がれて、重たい体に押さえつけられた。
当然の様に抵抗する俺だが体格も力も遼太に勝てない。

運動部でもない遼太が筋肉質なのは家の手伝いでもしているんだろうなと思った。
勝てないけど、このまま好き勝手されても困るので、近づく顔を押しのけ続けて息が上がった頃、階下の玄関の引き戸が開く音が聞こえた。

音に気を取られている隙にがっちりと両頬を掴まれて囁かれた。

「これ以上暴れると友也の嫌いな、人が来るよ。」



優し気な顔をして脅しめいた事を言ってくる。

腹がたつけど、汗だくで疲れてしまった俺。
よくよく考えればファーストキスもセカンドキスも遼太としている。

疲れて、二回までしたんなら三回しても変わらないという思考に陥った。

「キスすんなら、早くしろ。」と言うと、何故か笑ってから深いキスをしてきた。

最初に誘ったのは俺が言うのはおかしいけど、どうして平然と男にキス出来るかが不思議でしょうがなかった。


遼太はどんな大輪の花でも手折るのに躊躇がない。
俺は手折られて投げ捨てられた花の末路を哀れに思うだけ。

遼太が根気よく俺に向き合ってくれたので投げ捨てられてもいいかなと思ったのは、もう少し後のこと。


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