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第4章 シャルマ帝国編
第75話 シエナ、絶体絶命
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シエナは監獄棟の屋上から内部に潜入した。
「まったく……ドアに鍵も掛けてないなんて監獄が聞いて呆れるわね」
一つ下の階に降りると、気配を消しながらフロア探索を開始した。
「造りは普通の監獄ね……」
きれいな直方体をしていた建物の外観通り、内部は真っ直ぐな通路に沿って同じ造りの独房が並んでいた。
シエナはゆっくりと端から端まで歩いてみたが、ついに一人の囚人も見かけることはなかった。
「キーッ!緊張して損したわ!」
……しかしその下の階も、そのまた下の階にも囚人はおろか看守の姿すら見当たらなかった。
そして、違和感を感じながらもシエナはついに一階にまで降りてきたのだった。
「結局誰もいなかった……いやいや、どう考えたっておかしいでしょ……」
薄気味の悪さを感じながらも、先日のイヴァンの屋敷のような展開もあると思って、シエナは一階の探索を続けた。
しかし、独房を一部屋一部屋丁寧に調べても何も見つからない。
「ちょっと……なんなのよ……っ!?」
調べてもなんの成果もなくついに監獄から帰ろうとしたとき、不意に近くから何かの気配を感じて慌てて独房に身を隠した。
「んんー、最悪デス……せっかくここからがお楽しみだったというノニ、もう交代の時間トハ……やってられないデス!」
その独特の口調は先ほどの魔族と同じようなものだった。魔族は階段を上へと登っていく。
シエナは気配を完全に殺して独房から出ると、魔族の気配を最初に感じた辺りを再度調べた。
「これは……幻影……!?」
真っ白な壁の一部に、実は人がひとり通れるくらいの穴が空いていたのだった。
しかもその穴が幻影で見事に塞がれている。
「魔力の気配を感じさせないなんて……これほんとに魔法なのかしら?」
シエナなら、たとえわずかでも魔力の気配を察知することができれば、ソニアの村の結界に違和感を感じ取ったときのように、何らかの気配に気づくことができるはずなのだ。
「と、とにかく行ってみるしかないわね……」
シエナは幻の壁をくぐって奥へと進んだ。
………
……
…
壁の裏は地下へと続く下り坂になっていた。
一本道ではあったが、またさっきみたいに実はどこかが幻影になっていたらおそらく気づけない。
そこから魔族が現れる可能性もあるため、シエナは今まで以上に周囲に気を配りながら先に進んだ。
そして、20メートルほど先に進んだところで魔力の気配を感じ取った。
シエナは足音一つも立てないように慎重に進む……そして行き着いた先の広間で目を疑った。
「ヒャハはハha!」
「こっちデス!」
「きたゾきたゾ!そーれ!」
「バカ、失敗したでねーカ」
4匹の上級魔族が何かを蹴飛ばして遊んでいる。
「ちょっと何よあれ……魔族が魔族を……」
4匹の魔族が蹴っていたのは下級魔族だった。下級とはいえ同じ魔族をまるでサッカーボールのように蹴飛ばして遊んでいたのだ。
「イタイ……ぎゃ……ゴブッ……グェぇ」
下級魔族はすでに虫の息だが抵抗するでもなく蹴られるたびにうめき声を上げている。
その奥には一箇所に集められた100人ほどの囚人が肩を寄せ合って怯えていた。顔から生気が抜けている者、耳をふさいで震えている者、おかしくなって
一人で何かブツブツとつぶやいている者……きっとかなりの時間この残虐なショーを見せられ続けているのだろう。
しかし、いかにシエナでも上級魔族を4匹も同時に相手取るのはかなり厳しかった。
それに、ここで自分が割って入れば最悪囚人に危害が及ぶ心配もある。
「くっそー……こんなときにシリウスがいれば……」
シエナの口から自然とそんな言葉がこぼれた。
「シリウスとは……誰でスカ?」
突如背後から声をかけられ慌てて飛び退こうとしたが、それより早く足を掴まれてしまった。
「っ!?」
シエナを捕まえたのは5匹目の上級魔族だった。シエナは足を掴まれたまま引きずられ、他の4匹の前につれてこられた。
「ちょっと!離しなさいよ!この変態!」
シエナが足をバタつかせて暴れたが、魔族のちからは意外に強くて離れない。
「お前……見張りはどうしたンダ?」
「サボりデスか?」
「そのオンナはなんda?」
「お前が途中で止めっカラ、また失敗したでねーカ!」
4匹は下級魔族を遠くに蹴り飛ばしたまま放置して、シエナとシエナを連れてきた上級魔族のところにやってきた。
「上に行ったら、エークシがいなかったから戻ってきたのデス!そしたらそこの物陰にこの女がいたのデスヨ」
魔族たちはケラケラと笑っている。
「おい、オマエ……エークシをどこにやったダ?」
そして訛りの強い一匹がシエナの前に座って尋ねた。魔族の顔はシエナの目の前まで近づいている。
「エークシって……だれよ!」
シエナは宙吊りにされながらも超至近距離で魔族めがけてブレスを放った。
ブレスは訛りのある魔族に直撃し、その頭部を消し飛ばして天井に穴を開けた。
頭部を失った魔族はやがて塵のように消えた。
3匹の魔族とシエナを掴んでいる1匹は一瞬驚いたようだったが、すぐにケラケラと笑いはじめた。
「ペンデが死んda!ペンデが死んda!」
「ケラケラ……こいつ、龍族だったノカ!」
「そういえばギーベリー様が龍のオンナに気をつけろとか言ってなかっタカ?」
「ヤァス様も言ってたナ!こいつカ!?エークシもきっとこいつが殺したにチガイナイ!」
「……でも……弱そうデスよ?」
アハハハハハハ!
仲間が一人死んだというのに対して気にする様子もない。
シエナは足を掴んだままの魔族に向かって再びブレスを放った。
「離せって……言ってるでしょうが!」
「おっと!何するのデス!」
魔族が仰け反ったスキに足を掴む手を振り切り、シエナは4匹の前に構えを取った。
「アはハha!何だコイツ!俺たちと戦う気ka!?」
「バカだナ!あいつの代わりにこのオンナをボールにするカ?」
一匹が向こうで伸びている下級魔族を指差して笑っている。
「それはイイ考えデス!囚人は殺すなとヤァス様に言われてましたからネ!」
「コイツもホドホドに弱らせてヤァス様に献上しyo!」
「ケラケラ……そうだナ!殺さない程度に弱らせるカ」
(囲まれたっ!?……4対1……最悪じゃない。でもコイツら、囚人は殺しちゃいけないのね)
四方を囲む上級魔族がジリジリと近付いてくる。
「こうなったら……1匹確実に倒して逃げる!」
シエナは地を蹴って4匹のうちの1匹に迫った。
「おぉ!こいつなかなか素早いzo!」
そしてここから、魔族と一対一の攻防が始まる……事はなかった。
「俺たちとも遊ぶんデス!」
横から別の一匹がシエナを蹴り飛ばした。
「ぐっ……」
飛ばされながらも体勢を立て直し、構えなおすシエナ。
しかしその背後からまた別の1匹がシエナを元の場所めがけて投げ飛ばした。
「あ、テーセラ!投げるのは反則da!」
「ケラケラ……悪い悪い今のは不可抗力ダ」
「いったぁぁい!ちょっと!後ろからなんて卑怯じゃない!」
シエナは再び魔族たちのど真ん中に放り込まれた。
「ケラケラ……卑怯?」
「あれka?『ぜぇぜぇはぁはぁ』とかいうやつka」
「トゥリアは馬鹿ダナ!それを言うなら『ゼーゼーボーボー』ダロ!」
「ヒャハハハ、トゥリアもディオも人間のコトバを知らなすぎなのデス!『正々堂々』デスよ!龍の女!ワタシたちがオマエと正々堂々戦う理由など無いのデスよ!」
「ケラケラ……エーナスの言うとおりダ!」
再び四方を固められたシエナは必死に突破の糸口を探すが、こんなふざけたお喋りをしながらも上級魔族たちにスキらしいスキは見当たらなかった。
「ボールなんダから転がらないと遊べないダロ!」
「くっ!?しまった!?」
ついに魔族に不意打ちを許してしまい、横腹に痛烈な蹴りを食らってしまった。
そしてそこからは先程の下級魔族と同じように……
「ぐぅっ……ぎゃうん……がはっ……うぅっ」
急所は龍鱗で覆って守ってはいるがダメージは蓄積していく。
「ケラケラ……コイツ固くなったゾ!」
「 ちょうど良いボールになったna!」
魔族たちはさらにパス回しの速度を早めていく。
ついにシエナは一度も地面にバウンドすることなく4匹の魔族の間を蹴り飛ばされ続けることになってしまった。
「ぐっ…あっ…ぎゃ…うっ…ごっ」
たまに頭部にいい蹴りが入るとそれだけで意識が飛びそうになる。
痛みに耐え、ダメージが溜まっては回復を繰り返すシエナだったがそれはつまり回復が続く限り無限にこの苦痛に耐え続けなければならないと言うことだ。
室内にはシエナの受ける強烈な打撃と魔族たちの耳障りな笑い声がこだましている。
10分……20分……途切れることなく続く魔族の攻撃にシエナの心は折れそうになっていた。
もう、このまま死んだほうがいっそ楽かと思ったその時……
「ギャウっ!?な、何ダ………」
「何da!?コイツは!?」
「いきなりなんデスか!?」
魔族の一人が悲鳴を上げ、そして消滅した。
「ゲホッゲホッ」
シエナはこぼれ球のように魔族の包囲から抜け出て壁に激突した。
遠のきそうな意識を気合で保ってもう何度目かもわからない回復魔法を発動させた。
そして視界に入ったのは……
「……光の……精霊……」
光精霊ウィル・オ・ウィスプが、魔族たちを相手に戦っていたのだった。
そして……シエナのもとへよく知った魔法の気配が近づいてきた。
「……ソニア!?なんで……」
「ごめん……もしまたあの虎人族がいたらと思ったら、心配でたまらなくなって……でも、魔族が相手だと魔法頼みの私じゃあまり役に立てないかも……」
姿は見えないがたしかにソニアの声が聞こえる。
それだけでシエナの折れかけた心はみるみるうちに持ち直したのだった。
「ううん……助かった!でも、シリウスは……?」
「もし目が覚めても動けないように拘束してるわ……さぁ、ウィル・オ・ウィスプが頑張ってくれてるうちに早くここから脱出して……それから二人でシリウスに謝りましょ」
「……うん……そうだね!でも、ソニアがいてくれると思ったら力が湧いてきたからまだやれる!それに、こいつらにはたっっっぷりお礼をしなくちゃならないしね!!」
シエナは両腕を龍鱗で覆うと、ウィル・オ・ウィスプを取り囲む魔族に向かって突っ込んだ。
「どりゃァァァァ!必殺!シエナパーンチ!」
「ha?ゴブシャッ☆$#○×<」
シエナの一撃で瀕死の重傷を追ったところにウィル・オ・ウィスプが無駄なくトドメの一撃を叩き込む。
ウィル・オ・ウィスプの光属性攻撃にはどういう訳か物理ダメージもあるようだ。魔法だけなら魔族の外皮には高い耐性があるが、物理ダメージまでセットとあっては魔族にとっても無視できない。
「まだまだぁぁぁぁ!シエナラーッシュ!おりゃりゃりゃりゃりゃりゃァァァ!」
間髪入れず別の魔族に襲いかかるシエナ。ソニアが精霊を操ってうまく魔族にスキを作る。
「あだだだだだだだだだ………デス」
シエナの連打など、もうほとんどバズーカがマシンガンになったようなものだ。
数え切れないラッシュを受けて上級魔族も反撃する間すら無くミンチになって消えた。
「さぁ!残りはアンタだけなんだからね!」
「ケラケラケラ……ケーセーヒャクテン!」
「逆転だっての!」
最後の一匹の脳天にシエナのかかとがめり込み、ウィスプの放った光のムチが魔族を両断したのだった。
「……ふぅ。気が済んだわ!さぁ、ソニア、この人たち連れてこんなとこ早く脱出しましょ」
シエナの視線の先には固まってこちらの様子を伺っている貴族たちの姿があった。
「ハァッハァッ……そ、そうね」
ソニアは大量に消費した魔力を補うべく、魔力回復薬の小瓶を飲み干した。
「さぁ、行きましょう!」
「まったく……ドアに鍵も掛けてないなんて監獄が聞いて呆れるわね」
一つ下の階に降りると、気配を消しながらフロア探索を開始した。
「造りは普通の監獄ね……」
きれいな直方体をしていた建物の外観通り、内部は真っ直ぐな通路に沿って同じ造りの独房が並んでいた。
シエナはゆっくりと端から端まで歩いてみたが、ついに一人の囚人も見かけることはなかった。
「キーッ!緊張して損したわ!」
……しかしその下の階も、そのまた下の階にも囚人はおろか看守の姿すら見当たらなかった。
そして、違和感を感じながらもシエナはついに一階にまで降りてきたのだった。
「結局誰もいなかった……いやいや、どう考えたっておかしいでしょ……」
薄気味の悪さを感じながらも、先日のイヴァンの屋敷のような展開もあると思って、シエナは一階の探索を続けた。
しかし、独房を一部屋一部屋丁寧に調べても何も見つからない。
「ちょっと……なんなのよ……っ!?」
調べてもなんの成果もなくついに監獄から帰ろうとしたとき、不意に近くから何かの気配を感じて慌てて独房に身を隠した。
「んんー、最悪デス……せっかくここからがお楽しみだったというノニ、もう交代の時間トハ……やってられないデス!」
その独特の口調は先ほどの魔族と同じようなものだった。魔族は階段を上へと登っていく。
シエナは気配を完全に殺して独房から出ると、魔族の気配を最初に感じた辺りを再度調べた。
「これは……幻影……!?」
真っ白な壁の一部に、実は人がひとり通れるくらいの穴が空いていたのだった。
しかもその穴が幻影で見事に塞がれている。
「魔力の気配を感じさせないなんて……これほんとに魔法なのかしら?」
シエナなら、たとえわずかでも魔力の気配を察知することができれば、ソニアの村の結界に違和感を感じ取ったときのように、何らかの気配に気づくことができるはずなのだ。
「と、とにかく行ってみるしかないわね……」
シエナは幻の壁をくぐって奥へと進んだ。
………
……
…
壁の裏は地下へと続く下り坂になっていた。
一本道ではあったが、またさっきみたいに実はどこかが幻影になっていたらおそらく気づけない。
そこから魔族が現れる可能性もあるため、シエナは今まで以上に周囲に気を配りながら先に進んだ。
そして、20メートルほど先に進んだところで魔力の気配を感じ取った。
シエナは足音一つも立てないように慎重に進む……そして行き着いた先の広間で目を疑った。
「ヒャハはハha!」
「こっちデス!」
「きたゾきたゾ!そーれ!」
「バカ、失敗したでねーカ」
4匹の上級魔族が何かを蹴飛ばして遊んでいる。
「ちょっと何よあれ……魔族が魔族を……」
4匹の魔族が蹴っていたのは下級魔族だった。下級とはいえ同じ魔族をまるでサッカーボールのように蹴飛ばして遊んでいたのだ。
「イタイ……ぎゃ……ゴブッ……グェぇ」
下級魔族はすでに虫の息だが抵抗するでもなく蹴られるたびにうめき声を上げている。
その奥には一箇所に集められた100人ほどの囚人が肩を寄せ合って怯えていた。顔から生気が抜けている者、耳をふさいで震えている者、おかしくなって
一人で何かブツブツとつぶやいている者……きっとかなりの時間この残虐なショーを見せられ続けているのだろう。
しかし、いかにシエナでも上級魔族を4匹も同時に相手取るのはかなり厳しかった。
それに、ここで自分が割って入れば最悪囚人に危害が及ぶ心配もある。
「くっそー……こんなときにシリウスがいれば……」
シエナの口から自然とそんな言葉がこぼれた。
「シリウスとは……誰でスカ?」
突如背後から声をかけられ慌てて飛び退こうとしたが、それより早く足を掴まれてしまった。
「っ!?」
シエナを捕まえたのは5匹目の上級魔族だった。シエナは足を掴まれたまま引きずられ、他の4匹の前につれてこられた。
「ちょっと!離しなさいよ!この変態!」
シエナが足をバタつかせて暴れたが、魔族のちからは意外に強くて離れない。
「お前……見張りはどうしたンダ?」
「サボりデスか?」
「そのオンナはなんda?」
「お前が途中で止めっカラ、また失敗したでねーカ!」
4匹は下級魔族を遠くに蹴り飛ばしたまま放置して、シエナとシエナを連れてきた上級魔族のところにやってきた。
「上に行ったら、エークシがいなかったから戻ってきたのデス!そしたらそこの物陰にこの女がいたのデスヨ」
魔族たちはケラケラと笑っている。
「おい、オマエ……エークシをどこにやったダ?」
そして訛りの強い一匹がシエナの前に座って尋ねた。魔族の顔はシエナの目の前まで近づいている。
「エークシって……だれよ!」
シエナは宙吊りにされながらも超至近距離で魔族めがけてブレスを放った。
ブレスは訛りのある魔族に直撃し、その頭部を消し飛ばして天井に穴を開けた。
頭部を失った魔族はやがて塵のように消えた。
3匹の魔族とシエナを掴んでいる1匹は一瞬驚いたようだったが、すぐにケラケラと笑いはじめた。
「ペンデが死んda!ペンデが死んda!」
「ケラケラ……こいつ、龍族だったノカ!」
「そういえばギーベリー様が龍のオンナに気をつけろとか言ってなかっタカ?」
「ヤァス様も言ってたナ!こいつカ!?エークシもきっとこいつが殺したにチガイナイ!」
「……でも……弱そうデスよ?」
アハハハハハハ!
仲間が一人死んだというのに対して気にする様子もない。
シエナは足を掴んだままの魔族に向かって再びブレスを放った。
「離せって……言ってるでしょうが!」
「おっと!何するのデス!」
魔族が仰け反ったスキに足を掴む手を振り切り、シエナは4匹の前に構えを取った。
「アはハha!何だコイツ!俺たちと戦う気ka!?」
「バカだナ!あいつの代わりにこのオンナをボールにするカ?」
一匹が向こうで伸びている下級魔族を指差して笑っている。
「それはイイ考えデス!囚人は殺すなとヤァス様に言われてましたからネ!」
「コイツもホドホドに弱らせてヤァス様に献上しyo!」
「ケラケラ……そうだナ!殺さない程度に弱らせるカ」
(囲まれたっ!?……4対1……最悪じゃない。でもコイツら、囚人は殺しちゃいけないのね)
四方を囲む上級魔族がジリジリと近付いてくる。
「こうなったら……1匹確実に倒して逃げる!」
シエナは地を蹴って4匹のうちの1匹に迫った。
「おぉ!こいつなかなか素早いzo!」
そしてここから、魔族と一対一の攻防が始まる……事はなかった。
「俺たちとも遊ぶんデス!」
横から別の一匹がシエナを蹴り飛ばした。
「ぐっ……」
飛ばされながらも体勢を立て直し、構えなおすシエナ。
しかしその背後からまた別の1匹がシエナを元の場所めがけて投げ飛ばした。
「あ、テーセラ!投げるのは反則da!」
「ケラケラ……悪い悪い今のは不可抗力ダ」
「いったぁぁい!ちょっと!後ろからなんて卑怯じゃない!」
シエナは再び魔族たちのど真ん中に放り込まれた。
「ケラケラ……卑怯?」
「あれka?『ぜぇぜぇはぁはぁ』とかいうやつka」
「トゥリアは馬鹿ダナ!それを言うなら『ゼーゼーボーボー』ダロ!」
「ヒャハハハ、トゥリアもディオも人間のコトバを知らなすぎなのデス!『正々堂々』デスよ!龍の女!ワタシたちがオマエと正々堂々戦う理由など無いのデスよ!」
「ケラケラ……エーナスの言うとおりダ!」
再び四方を固められたシエナは必死に突破の糸口を探すが、こんなふざけたお喋りをしながらも上級魔族たちにスキらしいスキは見当たらなかった。
「ボールなんダから転がらないと遊べないダロ!」
「くっ!?しまった!?」
ついに魔族に不意打ちを許してしまい、横腹に痛烈な蹴りを食らってしまった。
そしてそこからは先程の下級魔族と同じように……
「ぐぅっ……ぎゃうん……がはっ……うぅっ」
急所は龍鱗で覆って守ってはいるがダメージは蓄積していく。
「ケラケラ……コイツ固くなったゾ!」
「 ちょうど良いボールになったna!」
魔族たちはさらにパス回しの速度を早めていく。
ついにシエナは一度も地面にバウンドすることなく4匹の魔族の間を蹴り飛ばされ続けることになってしまった。
「ぐっ…あっ…ぎゃ…うっ…ごっ」
たまに頭部にいい蹴りが入るとそれだけで意識が飛びそうになる。
痛みに耐え、ダメージが溜まっては回復を繰り返すシエナだったがそれはつまり回復が続く限り無限にこの苦痛に耐え続けなければならないと言うことだ。
室内にはシエナの受ける強烈な打撃と魔族たちの耳障りな笑い声がこだましている。
10分……20分……途切れることなく続く魔族の攻撃にシエナの心は折れそうになっていた。
もう、このまま死んだほうがいっそ楽かと思ったその時……
「ギャウっ!?な、何ダ………」
「何da!?コイツは!?」
「いきなりなんデスか!?」
魔族の一人が悲鳴を上げ、そして消滅した。
「ゲホッゲホッ」
シエナはこぼれ球のように魔族の包囲から抜け出て壁に激突した。
遠のきそうな意識を気合で保ってもう何度目かもわからない回復魔法を発動させた。
そして視界に入ったのは……
「……光の……精霊……」
光精霊ウィル・オ・ウィスプが、魔族たちを相手に戦っていたのだった。
そして……シエナのもとへよく知った魔法の気配が近づいてきた。
「……ソニア!?なんで……」
「ごめん……もしまたあの虎人族がいたらと思ったら、心配でたまらなくなって……でも、魔族が相手だと魔法頼みの私じゃあまり役に立てないかも……」
姿は見えないがたしかにソニアの声が聞こえる。
それだけでシエナの折れかけた心はみるみるうちに持ち直したのだった。
「ううん……助かった!でも、シリウスは……?」
「もし目が覚めても動けないように拘束してるわ……さぁ、ウィル・オ・ウィスプが頑張ってくれてるうちに早くここから脱出して……それから二人でシリウスに謝りましょ」
「……うん……そうだね!でも、ソニアがいてくれると思ったら力が湧いてきたからまだやれる!それに、こいつらにはたっっっぷりお礼をしなくちゃならないしね!!」
シエナは両腕を龍鱗で覆うと、ウィル・オ・ウィスプを取り囲む魔族に向かって突っ込んだ。
「どりゃァァァァ!必殺!シエナパーンチ!」
「ha?ゴブシャッ☆$#○×<」
シエナの一撃で瀕死の重傷を追ったところにウィル・オ・ウィスプが無駄なくトドメの一撃を叩き込む。
ウィル・オ・ウィスプの光属性攻撃にはどういう訳か物理ダメージもあるようだ。魔法だけなら魔族の外皮には高い耐性があるが、物理ダメージまでセットとあっては魔族にとっても無視できない。
「まだまだぁぁぁぁ!シエナラーッシュ!おりゃりゃりゃりゃりゃりゃァァァ!」
間髪入れず別の魔族に襲いかかるシエナ。ソニアが精霊を操ってうまく魔族にスキを作る。
「あだだだだだだだだだ………デス」
シエナの連打など、もうほとんどバズーカがマシンガンになったようなものだ。
数え切れないラッシュを受けて上級魔族も反撃する間すら無くミンチになって消えた。
「さぁ!残りはアンタだけなんだからね!」
「ケラケラケラ……ケーセーヒャクテン!」
「逆転だっての!」
最後の一匹の脳天にシエナのかかとがめり込み、ウィスプの放った光のムチが魔族を両断したのだった。
「……ふぅ。気が済んだわ!さぁ、ソニア、この人たち連れてこんなとこ早く脱出しましょ」
シエナの視線の先には固まってこちらの様子を伺っている貴族たちの姿があった。
「ハァッハァッ……そ、そうね」
ソニアは大量に消費した魔力を補うべく、魔力回復薬の小瓶を飲み干した。
「さぁ、行きましょう!」
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システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
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一気に読ませて貰いました。 この作品は登場人物のキャラや全体のストーリーがしっかりしていてギャグセンスもあり、楽しむことができました。 偉そうに言うと、この作者はかなりの潜在力を感じます。 今後の投稿を待っています。 感謝!
1年でハイハイとは、成長が遅い子なのですね
第37話 復興支援
雑木林に一滴を切ってきますんで
⇒雑木林に行って木を切ってきますんで
ちょっと木に…もとい気になりましたので。