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第4章 シャルマ帝国編
第64話 海外展開?
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翌朝、俺たちが揃ってハンスたちの船を訪ねると、すでに二人は身支度を整えて甲板で待機していた。
昨日はずっと眠っていたフローラもしっかりと自分の足で立っている。顔色もいいし具合はすっかり良くなったと思っていいだろう。それにしても、フローラもこれはまたなかなかの美人だ。
と、とにかく、俺たちは島で朝食を済ませて港町へ戻ることにした。朝食を摂りながら、二人が帝国を出ることになった経緯を聞かせてもらったが、今の帝国は前世の20世紀半ばを震撼させた「卐」のあの国にそっくりだ。反対勢力は根こそぎつぶされ、皇帝の独裁政治が日に日に強まっているらしい。
ハンスも覇気がなかったが、特にフローラはおそらく両親が逮捕されたということで、ひどく落ち込んでいた。最初はほとんど何も喋らなかったが、うちの女性陣のファインプレーもあり、なんとか両親の救助をモチベーションにして気持ちを前向きにすることが出来たようだ。
思い詰めるだけでは状況は変わらないので、まずは最速で出来ることからやっていこうということで、朝食の後すぐに俺たちは海賊島を出向することにした。
「すごい船ですね……いったいどうやって走っているのですか?」
船の側面で高速回転する外輪を見つめながらハンスがエストレーラで船を操縦する俺に訊ねた。ハンスとフローラの乗ってきた船は海賊島に乗り捨てて、今は全員でリュミエールに乗っている。初めての船に二人は終始目を丸くしていた。
俺の代わりにクレーがリュミエールの駆動の仕組みをハンスにレクチャーしている。二人とも、時々「おぉ」と何やら盛り上がるを見せていて楽しそうだ。
「フローラ、お風呂入れてないんでしょ?下にシャワーがあるわよ!」
「『しゃわー』…?何ですかそれは?」
「まぁ見れば分かる!ってことで行きましょ!」
シエナは相変わらず異常に高いコミュ力を発揮してフローラとの距離を縮めているようだ。
……俺だって、仕事の時のコミュ力なら負けないよ?
……これでも、常にシエナとソニア、そして今はララさんに囲まれてるおかげで、噛みまくったりはしなくなったけど……
シエナとソニアはフローラの手を引いて船室に入っていった。
そしてララさんが、いつの間に手にれたのか知らないが酒瓶なんか持って助手席へと乗り込んだ。
「何この椅子!フッカフカじゃない!」
「長旅することもあると思って、座り心地にはこだわりましたからね!」
「ふ~ん…………で、飲むでしょ?」
ララさんはニヤリと笑みを浮かべて飲みかけの酒瓶を俺に差し出してきた。
「の、の、飲みませんよ!飲酒運転になるじゃないですか!」
「飲酒運転?シリウス君は時々意味のわかんないことを言うわね」
一瞬間接キスに動揺してしまい、この国にはない言葉を口走ってしまった……
「……で、わざわざ助手席までやってきたのはなにか理由があるんですよね?」
「……う、うん」
急にララさんがしおらしくなった。どうしたんだろう、そんなキャラじゃないよね?
「え?どうしたんですか??」
「いやぁ……あのさぁ……ハンスさんってなかなか強そうでイケてると思わない?」
チラチラとこちらの反応を伺うように視線を向けながら、たどたどしく言葉を発するララさん。
「まさか!?」
「ばか!声が大きいわよ!……や、やっぱりなんでもないわ!忘れて!」
ララさんはガラにも無く顔を赤くしてエストレーラを出ようとしている。しかし、タイミングよく運転席側の窓からハンスが俺に話しかけてきた。
「シリウスさん!これだけの船を魔道具で動かしているとはお見逸れしました!いやぁ……帝国でもこれだけの船を見たことはありませんよ!」
「ひぅっ!……いたたた」
ララさんは驚いた勢いで天井に頭をぶつけたようだ。
「大丈夫ですか!?」
「ハンスさん、ララさんなら大丈夫ですよ!ちょっと驚いただけです。それより、王国のことを聞くならララさん以上の適任はいませんので、良かったらそこのテーブルでじっくりお話されてはどうですか?」
ハンスは酒瓶をもったまま恥ずかしそうに固まっているララさんをじっと見つめたまま、何も言わない。
しまった……ちょっと強引に行き過ぎたか?
「ララさんは、ハズール王国で『賢者』と呼ばれている知識人なんですよ!」
クレーも良い所で援護射撃を入れてくれた。
「ハズールの賢者……って……え!?す、すごい方じゃないですか!」
「アハハハ……いや、それほどでも……」
いつもなら「すごいでしょ!」とか言いそうなララさんがやけに謙虚だ。
「じゃぁララさん、差し入れの酒は後でありがたく頂いておくので、あちらでハンスさんと色々お話してきてください」
俺はハンドルから手を離してララさんの酒瓶と反対の手に握られていた蓋を奪い取り、後部座席へと放り投げた。
「え、ええ。じゃぁ……ハンスさん、あっちでお話しましょっか?」
「はい!是非よろしくお願いします!」
そして二人はテーブルに向かい合って腰を下ろし、楽しそうに話を始めた。
「シエナ、ソニア、何あれ!!」
船室からものすごいテンションでフローラが出てきた。服はソニアのものを借りたらしい。
あぁそう言えばシャワーを浴びに行ってたんだっけ。髪がまだしっとりとしていて、絶妙に艶めかしい。
そして、シエナたちに対して敬語も無くなっているし、かなり仲良くなったようだ。
「そうでしょそうでしょ!あれに慣れると、湯船だけのお風呂じゃ物足りなくなるのよね。ね、ソニア?」
「フフフ、そうね」
「うぅ……あんなの毎日使ってるなんてズルいわ!それにあの石鹸、なんて良い香りなの!」
我が家の石鹸は、こっちの世界で一般的な何の特徴もない「ザ・石鹸」とは訳が違う。そのうち貴族向けに売り出そうと思ってるんだけど、ソニアのおかげでハーブエキスなどを良い塩梅に配合した「良いにおいの石鹸」に進化しているのだ!
「フフフ、石鹸は後であげるわね」
「やった!約束よ!」
そしてさらにテンションを上げ大はしゃぎのフローラ。
「ハンスさんもフローラも少しは元気になってくれたみたいで良かったですね、クレーさ…ん?」
……クレーの目はフローラに釘付けになっていた……
「もしもーし、クレーさん?」
「え?あ、あぁ、はい!そうですね」
その後港に着くまでの間、俺とクレーは町の巨艦の改造計画について雑談程度に会話していたが、クレーの目はこちらとあちらを足繁く行ったり来たりしていた。
…………
………
……
…
港に着くと、それまで妙にテンションの高かったハンスとフローラも急に現実に引き戻されたかのように表情を固くしていた。
「フローラさん……そんなに緊張しなくても大丈夫です。むしろ父のほうがお二人を驚かせないか心配です」
「いえ、突然お邪魔してご迷惑でなければ良いのですが……」
「だ、大丈夫です!私に任せてください!」
クレーはそう言うと胸を張って先頭を歩き出した。
「シリウス、クレーどうしちゃったの?」
「フフッ、シエナったら野暮なこと言わないの」
「そういうこと!」
クレーは普段、ブルドー公爵のことを「父」なんて呼んだりしない。これは彼なりの背伸びなのだ。
「それよりほら、ララさんを見てみなよ?」
俺たちから少し離れてハンスと並んで歩くララさんは、いつもと違って「乙女」だった。
……なんか、あちこちに春が来そうな気配がしてるんですけど……
公爵邸に着くと、ちょうど公爵が現場指揮の合間に帰っていたところで、そのままダイニングで話が出来ることになった。
公爵は案の定、手ぬぐいを頭に巻いてタンクトップに作業ズボンという、おおよそ最高位の貴族とはとても思えない格好で昼食を取りながら、ダイニングに入った俺たちを迎えてくれた。どう見ても土建屋の親方にしか見えないし、フローラとハンスの目がしばらく点になっていたのは言うまでもない。
しかし、見た目はともかくブルドー公爵は優秀な統治者だ。二人の事情を聞くと即決で町での滞在を許可し、必要なものを手配すると約束をした。
さらに、万が一フローラの両親が処刑されたりして国に戻ることが事実上不可能になった場合は、ハズールの国民として二人を迎え入れるようにカストル国王に話を通しておくとまで言ってくれた。
「国の両親が心配なのは心中察する。しかし、焦ったところで何も変わらん。今に商人たちが帝都の情報を持ち帰るゆえ、それを待て」
「ブルドー公爵閣下……お気遣い感謝いたします」
フローラもハンスも目尻に涙を浮かべて公爵に謝辞を述べた。
「気にするな。クレー、しばらくはこの屋敷に滞在できるよう部屋の手配をしてやれ」
「はい!」
クレーの返事の声がいつになく大きかった。
「公爵さん……私たちだけでサクッと帝都を偵察してきてもいいですか?」
突然横からぶっこんだのは我らが特攻隊長のシエナさん。俺だって帝国の状況が気になっていたし、百聞は一見に如かずともいうから言ってみたいとは思っていたけど……その質問はだめなんだよ。
「はぁ……シエナ、お前がそういうことを言い出さないようにこの場をしんみりといい感じに収めたつもりだったんだがなぁ……」
公爵は困ったように眉間に手をあてて項垂れた。
「いいか?「偵察」なんてのは立派な軍事行動だ。俺がそれを許可したなら、それはハズールで間違いなく最強の戦力を、公爵の名に置いて敵対国に送るってことなんだぞ?偵察なんて言っておいて、お前らがあっちに行って何事もなく帰ってくるなんてことがあり得るか?」
……そりゃ有るだろ!……いや、無いわ……
なぜか勇ましく胸を張るシエナの顔を見て俺は確信した。
しかし、公爵の話には別の意図がある。それはつまり許可はしないが、行くこと自体は公爵から止められていないということだ。
「あ~、わかりました!いやぁ~、うちの店の商品もそろそろ国外に展開しようかなぁなんて思ってたんですよね。せっかく海賊もいなくなったわけだし、まずは帝都あたりで商売をやりたいもんですねぇ」
「シリウス……そうでなくっちゃ!」
シエナが上機嫌に笑みを浮かべ、後ろでソニアがクスクスと笑っている。ララさんは顎が外れそうなほどあんぐりと口を開いて固まっていた。
「じゃ、そういう訳なんでもろもろちょっと準備を進めますわ」
公爵はただ一言「そうか……」と言っただけで、そのまま食事を再開した。
俺たち4人は、公爵に一礼してさっさと屋敷を後にした。
昨日はずっと眠っていたフローラもしっかりと自分の足で立っている。顔色もいいし具合はすっかり良くなったと思っていいだろう。それにしても、フローラもこれはまたなかなかの美人だ。
と、とにかく、俺たちは島で朝食を済ませて港町へ戻ることにした。朝食を摂りながら、二人が帝国を出ることになった経緯を聞かせてもらったが、今の帝国は前世の20世紀半ばを震撼させた「卐」のあの国にそっくりだ。反対勢力は根こそぎつぶされ、皇帝の独裁政治が日に日に強まっているらしい。
ハンスも覇気がなかったが、特にフローラはおそらく両親が逮捕されたということで、ひどく落ち込んでいた。最初はほとんど何も喋らなかったが、うちの女性陣のファインプレーもあり、なんとか両親の救助をモチベーションにして気持ちを前向きにすることが出来たようだ。
思い詰めるだけでは状況は変わらないので、まずは最速で出来ることからやっていこうということで、朝食の後すぐに俺たちは海賊島を出向することにした。
「すごい船ですね……いったいどうやって走っているのですか?」
船の側面で高速回転する外輪を見つめながらハンスがエストレーラで船を操縦する俺に訊ねた。ハンスとフローラの乗ってきた船は海賊島に乗り捨てて、今は全員でリュミエールに乗っている。初めての船に二人は終始目を丸くしていた。
俺の代わりにクレーがリュミエールの駆動の仕組みをハンスにレクチャーしている。二人とも、時々「おぉ」と何やら盛り上がるを見せていて楽しそうだ。
「フローラ、お風呂入れてないんでしょ?下にシャワーがあるわよ!」
「『しゃわー』…?何ですかそれは?」
「まぁ見れば分かる!ってことで行きましょ!」
シエナは相変わらず異常に高いコミュ力を発揮してフローラとの距離を縮めているようだ。
……俺だって、仕事の時のコミュ力なら負けないよ?
……これでも、常にシエナとソニア、そして今はララさんに囲まれてるおかげで、噛みまくったりはしなくなったけど……
シエナとソニアはフローラの手を引いて船室に入っていった。
そしてララさんが、いつの間に手にれたのか知らないが酒瓶なんか持って助手席へと乗り込んだ。
「何この椅子!フッカフカじゃない!」
「長旅することもあると思って、座り心地にはこだわりましたからね!」
「ふ~ん…………で、飲むでしょ?」
ララさんはニヤリと笑みを浮かべて飲みかけの酒瓶を俺に差し出してきた。
「の、の、飲みませんよ!飲酒運転になるじゃないですか!」
「飲酒運転?シリウス君は時々意味のわかんないことを言うわね」
一瞬間接キスに動揺してしまい、この国にはない言葉を口走ってしまった……
「……で、わざわざ助手席までやってきたのはなにか理由があるんですよね?」
「……う、うん」
急にララさんがしおらしくなった。どうしたんだろう、そんなキャラじゃないよね?
「え?どうしたんですか??」
「いやぁ……あのさぁ……ハンスさんってなかなか強そうでイケてると思わない?」
チラチラとこちらの反応を伺うように視線を向けながら、たどたどしく言葉を発するララさん。
「まさか!?」
「ばか!声が大きいわよ!……や、やっぱりなんでもないわ!忘れて!」
ララさんはガラにも無く顔を赤くしてエストレーラを出ようとしている。しかし、タイミングよく運転席側の窓からハンスが俺に話しかけてきた。
「シリウスさん!これだけの船を魔道具で動かしているとはお見逸れしました!いやぁ……帝国でもこれだけの船を見たことはありませんよ!」
「ひぅっ!……いたたた」
ララさんは驚いた勢いで天井に頭をぶつけたようだ。
「大丈夫ですか!?」
「ハンスさん、ララさんなら大丈夫ですよ!ちょっと驚いただけです。それより、王国のことを聞くならララさん以上の適任はいませんので、良かったらそこのテーブルでじっくりお話されてはどうですか?」
ハンスは酒瓶をもったまま恥ずかしそうに固まっているララさんをじっと見つめたまま、何も言わない。
しまった……ちょっと強引に行き過ぎたか?
「ララさんは、ハズール王国で『賢者』と呼ばれている知識人なんですよ!」
クレーも良い所で援護射撃を入れてくれた。
「ハズールの賢者……って……え!?す、すごい方じゃないですか!」
「アハハハ……いや、それほどでも……」
いつもなら「すごいでしょ!」とか言いそうなララさんがやけに謙虚だ。
「じゃぁララさん、差し入れの酒は後でありがたく頂いておくので、あちらでハンスさんと色々お話してきてください」
俺はハンドルから手を離してララさんの酒瓶と反対の手に握られていた蓋を奪い取り、後部座席へと放り投げた。
「え、ええ。じゃぁ……ハンスさん、あっちでお話しましょっか?」
「はい!是非よろしくお願いします!」
そして二人はテーブルに向かい合って腰を下ろし、楽しそうに話を始めた。
「シエナ、ソニア、何あれ!!」
船室からものすごいテンションでフローラが出てきた。服はソニアのものを借りたらしい。
あぁそう言えばシャワーを浴びに行ってたんだっけ。髪がまだしっとりとしていて、絶妙に艶めかしい。
そして、シエナたちに対して敬語も無くなっているし、かなり仲良くなったようだ。
「そうでしょそうでしょ!あれに慣れると、湯船だけのお風呂じゃ物足りなくなるのよね。ね、ソニア?」
「フフフ、そうね」
「うぅ……あんなの毎日使ってるなんてズルいわ!それにあの石鹸、なんて良い香りなの!」
我が家の石鹸は、こっちの世界で一般的な何の特徴もない「ザ・石鹸」とは訳が違う。そのうち貴族向けに売り出そうと思ってるんだけど、ソニアのおかげでハーブエキスなどを良い塩梅に配合した「良いにおいの石鹸」に進化しているのだ!
「フフフ、石鹸は後であげるわね」
「やった!約束よ!」
そしてさらにテンションを上げ大はしゃぎのフローラ。
「ハンスさんもフローラも少しは元気になってくれたみたいで良かったですね、クレーさ…ん?」
……クレーの目はフローラに釘付けになっていた……
「もしもーし、クレーさん?」
「え?あ、あぁ、はい!そうですね」
その後港に着くまでの間、俺とクレーは町の巨艦の改造計画について雑談程度に会話していたが、クレーの目はこちらとあちらを足繁く行ったり来たりしていた。
…………
………
……
…
港に着くと、それまで妙にテンションの高かったハンスとフローラも急に現実に引き戻されたかのように表情を固くしていた。
「フローラさん……そんなに緊張しなくても大丈夫です。むしろ父のほうがお二人を驚かせないか心配です」
「いえ、突然お邪魔してご迷惑でなければ良いのですが……」
「だ、大丈夫です!私に任せてください!」
クレーはそう言うと胸を張って先頭を歩き出した。
「シリウス、クレーどうしちゃったの?」
「フフッ、シエナったら野暮なこと言わないの」
「そういうこと!」
クレーは普段、ブルドー公爵のことを「父」なんて呼んだりしない。これは彼なりの背伸びなのだ。
「それよりほら、ララさんを見てみなよ?」
俺たちから少し離れてハンスと並んで歩くララさんは、いつもと違って「乙女」だった。
……なんか、あちこちに春が来そうな気配がしてるんですけど……
公爵邸に着くと、ちょうど公爵が現場指揮の合間に帰っていたところで、そのままダイニングで話が出来ることになった。
公爵は案の定、手ぬぐいを頭に巻いてタンクトップに作業ズボンという、おおよそ最高位の貴族とはとても思えない格好で昼食を取りながら、ダイニングに入った俺たちを迎えてくれた。どう見ても土建屋の親方にしか見えないし、フローラとハンスの目がしばらく点になっていたのは言うまでもない。
しかし、見た目はともかくブルドー公爵は優秀な統治者だ。二人の事情を聞くと即決で町での滞在を許可し、必要なものを手配すると約束をした。
さらに、万が一フローラの両親が処刑されたりして国に戻ることが事実上不可能になった場合は、ハズールの国民として二人を迎え入れるようにカストル国王に話を通しておくとまで言ってくれた。
「国の両親が心配なのは心中察する。しかし、焦ったところで何も変わらん。今に商人たちが帝都の情報を持ち帰るゆえ、それを待て」
「ブルドー公爵閣下……お気遣い感謝いたします」
フローラもハンスも目尻に涙を浮かべて公爵に謝辞を述べた。
「気にするな。クレー、しばらくはこの屋敷に滞在できるよう部屋の手配をしてやれ」
「はい!」
クレーの返事の声がいつになく大きかった。
「公爵さん……私たちだけでサクッと帝都を偵察してきてもいいですか?」
突然横からぶっこんだのは我らが特攻隊長のシエナさん。俺だって帝国の状況が気になっていたし、百聞は一見に如かずともいうから言ってみたいとは思っていたけど……その質問はだめなんだよ。
「はぁ……シエナ、お前がそういうことを言い出さないようにこの場をしんみりといい感じに収めたつもりだったんだがなぁ……」
公爵は困ったように眉間に手をあてて項垂れた。
「いいか?「偵察」なんてのは立派な軍事行動だ。俺がそれを許可したなら、それはハズールで間違いなく最強の戦力を、公爵の名に置いて敵対国に送るってことなんだぞ?偵察なんて言っておいて、お前らがあっちに行って何事もなく帰ってくるなんてことがあり得るか?」
……そりゃ有るだろ!……いや、無いわ……
なぜか勇ましく胸を張るシエナの顔を見て俺は確信した。
しかし、公爵の話には別の意図がある。それはつまり許可はしないが、行くこと自体は公爵から止められていないということだ。
「あ~、わかりました!いやぁ~、うちの店の商品もそろそろ国外に展開しようかなぁなんて思ってたんですよね。せっかく海賊もいなくなったわけだし、まずは帝都あたりで商売をやりたいもんですねぇ」
「シリウス……そうでなくっちゃ!」
シエナが上機嫌に笑みを浮かべ、後ろでソニアがクスクスと笑っている。ララさんは顎が外れそうなほどあんぐりと口を開いて固まっていた。
「じゃ、そういう訳なんでもろもろちょっと準備を進めますわ」
公爵はただ一言「そうか……」と言っただけで、そのまま食事を再開した。
俺たち4人は、公爵に一礼してさっさと屋敷を後にした。
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