63 / 75
第4章 シャルマ帝国編
第63話 漂流する二人
しおりを挟む
エドガーたちを取り調べた翌日は、ちょうどシリウス薬局も定休日だったので俺とシエナ、それから普段は店にいるソニアとララさんも揃ってリュミエールで沖に出ていた。
さらにデッキには意外な船員の姿も……
「あんたたち!ちゃんと隅々まで擦りなさいよ!」
「「は、はい!」」
シエナの喝にビクリと肩を震わせ、デッキブラシで甲板を擦り続けているのはエドガーとマシュー。
実は、昨日の取り調べで一度完全に心が折れ、なぜか俺とシエナに服従するような形になってしまったのだ。特にシエナに対しては、彼女が龍族であると知ってから「姐さん」と言ってまるで舎弟のようだ。
まぁシエナもまんざらじゃ無さそうだし、人手が増えるのは楽だから放っておこう。
それに、たとえ今さら二人が変な気を起こして逃亡を図ろうとしても簡単に阻止できるのだが、一応お目付け役ということでクレーも同乗している。
「実際に走っているところに乗せてもらったのは初めてですが……外から見る以上にすごい船ですね……」
「そうですか?実はまだ改造したいところがいくつかあってですね……」
「えぇ!?これ以上いったい何を……」
「聞いちゃいます?例えば、その水を掻いている外輪ですけど、邪魔なんで水中で動かせるスクリューにしたりとか……」
「す、すくりゅー??それは一体何ですか?」
俺は転生してから、歳の近い男子とあまり話す機会が無かったから、こんな話して面白いのだろうかと少し気になっていたが、杞憂だったようだ。こういうモノ作り系の話は前世に限らず全世界共通で男のロマンらしい。
俺とクレーはしばらく男のロマントークを楽しんでいた。
デッキには収納型の4人掛けテーブルセット、すでに女性陣3人はくつろぎまくってハーブティを飲みながら談笑している。
「ソニアちゃん、何このお茶!めちゃくちゃ美味しいじゃない!」
「フフフ……ララ!ソニアはララと違って料理もこなせるすごい子なんだから!きっと良いお嫁さんになるわよ~!」
「ぐはっ……いや、シエナ……あんたも料理なんか出来ないでしょうが!……んん!っていうかこのお茶菓子もほんとに美味しいわぁ~」
「エヘヘ、ありがとうございます!」
「くぅ~……そして可愛い!シエナ、あんたもたもたしてるとシリウス君取られちゃうわよ?」
「と、取られるって……バカ!そんなんじゃないから!」
……なんて話ししてんだか……
そして、そこからさらに広い海の上を走ること数十分、目的地が遠くに見えてきた。
「海賊島、見えてきましたよ?」
「……私たちの船で向かうと半日はかかるのに……」
海賊島は先の海戦でマセラティを倒し、俺たちが財宝を持ち帰った後で、港町の兵士たちを送って海上の中継拠点として改装中だ。
今日は一応休みなので、クルーズを楽しむのが一番の目的なのだが、ついでに改装の進捗を確認することになっているのだ。
工事中の港にリュミエールを停泊させ、俺たちは揃って陸へと上がった。
◇◆◇◆◇
---シャルマ帝国、外洋---
「ハ、ハンス先生……大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫……なはずです。朝日の上った方角の左側に進めばハズールのある大陸に着くはずですので……」
夜遅くに海へ出たフローラとハンスは追手に見つからないように明かりも付けず途中で交代して仮眠を取りながら夜通し沖へと船を進め続けた。
朝日が昇った頃には、陸地もすでに見えず、見渡す限り一面の大海原であったが、所詮二人は航海の素人だ。船乗りのように方角を知る術などあるはずもなく、唯一の手がかりは朝日の昇った方角が東だということだけであった。
「ですが、本当にこっちが北東で合っているのでしょうか?私だんだん朝日がどっちから昇ってきたかも分からなくなってきました……」
二人は船さえあればハズールに行くことが出来ると甘く考えていた。
そして、自分たちの現在地も分からないまま航海1日目の日没を迎えた。
………二日目。
「……先生、私たち進んでいるんでしょうか?」
「だ、大丈夫です……さぁ、日の出ている間が勝負です!」
そして二人で手分けして遠くの様子を確認したり、帆の向きを調整したりしながらひたすらに船を走らせた。
………三日目。
「先生……お腹が減って力が出ません……それに、喉も乾いて……」
「フローラ様……」
すでに海に出てから丸2日以上何も口にしていない。ハンスも口には出さないが空腹と喉の乾きは限界に達していた。
「私たち……このまま海をさまよって死ぬのでしょうか……」
「くっ……私の準備が甘かったばかりに……申し訳ありません……」
二人にはもう立ち上がる気力もなく、船はただ海流に任せて海を漂っていた。
しかし、この日の夕暮れ時に奇跡が起きた。
「先生……また日没ですね……明日の朝には私たちはどこにいるんでしょう?」
「………」
「……先生?」
「フローラ様!アレを見てください!船です!」
二人は最後の力を振り絞って立ち上がり、希望に目を見開いて遠くの船を備え付けの望遠鏡で確認した。
「シャルマ帝国の船では無さそうですね……」
「ええ、急いであの船を追いかけましょう」
そして、まさに死力を尽くして前方の船を追いかけ、奇跡的に一命を取り留めたのであった。
◇◆◇◆◇
---海賊島---
「改装はだいぶ順調に進んでいそうですね」
「ええ、これならそう遠くないうちにこの島を交易の中継地点と国防の前線基地として使うことができそうです」
俺とクレーは島を一周して改装工事の状況を確認していた。
「前に来たときには森の中に人の亡骸がたくさんありましたが、それも片付いているようですね」
「ええ、兵たちもアレが一番キツかったとぼやいてました」
この島を1周回ってみて初めて気付いたことだが、この島はわずかな砂浜と港の部分を除く他の外周が全て断崖絶壁になっていて非常に守りやすい。そして島の中心部には真水も湧くので最低限の自給自足も可能なのだ。
「大体の地形は覚えたので、町に戻ったら守りの強化についてももう少しなにか出来ないか考えてみましょう」
「……え?シリウスさん、まさかこの短い間に地形を覚えたんですか?」
「ええ、まぁ……特技みたいなもんで。それより!砂浜の方でシエナたちがバーベキューの準備をしています。兵士の皆さんの作業もそろそろ終わることですし、僕たちも合流しましょう」
そして俺たちは港に寄って作業を終えたばかりの兵士たちに声を掛け、砂浜へとやってきた。
「……シエナ……なんでもう食べてるの?」
「だって……みんなが来るのが遅くって……」
「シリウス、まだたくさんあるから大丈夫よ。さぁ、皆さんもどんどん食べてくださいね!」
微笑むソニアの足元でマシューとエドガーが必死の形相で野菜を洗い皮を剥いていたのがかなりシュールだ。
兵士の皆さんも保存食ばかりで飽き飽きしていたのだろう、皆が歓声を上げながらバーベキューに群がった。
「シリウス君……ここにはお酒はないのかなぁ?」
「ララさん……あなたは酒癖が悪いので今日は禁酒です!」
「そんなぁ~……」
ララさんは目に涙を浮かべ膝から崩れ落ちた……
………
……
…
そして、砂浜での宴会騒ぎも少し落ち着いた頃、港の方から何人かがこちらにやってきた。
「あれ?あいつら、今日は沖の見回りのはずだろ?」
兵士の話から察するに偵察に出ていたハズールの兵士のようだ。彼らはクレーに気づくと足を早めてこちらに向かってきた。
「クレー様、こちらにいらっしゃったとは」
「たまたまシリウスさんの船に乗せてもらえることになってね。で、君たちは見回りのはずだと聞いているけど?」
「はい、しかし見回りの途中で漂流中のシャルマ帝国の人間を発見したので、彼らの船で私たちだけ戻ってきました」
シャルマ、と聞いて俺もクレーもそれに周りの兵士たちにも緊張が走った。
兵士が言うには、ひどい脱水症状とおそらく空腹が原因だと思われる体力低下で危険な状態だったようだ。応急処置として水を飲ませたらしいが、その後はずっと目を覚まさないらしい。
とりあえず、どんな人物なのか分からないことにはどうしようもないので俺とクレーは連れ立って港へ向かった。港には小さな船が1隻泊まっていて、船の上では若い男女が昏睡していた。
「これは……かなり弱ってますね」
俺の鑑定でステータスを見てもHPはのこり1桁まで減っている。このまま放っておくと命に関わるので、急いで二人を魔法で回復させた。
「こちらの女性は……貴族のようですね。しかも伯爵位とは……」
クレーは早々に二人の鑑定をしていたようだ。
「ええ、こちらの男性は『騎士』と出ていますね、従者でしょうか?」
二人の名はハンスとフローラ、いったい何故で海をさまようことになったのだろうか?まぁ俺たちだけで勘ぐっても仕方ないので二人の目覚めを待つとしよう。
「う……うぅ……」
早速ハンスが目を覚ました。そして自分の真横で未だ眠り続けるフローラに気がつくと、慌てた様子で飛び起きた。
「フ、フローラ様!?ご無事ですか!?」
「大丈夫です、今はまだ眠っていますが回復させたのでじきに目を覚まします」
「そうですか……助けていただきありがとうございました」
ハンスはこちらに向き直って深々と頭を下げた。そしてハンスは俺たちにこれまでの帝国内での出来事や出国の経緯を話して聞かせてくれた。
「しかし……拾っていただけたのがハズールの方で助かりました……」
「良かったですね、こちらのクレーさんはハズールの港町を収めるブルドー公爵のご子息です。偶然ですが、ここでお会いできたのも何かの縁……明朝町に戻りますので先程の話を公爵にも話せるよう取り計らってくれますよ」
「公爵!?大貴族ではありませんか!そんな方に早々にお目通り願えるとは本当に運が良い……それで、公爵家のご子息を『さん付け』でお呼びになる貴方はいったい……」
ハンスは恐る恐るといった様子で俺の顔を見つめている。
「アハハ……そんなに身構えないでください。俺はしがない平民の薬売りですからね?」
「……え?」
……しまった。つい内輪のノリで話していたけど、確かに客観的に考えれば違和感しか無い。
「シリウスさん、それじゃぁ逆に分かりづらいです。ハンスさん、まぁこの人の言ったことは嘘ではないのですが、一応国王陛下の了承のもとで身分の壁を超越していると言うか……そういう規格外の人なんです。話し出すとキリがないので、詳しい話はまた別の機会にしましょう」
「わ、分かりました……」
ハンスは全然納得した感じではなかったが、クレーに言われるがままに引き下がった。
「では、後で何か軽食を持ってこさせますので今日はゆっくり休んでください。明日の朝また迎えに来ます」
そして俺たちはハンスたちの船を後にした。
さらにデッキには意外な船員の姿も……
「あんたたち!ちゃんと隅々まで擦りなさいよ!」
「「は、はい!」」
シエナの喝にビクリと肩を震わせ、デッキブラシで甲板を擦り続けているのはエドガーとマシュー。
実は、昨日の取り調べで一度完全に心が折れ、なぜか俺とシエナに服従するような形になってしまったのだ。特にシエナに対しては、彼女が龍族であると知ってから「姐さん」と言ってまるで舎弟のようだ。
まぁシエナもまんざらじゃ無さそうだし、人手が増えるのは楽だから放っておこう。
それに、たとえ今さら二人が変な気を起こして逃亡を図ろうとしても簡単に阻止できるのだが、一応お目付け役ということでクレーも同乗している。
「実際に走っているところに乗せてもらったのは初めてですが……外から見る以上にすごい船ですね……」
「そうですか?実はまだ改造したいところがいくつかあってですね……」
「えぇ!?これ以上いったい何を……」
「聞いちゃいます?例えば、その水を掻いている外輪ですけど、邪魔なんで水中で動かせるスクリューにしたりとか……」
「す、すくりゅー??それは一体何ですか?」
俺は転生してから、歳の近い男子とあまり話す機会が無かったから、こんな話して面白いのだろうかと少し気になっていたが、杞憂だったようだ。こういうモノ作り系の話は前世に限らず全世界共通で男のロマンらしい。
俺とクレーはしばらく男のロマントークを楽しんでいた。
デッキには収納型の4人掛けテーブルセット、すでに女性陣3人はくつろぎまくってハーブティを飲みながら談笑している。
「ソニアちゃん、何このお茶!めちゃくちゃ美味しいじゃない!」
「フフフ……ララ!ソニアはララと違って料理もこなせるすごい子なんだから!きっと良いお嫁さんになるわよ~!」
「ぐはっ……いや、シエナ……あんたも料理なんか出来ないでしょうが!……んん!っていうかこのお茶菓子もほんとに美味しいわぁ~」
「エヘヘ、ありがとうございます!」
「くぅ~……そして可愛い!シエナ、あんたもたもたしてるとシリウス君取られちゃうわよ?」
「と、取られるって……バカ!そんなんじゃないから!」
……なんて話ししてんだか……
そして、そこからさらに広い海の上を走ること数十分、目的地が遠くに見えてきた。
「海賊島、見えてきましたよ?」
「……私たちの船で向かうと半日はかかるのに……」
海賊島は先の海戦でマセラティを倒し、俺たちが財宝を持ち帰った後で、港町の兵士たちを送って海上の中継拠点として改装中だ。
今日は一応休みなので、クルーズを楽しむのが一番の目的なのだが、ついでに改装の進捗を確認することになっているのだ。
工事中の港にリュミエールを停泊させ、俺たちは揃って陸へと上がった。
◇◆◇◆◇
---シャルマ帝国、外洋---
「ハ、ハンス先生……大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫……なはずです。朝日の上った方角の左側に進めばハズールのある大陸に着くはずですので……」
夜遅くに海へ出たフローラとハンスは追手に見つからないように明かりも付けず途中で交代して仮眠を取りながら夜通し沖へと船を進め続けた。
朝日が昇った頃には、陸地もすでに見えず、見渡す限り一面の大海原であったが、所詮二人は航海の素人だ。船乗りのように方角を知る術などあるはずもなく、唯一の手がかりは朝日の昇った方角が東だということだけであった。
「ですが、本当にこっちが北東で合っているのでしょうか?私だんだん朝日がどっちから昇ってきたかも分からなくなってきました……」
二人は船さえあればハズールに行くことが出来ると甘く考えていた。
そして、自分たちの現在地も分からないまま航海1日目の日没を迎えた。
………二日目。
「……先生、私たち進んでいるんでしょうか?」
「だ、大丈夫です……さぁ、日の出ている間が勝負です!」
そして二人で手分けして遠くの様子を確認したり、帆の向きを調整したりしながらひたすらに船を走らせた。
………三日目。
「先生……お腹が減って力が出ません……それに、喉も乾いて……」
「フローラ様……」
すでに海に出てから丸2日以上何も口にしていない。ハンスも口には出さないが空腹と喉の乾きは限界に達していた。
「私たち……このまま海をさまよって死ぬのでしょうか……」
「くっ……私の準備が甘かったばかりに……申し訳ありません……」
二人にはもう立ち上がる気力もなく、船はただ海流に任せて海を漂っていた。
しかし、この日の夕暮れ時に奇跡が起きた。
「先生……また日没ですね……明日の朝には私たちはどこにいるんでしょう?」
「………」
「……先生?」
「フローラ様!アレを見てください!船です!」
二人は最後の力を振り絞って立ち上がり、希望に目を見開いて遠くの船を備え付けの望遠鏡で確認した。
「シャルマ帝国の船では無さそうですね……」
「ええ、急いであの船を追いかけましょう」
そして、まさに死力を尽くして前方の船を追いかけ、奇跡的に一命を取り留めたのであった。
◇◆◇◆◇
---海賊島---
「改装はだいぶ順調に進んでいそうですね」
「ええ、これならそう遠くないうちにこの島を交易の中継地点と国防の前線基地として使うことができそうです」
俺とクレーは島を一周して改装工事の状況を確認していた。
「前に来たときには森の中に人の亡骸がたくさんありましたが、それも片付いているようですね」
「ええ、兵たちもアレが一番キツかったとぼやいてました」
この島を1周回ってみて初めて気付いたことだが、この島はわずかな砂浜と港の部分を除く他の外周が全て断崖絶壁になっていて非常に守りやすい。そして島の中心部には真水も湧くので最低限の自給自足も可能なのだ。
「大体の地形は覚えたので、町に戻ったら守りの強化についてももう少しなにか出来ないか考えてみましょう」
「……え?シリウスさん、まさかこの短い間に地形を覚えたんですか?」
「ええ、まぁ……特技みたいなもんで。それより!砂浜の方でシエナたちがバーベキューの準備をしています。兵士の皆さんの作業もそろそろ終わることですし、僕たちも合流しましょう」
そして俺たちは港に寄って作業を終えたばかりの兵士たちに声を掛け、砂浜へとやってきた。
「……シエナ……なんでもう食べてるの?」
「だって……みんなが来るのが遅くって……」
「シリウス、まだたくさんあるから大丈夫よ。さぁ、皆さんもどんどん食べてくださいね!」
微笑むソニアの足元でマシューとエドガーが必死の形相で野菜を洗い皮を剥いていたのがかなりシュールだ。
兵士の皆さんも保存食ばかりで飽き飽きしていたのだろう、皆が歓声を上げながらバーベキューに群がった。
「シリウス君……ここにはお酒はないのかなぁ?」
「ララさん……あなたは酒癖が悪いので今日は禁酒です!」
「そんなぁ~……」
ララさんは目に涙を浮かべ膝から崩れ落ちた……
………
……
…
そして、砂浜での宴会騒ぎも少し落ち着いた頃、港の方から何人かがこちらにやってきた。
「あれ?あいつら、今日は沖の見回りのはずだろ?」
兵士の話から察するに偵察に出ていたハズールの兵士のようだ。彼らはクレーに気づくと足を早めてこちらに向かってきた。
「クレー様、こちらにいらっしゃったとは」
「たまたまシリウスさんの船に乗せてもらえることになってね。で、君たちは見回りのはずだと聞いているけど?」
「はい、しかし見回りの途中で漂流中のシャルマ帝国の人間を発見したので、彼らの船で私たちだけ戻ってきました」
シャルマ、と聞いて俺もクレーもそれに周りの兵士たちにも緊張が走った。
兵士が言うには、ひどい脱水症状とおそらく空腹が原因だと思われる体力低下で危険な状態だったようだ。応急処置として水を飲ませたらしいが、その後はずっと目を覚まさないらしい。
とりあえず、どんな人物なのか分からないことにはどうしようもないので俺とクレーは連れ立って港へ向かった。港には小さな船が1隻泊まっていて、船の上では若い男女が昏睡していた。
「これは……かなり弱ってますね」
俺の鑑定でステータスを見てもHPはのこり1桁まで減っている。このまま放っておくと命に関わるので、急いで二人を魔法で回復させた。
「こちらの女性は……貴族のようですね。しかも伯爵位とは……」
クレーは早々に二人の鑑定をしていたようだ。
「ええ、こちらの男性は『騎士』と出ていますね、従者でしょうか?」
二人の名はハンスとフローラ、いったい何故で海をさまようことになったのだろうか?まぁ俺たちだけで勘ぐっても仕方ないので二人の目覚めを待つとしよう。
「う……うぅ……」
早速ハンスが目を覚ました。そして自分の真横で未だ眠り続けるフローラに気がつくと、慌てた様子で飛び起きた。
「フ、フローラ様!?ご無事ですか!?」
「大丈夫です、今はまだ眠っていますが回復させたのでじきに目を覚まします」
「そうですか……助けていただきありがとうございました」
ハンスはこちらに向き直って深々と頭を下げた。そしてハンスは俺たちにこれまでの帝国内での出来事や出国の経緯を話して聞かせてくれた。
「しかし……拾っていただけたのがハズールの方で助かりました……」
「良かったですね、こちらのクレーさんはハズールの港町を収めるブルドー公爵のご子息です。偶然ですが、ここでお会いできたのも何かの縁……明朝町に戻りますので先程の話を公爵にも話せるよう取り計らってくれますよ」
「公爵!?大貴族ではありませんか!そんな方に早々にお目通り願えるとは本当に運が良い……それで、公爵家のご子息を『さん付け』でお呼びになる貴方はいったい……」
ハンスは恐る恐るといった様子で俺の顔を見つめている。
「アハハ……そんなに身構えないでください。俺はしがない平民の薬売りですからね?」
「……え?」
……しまった。つい内輪のノリで話していたけど、確かに客観的に考えれば違和感しか無い。
「シリウスさん、それじゃぁ逆に分かりづらいです。ハンスさん、まぁこの人の言ったことは嘘ではないのですが、一応国王陛下の了承のもとで身分の壁を超越していると言うか……そういう規格外の人なんです。話し出すとキリがないので、詳しい話はまた別の機会にしましょう」
「わ、分かりました……」
ハンスは全然納得した感じではなかったが、クレーに言われるがままに引き下がった。
「では、後で何か軽食を持ってこさせますので今日はゆっくり休んでください。明日の朝また迎えに来ます」
そして俺たちはハンスたちの船を後にした。
13
お気に入りに追加
288
あなたにおすすめの小説
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
身体強化って、何気にチートじゃないですか!?
ルーグイウル
ファンタジー
病弱で寝たきりの少年「立原隆人」はある日他界する。そんな彼の意志に残ったのは『もっと強い体が欲しい』。
そんな彼の意志と強靭な魂は世界の壁を越え異世界へとたどり着く。でも目覚めたのは真っ暗なダンジョンの奥地で…?
これは異世界で新たな肉体を得た立原隆人-リュートがパワーレベリングして得たぶっ飛んだレベルとチートっぽいスキルをひっさげアヴァロンを王道ルートまっしぐら、テンプレート通りに謳歌する物語。
初投稿作品です。つたない文章だと思いますが温かい目で見ていただけたらと思います。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる