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第3章 ブルドー公爵領編
第57話 エピローグ 〜ブルドー公爵領編〜
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「海賊ども!このブルドーが、首領マセラティを討ち取った!」
ブルドー公爵はマセラティの死を宣言し、その首級を海賊たちに見せつけるように高々と掲げた。
効果はてきめんで、海賊たちもその後は激しく抵抗することもなく大人しく船員たちの指示に従った。クレーが陣頭指揮を摂りながら、拘束した海賊たちを次々と軍艦に収容していった。
俺はブルドー公爵と艦橋に並んで立ってその様子を見つめていた。
「すごい数ですね……」
「ああ、マセラティのやつもこれだけの海賊をどうやって集めたんだか……その辺のこともこいつらを詳しく取り調べて明らかにせねばなるまい」
「それから、あの爆裂砲や公爵を襲った火薬銃も気になります。あんなものをただの海賊がそう簡単に手に入れることはできないと思うんですよね……」
マセラティが最後に使用した武器は俺の鑑定の結果『火薬銃』という名称であることがわかった。銃と言っても、ピストルのように連射の出来るものではなさそうで、中世~近世ヨーロッパ辺りで使われてそうな(なんか昔教科書で見た記憶がある)単発銃だ。とは言え、この世界に来て大砲や銃を目にするのはもちろんこれが初めてだしかなり驚いた。
「うむ、その辺りも徹底的に吐かさねばならんな。むしろ忙しいのはこれからということか……」
そして俺もソニアを連れてリュミエールに乗り込み、公爵たちに先行して港へと戻ることにした。
---リュミエールにて---
ソニアが俺を見てクスクスと笑っている。
「シリウス、シエナにもちゃんとしてあげた?」
やっぱりソニアは「お姫様抱っこ」を分かって楽しんでいたようだ。
「ま、まぁね……そうしないと動かないって言うもんだから」
「プッ、クスクスクス……やっぱりシリウスって面白いわよね。いつもはあんなに堂々としてるのにこういうときになると急にオドオドしちゃうんだから」
ソニアは普段座らない助手席で可笑しそうに笑った。
「し、仕方ないだろ……」
「フフフ、まぁ変に慣れてても引いちゃうんだけどね」
「く、くそぉ……いつか絶対この弱点は克服してやるんだ」
「そんなに無理しなくても良いじゃない?さっき海賊船を抑えていたシリウス……その……ちょっと格好いいと思ったわよ?」
ソニアが自分も少し顔を赤くしながらそんなことを言うもんだから俺は思わずリュミエールの操縦を誤るところだった。
「か、か、かっこいい!?」
「フフフ、克服はまだまだ先みたいね」
……ガクリ……
そして俺たちはシエナの待つ港へと戻ってきたのだった。
「シリウス!私の出番全然なかったじゃないの!」
港につくなりシエナがリュミエールに飛び移ってきた。その割には周りにすごい人だかりができているけど……
「おう、嬢ちゃん!そいつが例の?」
「シエナちゃん、彼がウワサの?」
「おい、もう一人女を連れてるぞ?」
「まぁ、なんてやつなの!」
そして何やら俺の方を見ながらワイワイと騒ぎ立てている。助手席から降りてきたソニアを見た辺りから、ちょいちょい俺を見る視線に殺気が混じるようになったのはどういうわけだ……
「……シエナ。これはいったい……?」
「わ、私だって分からないわよ!ちょっと皆!この話はおしまい!こっちはソニア、私の仲間なんだから変な事言うのやめなさいよね!」
シエナは明らかに動揺していたが、無理やり町民たちを黙らせた。
「あ、そんなことより!もうすぐブルドー公爵が海賊たちを連れて戻ってくるから急いで衛兵たちを集めてこなくっちゃ!」
…………
………
……
…
少しおくれて公爵とクレーも港に戻ってきた。こうしてみると軍艦も結構ぼろぼろだ。船首は潰れてしまっているし、片方の船側も焦げたり穴が空いたりしている。
軍艦から階段が降ろされると甲板から拘束された海賊たちが続々と下船してきた。
「シリウス、色々と世話になったな。俺もクレーもこれから少しばかり忙しくなる。礼はまた改めてさせてくれ」
「いえいえ、分かりました。では、しばらくはのんびりとさせてもらいますよ」
そしてブルドー公爵は海賊たちを引き連れて倉庫に入っていった。クレーも爆裂砲の調査をすると言って、数名の部下を引き連れ足早にガレオン船に向かって歩いていってしまった。
「シリウス!おなかが減ったわ!」
「アハハ、そうだね!町で何か食べようか!」
そして俺たちも港を後にし町に繰り出した。
◇◆◇◆◇
---シャルマ帝国某所---
薄暗い室内で3人の男がテーブルを囲んでいた。
「海賊消えた、ハズールの商人、帝都、来た」
「なんと!?マセラティのやつがしくじったということか?」
「商人、そう言ってた。そして軍艦、奪われた」
「チッ……やはり海賊風情にハズール攻略は無理があったということか」
男の1人が忌々しそうに吐き捨てると、卓上のいかにも高級そうな酒瓶からグラスに中身を注ぐと、ひといきに煽った。
「……たしかにマセラティはバカだが海戦の腕は確かだ。普通に考えりゃ負ける道理はなかったはずだが」
「想定外の『何か』があった、ということか?」
「ああ、まぁ何があったのかまでは分からんがな」
「コパ、少し調べる」
そしてフードを被った異様に小さい男が席を立ち、部屋の外へと出ていった。
「まぁ、ウチの船が押収されたとあっちゃぁ、いくら偽装をしても遅かれ早かれウチの関与は明るみに出るだろう」
「そうなればいよいよ開戦の可能性も出てくるな。皇帝陛下にはどうお伝えする?」
「陛下には今しばらく状況を見守るよう俺からお伝えしよう。イヴァン、あんたは今まで通り計画を進めてくれ。では、帝国に栄光あれ」
「ああ、分かった。帝国に栄光あれ」
そして2人揃って席を立つと、並んで部屋を後にし、それぞれ反対の方角を目指して去っていった。
◇◆◇◆◇
海賊団との戦いから数日がたったある日、公爵邸のダイニングで公爵たちと会食をすることになった。
海戦の翌日は俺たち3人が海賊たちの隠していた財宝を回収しに沖の孤島に出ていたし、公爵もクレーもこの数日間、それぞれの仕事に追われていたからこうして顔を突き合わせて話をするのは随分久しぶりのことに感じられた。
俺たち三人がダイニングに入ると、既に公爵もクレーも席について俺たちの到着を待っていた。
「公爵、クレーさん、もう仕事の方は落ち着いたんですか?」
「ガレオン船の捜査は大体終わりました。今は爆裂砲の分解をしながら量産できないか検討しているところです」
「取り調べの方もまぁ順調だ……そうだシエナ、言い忘れてたがお手柄だったな!お前の捕まえたあの海賊、ゲリックとか言ってどうやらマセラティの腹心だったみたいだ。ちょっと揺さぶったら色々と面白いことを話してくれたぞ」
「すごいじゃないかシエナ!やっぱり港の守りをシエナに任せて良かったよ!」
「そ、そうなの??まぁ私もなにか怪しいと思ったのよね~」
突然褒められて恥ずかしそうにするシエナ、俺は公爵に話の続きを促した。
「それで、面白い話と言うのは?」
「ああ、ゲリックの野郎から聞いた話じゃ、マセラティの乗ってきた巨大艦はシャルマ帝国から譲られたものらしいな」
シャルマ帝国っていうと、確か海の外の国の中では一番近くて友好的な国じゃなかったっけ?
「公爵……ゲリックは「奪った」ではなく「譲られた」と言ったんですね?」
「ああ、たしかにそう言った。それに海賊の半分以上が元々シャルマ帝国でゴロツキやってた奴らだってのも調べがついてる。中には元軍人だって奴までいやがった」
「なるほど……だとすると、海賊の襲撃の裏にはそのシャルマ帝国がいたと見て間違いなさそうですね」
なんの理由があってかは分からないが、友好国だと思っていた国が実は黒幕だったというわけだ。
「ガレオン船の捜査をする中でも、あの船が偽装されたシャルマの軍艦だということはすぐに分かりました。爆裂砲も火薬銃も分解した結果、シャルマ帝国製のもので間違いありませんでした」
クレーは公爵ほど大人ではないようだ。シャルマ帝国に対して見てわかるほど怒りを露わにしている。
「まぁとにかく、国が絡んでるとなると俺たちだけじゃ手に負えねえから、カストル陛下にも既に連絡は出してある」
「そうですか……それでこれからどうするんですか?」
「まぁ、海賊を使ってちょっかい出してきてたってことは直接攻め込みたくはなかったってことだ。表面上はしばらく知らん振りして、交易を続けながら様子を探らせることにするさ!」
「ええ、それが良いかも知れませんね」
いきなり抗議の声明を出すよりは出来る限り時間を稼いで準備を整える方が良さそうだ。
「それで、シリウス……前に約束した「礼」の件だが」
「ハハハ、覚えててくれたんですね」
「当たり前だ……それで何が良い?別に急かす気はねえからゆっくり考えてからでも良いぜ?」
「いえ、それについては考えてあります。俺がほしいのは、この町で店を開く権利なんですが……お願いできますか?」
「あぁ?店を開くってお前何を売る気だ?まさかブッ飛んだ魔道具捌こうなんて考えてんじゃ……」
ブルドー公爵は俺の要求に一瞬顔をしかめた。
「いやいや、さすがに魔道具の販売が違法だってことくらい分かってますよ!俺がこの町で売ろうと思っているのは薬です。町を見たところ雑貨や生地、食料なんかはかなりの物品が集まりそうな感じがしましたが質の良い薬はあまり見かけなかったので」
「……そうか。そういうことならこっちとしても願ったりだ。この海戦で船員にも怪我人は出ているし、海賊どもも最低限動けるようにしねえと労働力にならねえからな」
公爵は俺の回答に安心した様子で、すんなりOKを出してくれた。
「……労働力、ですか?」
「ええ、町の外壁や港の防衛力の強化のために大規模な改装を行うことになりまして」
クレーが公爵に代わって説明してくれたが、大規模な改装を行うとなればそれなりの金が掛かるはずだ。
俺が考え込んでいるのを見て、クレーがさらに言葉を続けた。
「シリウスさんたちに回収してもらった財宝ですが、最初は町民たちの補償に当てるつもりでいたんですよ。ですが、彼らの方から町のために使ってくれと逆に頼み込まれてしまいまして……彼らは海が自由に使えるようになったのなら、損した分は自分たちで稼ぐから気にするなと」
クレーは困ったように苦笑いを浮かべながら言った。なるほど、みんな肝の据わった商人ってわけだ。
「まぁ、そういうことだ。だからまず薬屋の開業は俺の名において許可する。場所と、必要なら人員の手配もしよう。そして、必要な分のポーションを発注させてくれ」
「ありがとうございます!」
店の許可だけでなく大口の受注まで得られたのは良い誤算だ。
その後俺たちは大通りに面した空き家に案内され、正式に建物を譲り受けた。
しばらくはここを拠点に薬屋の立ち上げに本腰を入れ、時期を見てシャルマ帝国に行ってみようと思う。
---第3章 ブルドー公爵領編 完---
ブルドー公爵はマセラティの死を宣言し、その首級を海賊たちに見せつけるように高々と掲げた。
効果はてきめんで、海賊たちもその後は激しく抵抗することもなく大人しく船員たちの指示に従った。クレーが陣頭指揮を摂りながら、拘束した海賊たちを次々と軍艦に収容していった。
俺はブルドー公爵と艦橋に並んで立ってその様子を見つめていた。
「すごい数ですね……」
「ああ、マセラティのやつもこれだけの海賊をどうやって集めたんだか……その辺のこともこいつらを詳しく取り調べて明らかにせねばなるまい」
「それから、あの爆裂砲や公爵を襲った火薬銃も気になります。あんなものをただの海賊がそう簡単に手に入れることはできないと思うんですよね……」
マセラティが最後に使用した武器は俺の鑑定の結果『火薬銃』という名称であることがわかった。銃と言っても、ピストルのように連射の出来るものではなさそうで、中世~近世ヨーロッパ辺りで使われてそうな(なんか昔教科書で見た記憶がある)単発銃だ。とは言え、この世界に来て大砲や銃を目にするのはもちろんこれが初めてだしかなり驚いた。
「うむ、その辺りも徹底的に吐かさねばならんな。むしろ忙しいのはこれからということか……」
そして俺もソニアを連れてリュミエールに乗り込み、公爵たちに先行して港へと戻ることにした。
---リュミエールにて---
ソニアが俺を見てクスクスと笑っている。
「シリウス、シエナにもちゃんとしてあげた?」
やっぱりソニアは「お姫様抱っこ」を分かって楽しんでいたようだ。
「ま、まぁね……そうしないと動かないって言うもんだから」
「プッ、クスクスクス……やっぱりシリウスって面白いわよね。いつもはあんなに堂々としてるのにこういうときになると急にオドオドしちゃうんだから」
ソニアは普段座らない助手席で可笑しそうに笑った。
「し、仕方ないだろ……」
「フフフ、まぁ変に慣れてても引いちゃうんだけどね」
「く、くそぉ……いつか絶対この弱点は克服してやるんだ」
「そんなに無理しなくても良いじゃない?さっき海賊船を抑えていたシリウス……その……ちょっと格好いいと思ったわよ?」
ソニアが自分も少し顔を赤くしながらそんなことを言うもんだから俺は思わずリュミエールの操縦を誤るところだった。
「か、か、かっこいい!?」
「フフフ、克服はまだまだ先みたいね」
……ガクリ……
そして俺たちはシエナの待つ港へと戻ってきたのだった。
「シリウス!私の出番全然なかったじゃないの!」
港につくなりシエナがリュミエールに飛び移ってきた。その割には周りにすごい人だかりができているけど……
「おう、嬢ちゃん!そいつが例の?」
「シエナちゃん、彼がウワサの?」
「おい、もう一人女を連れてるぞ?」
「まぁ、なんてやつなの!」
そして何やら俺の方を見ながらワイワイと騒ぎ立てている。助手席から降りてきたソニアを見た辺りから、ちょいちょい俺を見る視線に殺気が混じるようになったのはどういうわけだ……
「……シエナ。これはいったい……?」
「わ、私だって分からないわよ!ちょっと皆!この話はおしまい!こっちはソニア、私の仲間なんだから変な事言うのやめなさいよね!」
シエナは明らかに動揺していたが、無理やり町民たちを黙らせた。
「あ、そんなことより!もうすぐブルドー公爵が海賊たちを連れて戻ってくるから急いで衛兵たちを集めてこなくっちゃ!」
…………
………
……
…
少しおくれて公爵とクレーも港に戻ってきた。こうしてみると軍艦も結構ぼろぼろだ。船首は潰れてしまっているし、片方の船側も焦げたり穴が空いたりしている。
軍艦から階段が降ろされると甲板から拘束された海賊たちが続々と下船してきた。
「シリウス、色々と世話になったな。俺もクレーもこれから少しばかり忙しくなる。礼はまた改めてさせてくれ」
「いえいえ、分かりました。では、しばらくはのんびりとさせてもらいますよ」
そしてブルドー公爵は海賊たちを引き連れて倉庫に入っていった。クレーも爆裂砲の調査をすると言って、数名の部下を引き連れ足早にガレオン船に向かって歩いていってしまった。
「シリウス!おなかが減ったわ!」
「アハハ、そうだね!町で何か食べようか!」
そして俺たちも港を後にし町に繰り出した。
◇◆◇◆◇
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薄暗い室内で3人の男がテーブルを囲んでいた。
「海賊消えた、ハズールの商人、帝都、来た」
「なんと!?マセラティのやつがしくじったということか?」
「商人、そう言ってた。そして軍艦、奪われた」
「チッ……やはり海賊風情にハズール攻略は無理があったということか」
男の1人が忌々しそうに吐き捨てると、卓上のいかにも高級そうな酒瓶からグラスに中身を注ぐと、ひといきに煽った。
「……たしかにマセラティはバカだが海戦の腕は確かだ。普通に考えりゃ負ける道理はなかったはずだが」
「想定外の『何か』があった、ということか?」
「ああ、まぁ何があったのかまでは分からんがな」
「コパ、少し調べる」
そしてフードを被った異様に小さい男が席を立ち、部屋の外へと出ていった。
「まぁ、ウチの船が押収されたとあっちゃぁ、いくら偽装をしても遅かれ早かれウチの関与は明るみに出るだろう」
「そうなればいよいよ開戦の可能性も出てくるな。皇帝陛下にはどうお伝えする?」
「陛下には今しばらく状況を見守るよう俺からお伝えしよう。イヴァン、あんたは今まで通り計画を進めてくれ。では、帝国に栄光あれ」
「ああ、分かった。帝国に栄光あれ」
そして2人揃って席を立つと、並んで部屋を後にし、それぞれ反対の方角を目指して去っていった。
◇◆◇◆◇
海賊団との戦いから数日がたったある日、公爵邸のダイニングで公爵たちと会食をすることになった。
海戦の翌日は俺たち3人が海賊たちの隠していた財宝を回収しに沖の孤島に出ていたし、公爵もクレーもこの数日間、それぞれの仕事に追われていたからこうして顔を突き合わせて話をするのは随分久しぶりのことに感じられた。
俺たち三人がダイニングに入ると、既に公爵もクレーも席について俺たちの到着を待っていた。
「公爵、クレーさん、もう仕事の方は落ち着いたんですか?」
「ガレオン船の捜査は大体終わりました。今は爆裂砲の分解をしながら量産できないか検討しているところです」
「取り調べの方もまぁ順調だ……そうだシエナ、言い忘れてたがお手柄だったな!お前の捕まえたあの海賊、ゲリックとか言ってどうやらマセラティの腹心だったみたいだ。ちょっと揺さぶったら色々と面白いことを話してくれたぞ」
「すごいじゃないかシエナ!やっぱり港の守りをシエナに任せて良かったよ!」
「そ、そうなの??まぁ私もなにか怪しいと思ったのよね~」
突然褒められて恥ずかしそうにするシエナ、俺は公爵に話の続きを促した。
「それで、面白い話と言うのは?」
「ああ、ゲリックの野郎から聞いた話じゃ、マセラティの乗ってきた巨大艦はシャルマ帝国から譲られたものらしいな」
シャルマ帝国っていうと、確か海の外の国の中では一番近くて友好的な国じゃなかったっけ?
「公爵……ゲリックは「奪った」ではなく「譲られた」と言ったんですね?」
「ああ、たしかにそう言った。それに海賊の半分以上が元々シャルマ帝国でゴロツキやってた奴らだってのも調べがついてる。中には元軍人だって奴までいやがった」
「なるほど……だとすると、海賊の襲撃の裏にはそのシャルマ帝国がいたと見て間違いなさそうですね」
なんの理由があってかは分からないが、友好国だと思っていた国が実は黒幕だったというわけだ。
「ガレオン船の捜査をする中でも、あの船が偽装されたシャルマの軍艦だということはすぐに分かりました。爆裂砲も火薬銃も分解した結果、シャルマ帝国製のもので間違いありませんでした」
クレーは公爵ほど大人ではないようだ。シャルマ帝国に対して見てわかるほど怒りを露わにしている。
「まぁとにかく、国が絡んでるとなると俺たちだけじゃ手に負えねえから、カストル陛下にも既に連絡は出してある」
「そうですか……それでこれからどうするんですか?」
「まぁ、海賊を使ってちょっかい出してきてたってことは直接攻め込みたくはなかったってことだ。表面上はしばらく知らん振りして、交易を続けながら様子を探らせることにするさ!」
「ええ、それが良いかも知れませんね」
いきなり抗議の声明を出すよりは出来る限り時間を稼いで準備を整える方が良さそうだ。
「それで、シリウス……前に約束した「礼」の件だが」
「ハハハ、覚えててくれたんですね」
「当たり前だ……それで何が良い?別に急かす気はねえからゆっくり考えてからでも良いぜ?」
「いえ、それについては考えてあります。俺がほしいのは、この町で店を開く権利なんですが……お願いできますか?」
「あぁ?店を開くってお前何を売る気だ?まさかブッ飛んだ魔道具捌こうなんて考えてんじゃ……」
ブルドー公爵は俺の要求に一瞬顔をしかめた。
「いやいや、さすがに魔道具の販売が違法だってことくらい分かってますよ!俺がこの町で売ろうと思っているのは薬です。町を見たところ雑貨や生地、食料なんかはかなりの物品が集まりそうな感じがしましたが質の良い薬はあまり見かけなかったので」
「……そうか。そういうことならこっちとしても願ったりだ。この海戦で船員にも怪我人は出ているし、海賊どもも最低限動けるようにしねえと労働力にならねえからな」
公爵は俺の回答に安心した様子で、すんなりOKを出してくれた。
「……労働力、ですか?」
「ええ、町の外壁や港の防衛力の強化のために大規模な改装を行うことになりまして」
クレーが公爵に代わって説明してくれたが、大規模な改装を行うとなればそれなりの金が掛かるはずだ。
俺が考え込んでいるのを見て、クレーがさらに言葉を続けた。
「シリウスさんたちに回収してもらった財宝ですが、最初は町民たちの補償に当てるつもりでいたんですよ。ですが、彼らの方から町のために使ってくれと逆に頼み込まれてしまいまして……彼らは海が自由に使えるようになったのなら、損した分は自分たちで稼ぐから気にするなと」
クレーは困ったように苦笑いを浮かべながら言った。なるほど、みんな肝の据わった商人ってわけだ。
「まぁ、そういうことだ。だからまず薬屋の開業は俺の名において許可する。場所と、必要なら人員の手配もしよう。そして、必要な分のポーションを発注させてくれ」
「ありがとうございます!」
店の許可だけでなく大口の受注まで得られたのは良い誤算だ。
その後俺たちは大通りに面した空き家に案内され、正式に建物を譲り受けた。
しばらくはここを拠点に薬屋の立ち上げに本腰を入れ、時期を見てシャルマ帝国に行ってみようと思う。
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