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第3章 ブルドー公爵領編
第54話 ハズール沖海戦③
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◇◆◇◆◇
「船速も、舵も問題ねえな。爆裂砲もいい感じじゃねえか」
首領マセラティは新しく手に入れたシャルマ帝国製の軍艦の性能を確認し、満足気ににやりと笑みを浮かべた。
「頭、そろそろ追いかけねえとせっかくの新艦を町の奴らにお披露目する前に全部終わっちまいますぜ?」
「おぉ、そうだな。よし、最大船速でゲリックたちを追いかけろ!」
「「アイアイサー!!」」
そしてシャルマ帝国製最新鋭の巨艦はその船体からは想像できないほどの小回りで軽やかに方向転換すると、大きな帆いっぱいに風を受けて海を走った。
「ブルドー、少しは粘って持ちこたえとけよ?ガハハハハ!!」
◇◆◇◆◇
「状況は!?」
ゲリックの怒声が艦橋に響いた。
「ち、沈没1隻……た、大破3隻……中破5隻以上、今なお被害は拡大中です」
「ば、ばかな……」
ゲリックはそのあまりの被害に一瞬思考が停止し、ガクリと膝をついた。
「ぜ、全艦で囲んで一気に沈めろ!」
「は、はい!」
部下は残りの全艦に伝令を出すため、艦橋を飛び出し艦橋にはゲリック一人となった。
「やばい……やばいやばいやばい……町を落とすどころかこっちの船に被害出しただけじゃねえか……このままじゃ確実に殺される」
マセラティの部下の中でもゲリックは最古参の一人だ。彼の面子を潰したものがどういう運命を辿ったかなど、これまでに嫌というほど見てきている。そしてその運命の行き着く先は全て「死」だ。
その時、ゲリックの乗る旗艦の甲板に轟音が鳴り響き、船体がぐらりと揺れた。
ゲリックは反射的に艦橋を飛び出し、甲板に駆けつけた。
甲板には大きな穴が空いていた。
「ゲリックさん、投石機の狙いが嘘みたいに正確です……こっちの射程に入るまでにさらにどれだけの損害がでるか……」
ゲリックは甲板から左右に広がる味方の艦隊を見渡した。
既に隊列から取り残されて後方で頓挫している船、黒煙の上がっている船、マストが折れてうまく風を受けられず不安定に揺れている船……まともな船のほうが少なくなってしまったのではないだろうか。
「……クソ!それでも、やるしかねえんだよ!ここで逃げたらどのみち俺たちゃ頭に全員殺されるんだぞ?分かったら、1秒でも早くこっちの射程まで近づけるようにテメエも船漕ぐなりなんなりしやがれ!」
部下を怒鳴りつけ、ゲリックは再び艦橋に篭った。
「こりゃ、時間の問題だ……じきにこの艦もやられるだろう……まだ頭は追いついてねえし、逃げるなら今しかねえ……」
ドーン!
ちょうどゲリックが姿をくらます決意を固めたその時、船に再び衝撃が走った。艦橋から前を見ると、船首から火の手が上がっている。
そして海賊たちが火消しのためにぞろぞろと船首に集まっていた。
「へへへっ、こりゃ都合がいい」
ゲリックは独りの艦橋でつぶやくと一目散に船尾に走り、海へと飛び込んだ。
◇◆◇◆◇
俺はリュミエールをクレーの軍艦の脇につけると一飛びで軍艦に飛び移った。
艦橋を見上げると、クレーとブルドー公爵の姿があった。クレーの方は旗を振りながら何かを叫んでいる。きっと投石の指示を出しているんだろう。
「ガハハハ!上手く引きつけていてくれたようだな!」
艦橋に上がるなり、ブルドー公爵が俺の背中を勢い良く叩いた。
「シリウスさん、ありがとうございました。おかげで上手く奴らを叩くことができています……撃てーっ!」
クレーの合図に合わせて一斉に投石機から弾が射出された。敵艦隊はまだ300m以上向こうにいるにも関わらず、打ち出された弾は次々と敵船に着弾した。
「すごい精度ですね」
「ああ、あれはクレーと船員たちの訓練の賜物だ。だが少し相手の動きが妙なのだ……」
俺の目には戦況はこちらの一方的な優勢に映っているのだが、ブルドー公爵の表情はどこかパッとしない。
「奴らの船にはこれだけの距離で反撃できる装備などないのだ。このままこちらに突っ込んでくるだけでは一方的に船を失うだけ……俺がマセラティならたとえ一時の屈辱を味わっても迷わず撤退を選ぶが……」
……なるほど、たしかに一理ある。なんせあれだけの精度で次々とこちらの攻撃が着弾してるんだもんな……
「これは俺の勘だがな……あの艦隊の中にマセラティはいねえんじゃねえかと思ってる」
「え?じゃぁ……一体どこに……っ!まさか密かに上陸していて、町に攻め入ろうとしているとか?」
「分からん……その可能性も無視できんが、俺はそれも違うと思う。マセラティ……あの男は自尊心の塊のような男だ。わざわざそんな手の込んだ奇策など使わず、全力でこちらをひねり潰しに来るはず……上陸するにしても、前回同様に全船で海岸に乗り付けそこから一気に町になだれ込んでくるに違いない」
俺はマセラティを見たことがないから分からないけど、何故かこの人がそう言うんならきっとそうなんだろうと素直に受け入れることができた。
「ち、父上!あれを!?」
投石機の指示に集中していたクレーが突如大きな声を上げた。俺と公爵は声につられてクレーの旗の示す先に目をやった。
「デ、デカっ……」
「やはり……あの男は今までこの場にいなかったようだ」
40隻の海賊船の後方から姿を表したのはこちらと同じくメインマストを4本も携えた超大型艦。まだ距離があって正確な大きさは測りかねるが、おそらくこちらの軍艦と同等かそれ以上はありそうだ。
「クレー、マセラティは十中八九あのデカ船の中だ。気ぃ抜くなよ」
「……はい!」
「では、俺は念のためシエナを町に置いてくるので、一旦この船はソニアで護衛にあたってもらいます。」
「そうか、すまん。手間をかけるな」
俺は無言で公爵にうなずき返すと、軍艦を飛び降りリュミエールに戻った。
「……そんなわけで、ソニアには俺が戻ってくるまでの間、軍艦の護衛をお願いしたい」
「分かったわ!」
俺はソニアを抱えて再び軍艦に飛び乗るとソニアをそっと甲板におろした。ソニアはくすりと俺に不可解な笑みを向け、くるりと反転して甲板の方に駆けていった。
◇◆◇◆◇
「お頭ぁ!ゲリックさんたちの艦隊に追いついたようですぜ!」
艦橋の椅子に腰を下ろすマセラティのもとに、部下が報告にやってきた。マセラティは「そうか」とだけ返すと、立ち上がって前方をみつめた。確かに、まだ船の1隻が米粒ほどにしか見えないほど小さいが、前方に大艦隊の船影が確認できる……しかし、マセラティはすぐに嫌な胸騒ぎを覚えた。
そして、艦橋に備え付けた長距離望遠鏡で前方を確認したマセラティはその光景に言葉を失った。
「…………」
部下もその様子を不審に思い、慌てて別の長距離望遠鏡を覗き込んだ。
「な……何だこりゃ……」
「おい、ゲリックの艦につけろ。これが一体どういうことかあのバカに問いたださなきゃならねえ」
「は、はい!」
部下の男は、マセラティの全身から溢れ出る殺気に気を失いそうなほど震え上がったが、なんとか返事をして艦橋から逃げるように飛び出した。
マセラティは再度望遠鏡越しに状況を確認した。既に半分以上の船が航行に支障が出ているようだ。そして、味方の船団のさらに先にレンズを向けると、そこにはこの艦にも匹敵するような巨大な船が港を守るように立ちふさがっていた。
よく観察すると、規則的なリズムで巨艦から何かが撃ち出されている。
「ほう……ブルドー、投石たぁやってくれるじゃねえか」
ほどなくして、マセラティの乗る巨大ガレオン船は味方の船団の真後ろまでやってきた。この位置まで来ると、味方の被害が甚大なことがよく分かる。そもそもゲリックの乗っている旗艦には「旗」すら無いのだ。
その後旗艦から小舟が1艘降ろされ、何人かがこちらにやってきた。しかし、その中にゲリックの姿はない。
「おい、俺はゲリックを呼んだんだぜ?」
「は、はい……しかしゲリックさんは少し前から姿が見当たらず……」
マセラティには直感的にゲリックが逃亡したのだと分かった。そして同時に抑えきれない怒りがこみ上げた。
「あの……クソ野郎が!」
マセラティは旗艦からやってきた海賊の一人の頭を鷲掴みにし、床に叩きつけた。グチャという嫌な音ともに、彼の頭は床にぶつかった衝撃で破裂した。
「おい、爆裂砲の用意だ。あのデカブツに一発叩き込んでやれ」
マセラティは、傍らに立つ部下に新兵器の使用を命じた。
◇◆◇◆◇
さっきのソニアの微笑が一体何を意味していたのか分からなかったが、ゆっくりしてもいられないので急いでリュミエールに戻り、港に向けて舵を切った。
そして最高速度のリュミエールはほんの2~3分のうちに港にたどり着いた。
「近づく船があったらこの間みたいに石投げていいから!」
「分かったわ!まかせておきなさい!」
シエナはエストレーラの助手席でドンと胸を叩いてみせた。
「じゃぁ、頑張ってね!」
「………」
……あれ、送り出したつもりなんだけど……シエナのやつ一向に助手席から降りる気配がない。
「あ、あの………シエナ?」
「降ろして」
「……はい?」
「だから!さっきソニアにしてたみたいに!」
「……はい?」
「あーもう!さっきソニアのこと大事そうに抱きかかえてあっちの船に降ろしてたじゃない!」
シエナに言われて俺は初めて、ソニアを「お姫様抱っこ」していたことに思い当たった。
……ソニアが意味ありげに笑ってたのはそういうことか……
ドーーーン!
その時クレーたちの乗る軍艦の方から爆音が起こった。これは……敵の巨艦から攻撃されてる?
シエナの高難度オーダーと、早く戻らなければならないという使命感との葛藤にかなり苦しむ俺……
「わ、分かった!分かったから!」
急いで運転席を降りて、外から助手席のドアを開けると、そのままシエナの手を取って外に出した。
改めて意識すると、心臓が破裂しそうなほど激しく鼓動している。
「じゃ、じゃぁ行くよ?」
「う、うん……」
シエナも急にしおらしくなったもんだから余計に緊張してしまう。
俺は意を決して、シエナの片腕を自分の首にかけると腰を落としてシエナの両膝を抱え持ち上げた。
そしてそのまま港の上まで飛び移ると、シエナの両足をそっと地面に降ろした。
「じゃ、じゃぁ……シエナ。万が一、町に海賊が乗り込んできたらその時はシエナにかかってるからね!」
「う、うん!」
そして俺は急いで運転席に戻ると、再び全速力で軍艦に向けてリュミエールを走らせた。
「船速も、舵も問題ねえな。爆裂砲もいい感じじゃねえか」
首領マセラティは新しく手に入れたシャルマ帝国製の軍艦の性能を確認し、満足気ににやりと笑みを浮かべた。
「頭、そろそろ追いかけねえとせっかくの新艦を町の奴らにお披露目する前に全部終わっちまいますぜ?」
「おぉ、そうだな。よし、最大船速でゲリックたちを追いかけろ!」
「「アイアイサー!!」」
そしてシャルマ帝国製最新鋭の巨艦はその船体からは想像できないほどの小回りで軽やかに方向転換すると、大きな帆いっぱいに風を受けて海を走った。
「ブルドー、少しは粘って持ちこたえとけよ?ガハハハハ!!」
◇◆◇◆◇
「状況は!?」
ゲリックの怒声が艦橋に響いた。
「ち、沈没1隻……た、大破3隻……中破5隻以上、今なお被害は拡大中です」
「ば、ばかな……」
ゲリックはそのあまりの被害に一瞬思考が停止し、ガクリと膝をついた。
「ぜ、全艦で囲んで一気に沈めろ!」
「は、はい!」
部下は残りの全艦に伝令を出すため、艦橋を飛び出し艦橋にはゲリック一人となった。
「やばい……やばいやばいやばい……町を落とすどころかこっちの船に被害出しただけじゃねえか……このままじゃ確実に殺される」
マセラティの部下の中でもゲリックは最古参の一人だ。彼の面子を潰したものがどういう運命を辿ったかなど、これまでに嫌というほど見てきている。そしてその運命の行き着く先は全て「死」だ。
その時、ゲリックの乗る旗艦の甲板に轟音が鳴り響き、船体がぐらりと揺れた。
ゲリックは反射的に艦橋を飛び出し、甲板に駆けつけた。
甲板には大きな穴が空いていた。
「ゲリックさん、投石機の狙いが嘘みたいに正確です……こっちの射程に入るまでにさらにどれだけの損害がでるか……」
ゲリックは甲板から左右に広がる味方の艦隊を見渡した。
既に隊列から取り残されて後方で頓挫している船、黒煙の上がっている船、マストが折れてうまく風を受けられず不安定に揺れている船……まともな船のほうが少なくなってしまったのではないだろうか。
「……クソ!それでも、やるしかねえんだよ!ここで逃げたらどのみち俺たちゃ頭に全員殺されるんだぞ?分かったら、1秒でも早くこっちの射程まで近づけるようにテメエも船漕ぐなりなんなりしやがれ!」
部下を怒鳴りつけ、ゲリックは再び艦橋に篭った。
「こりゃ、時間の問題だ……じきにこの艦もやられるだろう……まだ頭は追いついてねえし、逃げるなら今しかねえ……」
ドーン!
ちょうどゲリックが姿をくらます決意を固めたその時、船に再び衝撃が走った。艦橋から前を見ると、船首から火の手が上がっている。
そして海賊たちが火消しのためにぞろぞろと船首に集まっていた。
「へへへっ、こりゃ都合がいい」
ゲリックは独りの艦橋でつぶやくと一目散に船尾に走り、海へと飛び込んだ。
◇◆◇◆◇
俺はリュミエールをクレーの軍艦の脇につけると一飛びで軍艦に飛び移った。
艦橋を見上げると、クレーとブルドー公爵の姿があった。クレーの方は旗を振りながら何かを叫んでいる。きっと投石の指示を出しているんだろう。
「ガハハハ!上手く引きつけていてくれたようだな!」
艦橋に上がるなり、ブルドー公爵が俺の背中を勢い良く叩いた。
「シリウスさん、ありがとうございました。おかげで上手く奴らを叩くことができています……撃てーっ!」
クレーの合図に合わせて一斉に投石機から弾が射出された。敵艦隊はまだ300m以上向こうにいるにも関わらず、打ち出された弾は次々と敵船に着弾した。
「すごい精度ですね」
「ああ、あれはクレーと船員たちの訓練の賜物だ。だが少し相手の動きが妙なのだ……」
俺の目には戦況はこちらの一方的な優勢に映っているのだが、ブルドー公爵の表情はどこかパッとしない。
「奴らの船にはこれだけの距離で反撃できる装備などないのだ。このままこちらに突っ込んでくるだけでは一方的に船を失うだけ……俺がマセラティならたとえ一時の屈辱を味わっても迷わず撤退を選ぶが……」
……なるほど、たしかに一理ある。なんせあれだけの精度で次々とこちらの攻撃が着弾してるんだもんな……
「これは俺の勘だがな……あの艦隊の中にマセラティはいねえんじゃねえかと思ってる」
「え?じゃぁ……一体どこに……っ!まさか密かに上陸していて、町に攻め入ろうとしているとか?」
「分からん……その可能性も無視できんが、俺はそれも違うと思う。マセラティ……あの男は自尊心の塊のような男だ。わざわざそんな手の込んだ奇策など使わず、全力でこちらをひねり潰しに来るはず……上陸するにしても、前回同様に全船で海岸に乗り付けそこから一気に町になだれ込んでくるに違いない」
俺はマセラティを見たことがないから分からないけど、何故かこの人がそう言うんならきっとそうなんだろうと素直に受け入れることができた。
「ち、父上!あれを!?」
投石機の指示に集中していたクレーが突如大きな声を上げた。俺と公爵は声につられてクレーの旗の示す先に目をやった。
「デ、デカっ……」
「やはり……あの男は今までこの場にいなかったようだ」
40隻の海賊船の後方から姿を表したのはこちらと同じくメインマストを4本も携えた超大型艦。まだ距離があって正確な大きさは測りかねるが、おそらくこちらの軍艦と同等かそれ以上はありそうだ。
「クレー、マセラティは十中八九あのデカ船の中だ。気ぃ抜くなよ」
「……はい!」
「では、俺は念のためシエナを町に置いてくるので、一旦この船はソニアで護衛にあたってもらいます。」
「そうか、すまん。手間をかけるな」
俺は無言で公爵にうなずき返すと、軍艦を飛び降りリュミエールに戻った。
「……そんなわけで、ソニアには俺が戻ってくるまでの間、軍艦の護衛をお願いしたい」
「分かったわ!」
俺はソニアを抱えて再び軍艦に飛び乗るとソニアをそっと甲板におろした。ソニアはくすりと俺に不可解な笑みを向け、くるりと反転して甲板の方に駆けていった。
◇◆◇◆◇
「お頭ぁ!ゲリックさんたちの艦隊に追いついたようですぜ!」
艦橋の椅子に腰を下ろすマセラティのもとに、部下が報告にやってきた。マセラティは「そうか」とだけ返すと、立ち上がって前方をみつめた。確かに、まだ船の1隻が米粒ほどにしか見えないほど小さいが、前方に大艦隊の船影が確認できる……しかし、マセラティはすぐに嫌な胸騒ぎを覚えた。
そして、艦橋に備え付けた長距離望遠鏡で前方を確認したマセラティはその光景に言葉を失った。
「…………」
部下もその様子を不審に思い、慌てて別の長距離望遠鏡を覗き込んだ。
「な……何だこりゃ……」
「おい、ゲリックの艦につけろ。これが一体どういうことかあのバカに問いたださなきゃならねえ」
「は、はい!」
部下の男は、マセラティの全身から溢れ出る殺気に気を失いそうなほど震え上がったが、なんとか返事をして艦橋から逃げるように飛び出した。
マセラティは再度望遠鏡越しに状況を確認した。既に半分以上の船が航行に支障が出ているようだ。そして、味方の船団のさらに先にレンズを向けると、そこにはこの艦にも匹敵するような巨大な船が港を守るように立ちふさがっていた。
よく観察すると、規則的なリズムで巨艦から何かが撃ち出されている。
「ほう……ブルドー、投石たぁやってくれるじゃねえか」
ほどなくして、マセラティの乗る巨大ガレオン船は味方の船団の真後ろまでやってきた。この位置まで来ると、味方の被害が甚大なことがよく分かる。そもそもゲリックの乗っている旗艦には「旗」すら無いのだ。
その後旗艦から小舟が1艘降ろされ、何人かがこちらにやってきた。しかし、その中にゲリックの姿はない。
「おい、俺はゲリックを呼んだんだぜ?」
「は、はい……しかしゲリックさんは少し前から姿が見当たらず……」
マセラティには直感的にゲリックが逃亡したのだと分かった。そして同時に抑えきれない怒りがこみ上げた。
「あの……クソ野郎が!」
マセラティは旗艦からやってきた海賊の一人の頭を鷲掴みにし、床に叩きつけた。グチャという嫌な音ともに、彼の頭は床にぶつかった衝撃で破裂した。
「おい、爆裂砲の用意だ。あのデカブツに一発叩き込んでやれ」
マセラティは、傍らに立つ部下に新兵器の使用を命じた。
◇◆◇◆◇
さっきのソニアの微笑が一体何を意味していたのか分からなかったが、ゆっくりしてもいられないので急いでリュミエールに戻り、港に向けて舵を切った。
そして最高速度のリュミエールはほんの2~3分のうちに港にたどり着いた。
「近づく船があったらこの間みたいに石投げていいから!」
「分かったわ!まかせておきなさい!」
シエナはエストレーラの助手席でドンと胸を叩いてみせた。
「じゃぁ、頑張ってね!」
「………」
……あれ、送り出したつもりなんだけど……シエナのやつ一向に助手席から降りる気配がない。
「あ、あの………シエナ?」
「降ろして」
「……はい?」
「だから!さっきソニアにしてたみたいに!」
「……はい?」
「あーもう!さっきソニアのこと大事そうに抱きかかえてあっちの船に降ろしてたじゃない!」
シエナに言われて俺は初めて、ソニアを「お姫様抱っこ」していたことに思い当たった。
……ソニアが意味ありげに笑ってたのはそういうことか……
ドーーーン!
その時クレーたちの乗る軍艦の方から爆音が起こった。これは……敵の巨艦から攻撃されてる?
シエナの高難度オーダーと、早く戻らなければならないという使命感との葛藤にかなり苦しむ俺……
「わ、分かった!分かったから!」
急いで運転席を降りて、外から助手席のドアを開けると、そのままシエナの手を取って外に出した。
改めて意識すると、心臓が破裂しそうなほど激しく鼓動している。
「じゃ、じゃぁ行くよ?」
「う、うん……」
シエナも急にしおらしくなったもんだから余計に緊張してしまう。
俺は意を決して、シエナの片腕を自分の首にかけると腰を落としてシエナの両膝を抱え持ち上げた。
そしてそのまま港の上まで飛び移ると、シエナの両足をそっと地面に降ろした。
「じゃ、じゃぁ……シエナ。万が一、町に海賊が乗り込んできたらその時はシエナにかかってるからね!」
「う、うん!」
そして俺は急いで運転席に戻ると、再び全速力で軍艦に向けてリュミエールを走らせた。
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