元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

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第3章 ブルドー公爵領編

第43話 異文化コミュニケーション

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 メルリアさんは俺たちとの話が終わると、別のエルフに命じて客間に簡易ベッドを2つ運ばせてくれた。

「次の満月まで3日ある。それまではこの部屋で寝泊まりしていいよ。食事はエルフの質素なもんだから……シエナにはちと物足りないかも知れんが我慢しな!それから客なんて来ると思ってなかったから、こんなベッドしか用意してやれないけどまぁ、慣れればそう悪いものでもないさね」

 そしてそう言ってソニアを引き連れ部屋をあとにした。

「なんか……パワフルな人だね……」

「うん……まぁパパの知り合いならあのくらいじゃないとついていけないのよ、きっと……」

 俺はシエナのつぶやきに妙に納得し、深く頷いた……

 コンコン……

 ちょうどその時、誰かが部屋をノックした。

「はい」

「し…失礼します。早速ですが本日の夕食が準備できたのでご案内いたします」

 入ってきたのは、エルフのお姉さん。見た目的には20代半ばくらいだけど、きっとこの人も超歳上なんだろうな。

「ごはん!?やったー!」
「ありがとうございます」

 そして俺たちは同じ建物の奥にある広いダイニングに通された。そこではメルリアさんもソニアも既に席について俺たちの到着を待っていた。

「来たね、じゃぁ早速食事にしようか」

 メルリアさんの合図で料理の数々が運ばれてきた。

「わーい!私もうお腹ペコペコだよぉ……」

 シエナはフォークとナイフをカチャカチャと鳴らしながら自分のところに料理が運ばれてくるのを今か今かと待ち構えている。

「一品目は、山菜のサラダでございます」

 給仕のエルフがそう告げた。豪華な食事を期待していたシエナの顔が少し曇ったのを俺は見逃さなかったよ?

「サ、サラダか……まぁ野菜は大事よね!ローラさんにもそう教わったわ!」

 そしてサラダをぺろりと平らげ次の皿を待つ。

「2品目はとうもろこしのスープです」

「んぐ……ま、まぁココは我慢よ!」

「3品目はキノコのソテーでございます」

「ぐはっ……美味しい、美味しいんだけど……」

「4品目は口直しのベリーのソルベです」

「口直しってことはいよいよ次がメインディッシュなのね!?」

 シエナは最後の希望にすがりつくようにベリーのソルベを口に運んだ。俺はその様子を横目に見ながら、ソニアやメルリアさんと王都での出来事を話題に楽しく食事を楽しんでいたんだけど……

「お待たせしました。5品目は本日のメインディッシュ……」

「キターーーー!待ってました!」

「大根のステーキです」

「………」

 メインディッシュが運ばれたところでシエナが完全にフリーズしたのをみてメルリアさんは笑いをこらえきれず吹き出した。

「な……なんで?なんでなの?お肉がないじゃない!」

 そしてシエナの悲痛な叫びがダイニングに響いた。

「ククク……シエナ……だからお前には物足りんと言っただろ?エルフは肉を食わんのだ」

「そ、そんな……」

 メルリアさんの一言がトドメとなってシエナはついにテーブルに突っ伏した。

「ハハハ、やっぱりジルソレイユ様にそっくりだね!あの人もエルフの料理だけは好きになれんとか言ってたっけ」

 メルリアさんはシエナの悶えるところを面白そうに見ていた。

「うぅ……ひどいよぉ……」
 
 シエナは涙目で大根のステーキを食べていた。

 …………
 ………
 ……
 …

 食後、俺とシエナはまっすぐ部屋に戻った。

「シエナ……そんなに落ち込まなくても……」

「シリウスはお肉がなくて良かったの!?」

「え?まぁずっと無いのは嫌だけど……別に数日くらいなら……」

「ん~!この裏切り者!」

 シエナは俺にクッションを投げつけるとそのままふてくされて寝てしまった。ほんとに肉が楽しみだったんだな……

 俺も寝ようかと思ったけど、なんだか少し目が冴えてしまったのでちょっとテラスに出てみることにした。

 部屋の外側がそのまま大きなウッドデッキになっているようだ。
 
 外に出てみるとデッキは思ったより広く、部屋の角を曲がってまだ奥につながっているようだ。

 俺はなんだか冒険してるみたいな気持ちになってワクワクしながらその角を曲がった。そうするとデッキの縁に手をついて外を眺めるソニアの姿がそこにあった。

「あ……」

 向こうもこちらに気がついた。

「ど、どうも……」

「………」

 俺としては、たしかにこんな美少女に話しかけるのは緊張するけどこれから一緒に旅をするわけだし多少なり打ち解けておきたい。

「あ、あの……」

 そしたらソニアの方から話しかけてきた。

「は、はい?」

「大婆様のこと……その……突然面倒事を押し付けるようなことして……その、ごめんなさい」

「い、いえ……それは全然良いんですけど。なんか、シエナのときに似てたなぁと思ってちょっと懐かしい感じがしました」

「……敬語じゃなくていいよ。それで、シエナの時って言うのはどういうこと?そもそもなんで人族のあなたが龍族と一緒に行動しているの?」

「あ、じゃぁ遠慮なく……。シエナも昔はジーフ山っていう人の世界から隔絶された場所で親子三人で暮らしてて」

「ジーフ山、っていうとさっき大婆様が話していた?」

「そうそう」

 それから俺はソニアに6歳の頃から最近までの出来事を話して聞かせた。

「そ、そんなことがあったんだ……それでそれで!?」

 ソニアは自分の知らない外の話に興味津々で、目を輝かせながら質問を重ねた。

「シエナがうちにやってきてもう9年、気づいたら一緒に過ごしてる時間のほうが長くなっちゃって」

「私からすればたった9年、って思うくらいの時間だけどすごく濃い9年だったのね」

「アハハハ……それはもう濃かったよ……」 

 俺はこの9年間のシエナや時々ジルさんとの過酷な訓練の日々を思い出していた。

「楽しそうね……」

「楽しかったよ?それに、シエナは山の外でいろんなことを知れてよかったって言ってたけど……あぁ、きっとメルリアさんもソニアにもっと外の世界を知ってほしかったんだろうなぁ」

「え?」

「だってメルリアさん、エルトレスに行くのは何年先になっても別に構わないって言ってたしさ……きっとシエナみたいにソニアにも外の世界のこともちゃんと知っていってほしいと思ってて、そのうえで今のエルトレスを見てきてほしいんじゃないかな、ってごめん!勝手な想像!」

「…………」

 ソニアはしばらく黙って俯いていた。

「……ついさっきシリウスの話を聞くまで、エルフ以外の世界のことなんか気にしたってしょうが無いと思ってたわ……それにエルトレスに行くのだって嫌ではないけど、私は向こうで暮らした時間よりこっちで暮らした時間のほうが長いし……それにもう父様も母様もいないんだもの……」

 そうだった、ソニアの両親はもう……

「あ……ゴメン……」

「ううん、いいの!最初大婆様に村を出ていくように言われた時は、絶対イヤだって思ったけど、今はそんなこと無いもの!自分の意志で外の世界を見てみたい、って思ってる!」

「そ、そっか!じゃぁ、改めてよろしく!」

「うん、よろしく!じゃぁ今日はもう休むわ、おやすみシリウス」

 ソニアは満面の笑みを見せると、そのまま身を翻して自室の方に去っていった。夜の暗闇に絹のような金髪がよく映えて、きれいな笑顔が一層強調されている感じだった……

 思い出した途端、急に心臓が激しく鼓動を始め、俺はその場で何度か深呼吸を繰り返した。ソニアの前でキョドらなかったのが不幸中の幸いだろうか。

「ソニア、可愛い子ね~」

「うん、ほんとにねぇ~」

 ………ん?

「シ、シエナ!?」

「ったく、出てったっきり戻ってこないと思ったらこんなところでナンパ?」

「ち、違うに決まってるだろ!これから一緒に旅をするんだし、仲良くなっておこうと思ってだな!」

「は~いはい、どうせシリウスにナンパなんてする度胸ないもんね~」

「っな!?…………たしかに……無い」

「クスっ……冗談よ!さ、あたしたちも戻るわよ!」

 いじわるそうに微笑ってそう言うと、シエナも反転して部屋に戻っていった。

◇◆◇◆◇

「ふぅ……」

 ソニアは自室に戻ると大きくため息を付いた。

 シエナとのこと、シリウスの両親のこと、実家のお店のこと、6歳という幼さで一ヶ月間も親元を離れて旅をしたこと、つい最近、人族の国に現れた魔族をたった一人で撃退したこと……

「人族って、もっと弱くて小さな種族だと思ったいたわ…」

 ソニア自身はさておき、エルトレスのエルフの大半はエルフこそが最高の種族だと信じて疑っていなかった。だからこそ、開国を主張した父たちに貴族たちが相次いで反旗を翻したのだ。当時はまだ幼かったソニアにも、周りの大人達の感情くらいは推し量ることが出来た。

 龍族が話題に上がることは無かったが、特に人族や獣人族などは、大した魔法も使えず悪知恵だけがはたらく種族だと見下していた者が多かった。

 それなのに、人族の少年がわずか15年の間に経験してきたことは自分の150年の何十倍も濃密なものに感じられた。

 シリウスが「楽しかった」と9年間の出来事を話す様子がとても眩しく感じられた。

「多分、今外に出なかったらこの先もずっと……」

 そう思って旅立ちを決意したソニアの頭の中は今、不安と希望がぐるぐると渦巻いていた。
 
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