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第2章 ハズール内乱編
第29話 偵察
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俺とシエナとヘラルドさんは、アルフレドさんの屋敷に通され大きな客間にぽつんと置かれたソファに腰を下ろしていた。
室内は派手な外観とは真逆にほとんど飾り気がなく、アルフレドさんらしさの感じられる質素な作りだった。
「すまんのう、待たせたわい」
「お待たせ!」
ほどなくアルフレドさんとララさんが揃って部屋にやって来た。
「いえいえ、こちらこそ突然押しかけてすいませんでした!初めて来る王都で頼れるのがお二人しかいなかったもんで……」
「構わん構わん、こうして会いに来てくれたことを嬉しく思うとるわい」
「うんうん!二人ともすっかり大きくなっちゃって!」
約束もなく押しかけたわけだし、困らせてしまったのではないかと(ほんの少し)心配したけど、大丈夫だったようだ。
「積もる話は山ほどあるが……まずはそちらの事情から話を聞こうかのう。君が大した意味もなくワシらの知らん人間を連れてくるとも思えんし、なにか理由があるんじゃろう?」
本当にこの人はいつだって話が早くて助かる。
俺はアルフレドさんとララさんに道中での出来事と、ヘラルドさんのことを話した。
「………なるほどのう。」
「うーん………」
一通り話しを終えたあと、二人は何かを思案し黙ってしまった。
「……国家転覆の話はそもそも本当なんですか?」
「うむ……残念ながら本当じゃ。今でこそまだ水面下での攻防となっておるが、実際いつ武力衝突が起こってもおかしくない……王都は今そういうギリギリの状況じゃ」
「そんな……」
「そして……そのおじいさんの息子、セルジオが今回の件に深く関与しているのもまた事実なの……」
二人の口から出てきたのは、想定していた中でも最悪の情報だった。
「……そうですか……では、ワシからも一つだけ聞かせてください。息子は今どこにおるのですか?」
ヘラルドさんは堪りかねて今にもセルジオのところに乗り込みそうな勢いだ。
「ご子息、セルジオ・ロドリゲスはシュトルンツ大公爵の屋敷の近くに住んでおったはずじゃ……じゃが、今向かうのはあまりお勧めせんのう」
「な、なぜですか!?」
「大公派の暗躍を阻止せんと、国王派の兵士があの辺りを躍起になって巡回しておる。見つかってお主の身元が割れれば、息子に会う前に取り押さえられてしまうわい」
「くっ………」
ヘラルドさんは悔しそうに奥歯を噛みしめている。
「セルジオは10年以上もの間、オスカー・シュトルンツの手駒として暗躍してきたと言われておる。人攫いから、武器の密輸、死体の処理まで本当に幅広くのう……」
ここで俺はずっと疑問に思っていたことをアルフレドさんに尋ねた。
「そのことなんですが…、なぜ悪事をはたらいていることが分かっているのに10年以上も放っておかれていたんですか?普通なら判明したところで逮捕するなりすると思うんですが……」
「それが、そんなにうまく行かなかったのよねぇ……」
ララさんが残念そうにつぶやいた。
「国王軍もバカではない。何度もセルジオを逮捕しようとしたんじゃ……それこそ彼が荷物を搬送しているところに抜き打ちで検問を張ったり、家宅捜索に踏み込んだり、何度も何度ものう……しかし、確たる証拠を掴むことは未だにできておらんのじゃよ」
「では……実は疑わしいだけで無罪だということは……」
「残念だけどそれはないわ……国王が大公派に潜り込ませていた内通者の証言からも裏は取れていたの。まぁその内通者も今は消されてしまっているんだけど……」
思ったより事態は厄介なようだ。セルジオさえ押さえれば芋づる式に万事解決かと思ったけど、甘かった。
ヘラルドさんもそこまで聞いてガクリとうなだれた。
「ワシはまぁ今の国王カストルとの長い付き合いゆえ、いわゆる「国王派」に属しておるということになっておってのう……ララもワシの弟子ということで国王派と見られておるし……そう簡単に大公邸には近づかせてもらえんじゃろうなぁ」
「内乱なんか煩わしくて関わりたくない!ってのが本心なんだけどね……」
「そうなんだ……ねぇシリウス!なんとか出来ないの?」
これまで割りと楽観的だったシエナもここへきて、事態の深刻さが飲み込めてきたようだ。
「うーん……なんとかって言っても状況がわからないからなぁ……アルフレドさん、明日ちょっと俺一人で大公邸とやらの付近を探索してきてもいいですか?」
「……うむ……シリウス君一人ならば止はせんが……十分に注意するんじゃぞ」
「うん?何か他にもあるんですか?」
「セルジオの捜査の件もそうなんだけど、大公邸の周りでは色々と奇妙な事件が相次いでいるの」
ララさんが詳しく教えてくれたところでは、夜間に大公邸の近くを巡回していた兵士が失踪したり、また別のときには記憶を失った状態で発見されたりと穏やかじゃない出来事がこれまでに何度も起こっているそうだ。
セルジオの一件と関係があるかは分からないけど、大公邸かもしくはその付近に何かあるのは間違いなさそうだ。
「分かりました。ヤバそうな感じがしたらすぐに引き返します」
「うむ……繰り返すが絶対に深入りはせんことじゃ」
「はい。それで、お願いばかりで申し訳ないのですが、しばらく俺たちをここに置いてはもらえないでしょうか?」
「それは構わん。どうせこんな広い屋敷にワシとララと、何人かの使用人しかおらんのじゃ。部屋はいくらでも余っとるでのう」
そんなわけで、事情もある程度しっかり聞けたし、寝泊まりする場所も確保できたので、明日から本格的に調査に入ってみることにした。
◇◆◇◆◇
大公邸、オスカーの執務室……
「オスカー様、時間がかかりましたが……ご所望の爆薬の件、すべて搬入完了いたしました……しかし、あれだけの量を一体何に?」
「セルジオ、ご苦労であった。爆薬の使いみちはお前の気にするところではない」
「はっ……失礼しました」
セルジオはオスカーに頭を下げると執務室から速やかに退室した。そして彼と入れ替わるように、執事の姿をしたグレムが入室してきた。
「オスカー、いよいよ大願成就のときですか?」
「グレムよ、そうあわてるでない。ここまで30年も準備に時間を費やしてきたのだ、ここでしくじればすべてが水の泡になる」
「フフフ……いざとなれば私が王城の人間を一人残らず殺し尽くしてやりますよ……」
「それでは意味が無いのだ。私の手で国王カストルを王座から引きずり下ろしてこその革命であろう」
「フフフ……分かりました。では祭の時を楽しみにしていますよ。あぁ、今日は活きのいい国王軍の兵士が手に入ったそうですので、早速いただきますね」
「あぁ、好きにしろ」
そしてグレムは影に溶け込むように姿を消した。オスカーは執務筆で一人、窓の外から見える王城に目をやった。
「ついに……ついにすべての準備が整ったか。カストルよ、貴様ももう齢70……かつて私を見下したときのあの力強さも薄れて消えてしまったな。せいぜい王家の最後の王として、派手に私に殺されるが良いわ」
そして机上のグラスに注がれたワインを一気に飲み干すと不敵に笑みを浮かべた。
◇◆◇◆◇
翌朝、朝食を済ませた俺とシエナとヘラルドさんは一度俺の部屋に集合していた。
「じゃぁ、ちょっと偵察してくるから。シエナはヘラルドさんについててあげて。ヘラルドさん、心配なのは分かりますが屋敷からは決して出ないようにお願いします」
「わかったー!」
「は…はい」
そして部屋を出た俺はララさんとばったり出くわした。
「あ、おはようございます」
「おはよう~!って言うか、ほんとに逞しくなっちゃって!」
ララさんはそう言うと上目遣いに俺の腕や胸板をツンツンと指でつついてきた。この人朝っぱらからなんてことを……
「ち、ちょっ……すいません急ぎますので!」
「えー、シリウス君……冷たくない?」
「い、い、いえ。そんなことは、ない、ですよ!」
「アハハハ、冗談よ!相変わらずからかい甲斐があっていいわねぇ」
ちょっと…いや、だいぶ嬉しいけど、この人本当に賢者名乗って良いのだろうか?
「あぁ、そうそう。昨日はおじいさんが居たから言わなかったけど……本当に大公邸を調べるなら注意しなさい」
ララさんの声のトーンが急に真面目なものに変わり、つられた俺も真面目モードに。
「大公のところにはね、悪魔がいるって噂よ」
ララさんの表情からして、コレは冗談ではなさそうだ。
「悪魔……ですか?」
「えぇ、おそらくは魔族。記憶を消したり、人が失踪したりするのもそのせいじゃないかとあたしたちは考えてる……まぁ私もお師匠も魔族なんか昔に一度見て勝てないと分かっているから、大して深くは調べられてないんだけどね……でも、もしかするとシリウス君なら魔族もやっつけれるのかな?」
最後はいつものおどけたララさんに戻ってニコリとしていた。
「さぁ……必要があればやってみますが、積極的には行きたくないですね……」
俺は肩をすくめて見せた。
「じゃぁ、行ってきます!」
「うん、気をつけて」
………
……
…
俺はそのまま屋敷をでて、アルフレドさんに聞いた大公爵の屋敷へと向かった。
大公爵の屋敷に着くと……いや、そのもっと前から辺り一帯に立ち込める禍々しい魔力の渦が俺の目にははっきりと見えていた。
「ララさん……これホントにいますよ……」
俺はそう独りごちたが、まずは屋敷の周りを一周ぐるりと回ってみることにした。屋敷は確かにアルフレドさんのとこより何倍も大きかったが、遠くに見える王城ほどではもちろん無い。広い庭は隅々までよく手入れされていて、庭だけで家柄の良さが伝わってくる。
20分ほどかけてやっと1周出来たけど、屋敷の外観に特に気になるところはなかった。強いて言うならいたるところに警備の私兵が配置されていたことくらいだ。
身分:オスカー大公爵家の私兵
こんなやつばっかりだ。他にも知らない貴族家の私兵が混じっていたけど、きっと「大公派」の仲間なんだろうな。
しかし、確かに過剰なくらいの警備の配置ではあるけど、国王を相手に戦争ができるほどの兵力ではない。
まぁ、初日はこんなもんか。あまりウロウロしていると怪しまれそうだし。
そう思って大公邸から引き返そうとした時、遠くに見える屋敷の玄関から一人の男が出てくるのがちょうど目に入った。しかも……
ここら一帯の凶悪な魔力……間違いなくあいつが発生源だ。
俺は遠目にその男を見据えて鑑定を発動した。
【ステータス】
名称:グレム
種族:魔族
身分:下級魔族
Lv:30
HP:470
MP:620
状態:正常
物理攻撃力:120
物理防御力:139
魔法攻撃力:460
魔法防御力:507
得意属性:闇・固有
苦手属性:光
素早さ:280
スタミナ:422
知性:503
精神:428
運 :--
保有スキル:
(魔族)被魔法攻撃弱化(一般)毒無効(一般)拷問
保有魔法:
魔闇魔法:生命力吸収・魅了・混乱・恐怖・猛毒・金縛り
固有魔法:擬態・暗示
……うわぁ……やっぱり魔族だよ……なんてスキルを見ながらがっかりしていると、向こうがこちらを振り向こうとしているのが見えたので隠密スキルをフル活用して物陰に隠れ、そのままその場を後にした。
室内は派手な外観とは真逆にほとんど飾り気がなく、アルフレドさんらしさの感じられる質素な作りだった。
「すまんのう、待たせたわい」
「お待たせ!」
ほどなくアルフレドさんとララさんが揃って部屋にやって来た。
「いえいえ、こちらこそ突然押しかけてすいませんでした!初めて来る王都で頼れるのがお二人しかいなかったもんで……」
「構わん構わん、こうして会いに来てくれたことを嬉しく思うとるわい」
「うんうん!二人ともすっかり大きくなっちゃって!」
約束もなく押しかけたわけだし、困らせてしまったのではないかと(ほんの少し)心配したけど、大丈夫だったようだ。
「積もる話は山ほどあるが……まずはそちらの事情から話を聞こうかのう。君が大した意味もなくワシらの知らん人間を連れてくるとも思えんし、なにか理由があるんじゃろう?」
本当にこの人はいつだって話が早くて助かる。
俺はアルフレドさんとララさんに道中での出来事と、ヘラルドさんのことを話した。
「………なるほどのう。」
「うーん………」
一通り話しを終えたあと、二人は何かを思案し黙ってしまった。
「……国家転覆の話はそもそも本当なんですか?」
「うむ……残念ながら本当じゃ。今でこそまだ水面下での攻防となっておるが、実際いつ武力衝突が起こってもおかしくない……王都は今そういうギリギリの状況じゃ」
「そんな……」
「そして……そのおじいさんの息子、セルジオが今回の件に深く関与しているのもまた事実なの……」
二人の口から出てきたのは、想定していた中でも最悪の情報だった。
「……そうですか……では、ワシからも一つだけ聞かせてください。息子は今どこにおるのですか?」
ヘラルドさんは堪りかねて今にもセルジオのところに乗り込みそうな勢いだ。
「ご子息、セルジオ・ロドリゲスはシュトルンツ大公爵の屋敷の近くに住んでおったはずじゃ……じゃが、今向かうのはあまりお勧めせんのう」
「な、なぜですか!?」
「大公派の暗躍を阻止せんと、国王派の兵士があの辺りを躍起になって巡回しておる。見つかってお主の身元が割れれば、息子に会う前に取り押さえられてしまうわい」
「くっ………」
ヘラルドさんは悔しそうに奥歯を噛みしめている。
「セルジオは10年以上もの間、オスカー・シュトルンツの手駒として暗躍してきたと言われておる。人攫いから、武器の密輸、死体の処理まで本当に幅広くのう……」
ここで俺はずっと疑問に思っていたことをアルフレドさんに尋ねた。
「そのことなんですが…、なぜ悪事をはたらいていることが分かっているのに10年以上も放っておかれていたんですか?普通なら判明したところで逮捕するなりすると思うんですが……」
「それが、そんなにうまく行かなかったのよねぇ……」
ララさんが残念そうにつぶやいた。
「国王軍もバカではない。何度もセルジオを逮捕しようとしたんじゃ……それこそ彼が荷物を搬送しているところに抜き打ちで検問を張ったり、家宅捜索に踏み込んだり、何度も何度ものう……しかし、確たる証拠を掴むことは未だにできておらんのじゃよ」
「では……実は疑わしいだけで無罪だということは……」
「残念だけどそれはないわ……国王が大公派に潜り込ませていた内通者の証言からも裏は取れていたの。まぁその内通者も今は消されてしまっているんだけど……」
思ったより事態は厄介なようだ。セルジオさえ押さえれば芋づる式に万事解決かと思ったけど、甘かった。
ヘラルドさんもそこまで聞いてガクリとうなだれた。
「ワシはまぁ今の国王カストルとの長い付き合いゆえ、いわゆる「国王派」に属しておるということになっておってのう……ララもワシの弟子ということで国王派と見られておるし……そう簡単に大公邸には近づかせてもらえんじゃろうなぁ」
「内乱なんか煩わしくて関わりたくない!ってのが本心なんだけどね……」
「そうなんだ……ねぇシリウス!なんとか出来ないの?」
これまで割りと楽観的だったシエナもここへきて、事態の深刻さが飲み込めてきたようだ。
「うーん……なんとかって言っても状況がわからないからなぁ……アルフレドさん、明日ちょっと俺一人で大公邸とやらの付近を探索してきてもいいですか?」
「……うむ……シリウス君一人ならば止はせんが……十分に注意するんじゃぞ」
「うん?何か他にもあるんですか?」
「セルジオの捜査の件もそうなんだけど、大公邸の周りでは色々と奇妙な事件が相次いでいるの」
ララさんが詳しく教えてくれたところでは、夜間に大公邸の近くを巡回していた兵士が失踪したり、また別のときには記憶を失った状態で発見されたりと穏やかじゃない出来事がこれまでに何度も起こっているそうだ。
セルジオの一件と関係があるかは分からないけど、大公邸かもしくはその付近に何かあるのは間違いなさそうだ。
「分かりました。ヤバそうな感じがしたらすぐに引き返します」
「うむ……繰り返すが絶対に深入りはせんことじゃ」
「はい。それで、お願いばかりで申し訳ないのですが、しばらく俺たちをここに置いてはもらえないでしょうか?」
「それは構わん。どうせこんな広い屋敷にワシとララと、何人かの使用人しかおらんのじゃ。部屋はいくらでも余っとるでのう」
そんなわけで、事情もある程度しっかり聞けたし、寝泊まりする場所も確保できたので、明日から本格的に調査に入ってみることにした。
◇◆◇◆◇
大公邸、オスカーの執務室……
「オスカー様、時間がかかりましたが……ご所望の爆薬の件、すべて搬入完了いたしました……しかし、あれだけの量を一体何に?」
「セルジオ、ご苦労であった。爆薬の使いみちはお前の気にするところではない」
「はっ……失礼しました」
セルジオはオスカーに頭を下げると執務室から速やかに退室した。そして彼と入れ替わるように、執事の姿をしたグレムが入室してきた。
「オスカー、いよいよ大願成就のときですか?」
「グレムよ、そうあわてるでない。ここまで30年も準備に時間を費やしてきたのだ、ここでしくじればすべてが水の泡になる」
「フフフ……いざとなれば私が王城の人間を一人残らず殺し尽くしてやりますよ……」
「それでは意味が無いのだ。私の手で国王カストルを王座から引きずり下ろしてこその革命であろう」
「フフフ……分かりました。では祭の時を楽しみにしていますよ。あぁ、今日は活きのいい国王軍の兵士が手に入ったそうですので、早速いただきますね」
「あぁ、好きにしろ」
そしてグレムは影に溶け込むように姿を消した。オスカーは執務筆で一人、窓の外から見える王城に目をやった。
「ついに……ついにすべての準備が整ったか。カストルよ、貴様ももう齢70……かつて私を見下したときのあの力強さも薄れて消えてしまったな。せいぜい王家の最後の王として、派手に私に殺されるが良いわ」
そして机上のグラスに注がれたワインを一気に飲み干すと不敵に笑みを浮かべた。
◇◆◇◆◇
翌朝、朝食を済ませた俺とシエナとヘラルドさんは一度俺の部屋に集合していた。
「じゃぁ、ちょっと偵察してくるから。シエナはヘラルドさんについててあげて。ヘラルドさん、心配なのは分かりますが屋敷からは決して出ないようにお願いします」
「わかったー!」
「は…はい」
そして部屋を出た俺はララさんとばったり出くわした。
「あ、おはようございます」
「おはよう~!って言うか、ほんとに逞しくなっちゃって!」
ララさんはそう言うと上目遣いに俺の腕や胸板をツンツンと指でつついてきた。この人朝っぱらからなんてことを……
「ち、ちょっ……すいません急ぎますので!」
「えー、シリウス君……冷たくない?」
「い、い、いえ。そんなことは、ない、ですよ!」
「アハハハ、冗談よ!相変わらずからかい甲斐があっていいわねぇ」
ちょっと…いや、だいぶ嬉しいけど、この人本当に賢者名乗って良いのだろうか?
「あぁ、そうそう。昨日はおじいさんが居たから言わなかったけど……本当に大公邸を調べるなら注意しなさい」
ララさんの声のトーンが急に真面目なものに変わり、つられた俺も真面目モードに。
「大公のところにはね、悪魔がいるって噂よ」
ララさんの表情からして、コレは冗談ではなさそうだ。
「悪魔……ですか?」
「えぇ、おそらくは魔族。記憶を消したり、人が失踪したりするのもそのせいじゃないかとあたしたちは考えてる……まぁ私もお師匠も魔族なんか昔に一度見て勝てないと分かっているから、大して深くは調べられてないんだけどね……でも、もしかするとシリウス君なら魔族もやっつけれるのかな?」
最後はいつものおどけたララさんに戻ってニコリとしていた。
「さぁ……必要があればやってみますが、積極的には行きたくないですね……」
俺は肩をすくめて見せた。
「じゃぁ、行ってきます!」
「うん、気をつけて」
………
……
…
俺はそのまま屋敷をでて、アルフレドさんに聞いた大公爵の屋敷へと向かった。
大公爵の屋敷に着くと……いや、そのもっと前から辺り一帯に立ち込める禍々しい魔力の渦が俺の目にははっきりと見えていた。
「ララさん……これホントにいますよ……」
俺はそう独りごちたが、まずは屋敷の周りを一周ぐるりと回ってみることにした。屋敷は確かにアルフレドさんのとこより何倍も大きかったが、遠くに見える王城ほどではもちろん無い。広い庭は隅々までよく手入れされていて、庭だけで家柄の良さが伝わってくる。
20分ほどかけてやっと1周出来たけど、屋敷の外観に特に気になるところはなかった。強いて言うならいたるところに警備の私兵が配置されていたことくらいだ。
身分:オスカー大公爵家の私兵
こんなやつばっかりだ。他にも知らない貴族家の私兵が混じっていたけど、きっと「大公派」の仲間なんだろうな。
しかし、確かに過剰なくらいの警備の配置ではあるけど、国王を相手に戦争ができるほどの兵力ではない。
まぁ、初日はこんなもんか。あまりウロウロしていると怪しまれそうだし。
そう思って大公邸から引き返そうとした時、遠くに見える屋敷の玄関から一人の男が出てくるのがちょうど目に入った。しかも……
ここら一帯の凶悪な魔力……間違いなくあいつが発生源だ。
俺は遠目にその男を見据えて鑑定を発動した。
【ステータス】
名称:グレム
種族:魔族
身分:下級魔族
Lv:30
HP:470
MP:620
状態:正常
物理攻撃力:120
物理防御力:139
魔法攻撃力:460
魔法防御力:507
得意属性:闇・固有
苦手属性:光
素早さ:280
スタミナ:422
知性:503
精神:428
運 :--
保有スキル:
(魔族)被魔法攻撃弱化(一般)毒無効(一般)拷問
保有魔法:
魔闇魔法:生命力吸収・魅了・混乱・恐怖・猛毒・金縛り
固有魔法:擬態・暗示
……うわぁ……やっぱり魔族だよ……なんてスキルを見ながらがっかりしていると、向こうがこちらを振り向こうとしているのが見えたので隠密スキルをフル活用して物陰に隠れ、そのままその場を後にした。
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