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第2章 ハズール内乱編
第25話 盗賊の棟梁
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エストレーラにおじいさんを乗せてすでに30分ほど走っていた。
「それにしても……すごい乗り物ですな」
「そうでしょ!?これもおじいさんのおかげなんですから!」
そう言って俺はハンドルを叩いてみせた。
「おお!それはワシの操舵輪!こんなすごい乗り物に使ってもらえるとはソレもさぞ喜んでいることでしょう」
「大事に使わせていただきます!」
そんな話をしながらドライブを楽しんでいたら小さな村についたので、昼食をとったり保存食を買ったりした。
「ん……?」
「なんか……イヤな感じ」
村の人たちがエストレーラを珍しがるのは当然として、その中に明らかに敵意の混じった視線がいくつか混じっている。俺とシエナにはそれがなにかドロドロとしたとても気持ちの悪いものに感じられたのだ。
「ふ、二人ともどうしたんですか!?」
俺たちの雰囲気が変わったことに戸惑うおじいさん。
「いえ、何でもありません!そろそろ先に向かいましょっか!」
そして俺たちは村で調達した荷物をトランクに押し込むと、再び王都を目指して街道を南下しはじめた。
「……シリウス」
「あぁ……。おじいさん、もしかしたら今から盗賊に襲われるかもしれないですが、きっと大丈夫なので慌てず大人しくしててくださいね」
「盗賊!?この先にいるのですか?それなら逃げたほうが……」
おじいさんは自分が襲われた記憶が蘇ったのか、ひどく怯えている。
「勝てないと思ったらすぐに逃げます。このエストレーラで本気で逃げれば、馬じゃ追いつけないですから!」
そして俺は少し先に隠れているであろう盗賊を挑発するように敢えてえの速度を落としてゆっくりと道の真ん中を進んだ。もちろんエアバリアは展開済みだ。
すると思った通り茂みの陰からいかにも盗賊って感じの男が10人、さらに馬に乗ったやつが5人ほど姿を現した。
「ひぇぇ!シリウスさん!ア、アイツらですワシらの馬車を襲ったのは!」
なるほど……確かに見た目は盗賊風だけど。
俺は道をふさぐ彼らの前でエストレーラを停めた。
「シエナ、ちょっとあの人たちと直接話をしてくるよ。シエナは中でおじいさんについててあげて」
「はーい!」
そして俺はエストレーラから降りると、道を塞ぐ10数人の前に歩み出た。
「あー……えっと、道を塞がれると邪魔なのですが?」
「なっ!お前この状況が分かってんのか?」
「えっと……邪魔な人が道を塞いでさらに邪魔、ということくらいなら分かってますけど?」
「野郎……舐めやがって……大人しくその乗り物を差し出せば苦しまねえように殺してやるくらいの情けは掛けてやろうと思ったが、止めだ!」
そして男の一人が剣を抜いて俺に斬りかかった。
ふむ……剣はなかなか良いものを使っているし、構えは悪くない。しかしスピードが遅すぎて話にならない。
俺は連続で斬りつける男の攻撃をすべて躱し、みぞおちに一発入れて男をダウンさせた。
「な…っ!?テメェ……なにもんだ?」
男たちが一斉に剣を抜き、俺を取り囲んだ。
「えっと……あなたがリーダーであってますか?」
俺はそんなことなど気にもせず、馬上から俺を見下ろす一際雰囲気のある男に問いかけた。
「いかにも……私が盗賊団の棟梁アルトバイエルンである」
そんなソーセージみたいな名前の盗賊がおるか!ってことで早速鑑定を使ってチェック。
どれどれ……
「はいはい、ヘリックス・デューラーさんですね。えっと……ご身分は……少尉!軍人さんじゃないですか!?」
「なっ!?……そんなやつは知らん。一体何の話だ」
いやいや、ヘリックスさん。動揺が顔に浮き出てますよ?
「隠しても無駄です。俺にはちゃんと分かるので。そっちの人から順番に、ロバート、トーマス、カール、ヘルマン……」
一人ひとり指で指しながら名前を当てていくと、盗賊改め兵士たちの表情がみるみるうちに曇っていった。
「貴様……『鑑定』持ちか」
「ええ。もういいですか?じゃ本題に入りますが、まずなんで俺たちを襲ったんですか?」
「くっ………」
ヘリックスは苦虫をかみ潰したような顔でこちらを見ている。
「聞きたいことはまだあります。なぜ盗賊のまねごとなんか?そして北の街道で移動中の馬車を襲ったのはなぜです?」
「それは……言えん……」
ヘリックスは小さな声でそれだけ答えた。
「では、敵意を持ってこちらを襲ったことも、先の街道での一件もやったこと自体は認めるわけですね?」
「あぁ」
「「隊長!?」」
何人かの兵士が驚いて声を上げた。しかしヘリックスに動じる様子はない。
「でも、その理由は教えてくれない、と?」
「そう言ったはずだ。それに、ここまで我らの素性を知られた以上、残念だが生かしておくわけにはいかん……お前たち殺れ」
ヘリックスはどこか思いつめたような表情で、部下たちに命じた。部下たちもさすがは軍人、それぞれが武器を構えると鋭い殺気を放ってきた。
「悪く思うな。これも義のためである」
ヘリックスの言葉に合わせて、10数人の部下が一斉に襲いかかってきた。
俺はエアバリアで自分の周囲を覆った。兵士たちの剣撃が雨のように繰り返されるが、俺には触れる前に全て弾かれる。
「なんだと!?」
ヘリックスは名前を当てられたとき以上の驚きで目をまんまるに見開いている。
「貴様はいったい……」
「俺はただの村人ですよ?ところで、もう攻撃しても無駄なんで止めませんか?」
「チッ……きさまの魔力とて無限ではあるまい。総員、攻撃の手を止めるな!魔力切れまで削りきれ!」
まったく……エアバリアだけならまる一週間くらいは出しっぱなしにできるのに……そんなに付き合えるか!
俺は割と威力強めのスタンを自分の周りだけに発動させた。
バチッ!
「うわっ!」
鋼鉄製の剣を伝って電流が兵士たちを襲う。兵士たちは皆、手から剣を放して地面にうずくまった。
「ヘリックスさん……まだやります?」
「く……くそっ……」
ヘリックスと馬に乗った他の二人が大きな槍を構えてこちらにやってきた。
「止めましょうよ……」
「黙れ!我らにはなさねばならぬ使命がある!たとえ貴様に勝てぬとわかっていても、ここで引くことなどできぬわ!」
そして3人は槍で突いたり、薙いだりの攻撃を繰り返した。俺はもちろんなんともなかったが、彼らをそこまで必死にさせる「使命」とやらが気になったので、特に反撃もせずそのことについて考え事をしていた。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
「あの……使命ってなんですか?」
「黙れ!」
ダメだ……頭に血が上っていて話ができない……
残念だけどおとなしくなってもらう他ないので、俺は3人も他の兵士と同じようにスタンで無力化させた。
「ぐっ………化物め」
化物とは心外だ!俺の知ってる化物(ジルさん、アルマさん)は恐ろしく強いんだぞ?
「ね?無駄なことはやめて、その使命とやらを話してくださいよ。内容によっては俺たちはアンタたちの敵じゃなくなるかもしれないでしょ?」
「お、お前もどうせ奴らと合流するつもりなんだろうが!」
兵士の一人が突然意味不明なことを叫んだ。奴ら?合流?
「おい!黙らんか!」
ヘリックスが慌ててそれを制したがもう遅い。バッチリ聞いちゃったもんね。
「えっと……奴ら?合流?って何のことですか?」
「しらばっくれるな!そこの村でお前たちがロドリゲスの父親と一緒にいるところを見たんだぞ!それから王都に向かう、とも言っていたな!」
なんだろう、この会話は噛み合っていないけど、ところどころつながっているというなんともいえない気持ちの悪さは……
「えっと、ロドリゲスの父親、と言うのはあのおじいさんですか?」
俺はエストレーラの後部座席に座り、怯えた顔でこちらを見ているおじいさんを指差した。
「そうだ!まさかまだ生きているとは思わなかったが、間違いない、あれはセルジオ・ロドリゲスの父親のヘラルド・ロドリゲスだろ!」
「おい!やめるんだ!」
ヘリックスが兵士の胸ぐらをつかんでそれ以上何も喋らせまいとするが、兵士は構うものかと言わんばかりに言葉を続けた。
「その爺さんの息子はハズール転覆を目論むテロリストだぞ!?お前はそれを知っていて合流しようとしてるんだろうが!」
まず、俺はそう言えばおじいさんの名前をチェックしていなかったことを思い出し鑑定でチェックしてみる。
ふむ……名前は確かにヘラルド・ロドリゲスだ。しかし、俺にはおじいさんが国家転覆と関係があるようには思えなかった。
「ヘリックスさん……俺にはちょっと状況が飲み込めてないんですが、ここまで話しちゃったことだし、全部話してみてくれませんか?」
「…………お前がセルジオと何の関係もないと、神に誓うか?」
「ええ、誓いましょう」
「…………いいだろう」
そして、ヘリックスは彼らの事情を話してくれた。
まず、彼らは鑑定の結果通り王国の兵士で間違っていなかった。しかも国王直属のエリートらしい。そして、そんなエリートがこんな片田舎で盗賊の真似事をしている理由だが、これがなかなか重たい話であった。
現在王都は、国王カストル・ハズーリウスを支持する国王派と、大公爵オスカー・シュトルンツを支持する大公派に分かれて対立しているらしい。カストルは、従来の平民のための公正な政治と平和主義に基づいた穏健外交を主張しているが、大公派はそれと逆行し、特権階級の権力強化と他国に対しての強硬外交を主張している。
なるほど……だが、ヘラルドさんの身分は庶民だ。息子が貴族階級だとは考えにくい。
「王都の対立構図は理解しました。しかしなぜ、平民のヘラルドさんの息子が貴族主義勢力に加担しているのですか?」
「……奴は……セルジオ・ロドリゲスは元々大公爵の屋敷に食料などを搬入するしがない運搬業者の従業員だった。しかし、次第に大公爵との結びつきを強くし、今では秘密裏に武器の納入まで請け負うほどの闇商人に成り果てたのだ。噂ではクーデター成功の暁には、やつに爵位が与えられるとまで言われている」
なるほど、それが本当だとすれば、おじいさんの息子は道を誤ってしまったことになる。
「我々が襲った馬車はそこのヘラルド・ロドリゲスと同じようにこのあたりに暮らす大公派の身内を王都に運ぶための輸送車だったというわけだ」
なるほど、それであんなにしっかりした馬車が手配されていたわけだ。そもそもアルフレドさんたちが来たときは馬車すら手配されていなかったというのに。
「では、盗賊のふりをして馬車を襲撃したのは?」
「王国軍が堂々と国民を斬れる訳がないであろう。そこの老翁とて、テロリストの身内ではあるが王国の民なのだ……我らとて直接的にはクーデターに関係のない国民を斬るのには抵抗があったし……なにより……」
「もし、王国軍が国民に手を出したことが誰かに知られれば、国民の信頼は一気に損なわれる、というわけですね?」
「……あぁ」
これでやっと話がつながってきた。
「もう良いか、分かったらヘラルドをこちらに引き渡せ」
「引き渡したら、おじいさんをどうするんです?」
「決まっているだろう、奴らへの見せしめに斬るのみ!」
やっぱりそうだよね?でもね、それじゃぁ解決しないと思うんだ。
「そうですか……分かりました」
「分かってくれたか、では……」
「ヘラルドさんを引き渡すことはお断りします」
槍を杖の代わりにし、フラフラと立ち上がろうとしていたヘリックスがズルっと手を滑らせた。
「な、なんだと!?貴様、今の話をちゃんと聞いていたのか?」
「えぇ、聞いていましたよ?ちょうど俺たちも今から王都に向かうことですし、状況を自分の目で確かめてから判断したいと思います。では、急ぎますので!」
そう言うと俺は、エストレーラに乗り込んだ。
「シ、シリウスさん……よくぞご無事で……」
「アハハ、僕は大丈夫です。それよりヘラルドさん、これから王都に向かうのですが驚かずに聞いてください」
「な、なんですか急に?」
ヘラルドさんは急に真剣なトーンになった俺に面食らい、不安そうな眼差しで俺を見つめている。
「王都にいるという貴方の息子さんは、セルジオ・ロドリゲスで間違いないですか?」
「な、なぜ息子の名前を……?」
「あなたの息子さんには国家転覆に加担している疑いがかけられている……俺はこのまま王都に向かい、その真偽を確かめたいと思います。疑いが晴れるまで、息子さんと再開させることは出来ませんが……それでも俺たちと一緒に王都に来ますか?」
ヘラルドさんは俺の言葉の意味を一瞬受け入れることが出来ず呆然としていたが、しばらくして強い目つきで俺に頷き返した。
「えぇ、お願いします。息子がもし本当にそのようなことに加担しているのだとすれば、ワシは親として息子を叱る義務がある」
「そうですか……分かりました。では、急ぎましょう」
俺はエストレーラの窓から顔をだすと、ヘリックスと兵士たちに行き先を告げた。
「では、俺たちは先に王都に向かいます。もしまた会うことがあれば、いずれどこかで!」
「な!ちょっと待て!」
ヘリックスが俺を引き留めようと声を張ったが、俺はそれをスルーしてアクセルを全開に踏み込んだ。
「それにしても……すごい乗り物ですな」
「そうでしょ!?これもおじいさんのおかげなんですから!」
そう言って俺はハンドルを叩いてみせた。
「おお!それはワシの操舵輪!こんなすごい乗り物に使ってもらえるとはソレもさぞ喜んでいることでしょう」
「大事に使わせていただきます!」
そんな話をしながらドライブを楽しんでいたら小さな村についたので、昼食をとったり保存食を買ったりした。
「ん……?」
「なんか……イヤな感じ」
村の人たちがエストレーラを珍しがるのは当然として、その中に明らかに敵意の混じった視線がいくつか混じっている。俺とシエナにはそれがなにかドロドロとしたとても気持ちの悪いものに感じられたのだ。
「ふ、二人ともどうしたんですか!?」
俺たちの雰囲気が変わったことに戸惑うおじいさん。
「いえ、何でもありません!そろそろ先に向かいましょっか!」
そして俺たちは村で調達した荷物をトランクに押し込むと、再び王都を目指して街道を南下しはじめた。
「……シリウス」
「あぁ……。おじいさん、もしかしたら今から盗賊に襲われるかもしれないですが、きっと大丈夫なので慌てず大人しくしててくださいね」
「盗賊!?この先にいるのですか?それなら逃げたほうが……」
おじいさんは自分が襲われた記憶が蘇ったのか、ひどく怯えている。
「勝てないと思ったらすぐに逃げます。このエストレーラで本気で逃げれば、馬じゃ追いつけないですから!」
そして俺は少し先に隠れているであろう盗賊を挑発するように敢えてえの速度を落としてゆっくりと道の真ん中を進んだ。もちろんエアバリアは展開済みだ。
すると思った通り茂みの陰からいかにも盗賊って感じの男が10人、さらに馬に乗ったやつが5人ほど姿を現した。
「ひぇぇ!シリウスさん!ア、アイツらですワシらの馬車を襲ったのは!」
なるほど……確かに見た目は盗賊風だけど。
俺は道をふさぐ彼らの前でエストレーラを停めた。
「シエナ、ちょっとあの人たちと直接話をしてくるよ。シエナは中でおじいさんについててあげて」
「はーい!」
そして俺はエストレーラから降りると、道を塞ぐ10数人の前に歩み出た。
「あー……えっと、道を塞がれると邪魔なのですが?」
「なっ!お前この状況が分かってんのか?」
「えっと……邪魔な人が道を塞いでさらに邪魔、ということくらいなら分かってますけど?」
「野郎……舐めやがって……大人しくその乗り物を差し出せば苦しまねえように殺してやるくらいの情けは掛けてやろうと思ったが、止めだ!」
そして男の一人が剣を抜いて俺に斬りかかった。
ふむ……剣はなかなか良いものを使っているし、構えは悪くない。しかしスピードが遅すぎて話にならない。
俺は連続で斬りつける男の攻撃をすべて躱し、みぞおちに一発入れて男をダウンさせた。
「な…っ!?テメェ……なにもんだ?」
男たちが一斉に剣を抜き、俺を取り囲んだ。
「えっと……あなたがリーダーであってますか?」
俺はそんなことなど気にもせず、馬上から俺を見下ろす一際雰囲気のある男に問いかけた。
「いかにも……私が盗賊団の棟梁アルトバイエルンである」
そんなソーセージみたいな名前の盗賊がおるか!ってことで早速鑑定を使ってチェック。
どれどれ……
「はいはい、ヘリックス・デューラーさんですね。えっと……ご身分は……少尉!軍人さんじゃないですか!?」
「なっ!?……そんなやつは知らん。一体何の話だ」
いやいや、ヘリックスさん。動揺が顔に浮き出てますよ?
「隠しても無駄です。俺にはちゃんと分かるので。そっちの人から順番に、ロバート、トーマス、カール、ヘルマン……」
一人ひとり指で指しながら名前を当てていくと、盗賊改め兵士たちの表情がみるみるうちに曇っていった。
「貴様……『鑑定』持ちか」
「ええ。もういいですか?じゃ本題に入りますが、まずなんで俺たちを襲ったんですか?」
「くっ………」
ヘリックスは苦虫をかみ潰したような顔でこちらを見ている。
「聞きたいことはまだあります。なぜ盗賊のまねごとなんか?そして北の街道で移動中の馬車を襲ったのはなぜです?」
「それは……言えん……」
ヘリックスは小さな声でそれだけ答えた。
「では、敵意を持ってこちらを襲ったことも、先の街道での一件もやったこと自体は認めるわけですね?」
「あぁ」
「「隊長!?」」
何人かの兵士が驚いて声を上げた。しかしヘリックスに動じる様子はない。
「でも、その理由は教えてくれない、と?」
「そう言ったはずだ。それに、ここまで我らの素性を知られた以上、残念だが生かしておくわけにはいかん……お前たち殺れ」
ヘリックスはどこか思いつめたような表情で、部下たちに命じた。部下たちもさすがは軍人、それぞれが武器を構えると鋭い殺気を放ってきた。
「悪く思うな。これも義のためである」
ヘリックスの言葉に合わせて、10数人の部下が一斉に襲いかかってきた。
俺はエアバリアで自分の周囲を覆った。兵士たちの剣撃が雨のように繰り返されるが、俺には触れる前に全て弾かれる。
「なんだと!?」
ヘリックスは名前を当てられたとき以上の驚きで目をまんまるに見開いている。
「貴様はいったい……」
「俺はただの村人ですよ?ところで、もう攻撃しても無駄なんで止めませんか?」
「チッ……きさまの魔力とて無限ではあるまい。総員、攻撃の手を止めるな!魔力切れまで削りきれ!」
まったく……エアバリアだけならまる一週間くらいは出しっぱなしにできるのに……そんなに付き合えるか!
俺は割と威力強めのスタンを自分の周りだけに発動させた。
バチッ!
「うわっ!」
鋼鉄製の剣を伝って電流が兵士たちを襲う。兵士たちは皆、手から剣を放して地面にうずくまった。
「ヘリックスさん……まだやります?」
「く……くそっ……」
ヘリックスと馬に乗った他の二人が大きな槍を構えてこちらにやってきた。
「止めましょうよ……」
「黙れ!我らにはなさねばならぬ使命がある!たとえ貴様に勝てぬとわかっていても、ここで引くことなどできぬわ!」
そして3人は槍で突いたり、薙いだりの攻撃を繰り返した。俺はもちろんなんともなかったが、彼らをそこまで必死にさせる「使命」とやらが気になったので、特に反撃もせずそのことについて考え事をしていた。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
「あの……使命ってなんですか?」
「黙れ!」
ダメだ……頭に血が上っていて話ができない……
残念だけどおとなしくなってもらう他ないので、俺は3人も他の兵士と同じようにスタンで無力化させた。
「ぐっ………化物め」
化物とは心外だ!俺の知ってる化物(ジルさん、アルマさん)は恐ろしく強いんだぞ?
「ね?無駄なことはやめて、その使命とやらを話してくださいよ。内容によっては俺たちはアンタたちの敵じゃなくなるかもしれないでしょ?」
「お、お前もどうせ奴らと合流するつもりなんだろうが!」
兵士の一人が突然意味不明なことを叫んだ。奴ら?合流?
「おい!黙らんか!」
ヘリックスが慌ててそれを制したがもう遅い。バッチリ聞いちゃったもんね。
「えっと……奴ら?合流?って何のことですか?」
「しらばっくれるな!そこの村でお前たちがロドリゲスの父親と一緒にいるところを見たんだぞ!それから王都に向かう、とも言っていたな!」
なんだろう、この会話は噛み合っていないけど、ところどころつながっているというなんともいえない気持ちの悪さは……
「えっと、ロドリゲスの父親、と言うのはあのおじいさんですか?」
俺はエストレーラの後部座席に座り、怯えた顔でこちらを見ているおじいさんを指差した。
「そうだ!まさかまだ生きているとは思わなかったが、間違いない、あれはセルジオ・ロドリゲスの父親のヘラルド・ロドリゲスだろ!」
「おい!やめるんだ!」
ヘリックスが兵士の胸ぐらをつかんでそれ以上何も喋らせまいとするが、兵士は構うものかと言わんばかりに言葉を続けた。
「その爺さんの息子はハズール転覆を目論むテロリストだぞ!?お前はそれを知っていて合流しようとしてるんだろうが!」
まず、俺はそう言えばおじいさんの名前をチェックしていなかったことを思い出し鑑定でチェックしてみる。
ふむ……名前は確かにヘラルド・ロドリゲスだ。しかし、俺にはおじいさんが国家転覆と関係があるようには思えなかった。
「ヘリックスさん……俺にはちょっと状況が飲み込めてないんですが、ここまで話しちゃったことだし、全部話してみてくれませんか?」
「…………お前がセルジオと何の関係もないと、神に誓うか?」
「ええ、誓いましょう」
「…………いいだろう」
そして、ヘリックスは彼らの事情を話してくれた。
まず、彼らは鑑定の結果通り王国の兵士で間違っていなかった。しかも国王直属のエリートらしい。そして、そんなエリートがこんな片田舎で盗賊の真似事をしている理由だが、これがなかなか重たい話であった。
現在王都は、国王カストル・ハズーリウスを支持する国王派と、大公爵オスカー・シュトルンツを支持する大公派に分かれて対立しているらしい。カストルは、従来の平民のための公正な政治と平和主義に基づいた穏健外交を主張しているが、大公派はそれと逆行し、特権階級の権力強化と他国に対しての強硬外交を主張している。
なるほど……だが、ヘラルドさんの身分は庶民だ。息子が貴族階級だとは考えにくい。
「王都の対立構図は理解しました。しかしなぜ、平民のヘラルドさんの息子が貴族主義勢力に加担しているのですか?」
「……奴は……セルジオ・ロドリゲスは元々大公爵の屋敷に食料などを搬入するしがない運搬業者の従業員だった。しかし、次第に大公爵との結びつきを強くし、今では秘密裏に武器の納入まで請け負うほどの闇商人に成り果てたのだ。噂ではクーデター成功の暁には、やつに爵位が与えられるとまで言われている」
なるほど、それが本当だとすれば、おじいさんの息子は道を誤ってしまったことになる。
「我々が襲った馬車はそこのヘラルド・ロドリゲスと同じようにこのあたりに暮らす大公派の身内を王都に運ぶための輸送車だったというわけだ」
なるほど、それであんなにしっかりした馬車が手配されていたわけだ。そもそもアルフレドさんたちが来たときは馬車すら手配されていなかったというのに。
「では、盗賊のふりをして馬車を襲撃したのは?」
「王国軍が堂々と国民を斬れる訳がないであろう。そこの老翁とて、テロリストの身内ではあるが王国の民なのだ……我らとて直接的にはクーデターに関係のない国民を斬るのには抵抗があったし……なにより……」
「もし、王国軍が国民に手を出したことが誰かに知られれば、国民の信頼は一気に損なわれる、というわけですね?」
「……あぁ」
これでやっと話がつながってきた。
「もう良いか、分かったらヘラルドをこちらに引き渡せ」
「引き渡したら、おじいさんをどうするんです?」
「決まっているだろう、奴らへの見せしめに斬るのみ!」
やっぱりそうだよね?でもね、それじゃぁ解決しないと思うんだ。
「そうですか……分かりました」
「分かってくれたか、では……」
「ヘラルドさんを引き渡すことはお断りします」
槍を杖の代わりにし、フラフラと立ち上がろうとしていたヘリックスがズルっと手を滑らせた。
「な、なんだと!?貴様、今の話をちゃんと聞いていたのか?」
「えぇ、聞いていましたよ?ちょうど俺たちも今から王都に向かうことですし、状況を自分の目で確かめてから判断したいと思います。では、急ぎますので!」
そう言うと俺は、エストレーラに乗り込んだ。
「シ、シリウスさん……よくぞご無事で……」
「アハハ、僕は大丈夫です。それよりヘラルドさん、これから王都に向かうのですが驚かずに聞いてください」
「な、なんですか急に?」
ヘラルドさんは急に真剣なトーンになった俺に面食らい、不安そうな眼差しで俺を見つめている。
「王都にいるという貴方の息子さんは、セルジオ・ロドリゲスで間違いないですか?」
「な、なぜ息子の名前を……?」
「あなたの息子さんには国家転覆に加担している疑いがかけられている……俺はこのまま王都に向かい、その真偽を確かめたいと思います。疑いが晴れるまで、息子さんと再開させることは出来ませんが……それでも俺たちと一緒に王都に来ますか?」
ヘラルドさんは俺の言葉の意味を一瞬受け入れることが出来ず呆然としていたが、しばらくして強い目つきで俺に頷き返した。
「えぇ、お願いします。息子がもし本当にそのようなことに加担しているのだとすれば、ワシは親として息子を叱る義務がある」
「そうですか……分かりました。では、急ぎましょう」
俺はエストレーラの窓から顔をだすと、ヘリックスと兵士たちに行き先を告げた。
「では、俺たちは先に王都に向かいます。もしまた会うことがあれば、いずれどこかで!」
「な!ちょっと待て!」
ヘリックスが俺を引き留めようと声を張ったが、俺はそれをスルーしてアクセルを全開に踏み込んだ。
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異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
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