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第1章 幼少期編
第18話 旧友の面影
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ジルに遅れて小屋から出てきた3人も、外の変わり果てた様子に驚きを隠せずにいた。
「シエナ……何をしたのか話してみなさい」
アルマさんがシエナに歩み寄った。シエナはビクッと肩を震わせたが、やがておどおどとした口調で言葉を紡ぎ出した。
「あのね……シリウスのピカってなる魔法がね……すっごくてね、それでシエナもやってみたくって……でも失敗しちゃったの……」
「えっと……アルマさん、本当にすみませんでした。僕が下手に教えたもんだから……」
「まぁ二人とも怪我がなくてよかったわ」
「だが、俺の手入れした庭をこんなにしちまったわけだし、二人には罰を受けてもらわなきゃなぁ」
罰と聞いてシエナの肩がまたビクリと震えた。
死ぬほどのバツではないだろうし、ここは俺が一人で受けよう。
「あの…罰はどうか僕一人に……」
「罰として、二人で庭の片付け。それからついでに草むしり、今回はそのくらいにしといてやる」
あれ?思ったより罰が軽い……まぁそれで許してくれるんだったらラッキーだ。
「はい!じゃぁシエナちゃんさっそく片付けに取りかかろう」
「うん!」
そして俺達は二人そろって木々の残がいを集めはじめた。
◇◆◇◆◇
「ジル、貴方も思い出したんじゃないの?カノープスから魔法を教わって……」
「さぁ、なんの話だか……じゃ、俺達は中に戻るとするか」
ジルはそういうと足早に小屋の中へと戻っていった。
「ウフフ……あの人も昔、カノープスから魔法を教わって派手に失敗したことがあるのよ?そのときはこんなものじゃなくて、まるで隕石でも落ちたような大きなクレーターが出来たと言ってたわ…」
「そ、それはそれは……」
アルフレドとララはあまりにスケールの大きな話に言葉を失っていた。
◇◆◇◆◇
俺達が木々の片付けと広大な庭(山頂)の草むしりを終えた頃にはすっかり夕方になっていた。
「あれ……?ここは空模様が変わるんだ」
「え?シリウスなにか言った?」
「ううん、なんでもないよ!これで罰もちゃんと受けたし、僕たちも小屋の中に戻ろうか?」
「うん!」
すっかり俺に懐いたシエナは元気よく俺に飛びつくと、腕を組んだような形で一緒に小屋まで向かった。
すごく可愛い子だけど、さすがの俺も子ども相手にはキョドらないよ?
「パパ、終わったよー!」
シエナが勢いよく小屋のドアを開けた。
「あらあら、頑張ったわねぇ」
アルマさんは何やら含みのある笑みを浮かべている。
「な!?おい、シリウス。うちの娘と距離が随分と近いじゃないか?」
アルフレドさんたちの顔が引きつっている……これは多分威圧してるな。
「パパ、シリウスいじめたら嫌い!」
「な!?はぁ!?違う…いや違わねえ……分かった、分かったから」
シエナの一言でジルさんは威圧を解いた。
「クスクス……」
アルマさんは変わらずニコニコしている。
「ったく……まぁそれはさておき、二人とも庭掃除ご苦労だった。今日はもう遅いし3人とも泊まっていくといい」
「わーい!」
シエナは飛び上がるほど喜び、また俺にくっついてきた。
「っ!シエナ、やっぱりちょっと近いんじゃないかなぁ?」
「いいの!ね?シリウス?」
「え?…あぁ!もちろん!」
ジルさんは不満そうに俺をにらみつけるけど、パワーバランス的にこの場合、シエナについておく方が得策だ。
夕食は6人でテーブルを囲んだ。俺たち人間は魔物の肉を食べられないから、今日の夕飯は野菜メインのヘルシーなものだった。食事をしながら俺は日中大人たちが話していたこと、主にカノープスという人のことを聞いた。確か、ガラクの持ってきた古い本にもそんな人の話があったようなきがする。
「……ところでシリウス、お前はこれからどうするつもりだ?」
突拍子もなくジルさんが訪ねた。突然どうしたんだろ?
「今はまだ子供の身なのでおとなしくしてますが……将来は商いをしながら世界を旅して周りたいと思っています」
「ほう……なぜだ?」
まぁ、俺の答えは決まっているし、特に飾る必要もないだろう。
「……笑わないでくださいね?僕の世界はあまりに狭い。ここから僕の村の隣の村くらいまでです。でも、そんな狭い世界で一生を終えるのがもったいないというか……ひどく損をしていることのように思えるんです」
「損か……商いをしたいというのも所詮は金儲けが目的か?」
「うちが貧しいので、金儲けというのも全く野心がないわけではありませんが……僕がやりたい商いは人に感謝されながらモノを流通させる仕事です」
「フン……綺麗事だな」
ジルさんがやけに突っかかってくるな……一体どうしたんだろ?
「綺麗事と言われても良いんです。ジルさんは僕が「商い」と言ったとき、瞬時に「金儲け」と考えましたよね?今の人の社会ではそれがあたりまえだと思っているからですよね?」
「……そうだな」
「商いは本来、人に感謝されてその対価にお金をもらうものです。決して嘘や驕りがあってはいけない」
「だから、それが綺麗事なんだって言って……」
「じゃぁ、そんな世界なんてぶっ壊します!」
「っ……!!」
ジルさんだけでなくアルフレドさんやララさんまで目を丸くしている。
「あ…えっと、誤解しないでくださいね!僕は別に世界を滅亡させようだなんて思ってないですよ??ただ、世界が間違った固定観念をもっているなら僕はそれを全力で正します……営業マンは断じて詐欺師ではない!」
「え、営業マン?」
「あ、いえ、それはこっちの話です。忘れてください!」
「フフ…フフフフフ…ジル、もうそのくらいで良いでしょ?」
「フン……俺は寝る!」
ジルさんはそう言うと部屋の一つに入っていった。
「シリウス君、ジルは貴方のことが気に入っているのよ?」
「え?てっきり怒らせちゃったのかと思ってました」
アルマさんは穏やかに微笑んだ。
「さっき、ジルが仲良くしていたカノープスという人族の話は聞いたわね?彼は今でこそ「勇者」「英雄」なんて呼ばれているらしいけど、最初にジルが出会った頃は喧嘩もできないような、それはそれは気の小さい青年だったそうよ」
「そうなんですか?」
「えぇ。最終的には、彼の持つ貴方と同じスキルとジルの稽古のお陰で人間離れしたステータスになったそうだけど、最初の頃は全然だったって言ってたわね」
「……意外です」
「そんなカノープスはね、貴方と同じように世界の不条理を本気で変えようとしていたのよ。身分による差別、力を持つものの一方的な搾取、そんな世界を変えてやるって必死になっていたらしいわ」
「へぇ……」
「シリウス、貴方が「世界を壊す」って言ったときあの人驚いてたでしょ?アレはそういうこと」
「カノープスさんも……同じことを?」
「そうよ。ジルがカノープスに出会った最初から、ずっと言い続けていたことよ」
オホンオホン……
隣の部屋からタイミングよく咳払いが聞こえた。
「あらあら、ジルに怒られちゃうからこのくらいにしときましょうか。さて、みんなもうすっかり遅くなったし今日は休みましょう。シエナ、ママとあっちのお部屋に行きましょうね?」
「むにゃむにゃ……はーい」
すっかり忘れてたけど、シエナはいつの間にかウトウトしていたようだ。
「ではワシらもお言葉に甘えて寝室をお借りします」
「どうぞどうぞ、ではおやすみなさい」
そして俺達は客間に移動しそのまますぐに眠りに落ちた。
◇◆◇◆◇
「シエナももう寝ましたよ?」
「そうか……」
寝室にはアルマの寝支度の音だけがよく通った。
「シエナもずいぶん彼にはなついたみたいですわね?」
「そうだな……」
「シリウス君、そんなにカノープスに似てました?」
「……ああ……」
「フフフ、たしかにアレだけ真っ直ぐな人の子は見たことがありませんわ。彼なら本当に人の世界を変えられるかもしれない、って期待してしまいますわね」
「…………ちっ」
ジルもアルマも、お互いにそれ以上何も言うことはなかった。
「シエナ……何をしたのか話してみなさい」
アルマさんがシエナに歩み寄った。シエナはビクッと肩を震わせたが、やがておどおどとした口調で言葉を紡ぎ出した。
「あのね……シリウスのピカってなる魔法がね……すっごくてね、それでシエナもやってみたくって……でも失敗しちゃったの……」
「えっと……アルマさん、本当にすみませんでした。僕が下手に教えたもんだから……」
「まぁ二人とも怪我がなくてよかったわ」
「だが、俺の手入れした庭をこんなにしちまったわけだし、二人には罰を受けてもらわなきゃなぁ」
罰と聞いてシエナの肩がまたビクリと震えた。
死ぬほどのバツではないだろうし、ここは俺が一人で受けよう。
「あの…罰はどうか僕一人に……」
「罰として、二人で庭の片付け。それからついでに草むしり、今回はそのくらいにしといてやる」
あれ?思ったより罰が軽い……まぁそれで許してくれるんだったらラッキーだ。
「はい!じゃぁシエナちゃんさっそく片付けに取りかかろう」
「うん!」
そして俺達は二人そろって木々の残がいを集めはじめた。
◇◆◇◆◇
「ジル、貴方も思い出したんじゃないの?カノープスから魔法を教わって……」
「さぁ、なんの話だか……じゃ、俺達は中に戻るとするか」
ジルはそういうと足早に小屋の中へと戻っていった。
「ウフフ……あの人も昔、カノープスから魔法を教わって派手に失敗したことがあるのよ?そのときはこんなものじゃなくて、まるで隕石でも落ちたような大きなクレーターが出来たと言ってたわ…」
「そ、それはそれは……」
アルフレドとララはあまりにスケールの大きな話に言葉を失っていた。
◇◆◇◆◇
俺達が木々の片付けと広大な庭(山頂)の草むしりを終えた頃にはすっかり夕方になっていた。
「あれ……?ここは空模様が変わるんだ」
「え?シリウスなにか言った?」
「ううん、なんでもないよ!これで罰もちゃんと受けたし、僕たちも小屋の中に戻ろうか?」
「うん!」
すっかり俺に懐いたシエナは元気よく俺に飛びつくと、腕を組んだような形で一緒に小屋まで向かった。
すごく可愛い子だけど、さすがの俺も子ども相手にはキョドらないよ?
「パパ、終わったよー!」
シエナが勢いよく小屋のドアを開けた。
「あらあら、頑張ったわねぇ」
アルマさんは何やら含みのある笑みを浮かべている。
「な!?おい、シリウス。うちの娘と距離が随分と近いじゃないか?」
アルフレドさんたちの顔が引きつっている……これは多分威圧してるな。
「パパ、シリウスいじめたら嫌い!」
「な!?はぁ!?違う…いや違わねえ……分かった、分かったから」
シエナの一言でジルさんは威圧を解いた。
「クスクス……」
アルマさんは変わらずニコニコしている。
「ったく……まぁそれはさておき、二人とも庭掃除ご苦労だった。今日はもう遅いし3人とも泊まっていくといい」
「わーい!」
シエナは飛び上がるほど喜び、また俺にくっついてきた。
「っ!シエナ、やっぱりちょっと近いんじゃないかなぁ?」
「いいの!ね?シリウス?」
「え?…あぁ!もちろん!」
ジルさんは不満そうに俺をにらみつけるけど、パワーバランス的にこの場合、シエナについておく方が得策だ。
夕食は6人でテーブルを囲んだ。俺たち人間は魔物の肉を食べられないから、今日の夕飯は野菜メインのヘルシーなものだった。食事をしながら俺は日中大人たちが話していたこと、主にカノープスという人のことを聞いた。確か、ガラクの持ってきた古い本にもそんな人の話があったようなきがする。
「……ところでシリウス、お前はこれからどうするつもりだ?」
突拍子もなくジルさんが訪ねた。突然どうしたんだろ?
「今はまだ子供の身なのでおとなしくしてますが……将来は商いをしながら世界を旅して周りたいと思っています」
「ほう……なぜだ?」
まぁ、俺の答えは決まっているし、特に飾る必要もないだろう。
「……笑わないでくださいね?僕の世界はあまりに狭い。ここから僕の村の隣の村くらいまでです。でも、そんな狭い世界で一生を終えるのがもったいないというか……ひどく損をしていることのように思えるんです」
「損か……商いをしたいというのも所詮は金儲けが目的か?」
「うちが貧しいので、金儲けというのも全く野心がないわけではありませんが……僕がやりたい商いは人に感謝されながらモノを流通させる仕事です」
「フン……綺麗事だな」
ジルさんがやけに突っかかってくるな……一体どうしたんだろ?
「綺麗事と言われても良いんです。ジルさんは僕が「商い」と言ったとき、瞬時に「金儲け」と考えましたよね?今の人の社会ではそれがあたりまえだと思っているからですよね?」
「……そうだな」
「商いは本来、人に感謝されてその対価にお金をもらうものです。決して嘘や驕りがあってはいけない」
「だから、それが綺麗事なんだって言って……」
「じゃぁ、そんな世界なんてぶっ壊します!」
「っ……!!」
ジルさんだけでなくアルフレドさんやララさんまで目を丸くしている。
「あ…えっと、誤解しないでくださいね!僕は別に世界を滅亡させようだなんて思ってないですよ??ただ、世界が間違った固定観念をもっているなら僕はそれを全力で正します……営業マンは断じて詐欺師ではない!」
「え、営業マン?」
「あ、いえ、それはこっちの話です。忘れてください!」
「フフ…フフフフフ…ジル、もうそのくらいで良いでしょ?」
「フン……俺は寝る!」
ジルさんはそう言うと部屋の一つに入っていった。
「シリウス君、ジルは貴方のことが気に入っているのよ?」
「え?てっきり怒らせちゃったのかと思ってました」
アルマさんは穏やかに微笑んだ。
「さっき、ジルが仲良くしていたカノープスという人族の話は聞いたわね?彼は今でこそ「勇者」「英雄」なんて呼ばれているらしいけど、最初にジルが出会った頃は喧嘩もできないような、それはそれは気の小さい青年だったそうよ」
「そうなんですか?」
「えぇ。最終的には、彼の持つ貴方と同じスキルとジルの稽古のお陰で人間離れしたステータスになったそうだけど、最初の頃は全然だったって言ってたわね」
「……意外です」
「そんなカノープスはね、貴方と同じように世界の不条理を本気で変えようとしていたのよ。身分による差別、力を持つものの一方的な搾取、そんな世界を変えてやるって必死になっていたらしいわ」
「へぇ……」
「シリウス、貴方が「世界を壊す」って言ったときあの人驚いてたでしょ?アレはそういうこと」
「カノープスさんも……同じことを?」
「そうよ。ジルがカノープスに出会った最初から、ずっと言い続けていたことよ」
オホンオホン……
隣の部屋からタイミングよく咳払いが聞こえた。
「あらあら、ジルに怒られちゃうからこのくらいにしときましょうか。さて、みんなもうすっかり遅くなったし今日は休みましょう。シエナ、ママとあっちのお部屋に行きましょうね?」
「むにゃむにゃ……はーい」
すっかり忘れてたけど、シエナはいつの間にかウトウトしていたようだ。
「ではワシらもお言葉に甘えて寝室をお借りします」
「どうぞどうぞ、ではおやすみなさい」
そして俺達は客間に移動しそのまますぐに眠りに落ちた。
◇◆◇◆◇
「シエナももう寝ましたよ?」
「そうか……」
寝室にはアルマの寝支度の音だけがよく通った。
「シエナもずいぶん彼にはなついたみたいですわね?」
「そうだな……」
「シリウス君、そんなにカノープスに似てました?」
「……ああ……」
「フフフ、たしかにアレだけ真っ直ぐな人の子は見たことがありませんわ。彼なら本当に人の世界を変えられるかもしれない、って期待してしまいますわね」
「…………ちっ」
ジルもアルマも、お互いにそれ以上何も言うことはなかった。
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