元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台

文字の大きさ
上 下
18 / 75
第1章 幼少期編

第18話 旧友の面影

しおりを挟む
 ジルに遅れて小屋から出てきた3人も、外の変わり果てた様子に驚きを隠せずにいた。

「シエナ……何をしたのか話してみなさい」

 アルマさんがシエナに歩み寄った。シエナはビクッと肩を震わせたが、やがておどおどとした口調で言葉を紡ぎ出した。

「あのね……シリウスのピカってなる魔法がね……すっごくてね、それでシエナもやってみたくって……でも失敗しちゃったの……」

「えっと……アルマさん、本当にすみませんでした。僕が下手に教えたもんだから……」

「まぁ二人とも怪我がなくてよかったわ」

「だが、俺の手入れした庭をこんなにしちまったわけだし、二人には罰を受けてもらわなきゃなぁ」

 罰と聞いてシエナの肩がまたビクリと震えた。
死ぬほどのバツではないだろうし、ここは俺が一人で受けよう。

「あの…罰はどうか僕一人に……」

「罰として、二人で庭の片付け。それからついでに草むしり、今回はそのくらいにしといてやる」
 
 あれ?思ったより罰が軽い……まぁそれで許してくれるんだったらラッキーだ。

「はい!じゃぁシエナちゃんさっそく片付けに取りかかろう」

「うん!」

 そして俺達は二人そろって木々の残がいを集めはじめた。


◇◆◇◆◇

「ジル、貴方も思い出したんじゃないの?カノープスから魔法を教わって……」

「さぁ、なんの話だか……じゃ、俺達は中に戻るとするか」

 ジルはそういうと足早に小屋の中へと戻っていった。

「ウフフ……あの人も昔、カノープスから魔法を教わって派手に失敗したことがあるのよ?そのときはこんなものじゃなくて、まるで隕石でも落ちたような大きなクレーターが出来たと言ってたわ…」

「そ、それはそれは……」

 アルフレドとララはあまりにスケールの大きな話に言葉を失っていた。

◇◆◇◆◇

 俺達が木々の片付けと広大な庭(山頂)の草むしりを終えた頃にはすっかり夕方になっていた。

「あれ……?ここは空模様が変わるんだ」

「え?シリウスなにか言った?」

「ううん、なんでもないよ!これで罰もちゃんと受けたし、僕たちも小屋の中に戻ろうか?」

「うん!」

 すっかり俺に懐いたシエナは元気よく俺に飛びつくと、腕を組んだような形で一緒に小屋まで向かった。

 すごく可愛い子だけど、さすがの俺も子ども相手にはキョドらないよ?

「パパ、終わったよー!」

 シエナが勢いよく小屋のドアを開けた。

「あらあら、頑張ったわねぇ」

 アルマさんは何やら含みのある笑みを浮かべている。

「な!?おい、シリウス。うちの娘と距離が随分と近いじゃないか?」

 アルフレドさんたちの顔が引きつっている……これは多分威圧してるな。

「パパ、シリウスいじめたら嫌い!」

「な!?はぁ!?違う…いや違わねえ……分かった、分かったから」

 シエナの一言でジルさんは威圧を解いた。

「クスクス……」

 アルマさんは変わらずニコニコしている。

「ったく……まぁそれはさておき、二人とも庭掃除ご苦労だった。今日はもう遅いし3人とも泊まっていくといい」

「わーい!」

 シエナは飛び上がるほど喜び、また俺にくっついてきた。
 
「っ!シエナ、やっぱりちょっと近いんじゃないかなぁ?」

「いいの!ね?シリウス?」

「え?…あぁ!もちろん!」

 ジルさんは不満そうに俺をにらみつけるけど、パワーバランス的にこの場合、シエナについておく方が得策だ。

 夕食は6人でテーブルを囲んだ。俺たち人間は魔物の肉を食べられないから、今日の夕飯は野菜メインのヘルシーなものだった。食事をしながら俺は日中大人たちが話していたこと、主にカノープスという人のことを聞いた。確か、ガラクの持ってきた古い本にもそんな人の話があったようなきがする。
 
「……ところでシリウス、お前はこれからどうするつもりだ?」

 突拍子もなくジルさんが訪ねた。突然どうしたんだろ?

「今はまだ子供の身なのでおとなしくしてますが……将来は商いをしながら世界を旅して周りたいと思っています」

「ほう……なぜだ?」

 まぁ、俺の答えは決まっているし、特に飾る必要もないだろう。

「……笑わないでくださいね?僕の世界はあまりに狭い。ここから僕の村の隣の村くらいまでです。でも、そんな狭い世界で一生を終えるのがもったいないというか……ひどく損をしていることのように思えるんです」

「損か……商いをしたいというのも所詮は金儲けが目的か?」

「うちが貧しいので、金儲けというのも全く野心がないわけではありませんが……僕がやりたい商いは人に感謝されながらモノを流通させる仕事です」

「フン……綺麗事だな」

 ジルさんがやけに突っかかってくるな……一体どうしたんだろ?

「綺麗事と言われても良いんです。ジルさんは僕が「商い」と言ったとき、瞬時に「金儲け」と考えましたよね?今の人の社会ではそれがあたりまえだと思っているからですよね?」

「……そうだな」

「商いは本来、人に感謝されてその対価にお金をもらうものです。決して嘘や驕りがあってはいけない」

「だから、それが綺麗事なんだって言って……」

「じゃぁ、そんな世界なんてぶっ壊します!」

「っ……!!」

 ジルさんだけでなくアルフレドさんやララさんまで目を丸くしている。

「あ…えっと、誤解しないでくださいね!僕は別に世界を滅亡させようだなんて思ってないですよ??ただ、世界が間違った固定観念をもっているなら僕はそれを全力で正します……営業マンは断じて詐欺師ではない!」

「え、営業マン?」

「あ、いえ、それはこっちの話です。忘れてください!」

「フフ…フフフフフ…ジル、もうそのくらいで良いでしょ?」

「フン……俺は寝る!」

 ジルさんはそう言うと部屋の一つに入っていった。

「シリウス君、ジルは貴方のことが気に入っているのよ?」

「え?てっきり怒らせちゃったのかと思ってました」

 アルマさんは穏やかに微笑んだ。

「さっき、ジルが仲良くしていたカノープスという人族の話は聞いたわね?彼は今でこそ「勇者」「英雄」なんて呼ばれているらしいけど、最初にジルが出会った頃は喧嘩もできないような、それはそれは気の小さい青年だったそうよ」

「そうなんですか?」

「えぇ。最終的には、彼の持つ貴方と同じスキルとジルの稽古のお陰で人間離れしたステータスになったそうだけど、最初の頃は全然だったって言ってたわね」

「……意外です」

「そんなカノープスはね、貴方と同じように世界の不条理を本気で変えようとしていたのよ。身分による差別、力を持つものの一方的な搾取、そんな世界を変えてやるって必死になっていたらしいわ」

「へぇ……」

「シリウス、貴方が「世界を壊す」って言ったときあの人驚いてたでしょ?アレはそういうこと」

「カノープスさんも……同じことを?」

「そうよ。ジルがカノープスに出会った最初から、ずっと言い続けていたことよ」

 オホンオホン……

 隣の部屋からタイミングよく咳払いが聞こえた。 

「あらあら、ジルに怒られちゃうからこのくらいにしときましょうか。さて、みんなもうすっかり遅くなったし今日は休みましょう。シエナ、ママとあっちのお部屋に行きましょうね?」

「むにゃむにゃ……はーい」

 すっかり忘れてたけど、シエナはいつの間にかウトウトしていたようだ。
 
「ではワシらもお言葉に甘えて寝室をお借りします」

「どうぞどうぞ、ではおやすみなさい」

 そして俺達は客間に移動しそのまますぐに眠りに落ちた。

◇◆◇◆◇

「シエナももう寝ましたよ?」

「そうか……」

 寝室にはアルマの寝支度の音だけがよく通った。

「シエナもずいぶん彼にはなついたみたいですわね?」

「そうだな……」

「シリウス君、そんなにカノープスに似てました?」

「……ああ……」

「フフフ、たしかにアレだけ真っ直ぐな人の子は見たことがありませんわ。彼なら本当に人の世界を変えられるかもしれない、って期待してしまいますわね」

「…………ちっ」

 ジルもアルマも、お互いにそれ以上何も言うことはなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル
ファンタジー
 病弱で寝たきりの少年「立原隆人」はある日他界する。そんな彼の意志に残ったのは『もっと強い体が欲しい』。       そんな彼の意志と強靭な魂は世界の壁を越え異世界へとたどり着く。でも目覚めたのは真っ暗なダンジョンの奥地で…?  これは異世界で新たな肉体を得た立原隆人-リュートがパワーレベリングして得たぶっ飛んだレベルとチートっぽいスキルをひっさげアヴァロンを王道ルートまっしぐら、テンプレート通りに謳歌する物語。  初投稿作品です。つたない文章だと思いますが温かい目で見ていただけたらと思います。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...