17 / 75
第1章 幼少期編
第17話 龍族の娘
しおりを挟む
シエナと呼ばれた少女はジルさんに抱きあげられ機嫌が良さそうだ。
それにしても、本当にキレイな子だ……髪は淡いブルーで角はまだない。尻尾が無ければどこからどう見ても人族だ。
「パパ、この人たちだあれ?」
「この人たちはお客さんだよ。シエナ、ちゃんと挨拶しなさい」
「はーい!」
そして少女は俺たち3人の前に駆けてくると満面の笑みで挨拶をした。
「こんにちは!シエナスティアです!シエナって呼んでください!」
「僕はシリウス、よろしくね!」
普通に近所の子供に挨拶するくらいの感じで返したんだけどまたアルフレドさんを驚かせてしまったようだ。
「こ、これ……ワシはアルフレドと申します、こちらが従者のララですじゃ」
「は、はじめまして!ララです」
そう言って二人は恭しく頭を下げた。
「ったく……人の子というのはいつになっても堅苦しいな」
ジルさんもさすがに少し呆れている。
「おいシリウス、俺はそこの二人から人の領域の情報を聞きたい。悪いがシエナと遊んでてやってくれるか?」
「いいですよ?じゃぁシエナちゃん遊ぼっか!」
フッフッフ……何を隠そうこの俺こと近藤涼介、前世では「子供に好かれる男」で通っていたのだ!腕を磨くために保育園ボランティアをやったこともある。社内のBBQなんかでは子どもたちのヒーローとして絶大な人気を誇っていたのだ!
「シエナ、シリウスにあまりわがままを言ってはいけませんよ?」
「はーい!」
そして大人たちは連れ立って小屋の中に入っていった。
「シエナちゃん、何して遊ぼっか?」
「うーん……鬼ごっこ!」
「 オッケー!じゃぁ僕が10秒数えるからその間に逃げてね!いーち、にー、さーん…」
先に言っておくと、俺はこの時完全に相手が龍族だということを忘れていた。そしてそれが致命的だった……
10秒数え終わってぐるりと周りを見渡すと、シエナは10メートルくらい先でこちらを見ていた。
じゃぁいっちょ遊んでやるか!
「行くよー!」
俺は小走りにシエナに向かって走り出した。そして二人の距離があと1メートルもなくなったところで
「キャハハハ!」
一瞬で加速したシエナがあっという間にまた10メートル先に走り去っていた。
「……え?」
足速すぎじゃね?これは俺もちょっと本気を出さないとまずいかもしれないな……
そんなわけで、結構な全力ダッシュでシエナを追いかけた。
「アハハ!キャハハ!」
シエナの様子は無邪気に遊び回る日本の保育園児と全く同じなのだが……スピードが桁違いだ。こっちはガチで走っているというのに、向こうは所詮鬼ごっこといったところ……
そんな追いかけっこを30分ほど続けて、俺は結局シエナに一度もタッチできなかった……
「はぁっはぁっ……シエナちゃん足速いね!」
「エヘヘ!パパとママにも褒められるんだよ!」
俺はそのスキに自分に癒やしの光を当ててスタミナを回復させた。とりあえず、これでまだしばらくは走れる。
【スキル『日進月歩』の効果により素早さが80から90に上がりました】
【スキル『日進月歩』の効果によりスタミナが160から170に上がりました】
おぉ!ここでこの2つのステータスアップはありがたい。っていうかこの鬼ごっこ、俺にとってめちゃくちゃいい修行になってるんじゃないか?
というわけで、再び追いかけっこを再開したわけだけど、全然ダメ!シエナ足早すぎるだろ!一体どんな素早さしてるんだ、まったく……ということで鑑定してみた。
今度は阻害されなかったけど、驚いてアゴが外れるかと思った。
【ステータス】
名称:シエナスティア
種族:龍族
身分:--
Lv:6
HP:385
MP:329
状態:正常
物理攻撃力:128
物理防御力:159
魔法攻撃力:320
魔法防御力:361
得意属性:龍光・龍風・龍炎
苦手属性:--
素早さ:231
スタミナ:376
知性:280
精神:219
運 :156
保有スキル:
(龍種)覇者
(一般)鑑定(一般)狩人
保有魔法:
龍光魔法:再生、状態異常回復
龍風魔法:暴風、圧縮空気砲
龍火魔法:業炎
………は??
思わずステータスを2度見する……
………なんだこれ!?チート?
想像の斜め上、ってか真上ね。まぁまずは当初の目的だった素早さ……倍以上違うんですけど?こんなん追いつけるか!
他にも一個一個見ていくとツッコミどころしかないのでやめとこう……
とりあえず、龍族の魔法は俺達の使う魔法の上位互換っぽいな、ってことぐらいはチェックしておいた。
俺が上回ってるの知性と精神と運……うん、ビミョー……
「ね、ねぇシエナちゃん、他にはどんな遊びが好き?」
「うーんとね……かくれんぼ!シエナ、見つけるの得意!パパとやるといつもシエナが見つけるよ!」
こんな何もないところでかくれんぼ!?ジルさんもよくやるな……まぁ一回くらいならいっか。
「よ、よし!じゃぁ僕が隠れるから30まで数えたら探してね!」
「うん!」
シエナは目をつぶって耳を塞ぎ、その場で数を数え始めた。俺は一応足音を出さないように気をつけながら近くの茂みに隠れた。
「………さーんじゅう!行くよー!」
シエナはぐるりと360度周りを見渡すと、一直線にこっちに向かって歩いてきた。
「みーつけた!シリウス、ダメだよ!ちゃんと気配を消さないと!」
「け、気配!?」
ふくれっ面のシエナ。いや、そんなに怒られても普通気配の消し方なんか知らないよね?
でもきっとシエナのスキル『狩人』の効果ですぐ分かっちゃうんだろうな。
「むぅーっ!シエナが教えてあげる!」
…………
………
……
…
そんなわけで俺はシエナのかくれんぼ講座に付き合わされたわけだけど、その甲斐あってスキル『隠密』まで覚えてしまった。シエナと同じ『狩人』じゃない理由はよくわからない。
その後スキルを習得しかくれんぼレベルの上がったた俺にすっかり気分を良くしたシエナと延々かくれんぼを続ける事になったのであった……
◇◆◇◆◇
アルフレドとララは小屋の中に通されるとアルマに促されるままにソファに腰を下ろした。
「人の作る『家具』というのは実に便利よなぁ。龍族も皆愛用している」
小屋の中のテーブルやソファはそれなりにこだわりの感じられるオシャレなものが多く、ジルやアルマのセンスを感じ取ることが出来た。
アルフレドはジルとアルマに現在の人の世界の様子を語って聞かせた。
「……なるほどなぁ。人間ってのは弱いくせにいつになっても争う生きもんだよなぁ」
「まったくですじゃ……」
「あらあら、でもジルはそんな人の世が好きだったじゃない?」
「アルマ……いったいいつの話をしてるんだ?」
「ウフフ、私達からしたらほんのすこし前のことですよ」
「なんと!ジル様は人の世界に入ったことがお有りなのですか?」
「ん?あぁ……かれこれ300年は前の話だがなぁ」
ジルはそう言うと昔を懐かしむような遠い目で窓の外を見つめた。
「なんのきっかけだったかは忘れたが仲の良くなった人の子がいてな、そいつとしばらく色んな所を旅して回ったのさ」
「ウフフ……なんと言いましたっけ?その人の子は確か……」
「カノープスだったかな?」
「ウフフ……だったかな、ですって。今でも時々思い出すくせに。貴方が急に何十年も全然うちに帰ってこずに外をぶらつくものだから、私だって少しはジルの浮気を心配したのよ?」
「おいおい、短命な人の子の名前なんかとうに忘れちまったさ。それに何十年って……ほんの30年くらいのもんだろう?しかも時々ちゃんと顔は出しに帰ってたじゃないか」
「ウフフ……そうね」
「カ、カノープス……そうおっしゃいましたか?しかも300年前といえば救世の英雄「カノープス・ハズーリウス様」ではありませぬか?」
「……あぁ、そんな名だったなぁ」
「こ、これはたまげましたわい……ララよ、お主もカノープス様の伝説は知っておろう?」
「も、もちろんです!学校で一番最初に習う教科書に載っていますもの!」
アルフレドとララは目の前に座る龍族が、王国の始祖にして世界を救った英雄の友人だったという衝撃の事実に平静を保つことなどできなかった。
「まぁ、あいつが人の世でなんと謳われてようが俺には関係ない。ほんの何十年の間に勝手に老け込んで、勝手に死んだんだ」
ジルはそれ以上、カノープスのことを語らなかったが、その表情は誰が見ても昔の友人を懐かしむものであった。
「ところで、だ。シリウス、あいつは何もんだ?」
「あの子は、ここから少し離れた村で暮らしておった普通の少年でございます」
「ん?……たしかにまだ童ではあるが、アレは人の中では群を抜いた戦士であろうが?」
「戦士…ですか?いえ、彼は本当に自分の村で商いをやっておるただの庶民ですじゃ」
ジルは何かを考え込むかのようにしばらく黙り込んだ。その間にアルマが話に割って入る。
「ジルはあの子のスキルを知っているのです。二人とも、あの子のスキルのことは?」
「え、ええ。幾つか聞いたこともないようなものがあることは。ワシらはそれを神の祝福だと思うております」
「神の祝福……そうね。あながち間違っていないのかもしれないわ。彼のもつスキル『日就月将』、あぁもしかしたらあなた達とは見え方が少し違うのかもしれないけど、私達には彼のスキルがそう見えているわ……あのスキルの効果は『飛躍的成長』なの」
「普通の人の子が百回やって覚えることを、あのスキルを持つ者は一度でモノにする、そんなスキルだ」
ジルが再び口を開いた。
「ウフフ、そう…ジルの旧友カノープスも同じスキルを持っていたわ」
「な、なんですと!?」
「まぁ、そういうことだ。ここまでの道中、シリウスの力に驚かされたのは一度や二度じゃないんだろう?……それに恐怖無効なんてのも初めてだ。一切の恐怖心を感じんなんてその時点で脆弱な人の子としてはぶっ飛んでおるだろう」
「……まったくですじゃ」
その時、外が一面真っ白に光った。
「ん??」
「シリウスくんがフラッシュの魔法を使ったのでしょう……攻撃性はない魔法です。お嬢様にも害はないでしょう」
「まぁ攻撃性があったとしても、シエナも龍族だ。そう簡単にどうこうなるとは思っておらんさ」
そして今度は、光とともに家が震えるほどの爆音が外から鳴り響いた。
「なんだなんだ!?」
さすがのジルもこれには驚き、慌てて外に飛び出した。
◇◆◇◆◇
俺はその後もシエナとのかくれんぼや鬼ごっこによって凄まじいペースでステータスが上がっていった。まだ流石に普通に追いかけっこをしても速さではかなわないけど、俺だって知恵を使うんだ。
今は鬼ごっこの真っ最中。俺は上手くシエナを柵の間に誘導し、追いつめることに成功していた。だが、ここで普通に突進しても、まだ速さで躱されてしまう。そこで俺は反則じみた一手を打つことにした。
ピカッ
俺のフラッシュに一瞬目を奪われ、動きを止めたシエナ。俺はそのスキにシエナに接近し、ついにシエナを捕まえた。
「はい、タッチ!」
きっとシエナもずっと捕まえられないような鬼ごっこは刺激がなさすぎてつまらないだろう、と思ってのことだったのだが………
「シリウス!すごいすごい!」
捕まったことよりもフラッシュの方に心を奪われたようだ。
「シリウス!今のどうやるの?シエナにも教えて?」
「うーんと、できるかな?今のはフラッシュと言ってね……急にお日様を見たら眩しいって思うよね?あんな感じの眩しい光を作り出すんだ!」
そして俺はフラッシュのイメージをシエナに教えたのだが……
「うんやってみる!」
といってシエナが作り出したのが高濃度魔力照明弾だったわけだ。キレイに手入れされていた庭の木が数本吹き飛んでいる。
「なんだなんだ!?」
ジルさんが慌てて飛び出してきた。
「パ、パパ……ごめんなさい……シエナが魔法失敗したの……」
「えっと、ジルさん……僕が余計なことしたのが原因です。すいません!」
そして俺とシエナは揃ってジルさんに頭を下げた。
それにしても、本当にキレイな子だ……髪は淡いブルーで角はまだない。尻尾が無ければどこからどう見ても人族だ。
「パパ、この人たちだあれ?」
「この人たちはお客さんだよ。シエナ、ちゃんと挨拶しなさい」
「はーい!」
そして少女は俺たち3人の前に駆けてくると満面の笑みで挨拶をした。
「こんにちは!シエナスティアです!シエナって呼んでください!」
「僕はシリウス、よろしくね!」
普通に近所の子供に挨拶するくらいの感じで返したんだけどまたアルフレドさんを驚かせてしまったようだ。
「こ、これ……ワシはアルフレドと申します、こちらが従者のララですじゃ」
「は、はじめまして!ララです」
そう言って二人は恭しく頭を下げた。
「ったく……人の子というのはいつになっても堅苦しいな」
ジルさんもさすがに少し呆れている。
「おいシリウス、俺はそこの二人から人の領域の情報を聞きたい。悪いがシエナと遊んでてやってくれるか?」
「いいですよ?じゃぁシエナちゃん遊ぼっか!」
フッフッフ……何を隠そうこの俺こと近藤涼介、前世では「子供に好かれる男」で通っていたのだ!腕を磨くために保育園ボランティアをやったこともある。社内のBBQなんかでは子どもたちのヒーローとして絶大な人気を誇っていたのだ!
「シエナ、シリウスにあまりわがままを言ってはいけませんよ?」
「はーい!」
そして大人たちは連れ立って小屋の中に入っていった。
「シエナちゃん、何して遊ぼっか?」
「うーん……鬼ごっこ!」
「 オッケー!じゃぁ僕が10秒数えるからその間に逃げてね!いーち、にー、さーん…」
先に言っておくと、俺はこの時完全に相手が龍族だということを忘れていた。そしてそれが致命的だった……
10秒数え終わってぐるりと周りを見渡すと、シエナは10メートルくらい先でこちらを見ていた。
じゃぁいっちょ遊んでやるか!
「行くよー!」
俺は小走りにシエナに向かって走り出した。そして二人の距離があと1メートルもなくなったところで
「キャハハハ!」
一瞬で加速したシエナがあっという間にまた10メートル先に走り去っていた。
「……え?」
足速すぎじゃね?これは俺もちょっと本気を出さないとまずいかもしれないな……
そんなわけで、結構な全力ダッシュでシエナを追いかけた。
「アハハ!キャハハ!」
シエナの様子は無邪気に遊び回る日本の保育園児と全く同じなのだが……スピードが桁違いだ。こっちはガチで走っているというのに、向こうは所詮鬼ごっこといったところ……
そんな追いかけっこを30分ほど続けて、俺は結局シエナに一度もタッチできなかった……
「はぁっはぁっ……シエナちゃん足速いね!」
「エヘヘ!パパとママにも褒められるんだよ!」
俺はそのスキに自分に癒やしの光を当ててスタミナを回復させた。とりあえず、これでまだしばらくは走れる。
【スキル『日進月歩』の効果により素早さが80から90に上がりました】
【スキル『日進月歩』の効果によりスタミナが160から170に上がりました】
おぉ!ここでこの2つのステータスアップはありがたい。っていうかこの鬼ごっこ、俺にとってめちゃくちゃいい修行になってるんじゃないか?
というわけで、再び追いかけっこを再開したわけだけど、全然ダメ!シエナ足早すぎるだろ!一体どんな素早さしてるんだ、まったく……ということで鑑定してみた。
今度は阻害されなかったけど、驚いてアゴが外れるかと思った。
【ステータス】
名称:シエナスティア
種族:龍族
身分:--
Lv:6
HP:385
MP:329
状態:正常
物理攻撃力:128
物理防御力:159
魔法攻撃力:320
魔法防御力:361
得意属性:龍光・龍風・龍炎
苦手属性:--
素早さ:231
スタミナ:376
知性:280
精神:219
運 :156
保有スキル:
(龍種)覇者
(一般)鑑定(一般)狩人
保有魔法:
龍光魔法:再生、状態異常回復
龍風魔法:暴風、圧縮空気砲
龍火魔法:業炎
………は??
思わずステータスを2度見する……
………なんだこれ!?チート?
想像の斜め上、ってか真上ね。まぁまずは当初の目的だった素早さ……倍以上違うんですけど?こんなん追いつけるか!
他にも一個一個見ていくとツッコミどころしかないのでやめとこう……
とりあえず、龍族の魔法は俺達の使う魔法の上位互換っぽいな、ってことぐらいはチェックしておいた。
俺が上回ってるの知性と精神と運……うん、ビミョー……
「ね、ねぇシエナちゃん、他にはどんな遊びが好き?」
「うーんとね……かくれんぼ!シエナ、見つけるの得意!パパとやるといつもシエナが見つけるよ!」
こんな何もないところでかくれんぼ!?ジルさんもよくやるな……まぁ一回くらいならいっか。
「よ、よし!じゃぁ僕が隠れるから30まで数えたら探してね!」
「うん!」
シエナは目をつぶって耳を塞ぎ、その場で数を数え始めた。俺は一応足音を出さないように気をつけながら近くの茂みに隠れた。
「………さーんじゅう!行くよー!」
シエナはぐるりと360度周りを見渡すと、一直線にこっちに向かって歩いてきた。
「みーつけた!シリウス、ダメだよ!ちゃんと気配を消さないと!」
「け、気配!?」
ふくれっ面のシエナ。いや、そんなに怒られても普通気配の消し方なんか知らないよね?
でもきっとシエナのスキル『狩人』の効果ですぐ分かっちゃうんだろうな。
「むぅーっ!シエナが教えてあげる!」
…………
………
……
…
そんなわけで俺はシエナのかくれんぼ講座に付き合わされたわけだけど、その甲斐あってスキル『隠密』まで覚えてしまった。シエナと同じ『狩人』じゃない理由はよくわからない。
その後スキルを習得しかくれんぼレベルの上がったた俺にすっかり気分を良くしたシエナと延々かくれんぼを続ける事になったのであった……
◇◆◇◆◇
アルフレドとララは小屋の中に通されるとアルマに促されるままにソファに腰を下ろした。
「人の作る『家具』というのは実に便利よなぁ。龍族も皆愛用している」
小屋の中のテーブルやソファはそれなりにこだわりの感じられるオシャレなものが多く、ジルやアルマのセンスを感じ取ることが出来た。
アルフレドはジルとアルマに現在の人の世界の様子を語って聞かせた。
「……なるほどなぁ。人間ってのは弱いくせにいつになっても争う生きもんだよなぁ」
「まったくですじゃ……」
「あらあら、でもジルはそんな人の世が好きだったじゃない?」
「アルマ……いったいいつの話をしてるんだ?」
「ウフフ、私達からしたらほんのすこし前のことですよ」
「なんと!ジル様は人の世界に入ったことがお有りなのですか?」
「ん?あぁ……かれこれ300年は前の話だがなぁ」
ジルはそう言うと昔を懐かしむような遠い目で窓の外を見つめた。
「なんのきっかけだったかは忘れたが仲の良くなった人の子がいてな、そいつとしばらく色んな所を旅して回ったのさ」
「ウフフ……なんと言いましたっけ?その人の子は確か……」
「カノープスだったかな?」
「ウフフ……だったかな、ですって。今でも時々思い出すくせに。貴方が急に何十年も全然うちに帰ってこずに外をぶらつくものだから、私だって少しはジルの浮気を心配したのよ?」
「おいおい、短命な人の子の名前なんかとうに忘れちまったさ。それに何十年って……ほんの30年くらいのもんだろう?しかも時々ちゃんと顔は出しに帰ってたじゃないか」
「ウフフ……そうね」
「カ、カノープス……そうおっしゃいましたか?しかも300年前といえば救世の英雄「カノープス・ハズーリウス様」ではありませぬか?」
「……あぁ、そんな名だったなぁ」
「こ、これはたまげましたわい……ララよ、お主もカノープス様の伝説は知っておろう?」
「も、もちろんです!学校で一番最初に習う教科書に載っていますもの!」
アルフレドとララは目の前に座る龍族が、王国の始祖にして世界を救った英雄の友人だったという衝撃の事実に平静を保つことなどできなかった。
「まぁ、あいつが人の世でなんと謳われてようが俺には関係ない。ほんの何十年の間に勝手に老け込んで、勝手に死んだんだ」
ジルはそれ以上、カノープスのことを語らなかったが、その表情は誰が見ても昔の友人を懐かしむものであった。
「ところで、だ。シリウス、あいつは何もんだ?」
「あの子は、ここから少し離れた村で暮らしておった普通の少年でございます」
「ん?……たしかにまだ童ではあるが、アレは人の中では群を抜いた戦士であろうが?」
「戦士…ですか?いえ、彼は本当に自分の村で商いをやっておるただの庶民ですじゃ」
ジルは何かを考え込むかのようにしばらく黙り込んだ。その間にアルマが話に割って入る。
「ジルはあの子のスキルを知っているのです。二人とも、あの子のスキルのことは?」
「え、ええ。幾つか聞いたこともないようなものがあることは。ワシらはそれを神の祝福だと思うております」
「神の祝福……そうね。あながち間違っていないのかもしれないわ。彼のもつスキル『日就月将』、あぁもしかしたらあなた達とは見え方が少し違うのかもしれないけど、私達には彼のスキルがそう見えているわ……あのスキルの効果は『飛躍的成長』なの」
「普通の人の子が百回やって覚えることを、あのスキルを持つ者は一度でモノにする、そんなスキルだ」
ジルが再び口を開いた。
「ウフフ、そう…ジルの旧友カノープスも同じスキルを持っていたわ」
「な、なんですと!?」
「まぁ、そういうことだ。ここまでの道中、シリウスの力に驚かされたのは一度や二度じゃないんだろう?……それに恐怖無効なんてのも初めてだ。一切の恐怖心を感じんなんてその時点で脆弱な人の子としてはぶっ飛んでおるだろう」
「……まったくですじゃ」
その時、外が一面真っ白に光った。
「ん??」
「シリウスくんがフラッシュの魔法を使ったのでしょう……攻撃性はない魔法です。お嬢様にも害はないでしょう」
「まぁ攻撃性があったとしても、シエナも龍族だ。そう簡単にどうこうなるとは思っておらんさ」
そして今度は、光とともに家が震えるほどの爆音が外から鳴り響いた。
「なんだなんだ!?」
さすがのジルもこれには驚き、慌てて外に飛び出した。
◇◆◇◆◇
俺はその後もシエナとのかくれんぼや鬼ごっこによって凄まじいペースでステータスが上がっていった。まだ流石に普通に追いかけっこをしても速さではかなわないけど、俺だって知恵を使うんだ。
今は鬼ごっこの真っ最中。俺は上手くシエナを柵の間に誘導し、追いつめることに成功していた。だが、ここで普通に突進しても、まだ速さで躱されてしまう。そこで俺は反則じみた一手を打つことにした。
ピカッ
俺のフラッシュに一瞬目を奪われ、動きを止めたシエナ。俺はそのスキにシエナに接近し、ついにシエナを捕まえた。
「はい、タッチ!」
きっとシエナもずっと捕まえられないような鬼ごっこは刺激がなさすぎてつまらないだろう、と思ってのことだったのだが………
「シリウス!すごいすごい!」
捕まったことよりもフラッシュの方に心を奪われたようだ。
「シリウス!今のどうやるの?シエナにも教えて?」
「うーんと、できるかな?今のはフラッシュと言ってね……急にお日様を見たら眩しいって思うよね?あんな感じの眩しい光を作り出すんだ!」
そして俺はフラッシュのイメージをシエナに教えたのだが……
「うんやってみる!」
といってシエナが作り出したのが高濃度魔力照明弾だったわけだ。キレイに手入れされていた庭の木が数本吹き飛んでいる。
「なんだなんだ!?」
ジルさんが慌てて飛び出してきた。
「パ、パパ……ごめんなさい……シエナが魔法失敗したの……」
「えっと、ジルさん……僕が余計なことしたのが原因です。すいません!」
そして俺とシエナは揃ってジルさんに頭を下げた。
60
お気に入りに追加
288
あなたにおすすめの小説
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
身体強化って、何気にチートじゃないですか!?
ルーグイウル
ファンタジー
病弱で寝たきりの少年「立原隆人」はある日他界する。そんな彼の意志に残ったのは『もっと強い体が欲しい』。
そんな彼の意志と強靭な魂は世界の壁を越え異世界へとたどり着く。でも目覚めたのは真っ暗なダンジョンの奥地で…?
これは異世界で新たな肉体を得た立原隆人-リュートがパワーレベリングして得たぶっ飛んだレベルとチートっぽいスキルをひっさげアヴァロンを王道ルートまっしぐら、テンプレート通りに謳歌する物語。
初投稿作品です。つたない文章だと思いますが温かい目で見ていただけたらと思います。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる