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第1章 幼少期編
第12話 魔道具作成
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俺たちはトマさんの後ろについて村の中央にある割と大型の井戸の前にやってきた。
「ここが村の共用の井戸でございます……」
「うむ、シリウスくん水の調査を頼めるかの?」
「了解です!」
早速俺は組み上げた井戸水に鑑定を試みた。見た目は無色透明、匂いもないし普通の井戸水なんだけど……
名称:井戸水
状態:汚染(毒)
どうやら当たりのようだ。
「アルフレドさん、やはり毒に汚染されています」
「そうか……ララ、井戸水の解毒を」
「はい!」
そしてララさんは解毒の光魔法を井戸の中に放った。深い井戸の底が一瞬ポゥっと光った。
「おぉぉ……私は奇跡を見ているようでございます……」
トマさんは手をこすり合わせてララさんを拝んでいる。ん?トマさんだけじゃなく……門番も増えてる……
光が収まったのを確認して、俺は井戸から水を汲み上げた。
名称:井戸水
状態:清潔
ふむ…問題なさそうだ。俺はそのまま手で水をすくって水を飲んでみた。味も特に違和感はない。
「な!?」
「え!?ちょっとシリウスくん!?」
その場にいた全員が目をまん丸に見開いて俺を見ている。
「大丈夫なことは確認できたので……それに、実際に飲んでみせたほうが皆さんも安心できるでしょ?」
「ハハハ、君の大胆さにはいつも驚かされるのぅ…じゃがあまり先走ってはいかんぞ?」
そうはいっても、これでこの村の問題も半分片付いたようなもんだ。あとはすでに毒に冒されている人の治療をすれば万事解決!
「トマ殿、今日のところはまだ井戸を使わんように村人たちに伝えてくれんか?ちと、気になることがあってのう」
「承知しました。しかし……気になること……ですか?」
「 うむ、まぁおそらく明日になれば分かる」
「そ、そうですか……分かりました」
「それから門番の君、ちと集めてきてほしいものがある。使いを頼まれてくれんか?」
アルフレドさんにはまだ何か気になることがあるのだろうか……?
とりあえずその日は井戸を封鎖して、俺たちは村長の家に一晩世話になった。
◇◆◇◆◇
翌朝……
俺たちは昨日の井戸の前に集合していた。
「賢者様……こちらが昨日頼まれていたものです。一体こんなものに何が…?」
門番の集めてきたものは……何かの料理でもするのか?
・人参
・ジャガイモ
・鶏卵
・木の枝
「賢者様の言いつけどおり、どれも昨日から今朝のうちに収穫したものです。木の枝は先ほどそこの木から折ってきました」
「うむ、ご苦労ご苦労。じゃぁシリウスくん、いつものやっちゃってくれるかの?」
この人、なんか人使いの荒さが水戸○門みたいになってきたな……まぁ、役には立ってるわけだし減るもんじゃないからいいんだけどさ~
そして俺は4つすべてを鑑定した。
「どうじゃった?」
「………すべて、汚染されています……こんなものを食べていては、井戸水がキレイになっても意味はないでしょう……」
「やはりか……ところでシリウスくん、君は今井戸水がキレイになったと言うたな?」
「え?はい、言いましたよ?」
「ふむ…では今もう一度井戸水を汲み上げて調べてみるが良い」
アルフレドさんにそう言われてなんとも言えない嫌な予感がしたけど、まぁやってみるしかない。俺は昨日と同じように井戸水を汲み上げて鑑定を発動させた。
名称:井戸水
状態:汚染(毒)
なんてこった!昨日浄化したというのにまた汚染されてるじゃないか!
「……汚染されています……」
「え!?」
「なんですと!?」
「賢者様、これは一体どういうことですか…」
俺とアルフレドさんを除いた他の面々は皆驚きが顔ににじみ出ていた。
「アルフレドさん……これはつまり、井戸だけの問題ではなく、土壌……さらに言えば地下水脈に問題があるということでしょうか?」
「地下水脈??」
ララさんはなんのことだか分からず首を傾げている。
「シリウスくん……まったく君の聡さは底が知れんのう。そうじゃ、君の予想通り地下水脈の汚染がそもそもの原因で、おそらくその地下水脈の源泉はジーフ山にある。一方、村の西側を流れる小川の源流は方角的にもジーフ山とは反対側……だから汚染されていないということじゃろう」
なるほど、アルフレドさんは昨日の時点でその可能性に気付いていたわけだ。さすがは賢者!
「なるほど…だから昨日すぐに井戸水を開放しなかったんですね?」
「そういうことじゃ……まぁワシの気のせいであればと少しは期待しておったが……どうやら的中してしまったようじゃ」
俺とアルフレドさんのやり取りを聞いていたトマさんはがくりと膝をついた。
「で、では!もうこの村に住み続けることはかなわぬということですか!?この地を捨てるしかないのですか?」
「ワシらはちょうどジーフ山に用があってのう。そこで状況を確認してくるゆえ、まだ待っておれ。今のところ、この話はここだけに留めておくのじゃ、良いな?」
「「は、はい!」」
門番とトマさんがアルフレドの指示に揃って肯定の返事した。
「しかし……賢者様…村には体の不自由な年寄りも多くおります……井戸の水を使わず西の小川まで水を汲みに行くとなるとなかなかに重労働で……」
トマさんの指摘はもっともだし、このままでは水と食料の汚染が改善されてないから村人たちの容態は悪化し続けるだろう。
「案ずるでない。応急処置ではあるが手は考えておる。少し作業が必要じゃからトマ殿の家を借りるぞ?」
「おぉさすがは賢者様!ありがとうございます!かしこまりました、ご自由にお使いください!」
昨日は最初信じてなかったのになかなかの激変ぶりだ。
まぁそんなわけで俺たちはトマさんの自宅へと戻ってきた。
「お師匠、手というのはもしかして…」
「そうじゃ、魔道具を作るぞ」
「ま、魔道具!?」
素に驚いて声を大きくしてしまった……
「シリウスくんでも知らんか?まぁそうそうお目にかかれるものではないからの。魔道具というのは道具に特定の魔法を記した魔法陣を刻み、それを使う者が魔力を流すことで、本来魔法が使えんような者でもたちまちに魔法が使えるようになるというすぐれものじゃ」
「そ、それってめちゃくちゃすごいものじゃないですか!?」
「そうじゃ…まず魔法陣を書くときにも魔力を使うし、コツも要る。スキルがないと簡単には作れんのじゃ」
そりゃそうだろう!そんなもの誰でもかんたんに作れちゃってたら今頃この世界の文明は日本を超えているかもしれない。
「そして……こっちのほうが重要なんじゃが、魔道具はその利便性と汎用性から一歩間違えば大量破壊兵器にもなりかねん。ゆえに、魔道具の作成と使用には国法でかなり細かく制限が掛けられておる」
「な、なるほど……」
確かに火や雷のような殺傷能力の高い属性魔法を魔道具に詰め込めば……想像するだけでゾッとする。
「まぁ今回作るのは単純に解毒の効果だけを付与した魔道具じゃ、これならお咎めはない。さて、では早速始めよう」
アルフレドさんはそう言うと、懐から細い金属の棒を取り出した。
「そ、それは?」
「シリウスくん!それはミスリルといって貴族でもなかなか手に入れられない超貴重な金属で作られたペン、インクは出ないけどね!魔力の通りやすさは金やプラチナの比じゃ無いわ」
ララさんが教えてくれた「超貴重」 というのが気になって鑑定で調べてみたら、危うく気を失うところだった……
価値:7,000,000R
この世界でこんな金額はじめてみた!しかもよく分からない棒の一本で!
しかしもっと驚いたのはこのあと。アルフレドさんがミスリルのペンに魔力を流すとペンの全体が青白く光を放ち、ペンを木製の桶に当てて円や文字を描くとその筆跡まで同じように光を放ったのだ。
「す、すげぇ……」
この驚きは初めて魔法が使えたとき以上だ。
「これで、この桶で水を組みそこに魔力を流せばその中の水は浄化されるじゃろう、この桶を井戸水を汲む桶と交換するんじゃ」
「じゃぁ、私はこの包丁を魔道具にしますね!」
今度はララさんがカバンから同じようなペンを取り出した。だが色合いが少しさっきのミスリルとは違っている?
「そのペンは……」
「あぁ、これは金とミスリルの合金なのよ。金よりは性能がいいけど、純ミスリルには劣る。まぁぶっちゃけ純ミスリルが手に入らなくて!」
ララさんは、そういうと先ほどのアルフレドさんと同じようにペンに魔力を流し始めた。すると同じようにペンは発光したが、先ほどよりも白みが強い。
「純粋なミスリルに比べれば魔法陣が消えちゃうのは早いけど、これでも数ヶ月は大丈夫よ?」
そう言って包丁の柄に魔法陣を刻み始めた。
「これでよし!この包丁を刺した食材は浄化されるわ!」
「……二人とも、すごいですねぇ」
俺はあまりの驚きにそんな言葉しか出てこなかった。
「どれ、せっかくじゃ。シリウスくんにも魔法陣の書き方を教えてやろう」
「え!?良いんですか!?」
「うむ。じゃが、悪用はするでないぞ?」
「もちろんです!」
そして、アルフレドさんは俺に魔法陣作成の基本から教えてくれた。まず、前提として魔法陣に描ける魔法は自分の使える魔法のみ。そして魔法陣は円の中に複雑な模様が描かれているようにみえるけど、これらはすべて一筆でつながっている。まず外円を完成させそこから起動条件、発動条件、効果、効果範囲なんかを時計回りに文章で綴っていくらしい。
「できるだけシンプルな条件にするのがポイントよ!無駄に長くなったり、意味付けが曖昧になると効果が弱まるし、その分消費する魔力が多くなっちゃうの」
なるほど、これはなかなか難しい……
「文字と文字の間隔、全体のバランスも意識するようにの。バランスが悪くなると性能にムラが出てしまう」
俺は普通の紙とペンで何度か練習書きをし、何度目かの挑戦でなんとかそれなりに整った形の魔法陣を完成させることが出来た。
「ほぅ、魔法陣すらほんの数回でかけるようになってしまうのか君は……」
【スキル『日進月歩』の効果によりスキル『魔法陣作成』を習得しました】
そして毎度おなじみのチートスキルによって魔法陣作成のスキルも習得できた。
新しいことを覚えるとついやってみたくなるよね?そんなわけで俺は手に持つ普通のペンに魔力を流してみた。ペンは真っ白な光を放ち、その光は不規則に点滅し始めた。
「こら、普通のペンに魔力を流すやつがあるか!」
慌てるアルフレドさんにペンを取られてしまった……
「まったく……そういう好奇心旺盛なところは見た目のまんま子供じゃのう……よいか?そもそも、普通のペンに魔力を流せたことがまず驚きではあるのじゃが……魔力というのは極めて繊細なんじゃ。抵抗の強い素材に魔力を流せば、最悪の場合魔力暴走を起こして爆発する可能性もあるんじゃよ」
こわっ!そういうのは先に言ってよ!
「今回はワシのペンを貸してやるから、そうじゃな……そこの皿に解毒の魔法陣を描いてみると良い」
そして俺は借りたペンに魔力を流した。ペンは白さなど微塵も感じられない、真っ青な強い光を、一定の強さで発し続けている。
「な……なんということじゃ……」
「真っ青だ……」
二人は瞬きも忘れるほど目を見開いたままその光を見つめている。
「なんという、魔力の純度……シリウス君……君は一体何者じゃ……?」
さすがに前世が日本人、なんて言っても通じそうにないので俺は笑ってごまかしておいた。
さてさて、それじゃぁ魔法陣を描いてみよう!
①起動条件:魔力を流した瞬間
②発動条件:起動と同時
③効果:解毒
④効果範囲:皿の上にあるもの
こんなとこかな?バランスも我ながらいい感じだと思う。白い陶器の皿の真ん中に俺の描いた真っ青な魔法陣が完成した。
「ふむ……出来たようじゃのう、どれどれ……」
アルフレドさんはさっきの汚染された人参を皿の上にのせ、皿をもつ手に魔力を流した。
「む!?これは!?」
ほんの一瞬魔力を流しただけだったが、人参を鑑定したらすでに汚染はなくなっていた。
「なんという、魔力の伝導率じゃ……軽く触れただけじゃったぞ」
なるほど、これはなかなかに良い魔法陣が描けたようだ。
「シリウス君、スマンがこの皿は割らせてもらうぞ」
上手くいった喜びに浸っていた俺の脇で、俺の作品が粉々に砕け散った……ひ、ひどい……
「シリウス君、せっかくの魔道具を壊してしまったことは謝る」
「い、いえ……その…ちょっとショックですけど……」
「この皿は極めて高い魔力伝導率を持った魔道具じゃった。効果こそ解毒のみではあったが、紛れもなく国宝級の……」
こ、国宝!?
「だからこそ、破壊せねばならんかった。ワシが作ったものであればなんとでも言い訳ができるが、あのレベルの魔法陣はワシには描けん。何かのきっかけでアレが世に知られたとき、君はこの世のあらゆる権力者からその身を狙われることになるであろう」
ね、狙われるって……そんな大げさな……
「魔道具についての知識はこれからも君に伝えていくつもりじゃ。しかし、自力で魔道具を作るのはまだ禁止させてもらう」
いつも穏やかなアルフレドさんの表情が初めて見るほど険しくなっている。これは冗談じゃなさそうだ…
「は、はい。分かりました!」
俺は特に反発もせず、素直にアルフレドさんに従った。
「うむ、良い子じゃ。君はきっと神の祝福を受けておる。大きくなったとき、その力を世界のために使うんじゃよ?」
アルフレドさんはいつもの穏やかな表情に戻ると僕の頭を優しくなでた。
「ここが村の共用の井戸でございます……」
「うむ、シリウスくん水の調査を頼めるかの?」
「了解です!」
早速俺は組み上げた井戸水に鑑定を試みた。見た目は無色透明、匂いもないし普通の井戸水なんだけど……
名称:井戸水
状態:汚染(毒)
どうやら当たりのようだ。
「アルフレドさん、やはり毒に汚染されています」
「そうか……ララ、井戸水の解毒を」
「はい!」
そしてララさんは解毒の光魔法を井戸の中に放った。深い井戸の底が一瞬ポゥっと光った。
「おぉぉ……私は奇跡を見ているようでございます……」
トマさんは手をこすり合わせてララさんを拝んでいる。ん?トマさんだけじゃなく……門番も増えてる……
光が収まったのを確認して、俺は井戸から水を汲み上げた。
名称:井戸水
状態:清潔
ふむ…問題なさそうだ。俺はそのまま手で水をすくって水を飲んでみた。味も特に違和感はない。
「な!?」
「え!?ちょっとシリウスくん!?」
その場にいた全員が目をまん丸に見開いて俺を見ている。
「大丈夫なことは確認できたので……それに、実際に飲んでみせたほうが皆さんも安心できるでしょ?」
「ハハハ、君の大胆さにはいつも驚かされるのぅ…じゃがあまり先走ってはいかんぞ?」
そうはいっても、これでこの村の問題も半分片付いたようなもんだ。あとはすでに毒に冒されている人の治療をすれば万事解決!
「トマ殿、今日のところはまだ井戸を使わんように村人たちに伝えてくれんか?ちと、気になることがあってのう」
「承知しました。しかし……気になること……ですか?」
「 うむ、まぁおそらく明日になれば分かる」
「そ、そうですか……分かりました」
「それから門番の君、ちと集めてきてほしいものがある。使いを頼まれてくれんか?」
アルフレドさんにはまだ何か気になることがあるのだろうか……?
とりあえずその日は井戸を封鎖して、俺たちは村長の家に一晩世話になった。
◇◆◇◆◇
翌朝……
俺たちは昨日の井戸の前に集合していた。
「賢者様……こちらが昨日頼まれていたものです。一体こんなものに何が…?」
門番の集めてきたものは……何かの料理でもするのか?
・人参
・ジャガイモ
・鶏卵
・木の枝
「賢者様の言いつけどおり、どれも昨日から今朝のうちに収穫したものです。木の枝は先ほどそこの木から折ってきました」
「うむ、ご苦労ご苦労。じゃぁシリウスくん、いつものやっちゃってくれるかの?」
この人、なんか人使いの荒さが水戸○門みたいになってきたな……まぁ、役には立ってるわけだし減るもんじゃないからいいんだけどさ~
そして俺は4つすべてを鑑定した。
「どうじゃった?」
「………すべて、汚染されています……こんなものを食べていては、井戸水がキレイになっても意味はないでしょう……」
「やはりか……ところでシリウスくん、君は今井戸水がキレイになったと言うたな?」
「え?はい、言いましたよ?」
「ふむ…では今もう一度井戸水を汲み上げて調べてみるが良い」
アルフレドさんにそう言われてなんとも言えない嫌な予感がしたけど、まぁやってみるしかない。俺は昨日と同じように井戸水を汲み上げて鑑定を発動させた。
名称:井戸水
状態:汚染(毒)
なんてこった!昨日浄化したというのにまた汚染されてるじゃないか!
「……汚染されています……」
「え!?」
「なんですと!?」
「賢者様、これは一体どういうことですか…」
俺とアルフレドさんを除いた他の面々は皆驚きが顔ににじみ出ていた。
「アルフレドさん……これはつまり、井戸だけの問題ではなく、土壌……さらに言えば地下水脈に問題があるということでしょうか?」
「地下水脈??」
ララさんはなんのことだか分からず首を傾げている。
「シリウスくん……まったく君の聡さは底が知れんのう。そうじゃ、君の予想通り地下水脈の汚染がそもそもの原因で、おそらくその地下水脈の源泉はジーフ山にある。一方、村の西側を流れる小川の源流は方角的にもジーフ山とは反対側……だから汚染されていないということじゃろう」
なるほど、アルフレドさんは昨日の時点でその可能性に気付いていたわけだ。さすがは賢者!
「なるほど…だから昨日すぐに井戸水を開放しなかったんですね?」
「そういうことじゃ……まぁワシの気のせいであればと少しは期待しておったが……どうやら的中してしまったようじゃ」
俺とアルフレドさんのやり取りを聞いていたトマさんはがくりと膝をついた。
「で、では!もうこの村に住み続けることはかなわぬということですか!?この地を捨てるしかないのですか?」
「ワシらはちょうどジーフ山に用があってのう。そこで状況を確認してくるゆえ、まだ待っておれ。今のところ、この話はここだけに留めておくのじゃ、良いな?」
「「は、はい!」」
門番とトマさんがアルフレドの指示に揃って肯定の返事した。
「しかし……賢者様…村には体の不自由な年寄りも多くおります……井戸の水を使わず西の小川まで水を汲みに行くとなるとなかなかに重労働で……」
トマさんの指摘はもっともだし、このままでは水と食料の汚染が改善されてないから村人たちの容態は悪化し続けるだろう。
「案ずるでない。応急処置ではあるが手は考えておる。少し作業が必要じゃからトマ殿の家を借りるぞ?」
「おぉさすがは賢者様!ありがとうございます!かしこまりました、ご自由にお使いください!」
昨日は最初信じてなかったのになかなかの激変ぶりだ。
まぁそんなわけで俺たちはトマさんの自宅へと戻ってきた。
「お師匠、手というのはもしかして…」
「そうじゃ、魔道具を作るぞ」
「ま、魔道具!?」
素に驚いて声を大きくしてしまった……
「シリウスくんでも知らんか?まぁそうそうお目にかかれるものではないからの。魔道具というのは道具に特定の魔法を記した魔法陣を刻み、それを使う者が魔力を流すことで、本来魔法が使えんような者でもたちまちに魔法が使えるようになるというすぐれものじゃ」
「そ、それってめちゃくちゃすごいものじゃないですか!?」
「そうじゃ…まず魔法陣を書くときにも魔力を使うし、コツも要る。スキルがないと簡単には作れんのじゃ」
そりゃそうだろう!そんなもの誰でもかんたんに作れちゃってたら今頃この世界の文明は日本を超えているかもしれない。
「そして……こっちのほうが重要なんじゃが、魔道具はその利便性と汎用性から一歩間違えば大量破壊兵器にもなりかねん。ゆえに、魔道具の作成と使用には国法でかなり細かく制限が掛けられておる」
「な、なるほど……」
確かに火や雷のような殺傷能力の高い属性魔法を魔道具に詰め込めば……想像するだけでゾッとする。
「まぁ今回作るのは単純に解毒の効果だけを付与した魔道具じゃ、これならお咎めはない。さて、では早速始めよう」
アルフレドさんはそう言うと、懐から細い金属の棒を取り出した。
「そ、それは?」
「シリウスくん!それはミスリルといって貴族でもなかなか手に入れられない超貴重な金属で作られたペン、インクは出ないけどね!魔力の通りやすさは金やプラチナの比じゃ無いわ」
ララさんが教えてくれた「超貴重」 というのが気になって鑑定で調べてみたら、危うく気を失うところだった……
価値:7,000,000R
この世界でこんな金額はじめてみた!しかもよく分からない棒の一本で!
しかしもっと驚いたのはこのあと。アルフレドさんがミスリルのペンに魔力を流すとペンの全体が青白く光を放ち、ペンを木製の桶に当てて円や文字を描くとその筆跡まで同じように光を放ったのだ。
「す、すげぇ……」
この驚きは初めて魔法が使えたとき以上だ。
「これで、この桶で水を組みそこに魔力を流せばその中の水は浄化されるじゃろう、この桶を井戸水を汲む桶と交換するんじゃ」
「じゃぁ、私はこの包丁を魔道具にしますね!」
今度はララさんがカバンから同じようなペンを取り出した。だが色合いが少しさっきのミスリルとは違っている?
「そのペンは……」
「あぁ、これは金とミスリルの合金なのよ。金よりは性能がいいけど、純ミスリルには劣る。まぁぶっちゃけ純ミスリルが手に入らなくて!」
ララさんは、そういうと先ほどのアルフレドさんと同じようにペンに魔力を流し始めた。すると同じようにペンは発光したが、先ほどよりも白みが強い。
「純粋なミスリルに比べれば魔法陣が消えちゃうのは早いけど、これでも数ヶ月は大丈夫よ?」
そう言って包丁の柄に魔法陣を刻み始めた。
「これでよし!この包丁を刺した食材は浄化されるわ!」
「……二人とも、すごいですねぇ」
俺はあまりの驚きにそんな言葉しか出てこなかった。
「どれ、せっかくじゃ。シリウスくんにも魔法陣の書き方を教えてやろう」
「え!?良いんですか!?」
「うむ。じゃが、悪用はするでないぞ?」
「もちろんです!」
そして、アルフレドさんは俺に魔法陣作成の基本から教えてくれた。まず、前提として魔法陣に描ける魔法は自分の使える魔法のみ。そして魔法陣は円の中に複雑な模様が描かれているようにみえるけど、これらはすべて一筆でつながっている。まず外円を完成させそこから起動条件、発動条件、効果、効果範囲なんかを時計回りに文章で綴っていくらしい。
「できるだけシンプルな条件にするのがポイントよ!無駄に長くなったり、意味付けが曖昧になると効果が弱まるし、その分消費する魔力が多くなっちゃうの」
なるほど、これはなかなか難しい……
「文字と文字の間隔、全体のバランスも意識するようにの。バランスが悪くなると性能にムラが出てしまう」
俺は普通の紙とペンで何度か練習書きをし、何度目かの挑戦でなんとかそれなりに整った形の魔法陣を完成させることが出来た。
「ほぅ、魔法陣すらほんの数回でかけるようになってしまうのか君は……」
【スキル『日進月歩』の効果によりスキル『魔法陣作成』を習得しました】
そして毎度おなじみのチートスキルによって魔法陣作成のスキルも習得できた。
新しいことを覚えるとついやってみたくなるよね?そんなわけで俺は手に持つ普通のペンに魔力を流してみた。ペンは真っ白な光を放ち、その光は不規則に点滅し始めた。
「こら、普通のペンに魔力を流すやつがあるか!」
慌てるアルフレドさんにペンを取られてしまった……
「まったく……そういう好奇心旺盛なところは見た目のまんま子供じゃのう……よいか?そもそも、普通のペンに魔力を流せたことがまず驚きではあるのじゃが……魔力というのは極めて繊細なんじゃ。抵抗の強い素材に魔力を流せば、最悪の場合魔力暴走を起こして爆発する可能性もあるんじゃよ」
こわっ!そういうのは先に言ってよ!
「今回はワシのペンを貸してやるから、そうじゃな……そこの皿に解毒の魔法陣を描いてみると良い」
そして俺は借りたペンに魔力を流した。ペンは白さなど微塵も感じられない、真っ青な強い光を、一定の強さで発し続けている。
「な……なんということじゃ……」
「真っ青だ……」
二人は瞬きも忘れるほど目を見開いたままその光を見つめている。
「なんという、魔力の純度……シリウス君……君は一体何者じゃ……?」
さすがに前世が日本人、なんて言っても通じそうにないので俺は笑ってごまかしておいた。
さてさて、それじゃぁ魔法陣を描いてみよう!
①起動条件:魔力を流した瞬間
②発動条件:起動と同時
③効果:解毒
④効果範囲:皿の上にあるもの
こんなとこかな?バランスも我ながらいい感じだと思う。白い陶器の皿の真ん中に俺の描いた真っ青な魔法陣が完成した。
「ふむ……出来たようじゃのう、どれどれ……」
アルフレドさんはさっきの汚染された人参を皿の上にのせ、皿をもつ手に魔力を流した。
「む!?これは!?」
ほんの一瞬魔力を流しただけだったが、人参を鑑定したらすでに汚染はなくなっていた。
「なんという、魔力の伝導率じゃ……軽く触れただけじゃったぞ」
なるほど、これはなかなかに良い魔法陣が描けたようだ。
「シリウス君、スマンがこの皿は割らせてもらうぞ」
上手くいった喜びに浸っていた俺の脇で、俺の作品が粉々に砕け散った……ひ、ひどい……
「シリウス君、せっかくの魔道具を壊してしまったことは謝る」
「い、いえ……その…ちょっとショックですけど……」
「この皿は極めて高い魔力伝導率を持った魔道具じゃった。効果こそ解毒のみではあったが、紛れもなく国宝級の……」
こ、国宝!?
「だからこそ、破壊せねばならんかった。ワシが作ったものであればなんとでも言い訳ができるが、あのレベルの魔法陣はワシには描けん。何かのきっかけでアレが世に知られたとき、君はこの世のあらゆる権力者からその身を狙われることになるであろう」
ね、狙われるって……そんな大げさな……
「魔道具についての知識はこれからも君に伝えていくつもりじゃ。しかし、自力で魔道具を作るのはまだ禁止させてもらう」
いつも穏やかなアルフレドさんの表情が初めて見るほど険しくなっている。これは冗談じゃなさそうだ…
「は、はい。分かりました!」
俺は特に反発もせず、素直にアルフレドさんに従った。
「うむ、良い子じゃ。君はきっと神の祝福を受けておる。大きくなったとき、その力を世界のために使うんじゃよ?」
アルフレドさんはいつもの穏やかな表情に戻ると僕の頭を優しくなでた。
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ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
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ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
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*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
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