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第1章 幼少期編

第10話 旅立ち

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 それからの二週間は猛烈な忙しさだった。まずアルバイトを雇うために募集の張り紙を出し、教育マニュアルを作成。それからすべての商品に鑑定で値札を付けて誰でも簡単に計算できるようにした。

 アルバイトの採用条件はできるだけシンプルにし、村のいたるところに張り出した。

・ハズール語で文字が読めること
・簡単な四則計算ができること
・明るく笑顔で会話ができること
・古くからの村の住人であること(15年以上歓迎)

 そもそも文字が読めないひとはこの張り紙の意味も分からないから一定のスクリーニングには張り紙はちょうど良い。

 最後の、「村の住人」と言うのは、店のお金を横領・着服されないように、ちゃんとこの村に根付いている人のほうが安心できるという理由からだ。

 こういう閉鎖的な社会では、近所付き合いとかも都会より多いから、下手なことをすると村の中での自分の居場所がなくなってしまう。

 それから、俺が不在の間の中古品の買い取りは危険なのでこの機に商売の方法を変えることにした。

 今まではうちで一旦買い取って転売していたわけだけど、これからは中古品を持ち込んだひとに自分の好きな値段をつけてもらう形式にチェンジ!うちはそれを展示したりお客さんにオススメする分の手数料として売値の5%をもらう。
 この方法なら、すぐに現金が欲しい人には嫌がられるかもしれないけどそこまで急いでいないひとには納得してもらえるし、何よりうちが不良在庫を抱えるリスクがない。
 
 最近は母ローラも内職をやめて店の方に顔を出しているし、ガラクとローラとアルバイトがいればなんとか1ヶ月くらいはやっていけるだろう。

 ていうか、将来的に俺は旅に出るわけだし、やっていけてもらわないと困る!

 ガラクとローラには店舗経営の上で判断に迷いそうな事柄をケーススタディでわかりやすく書いた冊子をプレゼントし、俺が口頭で補足をするレクチャーまで入れておいた。

 そして早速集まった応募者との面接はガラクが担当し、俺はお茶を運ぶタイミングでサクッとその人物を鑑定して身分や名前に嘘がないかを念のために照合しておいた。

 アルバイトも無事に決まり、数日の間は俺は店の仕事を一切やらずに店がちゃんと運営できるかを細かく確認して回った。

 ◇◆◇◆◇

 そして約束の2週間が経ち、俺は荷物をまとめて玄関先に立っている。

「じゃぁ、父さん、母さん、行ってくるから!店のことはよろしくね!」

「よろしくね、ってシリウス……あれは一応俺の店だぞ?」

「そういえばそうだったね!アハハハハ!」

「ったく、我が子が優秀すぎると親としても困っちまうぜ」

「まぁまぁ、そう言わずに!じゃぁ、行ってきます!」

「シリウス!寂しくなったらいつでも戻ってくるのよ?」

「はいはい!じゃぁね!」

 玄関先で両親に別れを告げ、俺は宿屋へと向かった。

 宿屋の外にはすでに二人が旅支度を整えて俺の合流を待っていた。

「すみません、お待たせしました」

 俺は二人にペコリと頭を下げた。

「シリウスくんよろしくね!」

 ララさんが俺の頭を優しくなでてくれた。

 あぁなんかいい匂いする……

「は、は、はい!!」

「うむ、では参ろうかのう」

 俺達は揃って街道へと歩き出した。

……………
………… 
………
……


 道中、

「そういえば、目的地は霊峰ジーフ山、でしたっけ?どんなところなんですか?」

「おう、そう言えばその辺のことは何も言うておらなんだな。まずジーフ山と言うのはこのバーリ地方の北部に広がる大樹海の中央に位置する高山での、そこには太古より神がおわすと言われておる」

 神…?なんかすごい話になってきた。

「へ、へぇ!で、その……異変というのは?」

「うむ……ジーフ山の神がこの辺り一帯の魔物の発生を抑えておるからバーリ地方は通常、ここらの街道に魔物なぞ現れることはないんじゃが……最近になってバーリ地方全体で魔物の出現報告が相次いでおってな、その原因がジーフ山にあると考えた王国からその調査命令が下ったというわけじゃ」

「なるほど、そうすると……もし原因がジーフ山にあったとして、それを解決できれば街道は今まで通りの安全な街道に戻る、と?」

「その通りじゃ」

 我が家のビジネスを安全なものにするためにも、街道の安全は絶対譲れない。今でこそ日帰りで移動できる範囲の村々としか取引をしていないが、ゆくゆくはその範囲を拡大させる構想なのだ。魔物なんかに邪魔されてたまるか!

「では、急ぎましょう!」

「シリウス君、焦っちゃダメよ!まだあと1週間は街道に沿って歩き続けなきゃならないんだから!体力を温存しながら進まないといざという時へばっちゃうわよ?」

 アルフレドさんの話についペースを上げてしまう俺を、ララさんが優しくなだめた。

「は、はい!」

 ヤバい、またキョドってしまった……よくよく考えたらこれから1ヶ月もの間こんな美女と寝食をともにするのか……俺、生きていられるのかな? 


 そしてこの日は街道の脇で野宿をすることになった。アルフレドさんとララさん二人の時はその辺の原っぱによくそのまま寝っ転がって寝ていたらしいけど、俺の参入によって少し野宿のスタイルが変わったらしい。

 俺が一本の丸太を縦に細切りにし、それをみんなで組み立てて三角錐状の骨組みを作った。予備で持ってきた毛布を骨組みの上からぐるりと巻けば、簡易テントの完成だ。

「はぁ……なんど見ても、その規格外の魔法の精度と威力には驚きだわ…私自信失くしちゃうかも…」

 ララさんがそう言ってイジケている。そんな姿もカワイイなぁ…

「ラ、ララさんは、その…僕よりもたくさんの魔法を覚えているし、本当にすごいと思いましゅ!」

 ぐはっ!盛大に噛んだ!

「……クスっ、やだなぁシリウス君、冗談よ?」

 ララさんはそう言って意地悪な笑みを浮かべている。俺はまんまと騙されたようだ。

「これ、ララ。こどもをからかって遊ぶものではない」

「はーい」

 アルフレドさんにたしなめられぺろっと舌を出してみせるララさん……ダメだどの仕草をみても激しく動揺してしまう。

「……そ、そう言えば、ララさんは確か地方貴族のお嬢様でしたよね?その…なぜ…」

「あぁ、なんでこんな大変な旅なんかしてるのかって?」

「えっと……はい」

「え~、どうしよっかなぁ~教えちゃおっかなぁ~」

「これ、ララ」

「フフ、冗談ですよ。シリウスくんは貴族の生活って想像できる?」

 貴族の生活?そんなもの貴族になったこともないし知り合いもいない俺には想像できません。とりあえず、映画で見たような貴族像でも話しておくか。

「えっと、いつも上品に着飾っていて、美味しいものを食べて、それからお金にも困ってなくて……」

「まぁだいたいそんなものよ?」

 だいたいそんなもんなのか!それじゃぁ尚更……

「うちは地方の貴族だったからね、贅沢さで言えば王都の貴族ほどではなかったけど……それでも父が野心家でねぇ…なんとか王都とのつながりを強めて中央に進出しようと必死だったわ」

 貴族であっても男子たるもの上を目指す、それ自体は悪いことではないと思うけど……

「それで、私、誰かも知らない王都の貴族のところにお嫁に出されることになったの……」

 なるほど、自分の出世のために娘を差し出したってわけか。

「それで、嫌になって?」

「ううん、まだ続きがあってね。これでも一応貴族の娘だし、いつかそういうこともあるかもしれないと覚悟はできていたのよ?でも、いざ初顔合わせってなったときにね…」

 なんだろう、嫌な予感しかしない……

「相手は王都でもかなり有力だった家の3男で、でも……びっくりするくらいの変態野郎だったの。私も最初は我慢してたわよ?でも、それにもやっぱり限界はあってさぁ」

「殺っちゃったんですか?」

 あ、素に聞いてしまった。

「殺っ、流石にそこまではしないわよ!ちょっと手が出て……と言うか足が出て……その、男の人の大事なところを潰しちゃったというかなんというか……」

 ララさんはそう言って、ちょっと顔を赤らめモジモジしている。

 いや、貴女それもうほとんど殺っちゃってますよ?

 少なくともその男性の男の子は死んでますからね?

「やだなぁ、あたしったら!もう昔の話なのにね!とにかく、そんなことがあったから家にも居づらくなって…ちょうどそんなときにアルフレド先生が教師をやめてたびに出るって言うからお願いして同行させてもらうことになったってわけ!」

「はぁ……ところで、その……ご実家の方はその後大丈夫だったんですか?」

「ほんとに、びっくりするくらい頭の回る子ねぇ。でも大丈夫だったのよ?さっき「有力だった貴族」って言ったでしょ?」

「いえ、それほどでも……「だった」ということは今はもう…?」

「そ!一族全体でかなりの不正をしてたみたいで、家ごとうちより辺境の地方に左遷されちゃったわ!」

 子も子なら、親はもっと悪いやつだったということか……

「でも、私もそろそろちゃんとしないと一生独身になっちゃうなぁ~、はぁシリウスくんでも狙っちゃおうかなぁ?ねぇ、年上のお姉さんは嫌い?」

 ララさんは上目遣いに俺(6才児)を見つめてきた。ヤバイヤバイヤバイ!心臓止まる!

「ひぇ!?え!?えぇぇぇ!?」

「アハハハハ!冗談よ!カワイイなぁまったく」

 また盛大に騙されたようだ……

 俺……ほんとにこれから一ヶ月間やっていけるのかな?
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