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第1章 幼少期編

第9話 規格外

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 この日は朝から配達と集金で忙しく、日中はずっと村の中をグルグルとしていた。

「こんにちはー!ガラク商店です!お荷物のお届けに来ましたー!」

  今やって来ているのはこの村に一つしかない宿屋だ。宿屋と言っても小部屋が2~3あって店長とその奥さんが夫婦で切り盛りしている小さなところ。夜は飲み屋としても営業しているけど、昼間はだいたいいつ来ても客のいる様子はない。

「やぁシリウスくん、いつも助かるよ。はいこれ、荷物の代金だよ。それから昨日からしばらくは珍しく客がいてね、パンを焼いたのが1つ余ったからシリウスくんにあげよう。後でおやつにでもするといい。」

「ありがとうございます!でもマスター、宿屋なのに『珍しく』なんて言っちゃだめですよ!……でも、確かに珍しいですね!」

「「アハハハ!」」

 この宿屋もガラク商店と定期配達契約をしてくれているお得意様だ。俺もすっかり店主とは打ち解けている。

「そういえば、シリウスくんはこの村だけじゃなくて近所の村にもよく通ってるよね?」

「え?はい、まぁ仕入れなんかで月に何度かは行きますけど、どうかしました?」

「実はその珍しい宿泊客が人を探してるらしくてね…もし良ければ手が空いたときでいいからお客さんと話してみてはくれないかい?」

 こんな片田舎に連泊する客なんて珍しいと思ったけど、なるほど人探しか。俺の知ってる人なら教えてあげれるけど……あー、でももしヤ○ザ的な反社★的勢力の人たちだったらどうしよ?まぁ鑑定すればわかるか!

「分かりました!夕方には仕事が片付くと思いますので、また来ますね!」

「助かるよ、ありがとう」

 そして俺は宿をあとにして再び配達業務に戻った。


 ◇◆◇◆◇

 夕方になって仕事を片付けた俺は、再び宿屋にやってきた。

「こんにちはー!シリウスでーす!」

「おぉシリウスくん、ちょうどいいタイミングだったよ。こちらがうちのお客さんのアルフレドさんとララさんだ。」

 店主はそう言ってバーカウンターの端に座っている二人組に顔を向けた。俺もつられてそっちを向くと

「こんにちは、坊や。私はアルフレド。子供が街道を行き来しているとは聞いていたが……ほんとにまだこんなに小さいとはのぅ」

「わたしはララ!アルフレド様の従者として同行してるわ!」

 俺はララと名乗った若い女性の顔を見て思わず目を見開いた。

 やべぇ!めっちゃかわいい!

 今は仕事スイッチも切れてしまっているし、こういう時に美女の顔なんか見たら……

「は、は、は、はじめまして!自分はコンドウ…じゃなくてシリウス!シリウス・ターマンとも、も、申します!」

ダメだ、完全にキョドってしまった。

「アハハハ、さすがのシリウスくんも美人さんには緊張するのかな?」

 宿屋の店主に茶化された。あぁそうだよ!

「やだマスターったら、美人だなんて!シリウスくん、そんなに緊張しなくていいのよ?私たち、ちょっと人を探していてね、もし知ってたら教えてほしいの」

 ララさんは椅子から降りると俺に目線を合わせるように前かがみになって顔を覗き込んできた。

 あぁぁぁぁ!ちょっと、おねぇさん!そのアングルはダメ!見えてる!見えてる!

 目の前にはララのきれいな顔、そしてその奥には2つの愛の爆弾がブルンブルンしている。

 まだ俺が子供で良かった……これ、大人だったら鼻血ドバァァァで死んでたかもしれない。

 俺はなんとか笑顔を作ると、「はい」とだけ答えてすぐに視線を老人の方に向けた。

「驚かせてしまったようですまんのぅ。」

「い、いえ……」

 俺は何事もなかったかのように普通に返事をし、その間に老人の鑑定を行った。

【ステータス】
名称:アルフレド・ボードル
種族:ヒューマン
身分:賢者
Lv:18
HP:165
MP:90
状態:正常
物理攻撃力:42
物理防御力:40
魔法攻撃力:75
魔法防御力:71
得意属性:水
苦手属性:火
素早さ:55
スタミナ:95
知性:325
精神:255
運 :181

保有スキル:
 (一般)研究(一般)魔法陣作成(一般)薬師
保有魔法:
 光魔法:止血、解毒、癒やしの光、肉体強化
 風魔法:風おこし、空気砲、エアカッター
 水魔法:水精製、ミスト、ウォーターガン、ウォーターシールド、濁流
 氷魔法:氷結、アイスバレット
 火魔法:火種、炎、火弾
 雷魔法:スタン
 土魔法:落とし穴、土槍

 うおぉ!何だこれ!?この人魔法の量がハンパないな!

 しばらく沈黙していた俺を見て、緊張で固まっていると思ったのかアルフレドはさっきよりも優しい口調で話を続けた。

「ホッホッホ…見知らぬ大人に声をかけられたら緊張するのは仕方のないことじゃのぅ……ところで坊や、この辺りの住人か、最近この辺を通ったよそ者で恐ろしく魔法の腕が立つ者がおるとか、そんな話を聞いたことはないかね?」

 この人は自分のステータスを見られないのだろうか?

 俺の覚えている倍くらいの魔法を使える貴方より魔法の使える人なんて聞いたことありませんよ?

「魔法の腕が立つ…ですか?いやぁ……」

「ふむ、そうか……すまんな、余計な時間を取らせてしもうたわぃ」

 そう言ってアルフレドは懐からお菓子の詰まった瓶を取り出すと、俺に差し出した。

「コレはちょっとした礼じゃ、受け取ってくれ」

 俺は素直にもらえるものは貰おうと手を差し出しかけたが、脳裏に浮かんでいるアルフレドのステータスで1個だけ気になるものを見つけてしまった。さっきは数値や魔法の数ばかりに目が行って、気づかなかったけど、この身分なんだ?

「賢者………?」

 考えていたことが不意に言葉に出てしまった。

「「っ!?」」

 老人と美女の表情が一変し、それまでの優しそうな表情が消えた。

 やべっ、なんか触れちゃいけなやつだったかな?

「ぼ、坊や?今何か言った?」

 美女が驚いた顔で尋ねてきた。驚いている顔もきれいだ、やばいなんて返そう。

「え?い、いや、あの……」

 そしてアルフレドが横から入ってきて俺の手を優しく握った。

「坊や、ここではなくちょっと散歩しながら話さんか?」

「え?あぁ…はい」

 普通なら見知らぬ大人に連れ出されそうになったら怖くなるのかもしれないけど、あいにくスキルのせいで恐怖は感じなくなってしまった。おそらく、さっきの「賢者」は二人にとって聞かれてはまずかったのだろう。だとしたら事情を話してもう二度とそのワードを口にしないことを約束した上で見逃してもらったほうが良さそうだ。


 ◇◆◇◆◇

 俺達は村の門を抜け、街道の横に広がる原っぱにやってきた。村はまだ目と鼻の先だし、これだけオープンな場所で何も危害など加えるつもりはないというアピールだろうか?

 まぁ、なんにしてもさっさと謝っておいたほうが良さそうだ?

「あ~…あのさっきはその……すいませんでした!」

 俺はビシっと腰を90度折り曲げたお辞儀で二人に頭を下げた。

「フム……坊や、謝ることはない。頭を上げてくれんか?」

 あれ?怒ってるわけじゃないのかな?俺はおそるおそる頭を上げてアルフレドを見た。

「まずはなぜ「賢者」と言う言葉が出てきたのか、そこからワシらに聞かせてはくれんかのぅ?」

「えっと……はい。あの……実は僕には『鑑定』というスキルがありまして……それで…人であれ物であれその詳細が分かってしまうのです……」

「……やはりのぅ。それで、ワシの身分が賢者だとわかったわけか…」

「そんな!鑑定なんて王都中探しても何人持ってるかわからないスキルですよ!?それをこんな少年が……あり得ない…」

 ララさんは俺の話を信じきれずに困惑している。

「確かに、かなり珍しいスキルであることは間違いないゆえ、ワシもにわかには信じがたい……では、坊や、君にはララのことはどのように見えているかね?」

「あ、いえ……こちらの方はまだ鑑定で見ていないので何も……」

 流石に「美人すぎて緊張するのでそんなに長時間凝視できず鑑定してません」と正直に話すのははばかられた。

「そうか……では、今鑑定を使って彼女のことを見てはくれんかね?その結果が真実であればワシも坊やの言い分を信じられるというものじゃ」

 なんてこった!こんな美女を見つめなきゃいけないなんて、どうにかなりそうだ……でも鑑定が真実だということを分かってもらうにはやるしか無い。

 俺はララさんを見つめて意識を集中させた。やばい、めっちゃ緊張する。きっと俺の顔は真赤になっていることだろう。

【ステータス】
名称:ララ・トゥルニエール
種族:ヒューマン
身分:地方貴族の娘
Lv:12
HP:140
MP:60
状態:正常
物理攻撃力:39
物理防御力:36
魔法攻撃力:60
魔法防御力:58
得意属性:火
苦手属性:水
素早さ:60
スタミナ:100
知性:259
精神:198
運 :126

保有スキル:
 (一般)努力(一般)魔法陣作成(一般)薬師
保有魔法:
 光魔法:止血、解毒、癒やしの光
 風魔法:風おこし、空気砲、エアカッター
 水魔法:水精製、ミスト
 火魔法:火種、炎、火弾、ファイヤーウォール、火炎放射
 雷魔法:スタン、フラッシュ
 土魔法:落とし穴

 ララさんの美貌に見とれていたのは最初の一瞬で、俺は賢者アルフレドに引けを取らない魔法やスキルの多さに心底驚いていた。

「えっと……名前はララ・トゥルニエールさん。身分は地方貴族の娘とあります。それから……」

 俺は頭に浮かんだ情報を順に言葉にして伝えた。

「……これは驚いた……鑑定スキルもその情報の精度にピンからキリまであると言われるが、まさかここまで詳細な情報が分かっておるとわのぅ……」

「えっと……それで信じてはもらえたのでしょうか?」

「うむ…ここまで言い当てられては信じんわけにもいかんじゃろう…のう、ララ?」

「……は、はい。しかし、驚きました」

 よかった、ララさんにも信じてもらえたようだ。美女に疑われたままなんていうのは精神衛生上よくないからな!

「それで、お二人が探している人っていうのは…その…どんな人なんですか?」

「うむ……ワシらもそれが何者なのか、正体はつかめておらん。じゃが、とんでもない魔法の力を持っておるということはおそらく確かじゃ。」

 この二人がそんな風に評価する魔法使いってどんなやつだよ!ステータスをぜひとも見せてほしい!

「えっと……それではなぜお二人はその人を探しているのですか?」

「んん……まぁ、単なる好奇心なのじゃが、この村による途中で想像を絶する威力の魔法で戦った痕跡を見つけてのぅ…」

 造像を絶する威力の魔法で戦った痕跡?そんなもの一昨日通った時にはなかったな。

「おそらくツインウルフと思われる魔物を3体、凄まじい威力の魔法で仕留めておったようじゃ……」

「ツインウルフ…ですか?」

「おぉ、すまんすまん。君はまだ知らんかったか。ツインウルフというのは比較的山の奥や森の深い場所に生息する魔物なんじゃ。頭が2つある狼のような見た目をしておる」

「あぁ!あいつですか!」

 それなら知ってるぞ!俺を襲った奴らに違いない!

「むむ、君はツインウルフを知っておるのか?」

「あ、えぇ…実は僕も一昨日隣村の帰り道で襲われまして……他にもそんな不運な人がいたんですね……」

「なんと!?それは災難じゃったのぅ………ん?もしやそのとき誰かに命を救われたのではないか?」

「え?いえいえ、魔物に襲われたのははじめてで、最初は危なかったですが、まぁ自力でなんとかしましたよ?」

「………は?」

 ララさんが目を丸くしてこちらを見ている。そんなに見つめられるとドキドキするんですけど……

「坊や、その時の状況を少し詳しく話してくれんか?」

「え?別に良いですけど、そんなに面白い話じゃないと思いますよ?」

 そして俺はあの時の状況を話して聞かせた。3匹に囲まれて死にかけたこと、とっさに魔法を放ったら1匹が真っ二つになったこと。最後に3匹の死体を道の端で燃やして帰ってきたこと……

 二人は僕の話を聞いたあと、しばらく黙っていた。

 そして!

「「君か!」」 

 あれ、なんかハモってる。しかもこの反応ってつまり探し人が俺ってこと?

「いやいやいや、僕が使ったのはただのエアカッターですよ?お二人が驚くような超ド級の大魔法なんて使ってませんって!」

「坊や、我々が驚いておるのは、まさにそのエアカッターの威力なんじゃよ。……ララよ。ちょっとそこの岩にエアカッターを撃ってみよ」

「え?はい……風の精霊よ、われに力を。すべてを切り裂く風の刃『エアカッター』!」

 半月状の風の刃が大岩に直撃する……が大岩は表面が少し削れた程度でびくともしていなかった。

「おぉ!随分短い詠唱なんですね!それにクネクネした踊りもない!」

「フフッ、驚いた?これは短縮詠唱と言ってね、本来の魔法の効果を落とさずに詠唱だけを簡略化して発動できるスゴワザなのよ!」

 ララさんはどこか得意気な表情で、俺にそう教えてくれた。

 やばい、この表情めっちゃ好き……

「では次に、坊や。君がやってみたまえ」

「あ…はい。あの……僕詠唱とか出来ないんですけど…?」

「はぁ?!じゃぁどうやってエアカッター使ったっていうのよ?お師匠、疑いたくないですけど、やっぱりこの子の嘘なんじゃぁ…」

「ララよ、少し黙っておれ!坊や、すまん詠唱は要らんからやってくれ」

「えっと……はい」

 そしておれはいつも丸太をスライスするときより少し力を込めてエアカッターを大岩に向けて放った。

 スパンッッ!

 大岩はまるで豆腐でも切ったかのように真っ二つに切断された。地面も少し割れている。

「なっ…!はぁっ!?」

 ララさんはまた驚きを隠さず目を丸くしている。

「……やはり、思った通りじゃったか。そもそも魔物に囲まれた状況で魔法の詠唱などできるはずがないのじゃ。しかし……無詠唱でこれだけの威力の魔法を発動できる人間が王国におったとはのう……」


 確かに魔法攻撃力、俺のほうが二人よりだいぶ高いもんな。

「ときに…シリウスくん、といったかな?君は一体どれだけの魔法が使えるんじゃ?」

「えっと…」

 俺は今覚えている魔法を上から順に読み上げて二人に聞かせた。

「なるほど……シリウスくん、もし君が望むならワシラと一緒に来んか?その間にワシやララの持つ魔法の知識のすべてを伝えよう」
 
「え!?お師匠本気ですか!?まだ彼は子供なんですよ!?」

「やかましい!ワシにもお主にも彼ほどの強大な魔法は使えんじゃろうが!であれば、彼に今後の魔法学のすべてを託すのが先人の務めじゃとは思わんか!」

「そ、それは……」

 え?なんか俺ヘッドハンティング的なことされてる?昔もよくライバル企業とか証券会社の所長とかから電話きてたなぁ……

「あ、あの!僕は、その……店の仕事をしなきゃならないので……その……」

 仮に二人について行ったとしたら、店はどうなる?ガラクだけじゃとても切り盛りできないだろう。

「では、店の問題が解決したら、ワシらとまずはほんの一月でいいから行動をともにしてみんか?」

 一月かぁ、そのくらいならまぁ別にいいか。将来的には世界を旅してまわろうと思ってるんだし、予行だと思えばこれも必要な経験だろう。

「分かりました。一月ならご一緒させていただきます。ただ、店の経営を安定させるためにも、従業員を雇って仕事を覚えさせる必要がありますので、出発は早くて2週間後で良いでしょうか?」

「構わんよ。では、それまでワシらも宿でゆっくりと羽を伸ばしておるとしようかの」

「こんな何もない田舎で、ってところが微妙ですけど、やっと休暇ですね!?やったぁ!」

 そして、話はまとまった。従業員のアテはいくらでもある。俺は帰宅すると早速業務マニュアルと、育成プランの作成に取り掛かった。
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