アリの帝国 〜転移したゲームの世界の300年後はとんでもない乱世でした〜

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第三話 現地人との初接触 後編

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突然頭上から降ってきたアントニオとアリエルに来客たちは動揺を隠せない。

「か、固まるな!距離を取って奴らを囲め!」

馬にまたがる青年も努めて平静を装おうとしているが、呼吸が荒いし目線も左右に泳いでいる。

「来ないのならこちらからゆくぞ!」

アントニオが勢いよく太刀を振りかぶり今にも一撃入れそうなところで間一髪俺の転移が間に合った。

「待て、アントニオ」

アントニオの太刀は芝生と触れるか否かのところでピタリと止まった。

「はっ!」

刀を鞘に納めアントニオが一歩下がると、空気を読んだのかアリエルも巨槌を下ろした。

あぶねー……いきなり攻撃を仕掛けるなんてどういう思考回路してるんだ。
相手もすっかり身構えてめちゃくちゃ警戒されてるじゃないか。

最初はフレンドリーに行くのがネトゲの基本だろ!
ただし、俺の設定は崩しちゃいけないな。

えっと……あの馬のやつがリーダーっぽいな。

「あー……なんだ、うちの者が先走ったようですまない。私はガトー、ここの主だがそちらは?」

「わ、我々は……」

男が話し始めたところで突然俺の横からアリエルが飛び出し馬の頭を巨槌で叩き潰してしまった。

男は放り出されるように馬の背から弾き飛ばされ地上に転がり落ちた。

「「「団長!?」」」

兵士たちが男のもとに駆け寄る。

「おい、おまえ!馬の上からガトー様と話すなんてずいぶんナメた真似してくれるなぁ!」

えっ……ちょい、このバカ!

「やめろ、アリエル!」

「はっ!すみません!」

絶対反省してないなコイツ……

「お前たち、クラ坊をよくも!」

その時、兵士の一人が俺に向かって矢を放った。

「なっ!?」

矢の動きは超スローだし鏃の形までよく見えているのに、咄嗟のことで気が動転し体が動かず、回避ができない。
やばい、死んだかも……

直後、放たれた矢は俺の額の真ん中に直撃した……のだが、矢の方がひしゃげてしまったようだ。
ゴマ粒でも当たったかなと思うくらいのごく僅かな感触があっただけで、俺の体は何ともない。

あぶねー……おっと、それよりもだ。

従者たちに目を向けると案の定、全員が攻撃モーションに入っている。

「控えよ、お前たち!」

ギリギリのところで従者たちの処刑ショーを止め、俺は未だに地面に転がったまま呆然としている男のもとに歩み寄った。

「あー……その、重ねてうちの者がすまない。ケガはないか?」

「痛てて………は、はい。私はクライスラー・エクセンタス、この先にあるエクセンタスの街の領主の次男でこの調査団の団長です。突如見慣れない森林と塔が出現したためその調査に参りました。こちらこそ、馬上から会話などと……非礼を謝罪いたします。また、先程のバンドム……弓の件も寛大にご対応いただき感謝いたします」

ほら、話せばなんとかなるじゃないか。

それにしても……フレンド追加アイコンが出ないということはこいつら皆NPCってことか?
それともこの世界にフレンド追加機能はない?


「……いや、良い。潰してしまった馬の分は後ほど補填しよう。そんなことより、我々もいささか困惑しているのだが、ここはエルバイン王国とは関係のない場所か?」

「エルバイン王国……ですか。それなら300年前にこの辺りで栄えていた王国の名だと伝承で聞いておりますが、今この地はレイデンス王国の領土です」

「そ、そうか……」

300年!?また300年か!

ということはつまり……まず俺はゲームの世界に飛ばされていて、そしてさらに拠点の場所ごとグラン・オルトナの300年後の世界にタイムスリップしていると……?

何だそれ!?

「あ、あの……私からも4つほど質問してよろしいでしょうか……?」

「ああ、もちろんだとも」

「ありがとうございます。まず、ここはいったい何なのですか……」

「私の土地と私の拠点『グロリアフォルミカ』だ。あの黒く美しい外壁は最高難易度と名高いの溶岩島から運んできた魔力濃度の高い溶岩石でできているのだよ」

フッ……ついドヤってしまった。

「は、はぁ……そうでしたか」

クライスラーは口をぽかんと開けて呆然としている。驚きで声も出せないとは、たしかに俺の自慢の拠点ではあるがこうして人からリアクションをもらえるとなかなか嬉しいものだ。

「それで、次は何だね?この樹木か?これらは秘境『デアマン群生林』で良い感じのものを採取してきて植えているのだよ。それからこの芝生も気になっているのだろう?この芝生は龍神の住処とも名高い『ウルテスラ高原』の野芝を育て、すべて30ミリの長さに刈り揃えたものだ。そんじょそこらの芝生とはわけが違うぞ、ワハハハハ」

ダメだダメだ、昔から自分の好きなものについて話しすぎるのは良くない癖だと自覚しているじゃないか。

これ以上話すと相手が引いてしまうぞ。

「ゴホン……すまん、少々取り乱した」

「い、いえ……お気になさらず。2つ目の質問ですが、貴方がたはどうやってここへ来たのですか?」

「それについては知らん。我々も気づいたときにはここにいたのだ」

そう、むしろそれについては俺たちのほうが教えてほしいくらいで、これ以上の情報はないのだ。

「なるほど……どうにも理解し難い状況ではありますが、お言葉に嘘はなさそうですね。分かりました、一旦はそれで納得することといたします。それで、3つ目の質問ですが、貴方がたは一体何者なのですか?」

何者……か。何者なんだ、俺たちは?とりあえずグランド・オルトナの世界の延長ではあるようだし、自分の称号でも名乗っておくとしよう。

「先ほど名乗った通り私の名はガトー、そして彼らは私の従者だ。ここに飛ばされて来る以前は『十王』などと呼ばれていたが……私の知る時代とも随分違っているようだし、今のところはただのこの地の主、といったところかな」

「十王……ですか?それはまた……」

クライスラーの様子だと、十王を知らない?
ということは、この時代には十王がいないのか?

「ゴホンっ……では、最後に。……ガトー殿……貴方がたは私たちにとって友好的な人たちという理解で良いでしょうか?」

クライスラーの目が一瞬マジになったのを俺は見逃さなかった。ここは適当に答えるべきじゃないだろうな。

「ふむ……それは難しい質問だが、そちら次第という回答で受け入れてもらえると助かる。特段こちらから何かを仕掛けようという意思は無い」

「………分かりました。願わくば、貴方がたとは良い関係のままでいたいものですな」

クライスラーの言葉に嘘は感じられない。

「あぁ、私もそう思っている」

「では、今日のところは引き返させていただきます。また近々酒でも持って改めてご挨拶に伺いますので」

クライスラーが俺に一礼し、そのまま踵を返してきた道を引き返そうとしたところで、ふと俺の視界に入ったのは潰れた頭が地面にめり込んだままピクリとも動かない哀れな馬の姿だった。

「待たれよ、クライスラー殿。私の部下が潰してしまった貴殿の馬の埋め合わせをしなくては。……今も通貨はこれが使われているか?」

俺はアイテムボックスから大金貨を10枚と革袋を取り出すと袋に金貨を包んで彼に渡した。

「これは……大金貨!?も、も、も、もらいすぎです!いくらなんでもこんなに頂くわけには……」

良かった、通貨は変わっていないようだ。

「気にするな、最初に驚かせてしまった分の侘びも込みで、と思って受け取ってくれれば良い」

「いや……しかし……」

白金貨や聖金貨ならまだしも、大金貨くらいまだ100万枚以上アイテムボックスの中に眠っているのだから何ということはないのだが。

「そなた、我が君がお与えになった金子(きんす)が受け取れぬと申すのか?」

「い、いや……そういうわけでは……分かりました。ありがたく頂戴します」

アントワネットのひと押しで、やっとクライスラーが首を縦に振りすべてが丸く収まった。

「街の方角はどちらだ?森を抜けるのは大変だろうから、せめて道を作ろう」

「道、ですか?街はここから西の方角ですが……」

「分かった、少し待っているがよい」

俺はメニューから拠点編集画面を開くと西側の木々を道が開けるように一旦収納すると地面を広場と同じ芝生で整えた。

これでよし。

完了ボタンを押すとまたたく間に設定した通りの一本道が現れ芝生が広がっていく。

「んなぁっ!?」

「ふむ、これでいくらか帰りやすくなっただろう。道は残しておくから何か用があればそこから訪ねてくると良い。お前たち、我々も戻るぞ」

「はっ!」

しばらく呆然とするクライスラーを尻目に、俺たちは早々に地下へと帰還したのだった。

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