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第61話 甘い誘惑
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翌朝、一行は朝食を食べてすぐに砂浜へと向かった。朝イチのまだ人が少ない海を楽しみたいとのこと。
昨日と同じように、夕奈、瑞希、花音、天音は水をかけあって遊んでいるし、こまると風花は少し離れた場所に居て、浮き輪の上でのんびりと揺られている。
もちろん、唯斗はパラソルの影でうたた寝中だ。少しずつ騒がしくなっていくビーチで完全に寝落ちるのは難しいものの、彼はこのウトウトする時間が好きだった。
「12時回ると人増えるだろうし、早めに買いに行こうぜ」
しばらくすると、海から上がってきた瑞希がそう言いながら戻ってくる。皆もそれに賛成して、一度遊ぶのを中断した。
「みんな、何が食べたいか言ってくれ。私と夕奈、小田原の3人で買ってくる」
「……僕も行くの?」
「嫌なら代わりにそこのイルカの浮き輪を口で膨らませてもらうことになるぞ?」
「行かせてもらおうかな」
瑞希は「いい返事だ」と頷くと、他の4人に食べたいものを聞いてから、「浮き輪、よろしくな」と伝えて歩き出す。唯斗と夕奈もすぐに後を追った。
「焼きそば3つにフランクフルトが2つ、あとは……」
「フランクフルトっていいよねー!あの生地に甘みがあって好きなんだよなぁ!」
「夕奈、それはアメリカンドッグだろ」
「あちゃー! 間違えちった♪」
「てへぺろ♪」と変顔をして誤魔化す彼女を無視して進むと、目的地である海の家の横にあるものが見えてくる。
銃の形をした浮き輪に空気を入れるやつだ。立てかけられた看板には、『ご自由にお使いください』と書いてあった。
「口で膨らませるんじゃなかったの?」
「そんなわけないだろ? 小田原を連れてくるための嘘だ」
「……もう二度と信じない」
「わ、悪かったって!」
帰ろうとする唯斗に瑞希が「わたあめ奢ってやるから、な?」と言うと、彼は「仕方ない、もう一度信じてやるか」と戻ってくる。
夕奈が「え、チョロくない?!」と驚いているけど、そんなことは気にしない。誰も綿飴の誘惑には勝てないのだ。
「焼きそばを3つとフランクフルト2つ、あとおにぎりを4パック」
海の家に入り、瑞希がレジのお兄さんにそう注文すると、彼は申し訳なさそうに後ろ頭をかいた。
「すみません、今フランクフルト用のソーセージ切らしちゃってるんですよ。運搬のトラックが軽い事故に遭ったらしくて……」
「それなら仕方ないよな。花音たちには別のものを買っていくことにするか」
「アメリカンドッグならありますよ」
レジのお兄さんがそう言った瞬間、後ろでボーっとしていた夕奈が突然前に出てくる。
唯斗はそんなにもアメリカンドッグが好きなのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「フランクフルトとアメリカンドッグを一緒にするんじゃないよ!」
やたら言葉に熱を込める夕奈だが、結局は瑞希に「お前が言うな」の一言で黙らせられてしまった。
そりゃそうだ。ついさっきまで勘違いしてた人が言っても説得力皆無だからね。
「じゃあ、フランクフルトの代わりにアメリカンドッグで」
「かしこまりました。そちらのお客様はいかがなさいますか?」
「僕は塩ラーメンにしようかな」
「私もそれで!」
注文を終えてから出来上がるまで少し待つ間に、唯斗は瑞希からもらった100円を握りしめ、海の家の隅に置いてある綿飴製造機へと向かった。
作るところを見たいと夕奈も着いてきているが、邪魔をしないのならいいだろうと放っておいている。
「わたあめなんて久しぶりだよ」
そう言いながら100円玉を投入し、機械が稼働し始めたところで、唯斗は割り箸が無いことに気がついた。
しかし、無慈悲にも金をもらってやる気を出した機械は止まることを知らず、わたあめの素が投入される。
「ど、どうしよう?!」
唯斗は焦る夕奈に「割り箸もらってくる」と言い残してレジへとダッシュ。
ちょうど接客中だったので少し待ち、注文が済んでから急いで割り箸をもらった。
「夕奈、もらってきた───────よ?」
戻った頃には既に機械は100円分の働きを終えていて、熱くなったその身を冷やしているところだった。
しかし、唯斗が肩を落としたのはそれが理由ではない。その前にいる夕奈の指を見たからだ。
「ご、ごめん……私、焦っちゃって……」
彼女は何を思ったのか、割り箸ではなく自分の指でわたあめを作っていたのである。それもかなり上手に。
「……熱くなかったの?」
「……ちょっとだけ。お、怒ってる?」
「ううん、どうせ間に合ってなかったからいいよ」
今回は夕奈に非は無い。むしろ、何とかしようとしてくれた結果だから、唯斗からすれば感謝するべきだった。
「……ど、どうぞ?」
まだ頭の中を整理出来ていないのか、夕奈はわたあめの出来上がった人差し指を差し出してくる。
このまま食べろということらしいが、唯斗は「遠慮しとこうかな」と一歩後ずさった。
わたあめは棒から食べるから美味しいのであって、人の指から食べるのでは話が違う。それに、歯が肌に当たって痛いかもしれない。
唯斗はそういう考えで断ったのだが、この後、いつもの調子を取り戻した夕奈に「熱かったのになー?」と言われ、唯斗は仕方なく食べざるを得なくなるのであった。
「2人とも、焼きそばとアメリカンドッグを運ぶの手伝って……ん? 夕奈、なんか顔赤くないか?」
「な、なんでもないなんでもない! さあ、昼食の時間だー!」
「……おいおい、嘘下手すぎるだろ」
苦笑いをする瑞希を見て、彼女に隠し事は出来ないなと確信した唯斗であった。
昨日と同じように、夕奈、瑞希、花音、天音は水をかけあって遊んでいるし、こまると風花は少し離れた場所に居て、浮き輪の上でのんびりと揺られている。
もちろん、唯斗はパラソルの影でうたた寝中だ。少しずつ騒がしくなっていくビーチで完全に寝落ちるのは難しいものの、彼はこのウトウトする時間が好きだった。
「12時回ると人増えるだろうし、早めに買いに行こうぜ」
しばらくすると、海から上がってきた瑞希がそう言いながら戻ってくる。皆もそれに賛成して、一度遊ぶのを中断した。
「みんな、何が食べたいか言ってくれ。私と夕奈、小田原の3人で買ってくる」
「……僕も行くの?」
「嫌なら代わりにそこのイルカの浮き輪を口で膨らませてもらうことになるぞ?」
「行かせてもらおうかな」
瑞希は「いい返事だ」と頷くと、他の4人に食べたいものを聞いてから、「浮き輪、よろしくな」と伝えて歩き出す。唯斗と夕奈もすぐに後を追った。
「焼きそば3つにフランクフルトが2つ、あとは……」
「フランクフルトっていいよねー!あの生地に甘みがあって好きなんだよなぁ!」
「夕奈、それはアメリカンドッグだろ」
「あちゃー! 間違えちった♪」
「てへぺろ♪」と変顔をして誤魔化す彼女を無視して進むと、目的地である海の家の横にあるものが見えてくる。
銃の形をした浮き輪に空気を入れるやつだ。立てかけられた看板には、『ご自由にお使いください』と書いてあった。
「口で膨らませるんじゃなかったの?」
「そんなわけないだろ? 小田原を連れてくるための嘘だ」
「……もう二度と信じない」
「わ、悪かったって!」
帰ろうとする唯斗に瑞希が「わたあめ奢ってやるから、な?」と言うと、彼は「仕方ない、もう一度信じてやるか」と戻ってくる。
夕奈が「え、チョロくない?!」と驚いているけど、そんなことは気にしない。誰も綿飴の誘惑には勝てないのだ。
「焼きそばを3つとフランクフルト2つ、あとおにぎりを4パック」
海の家に入り、瑞希がレジのお兄さんにそう注文すると、彼は申し訳なさそうに後ろ頭をかいた。
「すみません、今フランクフルト用のソーセージ切らしちゃってるんですよ。運搬のトラックが軽い事故に遭ったらしくて……」
「それなら仕方ないよな。花音たちには別のものを買っていくことにするか」
「アメリカンドッグならありますよ」
レジのお兄さんがそう言った瞬間、後ろでボーっとしていた夕奈が突然前に出てくる。
唯斗はそんなにもアメリカンドッグが好きなのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「フランクフルトとアメリカンドッグを一緒にするんじゃないよ!」
やたら言葉に熱を込める夕奈だが、結局は瑞希に「お前が言うな」の一言で黙らせられてしまった。
そりゃそうだ。ついさっきまで勘違いしてた人が言っても説得力皆無だからね。
「じゃあ、フランクフルトの代わりにアメリカンドッグで」
「かしこまりました。そちらのお客様はいかがなさいますか?」
「僕は塩ラーメンにしようかな」
「私もそれで!」
注文を終えてから出来上がるまで少し待つ間に、唯斗は瑞希からもらった100円を握りしめ、海の家の隅に置いてある綿飴製造機へと向かった。
作るところを見たいと夕奈も着いてきているが、邪魔をしないのならいいだろうと放っておいている。
「わたあめなんて久しぶりだよ」
そう言いながら100円玉を投入し、機械が稼働し始めたところで、唯斗は割り箸が無いことに気がついた。
しかし、無慈悲にも金をもらってやる気を出した機械は止まることを知らず、わたあめの素が投入される。
「ど、どうしよう?!」
唯斗は焦る夕奈に「割り箸もらってくる」と言い残してレジへとダッシュ。
ちょうど接客中だったので少し待ち、注文が済んでから急いで割り箸をもらった。
「夕奈、もらってきた───────よ?」
戻った頃には既に機械は100円分の働きを終えていて、熱くなったその身を冷やしているところだった。
しかし、唯斗が肩を落としたのはそれが理由ではない。その前にいる夕奈の指を見たからだ。
「ご、ごめん……私、焦っちゃって……」
彼女は何を思ったのか、割り箸ではなく自分の指でわたあめを作っていたのである。それもかなり上手に。
「……熱くなかったの?」
「……ちょっとだけ。お、怒ってる?」
「ううん、どうせ間に合ってなかったからいいよ」
今回は夕奈に非は無い。むしろ、何とかしようとしてくれた結果だから、唯斗からすれば感謝するべきだった。
「……ど、どうぞ?」
まだ頭の中を整理出来ていないのか、夕奈はわたあめの出来上がった人差し指を差し出してくる。
このまま食べろということらしいが、唯斗は「遠慮しとこうかな」と一歩後ずさった。
わたあめは棒から食べるから美味しいのであって、人の指から食べるのでは話が違う。それに、歯が肌に当たって痛いかもしれない。
唯斗はそういう考えで断ったのだが、この後、いつもの調子を取り戻した夕奈に「熱かったのになー?」と言われ、唯斗は仕方なく食べざるを得なくなるのであった。
「2人とも、焼きそばとアメリカンドッグを運ぶの手伝って……ん? 夕奈、なんか顔赤くないか?」
「な、なんでもないなんでもない! さあ、昼食の時間だー!」
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