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第55話 心臓は口ほどにものを言う
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「いや、するけど」
そう答えた唯斗は、表情には出さないが拍子抜けしていた。てっきり気分が悪い時はどうすればいいかと聞かれると思っていたのだ。
「するの?! い、今も?」
「むしろ、今じゃなきゃしないよ」
何をしでかすか分からない夕奈に、こうして押さえつけられている。こんな恐ろしい状況でドキドキしない方がおかしいよ。
唯斗は心の中で自分の正当性を認めると、何故かニヤニヤと頬を緩めている夕奈をじっと見つめる。
「だから、さっさとそこから降りてくれる?」
「えー、もし降りなかったら?」
「僕も我慢の限界を迎える」
「……じゃあ、降りなくていっか」
唯斗は意味深な視線をチラチラと向けてくる夕奈に、こいつは畜生かと呆れの視線を向けた。
元々やばい人かもしれないとは思っていたけど、まさかここまで性格が歪んでいたとはね。
唯斗は宣言通り我慢するのをやめ、夕奈を突き飛ばしてでもこの状況を何とかしようと手首に力を込めた……と、その瞬間だった。
「ただいま! お兄ちゃん、夕奈師匠、そろそろ昼ご飯が─────────え?」
2人を呼びに戻ってきた天音が、室内の状況を見て固まった。が、彼女は何かを理解したのかウンウンと深く頷くと、「ごゆっくり~♪」と手を振りながらまた部屋を出て行く。
「瑞希ちゃん、お兄ちゃんと夕奈ちゃんが変なことを─────────」
廊下から聞こえてきたその声に反応するように、夕奈は唯斗の上から飛び降りると、猛ダッシュで部屋の外へと飛び出していった。
「2人で何してたんだ?」
「お兄ちゃんのベッドの上で……」
「な、なんでもないなんでもない!」
何やら騒がしい話し合いを数分ほど続けた後、「じゃあ、私たちは先に食べてくるからな」と言う言葉を最後に廊下は静かになる。
とぼとぼと戻ってきた夕奈は唯斗のことを一瞥した後、「30分後に起こして、一生のお願い」と言い残して自分のベッドに倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。
「いや、30分と言わず30時間くらい寝てもいいよ」
疲れから眠気を感じてきた唯斗のその言葉が、その耳にしっかり聞こえていたのかどうかは、夕奈本人に聞いてみなければ分からないことである。
=======================================
ホテルのレストランでバイキングの昼食を食べ終えた一行は、部屋に戻って少しくつろいだ後、今から海に入りに行くことに決めた。
唯斗は1人で部屋に残ると言ったものの、全員揃わないと楽しめないだろうと瑞希に叱られ……。
「じゃあ、寝てるだけでいい?」
「ああ、いいぞ」
「よしっ」
疲れることは何もしなくていいという条件で、彼は外へ出る決意をした。そういうわけで現在、唯斗はパラソルの日陰でウトウトしているのである。
直射日光を回避しながらも、レジャーシートごしに伝わってくる砂の温かさがまさに極楽だ。
「小田原、時間かけて悪かったな」
そんなところへ、ビーチにある更衣室へ水着に着替えに行っていた女性陣が戻ってくる。唯斗には、彼女らの荷物を見守っておく役目もあるのだ。
「もっとかけても良かったけどね」
唯斗は雰囲気を出すためにかけていたサングラスを外し、あくびをしながら声の聞こえた方を振り返った。
そして、視界に映った彼女らの水着姿に思わず「おお……」という声が漏れる。
「水着だけでも個性って出るんだね」
それぞれが自分を理解しているのかは分からないけど、唯斗の目から見てもみんなの着ている水着は各々のイメージにピッタリだと思えた。
さすがはパリピ集団(友達がいる人の集まり)、自分と違ってファッションセンスがあるなぁ。
唯斗は心の中でそう感心していた。
そう答えた唯斗は、表情には出さないが拍子抜けしていた。てっきり気分が悪い時はどうすればいいかと聞かれると思っていたのだ。
「するの?! い、今も?」
「むしろ、今じゃなきゃしないよ」
何をしでかすか分からない夕奈に、こうして押さえつけられている。こんな恐ろしい状況でドキドキしない方がおかしいよ。
唯斗は心の中で自分の正当性を認めると、何故かニヤニヤと頬を緩めている夕奈をじっと見つめる。
「だから、さっさとそこから降りてくれる?」
「えー、もし降りなかったら?」
「僕も我慢の限界を迎える」
「……じゃあ、降りなくていっか」
唯斗は意味深な視線をチラチラと向けてくる夕奈に、こいつは畜生かと呆れの視線を向けた。
元々やばい人かもしれないとは思っていたけど、まさかここまで性格が歪んでいたとはね。
唯斗は宣言通り我慢するのをやめ、夕奈を突き飛ばしてでもこの状況を何とかしようと手首に力を込めた……と、その瞬間だった。
「ただいま! お兄ちゃん、夕奈師匠、そろそろ昼ご飯が─────────え?」
2人を呼びに戻ってきた天音が、室内の状況を見て固まった。が、彼女は何かを理解したのかウンウンと深く頷くと、「ごゆっくり~♪」と手を振りながらまた部屋を出て行く。
「瑞希ちゃん、お兄ちゃんと夕奈ちゃんが変なことを─────────」
廊下から聞こえてきたその声に反応するように、夕奈は唯斗の上から飛び降りると、猛ダッシュで部屋の外へと飛び出していった。
「2人で何してたんだ?」
「お兄ちゃんのベッドの上で……」
「な、なんでもないなんでもない!」
何やら騒がしい話し合いを数分ほど続けた後、「じゃあ、私たちは先に食べてくるからな」と言う言葉を最後に廊下は静かになる。
とぼとぼと戻ってきた夕奈は唯斗のことを一瞥した後、「30分後に起こして、一生のお願い」と言い残して自分のベッドに倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。
「いや、30分と言わず30時間くらい寝てもいいよ」
疲れから眠気を感じてきた唯斗のその言葉が、その耳にしっかり聞こえていたのかどうかは、夕奈本人に聞いてみなければ分からないことである。
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ホテルのレストランでバイキングの昼食を食べ終えた一行は、部屋に戻って少しくつろいだ後、今から海に入りに行くことに決めた。
唯斗は1人で部屋に残ると言ったものの、全員揃わないと楽しめないだろうと瑞希に叱られ……。
「じゃあ、寝てるだけでいい?」
「ああ、いいぞ」
「よしっ」
疲れることは何もしなくていいという条件で、彼は外へ出る決意をした。そういうわけで現在、唯斗はパラソルの日陰でウトウトしているのである。
直射日光を回避しながらも、レジャーシートごしに伝わってくる砂の温かさがまさに極楽だ。
「小田原、時間かけて悪かったな」
そんなところへ、ビーチにある更衣室へ水着に着替えに行っていた女性陣が戻ってくる。唯斗には、彼女らの荷物を見守っておく役目もあるのだ。
「もっとかけても良かったけどね」
唯斗は雰囲気を出すためにかけていたサングラスを外し、あくびをしながら声の聞こえた方を振り返った。
そして、視界に映った彼女らの水着姿に思わず「おお……」という声が漏れる。
「水着だけでも個性って出るんだね」
それぞれが自分を理解しているのかは分からないけど、唯斗の目から見てもみんなの着ている水着は各々のイメージにピッタリだと思えた。
さすがはパリピ集団(友達がいる人の集まり)、自分と違ってファッションセンスがあるなぁ。
唯斗は心の中でそう感心していた。
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