上 下
55 / 63

第55話 心臓は口ほどにものを言う

しおりを挟む
「いや、するけど」

 そう答えた唯斗ゆいとは、表情には出さないが拍子抜けしていた。てっきり気分が悪い時はどうすればいいかと聞かれると思っていたのだ。

「するの?! い、今も?」
「むしろ、今じゃなきゃしないよ」

 何をしでかすか分からない夕奈ゆうなに、こうして押さえつけられている。こんな恐ろしい状況でドキドキしない方がおかしいよ。
 唯斗は心の中で自分の正当性を認めると、何故かニヤニヤと頬を緩めている夕奈をじっと見つめる。

「だから、さっさとそこから降りてくれる?」
「えー、もし降りなかったら?」
「僕も我慢の限界を迎える」
「……じゃあ、降りなくていっか」

 唯斗は意味深な視線をチラチラと向けてくる夕奈に、こいつは畜生かと呆れの視線を向けた。
 元々やばい人かもしれないとは思っていたけど、まさかここまで性格が歪んでいたとはね。
 唯斗は宣言通り我慢するのをやめ、夕奈を突き飛ばしてでもこの状況を何とかしようと手首に力を込めた……と、その瞬間だった。

「ただいま! お兄ちゃん、夕奈師匠、そろそろ昼ご飯が─────────え?」

 2人を呼びに戻ってきた天音あまねが、室内の状況を見て固まった。が、彼女は何かを理解したのかウンウンと深く頷くと、「ごゆっくり~♪」と手を振りながらまた部屋を出て行く。

瑞希みずきちゃん、お兄ちゃんと夕奈ちゃんが変なことを─────────」

 廊下から聞こえてきたその声に反応するように、夕奈は唯斗の上から飛び降りると、猛ダッシュで部屋の外へと飛び出していった。

「2人で何してたんだ?」
「お兄ちゃんのベッドの上で……」
「な、なんでもないなんでもない!」

 何やら騒がしい話し合いを数分ほど続けた後、「じゃあ、私たちは先に食べてくるからな」と言う言葉を最後に廊下は静かになる。
 とぼとぼと戻ってきた夕奈は唯斗のことを一瞥した後、「30分後に起こして、一生のお願い」と言い残して自分のベッドに倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。

「いや、30分と言わず30時間くらい寝てもいいよ」

 疲れから眠気を感じてきた唯斗のその言葉が、その耳にしっかり聞こえていたのかどうかは、夕奈本人に聞いてみなければ分からないことである。

=======================================

 ホテルのレストランでバイキングの昼食を食べ終えた一行は、部屋に戻って少しくつろいだ後、今から海に入りに行くことに決めた。
 唯斗は1人で部屋に残ると言ったものの、全員揃わないと楽しめないだろうと瑞希に叱られ……。

「じゃあ、寝てるだけでいい?」
「ああ、いいぞ」
「よしっ」

 疲れることは何もしなくていいという条件で、彼は外へ出る決意をした。そういうわけで現在、唯斗はパラソルの日陰でウトウトしているのである。
 直射日光を回避しながらも、レジャーシートごしに伝わってくる砂の温かさがまさに極楽だ。

小田原おだわら、時間かけて悪かったな」

 そんなところへ、ビーチにある更衣室へ水着に着替えに行っていた女性陣が戻ってくる。唯斗には、彼女らの荷物を見守っておく役目もあるのだ。

「もっとかけても良かったけどね」

 唯斗は雰囲気を出すためにかけていたサングラスを外し、あくびをしながら声の聞こえた方を振り返った。
 そして、視界に映った彼女らの水着姿に思わず「おお……」という声が漏れる。

「水着だけでも個性って出るんだね」

 それぞれが自分を理解しているのかは分からないけど、唯斗の目から見てもみんなの着ている水着は各々のイメージにピッタリだと思えた。
 さすがはパリピ集団(友達がいる人の集まり)、自分と違ってファッションセンスがあるなぁ。
 唯斗は心の中でそう感心していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...