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第1部 入校編

第1部19話 決戦

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第1部19話  決戦


 サナが叫び声をあげながら向かってくる。

 サーシャが『ブラッドバット』を放つが、腕で簡単に払われてしまった。

「サーシャ!  下がれ!  藤堂一刀流居合『虎風』!」
今度は峰打ちではなく刃を向けた居合切りによって、サナは体から黒い血を噴き出す。苦しむ声を上げるが、腕を硬く鋭利な形状に変化させると反撃を繰り出した。

「藤堂一刀流居合『雲龍』!」

 同時に攻撃を放った両者は共に血を噴き出して膝をつく。相討ちかと思われたが、幸近の手にしていた刀は刃が折れ、刀身を失くしていた。
(強度で負けた……)
幸近はすぐには立ち上がる事が出来ないでいると、背後からサナが攻撃を仕掛ける。

「ブラッドシールド!」
サーシャは盾で幸近を守り、そのまま攻撃へと移る。
「ブラッドハンマー」
大きな血のハンマーをサナの頭上に落とし、サナは地面へと打ちつけられた。
 そしてサーシャが続けて攻撃を仕掛けようとしたその時――背後にいきなり現れたカレルによってサーシャの首に注射針が刺された。
「サーシャ!!」
「あぅ……」
苦しみながらその場に倒れ込んでしまうサーシャ。

「カレル!  サーシャに何を打った!」
「一連の事件で使用していた猛毒だよ」
「大丈夫だよ、藤堂くん……」
「君は……なぜまだ喋れる……?」
カレルが驚いた表情で尋ねる。
「あたしは……毒じゃ死なないから……」
「そんなバカな、象でも1分で死に至る猛毒だぞ」
「吸血鬼をなめないで……」
「さすがに暫くは動けないはずだ。それならば直接首を落とすまで――」
そう言って懐からナイフを取り出そうとしたカレルの動きは止まる。

 サーシャは動けないでいたが、影を伸ばしカレルの体を包み込み、その場所から動けないよう固定した。
「藤堂くん、これでおじさんは動けない……。例え姿を消したとしても、あたしがずっと抑えてるから安心して」
「だけど剣が折れちまったんだよな……。流石にあいつの相手は丸腰じゃキツそうだ」
「じゃあ……これを使って……」
サーシャは血で刀を作って飛ばし、それが幸近の足元へと刺さった。

「サンキューサーシャ、恩にきるよ」
幸近はその刀を手に取り強く握りしめ、立ち上がってきたサナと再び向き合う。
「来い!」
サナが唸りながら幸近へと突撃する。
 
「藤堂一刀流居合 奥義『雲龍風虎』!」

 幸近の得意とする居合の型である虎風と雲龍を掛け合わせた、抜刀から十時に刃を振るう剣技が炸裂した。

 それを受けたサナは体に十字の傷を負い、凄まじい断末魔を上げると、その場に倒れる。すると、サナの体は先ほどまでのおぞましい外見から、カレルの娘であった頃のいたいけな少女の姿へと戻ったのであった。
「そんな……サナ……」
「次はあんただ、カレル!」
「や、やめろ……やめてくれ……」
「俺の友達を傷つけた責任とってもらうぞ。藤堂一刀流居合 『虎風』!」
動けないでいたカレルに幸近の峰打ちが打ち込まれ、カレルは静かに目を閉じる。

「サーシャ、大丈夫か?」
「うん、暫く血を循環させれば動けるようになるよ……」
「そうか、よかった……」
そして幸近は通信を入れる。
「こちら幸近、カレルを捕らえた」
「幸ちゃん無事でよかった!  こちらも崩壊のプログラムは解除したわ!  みんな最上階の研究室に集合してちょうだい!」

 間もなくボロボロになった子供達を連れて皆がこの場所に集合した。3人を川の字に寝かせたが苦しそうに悶え、時折血を吐きだす。子供達は既に正気に戻っていて、少しだけ会話をすることが出来た。

「幸兄、オレ死んじゃうの?  まだみんなと遊びたりないよ……」
「たまもは、もっともっとみんなの絵が描きたいです……」
「幸近兄さん、短い間だったけど、本当のお兄さんが出来たみたいで楽しかった……」
「……なんとか助ける方法はないのかしら」
クリスタは目に涙を浮かべている。
「この子たちは何も悪いことしてないのに……」
サーシャは既に泣いていた。
「ケンちゃん殿、どうにかならないだろうか……」
「あたしでも流石に薬品の抗体をつくることまでは……」
「なんの罪のない子供1人救えないで、何が異能警察よ……」
ソフィは自分を責めている様子だった。

「みんな聞いてくれ……。ひとつだけ、方法があるかもしれない」
「まさか幸ちゃん、待ちなさい!  その能力は!」
「ケンちゃん!!  俺は……助けられるかもしれないこの子たちを見捨てて、この先どんな顔をして人助けをすればいいのか分からない……。
 俺の夢は異能警察だ。でも目の前の救えるはずの子供を見捨てるくらいなら、こんな夢諦めた方がマシだって……きっと母さんも、そう言うと思うんだ……」
「幸ちゃん……」
俺はみんなに今まで黙っていたラグラスの説明をした。皆は驚いた様子だったが他言無用を約束してくれた。

「幸ちゃん……その説明には足りない部分があるわ」
「それは言わなくてもいいだろう!」
「ダメよ……これはみんなで決めたことなんだから、あなた1人がリスクを背負うのは許さないわ」
「ちょっとあなたリスクってどういうこと?  私にはそんなこと一言も言ってなかったじゃない!」
ソフィが尋ねると、ケンちゃんは事情を察する。
 
「そう……ソフィちゃんにも能力を使ったのね……。幸ちゃんのこのラグラスはね……相手が契約不履行を起こした際の罰は、幸ちゃんにも同じものが降り注ぐの」
「なんでそんな大事なこと、言わなかったのよ!」
ソフィは涙を流しながら問う。
「お前が約束を破る人間には見えなかったから……信じてたんだ、君のこと」
「説明になってないわよ……バカじゃないの……」
「俺は、俺が信じた人間にしかこの能力は使わない。だからみんなも俺を信じてほしい」

「もしその罰とやらが降りかかる事があったなら、わたしはあんたをその罰から必ず守ってみせるわ」
クリスタは俺の目を見てそう言った。
「クリスタちゃんの言う通りよ。この罰にはみんなで向き合っていく必要があるわ」
ケンちゃんが皆の覚悟を問う。
「もちろん私にも異論はない!」
と、山形。
「あたしも、みんなを助けたい……」
サーシャもそれに続く。
「あなた1人に背負わせたりなんてしない……」
睨むように俺を見つめるソフィ。

「みんなありがとう、じゃあ始めるよ……」


――同時刻、研究所の外。

「はぁ、はぁ、はぁ……」
息を切らして走っていたのは、先ほど倒されたはずのカレルであった。彼は能力を使い、幸近一行に気付かれずサナを抱えてあの場から脱出していた。

「この『進化薬』があれば、またサナを生き返らせることが出来る。ここさえ、ここさえ乗り越えればまた……」
その時、暗闇から不気味な笑みを浮かべるスーツの男が現れた。
「やぁ、カレル博士」
「君は……四葉君、なぜ僕の姿が見えるんだ?」
「そんな事はどうだっていいじゃないか。その様子だと、失敗に終わったみたいだね」
「待ってくれ!  進化薬もサナも僕の手元にある!  これさえあれば、もう一度やり直すことが出来るんだ!」
「なるほど……それが例の『進化薬』なんだね」
そう言ったスーツの男はカレルの首をナイフで切りつけ、倒れたカレルから進化薬を奪い、静かにその場を立ち去ったのだった。

第1部19話  決戦  完


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