すべては貴女のために そしてたまには僕のために

第6話 楽しみ

　ミアが配達してくれていた時は、特に顔を合わせなかった私だが、「ミアのふり」をしてやってくるカイルにはつい毎朝挨拶してしまう。
　いつものようにミア(と言い張るカイル)の姿を見ようと、玄関に人の気配を感じるなりドアを開けた。
「おはよう。ミア。いつもご苦労さま」
「おはようございます。ライラ様」
　ミアのふりをしたカイルは相変わらず上ずった声で返事をした。今日も変わらず不細工だ。
　もうこのやりとり、一週間ほど続けているが、カイルもよく続けるなと感心してしまう。
　こうやって、私の屋敷まで来て、挨拶できるだけで満足なのだろうか。
　私はというと、毎朝やってくる不細工なミアを見るのがすっかり日々の楽しみになってしまっていた。「ミアのふり」のカイルはあくまでもミアなので、以前のように「恋人になってください」とか「好きです」とか言ってこないから接していて楽だったし、なにより見た目が面白くて、毎朝愉快だった。

　ある朝、配達に本物のミアがやって来た。
「あら、ミアじゃないの。カイルはどうしたの？」
「カイルは今日は他の仕事でして……私で申し訳ありません」
　申し訳なさそうなミアの顔を見て、私は我に返った。
「いや、違うのよ。ミアが嫌でカイルがいいってことじゃないから。断じてそういうことじゃないから。いつもと違うことが起きて驚いているだけよ。ご苦労さま」
　私は慌てて否定し、ミアから野菜を受け取って屋敷に入った。
　いざカイルが現れないとつまらないとか、私、何考えてるのかしら。