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ドブネズミ料理?

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「いただきます!」そういうとハルトは運ばれた料理に箸をつけた。

 下味をつけた食材に薄い衣をつけ油で揚げたもの。一応肉料理のようだが味が濃くて何の肉かはわからない。

 マスターは鶏肉だと言い張るが本当は違うはずだ。本物の鶏肉なら今時こんな安価で提供できるわけがない。

 安く手に入る肉はどっかの業者がドブネズミを繁殖させて食肉用として闇でさばいているものだともっぱらの噂だった。

 それでもハルトはマスターが作ってくれるこの料理が大好きだった。

 今の子供達は家庭では完全食と言われるドッグフードみたいなまずいクッキーと何種類かのサプリメント、人工ミルクだけしか与えられていない。有害物質の入っていない安全な食べ物なのだが味気なくてハルトはいつも可哀そうに思ってしまう。

 でも子供たちの健康を維持していく為にはそうするしかなかった。

「やっぱりマスターの作る料理はおいしいよ」ハルトはお世辞じゃなくそういった。

「だろ、うれしーね、そう言ってもらえると。でもね、食材も食用油もまた高くなってね。物価は上がる一方だし。この値段でいつまで出せるかわからないよ」


 マスターは最初笑っていたが次第に暗い顔になった。


 料理を頬張りながらグラスに注がれたよく冷えたビールを飲む。みんなはビールと呼んでいるがこの泡立った液体は国産のトウモロコシで造られている。ホップの爽やかな香りが食欲をそそる。よく出来ているがまがい物であり、おそらく本物のビールとは程遠いものだろう。ハルトは本物のビールを飲んだことがなかった。ビールはその主な原料である大麦の収穫量が度重なる気候変動で減少してしまい、現在ではとても庶民が気軽に飲めるような代物ではななくなっていた。

「やっぱり子供たちは安全食しか食べさせてないの?」

「うん、たまにはオレの料理食べさせてやりたいとは思うけど、レイコのやつが絶対許さないからな」

「そか、でも仕方ないね。レイコさんは間違ってないよ、子供たちの健康が一番大事だよ。マスターの手料理が食べれないのはかわいそうだけど」

「そうそうドッグフードだけ食べて育つ犬みたいだよな。オレは絶対無理だな。好きなもん食って、それで早死にしても本望だ。でも子供たちの前では死んでもそんな事いうなって、レイコが。それでも親の手料理を子供に食べさせられないっていうのは辛いんだよな」

「そうだよね、マスターの気持ちはわかるよ、子供たちだって好きであんなドッグ……。いや安全食たべてるわけじゃないだろうし」

「うん……。好きなもん食えないのは辛いだろうな、好き嫌いも何もない、食うもんっていえば毎日ドッグフードだ。それ以外選択肢はねえんだ。育ち盛りだっていうのに。でもまあ、二十年前の食糧難は酷かったからな。毎日お腹すかして生きるのも辛いからな。あの時に比べれば今の子供は少しは幸せかもしれない、ハルもまだ生まれてなかったから知らないだろ、空腹の辛さを」

「うん」

「オレが子供のころは普通になんでもあったんよ。何でも食えた。カレーにラーメンだろ、牛丼、回転寿司。ハンバーガーだろ。それにフライドチキンだろ。スパゲッテイーにたこ焼き。お好み焼きに……」夢中になって喋るマスター。

「もういいって、マスター」ハルトが笑いながら手を振ってマスターを制止する。

「おお、ごめん、つい興奮しちまった。まあ、本当に普通にみんながそんなの食ってたの。今思うと夢のようだろ」

「今はオレの給料じゃ絶対食えないよ、そんな高級料理」ハルトがため息をつく。

「高級料理かぁ、そうだな。でもぜんぶ庶民的な食い物だったんだよ、昔はな。いい時代だったんだ今思えば。今じゃあ、そんなの食えてるのはよっぽどの金持ちか裏金で贅沢三昧してる政治家の奴らくらいなものだろう。あいつら本物のビールとかワインとか毎晩飲んでうまいもんたらふく食ってるんだろうな。汚いことやって稼いだ金で、オレたちから搾取した金で。オレたちがみたこともない本当の高級料理さ。海外で生産された汚染されてない安全な食材で作られた。そしてのうのうと長生きするのさ。オレたちはたった五十年しか生きれねえのに。罪悪感のかけらも持ってねえのか、あいつら。本当に。俺たちが受け取れる政府発行のフードスタンプじゃあ絶対無理だろ?かろうじて生きていくのがやっとだ。それはおかしいって思わないか? 不公平だろ? オレたちはやつらの奴隷なんだ、いや昔の奴隷以下だ、必死で働いても報われねえワーキングプアだ」
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