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あれから
しおりを挟む私がこの島に来てからどれくらい経ったのでしょう。
私の髪はとうとう膝まで伸びてしまいました。
今日もマンドラゴラ達が、私の髪を器用に編みこんでくれてます。
私は家を出ると滝へ向かいました。滝の裏側の通路を通り、熱いマグマのある空間へ辿り着きました。ヘパイストスのいる場所です。
「こんにちは、ヘパイストス。」
「カテリーナか、お前これをどう思う?」
ヘパイストスはそう言って、泥でできた人形を見せてくれました。
「泥でできた人形です。」
「ああ、その通りだ。この人形に息を吹きこんで生まれたのが、パンドラだ。お前達の言うところの悪い魔女だ。」
「‥‥じゃあ、あなたは魔女のお父上でしたか。」
「産みの親になるかな。‥‥パンドラもこの島から出なければ、幸せに過ごせていただろう。勿論悪い魔女などと呼ばれる事もなかっただろうに。可哀想にな。」
「その人形はどうするんですか?」
「心配するな。もう人形に魂は吹き込まん。ただ、人形として我の側に置いておこうと思う。」
ヘパイストスはそう言うと、寂しそうな笑顔を見せました。
私はヘパイストスと別れると、マンドラゴラ達と島の海岸へ向かい、砂浜で貝を拾ったり、海で遊びました。
すると、砂浜に男性が倒れているのを見つけました。
私は走り寄り、声をかけました。
「大丈夫ですか。」
倒れた男性が起き上がり、私を見るなり抱きついてきました。
「カテリーナ!会いたかった。俺だ、ライオネルだ!」
なんと、砂浜で倒れていた男性はライオネル王子でした。そして私は今ライオネル王子の腕の中にいます。
「あの、国へ帰ったのでは?」
「ああ、帰った。第一王子の回復と、国の安定を見届けてからここへ来た。ノワール宰相やウリエル卿もここへ来たがったが、彼らは来られなかった。彼らにもたくさんのしがらみがあるからな。」
「ここへは何しに?」
「本当に分からないのか?命がけで来たというのに。ここへは君に求婚をする為に来たんだ。」
「えっ、でも私は島を離れたくな‥‥。」
私がそう言いかけると、ライオネル王子の唇が私の口を塞いでしまいました。
ライオネル王子は私を一層強く抱きしめます。私は彼の背中を叩いて抵抗しましたが、離してくれません。
それに何か言いたいのに、ライオネル王子の唇は、ずっと私の口を塞いだままです。息苦しさとあまりの衝撃に、私は何を言いかけていたのか忘れてしまいました。それに何だか身体に力が入りません。
私は彼の背中を叩くのをやめて、しばらく惚けていました。
ライオネル王子は、私のそうした様子を見て満足した様子です。
そして話を続けました。
「俺はここでずっと暮らす覚悟で来た。君と一緒に死ぬまでずっとここで生きていたい。」
「でも、ここには何もありませんよ。王都にあるような素敵な服も美味しいご馳走も、娯楽も何もありません。ライオネル王子はそれでも良いと言うのですか?」
「ああ、構わない。むしろ清々する。俺はこの島や島に暮らす皆んなが好きだ。国が心配で一度帰ったが、最初からここへ戻るつもりだった。国で皆んなに引き留められて、泣き付かれたり色々大変だったが、断崖絶壁から荒れ狂う海へ飛び込むのも正直怖かったが、俺は勇気のあるライオンだからね。何も躊躇しなかった。俺は君の側がいいんだ。他には何もいらない。」
ライオネル王子はそう言って、熱の籠もった目で私を見つめてきます。私は恥ずかしくて、思わず目を逸らしてしまいました。
でもライオネル王子は、私の両手を掴み、顔を近づけてきました。
「カテリーナ、返事は?」
私の返事?私の気持ちは‥‥私はライオネル王子がいなくなって寂しかった‥‥
道で丸まって泣いていた黒いライオンさんが、希望の光を受けて人間の姿に戻った時、その美しさに見惚れてしまいました。
ライオネル王子が求婚してくれた時も、正直嬉しかったのです。
彼がこの島を離れていく時の切ない思い‥‥
時々マンドラゴラ達と海へ来ては、彼がまた島へ来ているかもしれないと期待していたような‥‥
彼から抱きしめられて、苦しかったけど嫌じゃなかった、むしろ嬉しかったような‥‥
彼の口づけが嬉しくて、もっとしていたいと思ってしまった。
私はどうやら彼を好きになっていたようです。
「ライオネル王子、私はあなたが好きです。この島で共に末長く宜しくお願いします。」
私は彼にこの言葉を伝えると、何だかとてもスッキリとした気持ちになりました。
「カテリーナ、俺はもうライオネル王子じゃない。ライオネルと呼んでくれ。それに、俺は今すぐ君が欲しい。」
彼は私を抱き上げ、私の家まで歩いて行きました。‥‥結構海から遠いのですよ。
家に着くなり、私と彼は抱き合い結ばれました。
あれから何年経ったのでしょう。私達には可愛い男の子が二人と女の子が三人産まれました。
マンドラゴラ達も増えました。
私達と旅をして魔女と闘ったマンドラゴラ達は、あれから更に進化を遂げて、少しずつですが、人間の言葉を話す様になりました。体も少し大きくなった気がします。
私達はこの島でこれからも仲良く平和に過ごしていくと思います。
この島には全ての幸せが詰まっています。
私はこの島の聖女として、この島から世界中の皆さんの幸せを祈り続けます。
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