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マンドラゴラの長のもとへ

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「あーっ、よく寝た。」

魔の島に来て初めての朝を迎えました。

思いっきり伸びをして家の外へ出ます。家の前の湖では、美しいユニコーンが寛いでいます。

「おはようございます。その‥‥。」

「ユニコーンと呼ぶが良い。良い朝だ。今日は、マンドラゴラの長に会いに行くそうだな。長に会う前に三つの関門がある。気をつけて行くが良い。」

「ユニコーン、ありがとうございます。」

私は大地からバナナと水を頂き、身を清めました。

そして、うちのマンドラゴラ達と一緒にマンドラゴラの長に会う為に、山の頂上を目指して歩き出しました。

キュキュ、キュ

「うん、分かった。第一の関門がここにあるのね。」

ガサガサッ

山道の脇の茂みから、上半身が妖艶な美女で下半身がライオンのスフィンクスが現れました。

「ほお、人間とマンドラゴラ達か。これより上に行きたければ、我の謎を解くが良い。

朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足となる生き物は何か?」

これは‥‥王都で読んだオイディプスの神話の謎かけと同じです。それなら答えは‥‥

「答えは人間です。産まれてしばらくはハイハイをしてますが、やがて立ち上がり歩き出します。そして歳を重ねると足腰が悪くなり、杖をついて歩くからです。」

「ふむ。やはり人間には、簡単すぎた謎かけであったな。良い。道をあけよう。ここから先も無事に行けるよう健闘を祈る。」

‥‥そして、スフィンクスは謎を解いた人間を食べる事をやめて谷底へ身を投げ‥‥

「身は投げないから。我は謎を解かれても、谷底へ身を投げぬ。いちいち身を谷底へ投げていたら、身が持たぬ。」

「あの‥‥つかぬ事をお聞きしますが」

「何だ?」

「魔の島の方達は、私の心の中が読めるのですか。」

「ハッハッハッ。何を不思議がる?もともと我々は言葉なぞ発しなくとも心で会話をしていたではないか。人間は覚えておらぬのか?」

「はい。あっ、申し遅れました。私は昨日からこの島で暮らしております、カテリーナと申します。宜しくお願いします。」

「ハッハッハッ。良い。覚えた。カテリーナ、我をスフィンクスと呼ぶが良い。」

こうして私は無事に第一関門を通過しました。

そしてさらに上を目指して山道を進みます。
すると、水音が聞こえてきました。心地良い音です。山道の脇の木々の隙間から、小さな滝が見えました。

キュキュ、キュキュ、

「あそこに小さな滝がある。そこに第二の関門があるのね。」

キュキュ、キュ、キュ、

「えっ、この脇道から滝に向かって降りるの?分かった。滑らないように気をつけて降りなきゃ。」

マンドラゴラ達が言うには、この山道の脇の斜面を降りて行くそうです。

「キャーッ!」

私は斜面を降りるのではなく落ちて行きました。そして下まで落下すると、滝の真下に来ていました。

滝の水が流れ落ちる岩壁に、人の顔が見えます。

キュキュ、

「ええ、分かった。第二の関門ね。」

「よく来た。人間とマンドラゴラ達よ。そなた達が、この魔の島に住むにふさわしい者かどうか我が見ようぞ。さぁ人間よ、その手を我の口へ差し出すが良い。」

「はい。あっ私はカテリーナと申します。宜しくお願いします。では‥‥。」

私は彼の口へそろそろと手を入れました。

「痛くないですか?あの、手を入れすぎましたか?」

彼は口に私の手を入れたまま、しばらく動きませんでした。

ペッ。

あっ、私の手が吐き出されました。

「良い。カテリーナよ、我は元は海神で今は真実の口である。真実の口と呼ぶが良い。この先の幸運を祈る。」

どうやら、無事に魔の島の住人として認められたようです。

確か、偽りの人が海神の口に手を入れると、手が切り落とされる伝説がありましたが‥‥とにかく無事に第二関門を通過できて良かったです。

私はマンドラゴラ達の案内で、滝の裏側の通路を通って先を進みました。すると、熱いマグマのある空間へ辿り着きました。

マグマの側には、厳かな雰囲気で佇む髭の男性がいました。

「我はヘパイストス、この魔の島の火山神だ。人間よ、この箱を受け取るが良い。」

そう言って、彼は黒くて艶やかな箱を私に手渡しました。箱には鍵穴がありました。

私が箱を受け取った途端、空中に鍵が浮き出しました。

これは‥きっとパンドラの箱なのでしょう。

全知全能の絶対神ゼウスは、男性しかいなかった世界に、パンドラという名の最初の女性に〝全ての悪と災い″を入れた箱を持たせて送ったと言われています。

私は、この魔の島に来た最初の人間として、この箱を託されたようです。

「分かりました。私はカテリーナと申します。宜しくお願いします。この箱と鍵は確かに受け取ります。」

「開けぬのか。」

「はい、今は。」

「ふむ。まあ、開けるも開けぬもそなたの自由だ。先を行くが良い。」

彼がそう言うと、道の先に眩しい光が見えて来ました。

光に向かってマンドラゴラ達が走って行きます。

ついに、マンドラゴラの長に会えるようです。

「カテリーナよ、ここまでよく来た。マンドラゴラ達や、案内ご苦労様。私がマンドラゴラの長だ。マンドラゴラ達から話は聞いておる。好きなだけこの島におるが良い。」

マンドラゴラの長です。黄金に輝く頭の葉に、艶々の白い体、桃色の頬と口。

何と神々しいお姿なのでしょう。

うっ、ううっ、うっ

あまりの尊さに感極まって涙が止まりません。

キュキュ、キュキュ、キュキュ、

「うん、大丈夫。感動して泣いただけだから、心配しないで。」

マンドラゴラの長が、虹の橋を地上にかけました。マンドラゴラ達が早速橋を渡りはじめています。

キュキュ、

「うん、分かった。ついて行くね。」

私は長に挨拶をし、マンドラゴラ達と一緒に虹の橋を渡って我が家へ帰ってきました。

パンドラの箱と鍵は、とりあえず机の上に置きました。

そして、夕食を済ませてから寝ることにしました。マンドラゴラの長に会えた感動の余韻に浸りながら‥‥
 



一方、その頃カテリーナのいた村では、一人の泥棒が騒ぎを起こしていました。

「お腹がすいたな‥‥。ん?何だ、あそこだけ野菜がたくさん育っているぞ。」

そう言って、男は畑から野菜の葉を引っ張って抜こうとしました。

ギャーギャーギャー!

すると、野菜を引き抜いた途端に辺りから悲鳴が響き渡りました。

「おい、泥棒か。」
「何、泥棒だと!」
「あいつか!待てー!」

村の人達が出てきて騒ぐ中、男は盗みとった野菜を持って走って逃げて行きました。

「ふぅ、危なかった。」

そう言って、手にした野菜をかじろうとしたら、逆に野菜に噛み付かれてしまいました。

「痛いっ!」

男を噛みついた野菜は元いた場所へと走って行きました。

「なっ何だよ。野菜じゃないのかよ。」

その後、腹を空かした男は、国境線を超えて隣国へ入りました。

そしてその外見をお金持ちの商人の奥さんに見染められ、愛人兼使用人として暮らしたそうです。男の名はレガシーと言うそうです。

また、その隣国には同じく一人の女が入っておりました。名はミチル。街の飲食店の店員をしているようです。
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