捨てられたお姫様

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37、リナとナターシャ姫

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リナとラナンは小屋へ戻り、二人で洗濯物を干したり昼食を作りました。

リナは先ほど殺されかけた事が嘘のように、とても楽しそうにしています。

「‥それにしても、リナの胸の十字架の加護の威力は凄いね。それがある限り、リナの身に危険が及ぶ事はないね。」

「‥本当に養父‥じゃなくて、お父さんには感謝しています。亡くなってからもずっと私の事を守ってくれてるんですものね。」

二人がそんな風に話しながら楽しく料理をしていると、急に小屋の扉を激しく叩く音がしました。

ラナンは咄嗟にリナを背中に庇って、警戒しました。

「誰だ!何しに来た!」

ラナンがそう尋ねると、聞き覚えのある声が聞こえてきました。

「‥えっラナンか。その声はラナンだな!僕だよ、バンデルだ。開けてくれ!大変なんだよ!ナターシャの生き別れの姉妹が殺されそうなんだよ。」

ラナンはバンデルだと名乗る人物に警戒しつつも、そっと扉を開けました。

すると、本当にバンデル王子がそこに立っていました。

「ラナン、大変なんだ。ナターシャの生き別れの姉妹がここにいるらしいんだが、命を狙われているんだ!だから、ナターシャと共に助けに来たんだけど‥。ナターシャの生き別れの姉妹を探して助けなきゃ!‥‥って、リナさん?やっぱりリナさんがナターシャの生き別れの姉妹!?」

「‥兄さん、そうなんだ。リナがナターシャ姫の双子の姉なんだ。」

「‥そうなんだ。‥あっ、ナターシャも来てるんだよ、ナターシャ!君の姉さんだ!」

バンデルはそう言って、扉の外に立つナターシャに手招きしました。

バンデル王子に呼ばれて小屋の中に入ったナターシャ姫は、思わず息をのんでしまいました。ラナンの背中から心配そうに顔を覗かせる女性が、自分と瓜二つだったからです。

「‥‥あっ、あなたが私の生き別れの‥。」


リナは恐る恐るラナンの背中から出てきました。そして、ナターシャ姫に近づいて挨拶をしました。

「ナターシャ姫、‥あなたが私の妹なのですね。会えて嬉しいです。」

リナはナターシャ姫を思わず抱きしめようとしたものの、一国のお姫様に対して無礼にあたらないかと心配になり、手を出したりひいたりしてモゾモゾしていました。

そんなリナの様子を見て、ラナンは思わず笑ってしまいました。

「リナ、遠慮なく抱きしめると良い。きっとナターシャ姫もそれを望んでいる。」

ラナンがそう言うと、ナターシャ姫も泣きながら無言で頷きました。そして‥ナターシャ姫の方からリナに抱きついてきました。

「お姉さん!」

「ナターシャ姫‥、私の妹‥。」
 
リナはそっとナターシャ姫の背中に手を添えて、その温もりを堪能しました。自分そっくりの髪色に体格や声、その全てが無条件に愛しく感じました。

「お姉さん、私と一緒に国へ帰りましょう。もう両親に好き放題させません。もともとお二人ともお体が丈夫でないので、私とバンデル王子が結婚したら王位が譲られる予定だったんです。‥‥それに、両親にはお姉さんを殺そうとした罪を償って貰うつもりです。」

ナターシャ姫はそう言うと、リナの手をひき外へ連れ出そうとしました。

「待って。ナターシャ姫、待って。」

リナは足を踏ん張り、抵抗しました。ナターシャ姫が一緒に暮らそうと言ってくれた事は嬉しかったのですが、リナはこの山の中の暮らしに満足していましたし、ナステカ王国へ行ったとしても、そこに自分の居場所はないし、何より呪われた身でしたので‥‥。

「私はここに残ります。それに、私はラナンと結婚したんです。ラナンと離れて暮らすことは出来ません。」

「結婚!?えっ、二人って愛し合っていたの?」

「‥愛?僕達は二人でずっと一緒に暮らすために家族になったんだ。何となく親子の設定が無理になってきたから夫婦になる事にしたんだ。」

「‥じゃあ、二人は異性として互いに好きという感情はないの?」

「‥リナを好きかって?‥好きっていうより大切な存在かな。もう一緒にいる事が当たり前すぎて、離れてると不安になるんだ。」

ラナンがそう言うと、リナもそれに同意しました。

「私もラナンがいないと不安です。一緒にいられるのなら、親子だろうと夫婦だろうと兄弟姉妹の設定でも構いません。」

リナはそう言って、ラナンと幸せそうに笑い合いました。

「‥‥まぁ、二人がそれで良いならいいけど。結婚おめでとう。」

「‥おめでとう、お姉さん。」

バンデル王子とナターシャ姫は、何となく腑に落ちないものがあるものの、二人をとりあえず祝福しました。そして、リナの命が危ない事をしっかりと二人に伝えました。ですが、それに対して二人は落ち着いた様子で返答しました。

「‥暗殺者ならすでに来たわよ。今はウシガエルになってるけど、その辺にいると思う。人間の言葉が話せるようにしてあるから、声をかければ返事するはずよ。‥まぁ、明日になったら、ラナンに頼んで人間に戻してもらうつもりだけど。」

「‥リナがそう言うなら、明日奴らを人間に戻すよ。」

ラナンが嫌々答えました。

「‥という事で、心配はいらないからバンデル兄さんもナターシャ姫も帰ってくれ。ここは夜になると野獣も出るし、一応囚人達の強制労働所になってるから、安全とは言えない場所なんだ。だから‥ね。」

「えっ、ちょっと‥僕達もここに泊まらせてよ。」

バンデル王子がそう言うと、リナが申し訳なさそうに言いました。

「‥二人ともごめんなさい。二人をとめてあげたくても布団も食器も食料も余分な量がないの。それに、もう一人住人がいるの。」

「えっ?」

「‥もともとここに住んでいるお爺さんなの。ラナンの魔法のお師匠様でもあるの。二人が私を心配してくれるのは、とても嬉しいです。だけど、私のそばには素晴らしい魔法使いが二人もいるから心配ないのよ。安心して。」

「‥お姉さんがそう言うのなら‥‥。」

バンデル王子とナターシャ姫はそう言って、名残惜しそうに扉を開けて外へ出ました。

すると、扉のすぐそばにお爺さんが立っていました。

「わっ、びっくりした‥‥こんにちは。」
 
二人が挨拶をすると、お爺さんがナターシャ姫を見て驚いた表情をして固まっていました。

「‥はじめまして。私はここにいるリナの妹です。‥隣の男性はラナンの兄です。」

ナターシャ姫の挨拶を聞いて、ようやく納得した表情を見せたお爺さんは、自身も挨拶を済ませ、ナターシャ姫達の帰る先がナステカ王国だと聞くと‥指をパチンと鳴らしてそこへ二人を馬と共に瞬間移動させてしまいました。

「‥‥何のおもてなしも出来んで悪いね。せめて帰り道ぐらい楽して帰りなされ。」

お爺さんはそう言って小屋に入っていきました。

「ただいま。」

「「おかえりなさい。」」

ラナンとリナが、笑顔でお爺さんを迎えます。食卓には美味しそうな料理が三人分用意されていました。

「‥これは凄いな。‥ところでここへ来る途中に人の言葉を喋るウシガエルと会ったが‥。」

「すみません。他人に使ってはいけない変身魔法を使ってしまいました。‥彼らがリナを殺そうとするので‥。」

ラナンがお師匠様であるお爺さんに、先程の暗殺騒ぎの事を話しました。

「‥もうそろそろ時が来たのかも知れんな。二人の目覚めの時が‥。私との別れの時が‥。」

お爺さんはそう呟き、二人を見つめました。二人はそんなお爺さんの独り言など気付きもせずに、楽しそうに食事をしています。

お爺さんは、そんな二人の幸せそうな姿をしっかりと目に焼き付けていました。
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