捨てられたお姫様

みるみる

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36、暗殺者

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ラナンとリナがお爺さんと小屋で生活してから一週間が経ちました。その間リナはとても幸せな日々を過ごしていました。

リナはお爺さんとラナンが魔法で山崩れを防いだり、熊をやっつける姿を日常茶飯事の様に見ていて、この二人なら自分と一緒にいて災いが起きても大丈夫かもしれないな‥なんて思ったりもしていました。

‥それでも時々ニルバァナ大国の宿の女将さんを思って寂しくなる事もありましたが、呪われた自分が一緒にいない方がいいだろうから離れ離れになってちょうど良かった、とも思うのでした。

「リナ、お師匠様と一緒に囚人達の健康チェックに行ってくるよ。」

「分かったわ。お爺さん、ラナン、行ってらっしゃい。」

リナは二人を見送ると、三人分の洗濯物を籠に入れて川へ行きました。そして、冷たい川に足を入れて洗濯物を洗い始めました。

「二人とも魔法で料理用の火をおこしてくれたり、冷蔵庫がわりに氷魔法でお肉を保存してくれるのは嬉しいけど‥何もかも魔法でやられると、私の仕事がなくなっちゃうのよね。」

リナはそんな事をぶつぶつと呟きながら、手と足で一生懸命に服を洗いました。

実は、お爺さんとラナンが洗浄魔法で洗濯物まで魔法で綺麗にしようとしていたので、それを強引に取り上げて、リナはこの洗濯物を洗うという仕事を得たのでした。

「‥まあ、女の私に下着を洗って貰うのが恥ずかしい気持ちや、生地を傷めたくない気持ちは分かるわよ。でもねぇ‥私だって何か仕事をしたいのに‥。」

リナは相変わらずぶつぶつと言いながら、洗濯物を洗っては絞って、籠へ入れていきました。

全ての洗濯物を洗い終えて、リナが小屋に戻るとお客さんが二人いました。黒づくめで痩せ形の男性でした。

リナは洗濯物の入った籠を切り株の上に置くと、二人のお客さんに声をかけにいきました。

「あの‥どちら様ですか?何か用事ですか?」

リナがそう言った途端、黒づくめの男性の一人がリナの身を拘束して、もう一人が短い刀でリナを刺そうとしてきました。

リナは咄嗟に叫びました。

「助けてー!お爺さん、ラナン!」

すると、その時リナの胸の十字架の痣が光出し、リナの身を拘束する男の手を焼き始めました。

「アッチッチ、この‥呪われた悪魔め!」

焼け焦げた腕をいたわりながら、男は一旦リナを放し、川へ向かいました。やけた腕を冷やす為でしょう。

すると刀を持った男はリナに警戒しながらも、リナの背後にまわり刀を振り上げました。

リナは男の動きに気付かずにぼーっと立ち竦んでいましたが、リナの胸の痣から発せられた光が男の刀を溶かしてしまいました。

男は溶けてなくなりかけた刀を捨てて、今度は素手でリナの首を絞め始めました。

「‥くっ苦しい‥‥。」

リナが苦しみだしたところで、リナの首を絞めていた男の手も焼け始めました。

「アッチッチッチ‥。」

その男も水を求めて川の方へ行きました。リナはその隙に、お爺さんとラナンのいる作業場へと走っていきました。

「お爺さん、ラナーン!変な男達が来たの!助けて!!」

リナがそう叫びながら走っていると、すぐに目の前にラナンが現れました。そして‥リナを追ってきた黒づくめの二人の男に向かい、拘束の魔法をかけました。

男達はその場で倒れて横になり、もがき始めました。

「お前達、誰の命で来た?」

ラナンは男達の口に自白の魔法をかけた為、男達は自分達の意思に反して、真実を語ってしまいました。

「ナステカ王国の王様です。王様がこの小屋にいる女を殺すように命じました。」

男達はそう言って、リナを再び睨みつけました。‥彼らはまだリナを殺す事を諦めていないようです。


「ナステカ王国の王様?私のお父様が‥?」

リナはあまりのショックで、その場で座り込んで泣いてしまいました。

「ナステカ王国の王様が私のお父様だなんて知らなければ良かった‥‥私だって好きで呪われた訳じゃないのに、こんな山奥に好き好んで暮らしてるわけじゃないのに、なのになんでまだ私を殺そうとするの‥。」

リナは悲しみに打ちひしがれながらも、火傷を負った二人の男を見て、ラナンに男達を手当てするように頼みました。

「ラナン、お願い。この人達の腕を手当てしてあげて。」

「‥ああ、リナが言うならそうするよ。」

ラナンが男達の腕に手を当てて、火傷を治してやりました。男達は、ラナンに感謝を述べつつも、リナを今すぐ殺すべきだとの訴えを続けました。

それを聞いたリナは男達に質問をぶつけました。

「‥あなた達は子供はいるの?」

男達はリナの質問なんかに答えたくないのに、自白の魔法のせいでつい答えてしまいました。

「います。」

「もしその子に悪い魔女が、人々を不幸にする呪いをかけたら、その子を捨てる?殺す?」

「‥いいえ、呪いが解ける方法をなんとしても探すために旅にでます。」

「‥なら私はなぜ親に捨てられて、あなた達に殺されようとしてるのかしら?」

「‥それは‥‥。」    

男達は黙ってしまいました。そんな彼らに、ラナンは禁忌の変身の魔法をかけました。そして、呪いの言葉をかけてやりました。‥実際には呪いはかかってませんが‥。

「お前達!醜いウシガエルになってしまえ!そして、お前達は死ぬまでずっと不幸になってしまえ!まわりの人々も不幸になってしまえ!」

醜いウシガエルに変身した男達は、文句を言いました。

「酷いじゃないか!こんな姿にして!それにそんな呪いまでかけて!俺達は何も悪くないのに!王様の命令に従ってるだけなのに!」

「煩い!王様の命令ならどんな人間でも殺すというのか?」

「そいつは呪われた悪魔なんだ!殺すべきだ!」

「それを言うなら、お前達だって同じ呪いを僕から受けた身だろう?お前達だって死ぬべきでは?」

「‥くそっ、早く呪いを解け!」

「‥嫌だね。リナだって好きで呪われた訳じゃないんだ。お前達はリナと同じ目にあって、リナの気持ちを理解するべきだ。‥よく反省しておけ。」

ラナンはそう言って、彼らを放ったままその場を去りました。

優しいリナは、そんな二人に同情して優しい言葉をかけてやりました。

「‥私からラナンに変身や呪いを解くように頼んでみるから、もう少し待っててね。‥私の呪いは解けないけど、あなた達の呪いはきっとすぐに解いてもらえるはずよ。羨ましいわ。」

リナはそう言って、ラナンのあとをついていきました。二匹のウシガエルは、去って行くリナの後ろ姿を見ながら、なんとも言えない気持ちになっていました。

実際に呪いをかけられてみた彼らは、呪いをかけられたリナの気持ちがようやく分かりかけたようでした。
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