捨てられたお姫様

みるみる

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14、占い師とナターシャ姫

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ラナンはリナの行動に呆れながらも、リナの必死の訴えに応えるべく、リナの胸元の十字架の痣をじっくりと見ました。 

「‥リナ、これは牧師が君に授けた加護で間違いないようだ。魔法の類いはかかっていない。‥分かりやすく言えば、御守りのようなものだ。」

「‥御守り‥あっ、お父さんが私にくれた御守りみたいな物かしら。」

「‥ああ、それと似てるとも言えるのかな。」

リナは胸元のボタンを閉じて服装を整えると、椅子へ腰掛けてラナンの横に並んで座りました。

「お父さん‥じゃなくて、養父は、なぜ今頃になって私の夢の中に現れたのかしら?」

「‥近いうちに君の身に起こるだろう危機を察したのだろうね。」

「‥例えば、今回の亡霊事件に私が巻き込まれてしまうとか?」

「‥牧師は何か言ってなかったかい?」

「‥養父は神と人間の混血児だって言ってた。あとは‥‥忘れちゃった。」

「‥なるほどな、牧師はなんとなく人間離れした雰囲気があったからな。亡くなって魂だけの姿になってからも、リナの事をずっと守り続けてくれていたんだなぁ。」

「‥私、こんなにも守られてて幸せ者ですね。」

「そうだね。」

二人が話していると、いつの間にか窓の外が暗くなっていました。ラナンが懐中時計を見ると、まもなく約束の7時になるところでした。

「リナ、下へ降りよう。ルーカスがすでに来ているかもしれない。

「はい。」

リナが薄手のワンピースのまま下へ降りようとすると、ラナンは鞄からショールを取り出してリナに掛けてやりました。

「‥可愛い。お父さんこれ‥。」

「‥僕が女装した時用のショールだよ。外は夜風で冷えるからね。」

「‥お父さん、なんだかお母さんみたい。フフフ、ありがとうね。」

リナはそう言うと、嬉しそうにショールに身を包み、階段を一気に降りて行きました。

ラナンは‥

「リナはお母さんの存在というものを知らないからな‥。たまにはお母さん姿に変身してあげるのもいいかもなぁ。」

なんて考えていました。


ラナンとリナが宿の入り口へ向かうと、すでにルーカスが来ていました。

「カルバンさん、リナさん、今日はよろしくお願いしますね。早速‥占いの家へ向かいましょうか。」

ルーカスはそう言って、ラナン達を連れて占いの家へ向かい歩き出しました。

三人が街の中を歩いていると、街灯のない暗闇に、ぼんやりと白く光る人影や、道に半分だけ体が埋まってしまったガイコツが見えました。

リナはラナンの手をしっかりと握って、体もぴったりとくっつけて、目的の占いの家まで行きました。

「‥ああ、今日もだいぶ並んでいますね。」

ルーカスがそうぼやきながら見た先には、若い女性達の行列がありました。10人程が並んでいるようで、ルーカスが言うには、一時間は待たされるだろう、との事でした。

その行列の中には、男性が二人だけいました。占いの為に並んでいる‥というよりも、ある女性を護衛している、といった感じでした。

その女性と二人の護衛は、リナ達の前に並んでいました。女性はフード付きの黒いマントを着ていましたが、フードからは水色の髪が溢れていました。

「‥‥お父さん、前にいる女性‥私の髪色と同じよ。」

「‥シーッ!リナ黙ってて。」

リナは小声でラナンに話しかけましたが、ラナンに黙るように言われてからは、大人しくなりました。

ラナンは、前にいる女性がなんとなくリナの双子の妹のナターシャ姫のような気がして、用心していたのです。

ラナンはリナのショールをいったん取り上げると、頭から被せ直してやりました。

「寒いから、こうしておくと良い。」

「‥ありがとう‥。」

リナは大人しく、ラナンのされるがままになりました。そんなラナンとリナの事を、ルーカスは微笑ましいなぁと思って見ていました。ルーカスは、ラナンとリナの事を本当の親子と思っていましたから‥‥。


そんなラナンやリナ達の前に立っていたのは、ラナンの心配したとおり、ナターシャ姫でした。どうやら占いをしてもらう為に、護衛を連れてこっそりお城を抜け出して来たようです。この街は、ナターシャ姫の国に近い位置にあったので、おそらく馬でも走らせて来たのだと思われました。

ラナンが、リナとナターシャがお互いの存在に気付かないように気を配っている中、ようやくナターシャ姫の占いの番がやってきました。

ナターシャ姫が占いの家に入ったところで、ラナンはようやくほっとしたのでした。

「お父さん、いよいよ次ですね。」

「ああ、そうだな。」

ラナン達が占いの番を待つ間、占いの家の中では、ナターシャ姫の占いが始まっていました。


「占い師のおばさん、私の結婚について見て欲しいの。」

ナターシャ姫が、被っていたフードをとって顔を見せると、占い師はニヤリと笑いました。

「‥あんた、この国の者じゃないね。しかも、かなり高貴な女性だ。しかも、後ろにいる二人は護衛の男だね。」

「‥凄い!よく当たってる。」

「‥あんた、お金も地位も才能も何もかも持ってるね。‥何でも持ってるし、何でも出来てしまうから、あんたはとても退屈してる‥この世界にうんざりしているね。」

「‥そう、そうなの!わかってくれるのね!」

「‥こんなにも恵まれてるとは、逆にあんたはこの世で一番可哀想な女なのかもしれないね。」

「‥どういう意味?」

「人はある程度の不幸や困難があるからこそ、他人の痛みや苦しみが分かるようになり、人として成長できるんだ。‥だが、それがあんたには一切ない。」

「‥そんな‥。」

「あんたみたいな高慢ちきで、生意気で可愛げのない女は‥‥きっと好きな男ができても振られてしまうだろうね!」

「‥好きな男‥振られる‥。それは嫌!どうすれば良いの?」

「あなたの守護霊を呼んで聞いてみましょう。」

占い師はそう言うと、謎の呪文を唱え始めました。占い師の口からは、白いモヤモヤが出てきました。

白いモヤモヤは‥徐々に人の形になっていきました。

「‥はっ?誰なの、こいつ。」

ナターシャ姫が怪訝そうに言うと、白いモヤモヤの亡霊は、いやらしい笑顔でナターシャ姫に話し始めした。

「‥お前の性格は最悪だから、まずその性格をなおさなきゃならんな。‥まず、この店を出たら、100メートル先まで走って行き、狼の遠吠えをするんだ。そして、好きな男の前ではアホで馬鹿な振りをするんだ。‥フハハハ、頑張れよ。」

「‥‥うっ、分かったわ。」

ナターシャ姫は、白いモヤモヤの亡霊が店の外へ出て行ってしまった後、占い師に金貨を5枚渡すと、店から出ました。

そして‥猛ダッシュで100メートル程走ったところで、狼の遠吠えをしました。

「ワォーン!」

その後‥ナターシャ姫は、護衛を連れて馬を走らせてお城へと帰って行きました。

それからしばらくして、婚約者のバンデル王子がナターシャ姫に渡すプレゼントを持って遊びに来ました。

「‥ナターシャ、久しぶりだね。」

「‥えっ、何?あなたは誰?私は誰?」

「‥‥えっナターシャ、どうしたんだい?」

バンデル王子が心配そうにナターシャ姫に近寄ると、ナターシャ姫はニヤリとして更に馬鹿な女の演技を続けました。

「‥私、馬鹿だから‥何も出来ないし、何も分からないの‥。だから教えて、バンデル様。」

「アッハハ、あなたは誰?って聞いておきながら、僕の事をバンデル様って呼んでるんだもの。演技のツメが甘いよ、ナターシャ。

退屈だから、今日は君が記憶喪失した設定で遊ぼうって事かい?楽しそうだから、それで遊ぼうじゃないか。」

「‥‥‥よく分からないけど、良いわよ。」

「ナターシャ、君は記憶を失ってるけど、実は外で走り回るのが大好きで虫が大好きな男の子なんだよ。」

「外で走る‥虫が好き‥男‥?」

「ナターシャ、おいで。バンデル兄さんが一緒に外で遊んでやろう。」

「‥‥うん、わかった‥。」

その後バンデル王子は、元気に庭をランニングしたり、童心に戻って虫を捕まえてみたりと、とても楽しく過ごしました。持ってきたプレゼントを渡し忘れるほどに‥。

一方のナターシャ姫は、魔女達の祝福のおかげで、疲れ知らずの体になっているとはいえ、何とも言えない疲労感に包まれていました。

「ナターシャ、今日は楽しかったよ。次来る時が楽しみだよ。」

「‥‥‥。」

バンデル王子が上機嫌で自国へ帰る中、ナターシャ姫は、バンデル王子の事をモヤモヤした気持ちで見送っていました。

「‥バンデル王子と仲良くなれたのは嬉しいし、次会うのを楽しみにされるのも嬉しいけど‥何だか思っていたのと違うわ!」

ナターシャ姫はこの時になってようやく、自分が占い師に騙されいてた事に気付いたのでした。
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