捨てられたお姫様

みるみる

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2、はじまり

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トランタ王国のペンタス公爵領の山の上の教会に、リナという美しい女性が一人で住んでいました。

リナは、もとは捨て子でした。
 

16年前‥‥

ある嵐の夜に、当時赤ちゃんだったリナを抱いて黒いフードの男が教会へやって来ました。牧師が、男に話しかけようとしたところ、男は教会を飛び出して、嵐の中を走って逃げて行ってしまいました。

牧師は、教会に置き去りにされた赤ちゃんを不憫におもい、自分で育ててやる事にしました。

赤ちゃんは、水色の髪にエメラルドグリーンの瞳をしていました。髪や瞳の色は、この国には無い色でした。

それによく見ると、背中にトカゲのような痣がありました。そして、手にはなぞのプレートを握っていたのです。

牧師はそのプレートを手に取り、そこに書かれた文字を読んでみました。

「この子の呪いが解けた時、この子の受けるべきだった全ての祝福がこの子に再び授けられるだろう‥‥か。魔法使いの祝福かな?‥てっきりこの子の名前でも書いてあるのかと思ったのに‥。」

牧師はプレートを赤ちゃんの手に戻しました。

「アババーッ。」

「おお、お腹が減ったのかい。ミルクを温めてあげようね。その前にオムツを替えようね。」


牧師は、オムツ替えで赤ちゃんが女の子だと分かったので、赤ちゃんを「リナ」と名付けて、呼ぶ事にしました。


「リナ、洋服も雨で濡れてるからお着替えをしよう。‥‥赤ちゃんの服はどこだったかな‥‥。」


牧師は亡き妻の部屋に入り、洋服ダンスの引き出しから、古着を引っ張り出して着替えさせました。   

ちなみにこの古着は、牧師の‥今は亡き息子の着ていた洋服でした。

「リナ、俺は一人ぼっちの身だ。誰にも気兼ねなくここにいると良い。今日から俺達は家族だ。」

牧師は、赤ちゃんだったリナのミルクからオムツ交換までしてやりました。

文字を覚えさせ、家事や計算も教えました。それに、教会のピアノもひけるようにしてやりました。

そんなリナが16歳になる頃、牧師はこの世を去りました。享年120歳。妻や息子よりも長生きをしてしまった牧師の長い長い人生が、ようやく終わったのです。

リナは、牧師の冥福を祈り、墓を作って弔ってやりました。

そして、その後は一人で教会を守って生活を送っていたのです。



ところが、そんなリナを狙って、領主様が毎日教会を訪れるようになりました。領主様は、最近公爵位を継承した若い青年でした。

実はリナが小さな頃から、領主様はリナを気に入っていたのでした。親の勧める婚約者候補達にも目もくれないほどに‥‥。

「リナ、私と結婚しよう。そうすれば、君は公爵夫人だ。生活も楽になるだろう。」

「リナ、頼むから私と結婚してくれ。愛しているんだ。」

「リナ‥‥!」

「領主様、申し訳ありません。私はこの教会を守っていかなくてはいけません。それが、私を育ててくれた父への恩返しなのです。」

リナは領主様の結婚の申し出を毎回断っていました。

ですが‥‥領主様は諦めませんでした。

「‥リナがそういうつもりなら‥、私にだって考えがある。」

「‥‥。」

領主様は、不気味な笑みを浮かべながら去って行きました。


その晩の事です。リナが教会の自宅で眠っていると、焦げ臭いにおいが鼻をつき、煙が家中に充満してきました。リナは咳き込みながら、必死で外に出ました。枕元にあった御守りのプレートを持って‥‥。

外に出て、教会や家が燃えるのを茫然と見ていたリナに、同じくその様子を見守っていた領主様が言いました。


「‥リナ、これで君が守るべきものはなくなった。さあ、私と結婚しよう!」

満面の笑みでそう言いのけた領主様に、リナは驚きを隠せませんでした。

「‥まさか、そんな事の為に教会を燃やしたのですか!?‥もう少し逃げるのが遅れていたら、私も死んでいたのですよ。あなたは‥私を殺すつもりだったのですか!」

「‥違う。屋敷の者に、君を助けるように言っておいた。だから、君は今ここにいて生きているじゃないか。」

「‥領主様の屋敷の者なんて、来ちゃいませんよ。‥私は一人で必死に逃げて来たんです。煙の中を‥着の身着のままで、何も持たずに‥‥。」

領主様の屋敷の者は、領主様のご両親に言われて、リナを助けずに見殺しにするつもりだったのです。‥リナが死ねば、領主様はリナの事を諦めて、他の貴族の女性と結婚すると思ったのでしょう。


「‥私は、ただ君を愛していただけなんだ。‥私は君の為なら、爵位も捨てる覚悟だ。‥私には幸い弟もいる。‥一緒に旅に出よう!リナ!」

リナは、領主の身勝手さに呆れてしまいました。

「‥あなたは、なんて愚かなのです。そして、なんて身勝手で無責任なのですか!」

領主様がリナの足を掴み、泣いてすがるのを振り払って、リナは領主様の領地から出る決意をしました。

そして山を降りる為に、暗い林の中の道へと一人で進んで行きました。
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