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40、クロノスとマルキ

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マリアの死後、息子のクロノスは戴冠式を済ませてこの国の王となりました。

クロノスの治世は、これまでの賢王マルキの治めた平和な治世とは打って変わり、犯罪者や政治批判者達を次々と投獄・拷問・処刑などの手段で弾圧していく恐怖政治でした。

その為クロノスは、〝恐怖王クロノス″と呼ばれて国民達に恐れられました。


一方前王マルキは、旧公爵邸でマリアを偲びつつひっそりと暮していました。

マルキ公は、自身の秘密の部屋で毎日、亡くなったルシフェルに向かって話しかけていました。


「‥‥ルシフェル、今頃どこでどうしてるんだい。元気にしてるのか。君の魂は、俺の事などもう忘れてしまったかい?

‥‥俺は、君が俺の隣でどんどん年老いていくのを見るのが辛かったよ‥。それに、枯れ木のように細くなっていった君を見てると、とてもじゃないが抱かせてくれなんて言えなかったんだ。‥だから街や村にまで行って、まだ独身の娘達を抱いていたんだ。

‥既婚女性を抱いてしまうと、その女性の家庭を壊してしまうからね、だから未婚女性を選んだんだ。

‥‥不思議なんだ事に、俺を拒んだ女性は一人もいなかった。それに、俺に抱かれた女はもれなくすぐに嫁の貰い手が見つかっていたんだ。どうしてだろうな?

‥娘達に妊娠の心配はなかったよ。予めアスモデウスが処方してくれた安全な避妊薬を、娘達に事前に飲ませていたからね。

‥それにね、そうでもして他の女を抱いていないと、君とノートンに嫉妬していつか君達を殺してしまいそうで怖かったんだ。‥‥だって年老いた君達は、ますます二人の仲を深めていったからね。

‥‥それにね、ずっと君に言っていなかった事があるんだ。俺は君にずっと嘘をついていた。俺の体がいつまでも若いままなのは、この体が作り物だからなんだ。君には若い生娘の処女を奪ったおかげなのだと嘘をついていたがね‥‥。

俺は確かに人間の両親から作られた人間の子供だったが、ある時死にかけた事があったんだ。

その時、うちの執事のベリアルが助けてくれたんだ。この身に〝サタン″と言う悪魔の魂を入れてね。

ベリアルは、僕の魂とサタンの魂は系譜が同じなんだって言ってた。

僕の体は、サタンの魂に影響されて歳を取らない体になったんだ。

勿論この体に、歳を取らせない事を選択したのは俺だ。だから後悔はしていないよ。

‥‥生前の君にこの事を言うと、何かが変わってしまいそうな気がして、怖くて君にずっと言えなかった‥‥。

もし言ってしまえば、君が俺の体に、俺ではないサタンの魂を求めてしまう日が来そうで怖かったんだ。

‥‥‥いつか〝サタン″が覚醒する時、俺の魂はどこに行ってしまうんだろうな‥‥。

もうじき、俺の中の〝サタン″が覚醒するんだ。

‥‥俺には何故かそれが分かる。

‥‥ルシフェル、俺の魂は君のもとへ行けるだろうか?

本当に君を愛していたんだ。」




マルキ公がそう言い終える頃、部屋の扉を乱暴に開けて入って来る者がいました。‥息子のクロノスでした。


「‥‥クロノス、お前なぜここに来た?」

「‥父上の最期を看取りに来たんですよ。」

「‥俺の最期?」

「父上の魂と同化している〝サタンの魂″を頂きに来ました。」

「‥‥どうしてそれを知ってるんだ!?まさか‥‥ベリアルから聞いたのか。」

「ベリアルがあなたの死期を悟ったので、私に教えてくれたのです。」

「‥‥!」

「‥父上、この世界はもうじき滅びます。神がこの世界の消滅を望んでいるのだそうです。

‥‥ですから、我々は神の手の届かない世界で暮らしていきます。

私達は、人間のいない魔界をすでに作っています。私はそこで魔王〝サタン″として君臨するのです。」


「‥この世界が消えてしまうのか‥。」


「‥そうです。私はサタンの魂と共に魔界へ行きます。」
 

「‥‥お前、魔界を作ったって‥‥人間のお前が何故そんな‥‥。」

「ベリアルが全てやってくれました。」

「‥‥そうか。だが、この世界にいる人間達はどうするんだ。まさか全員を殺す訳じゃ‥‥。」

「アハハハ、父上も母上も善人ぶって嫌ですねぇ。この世界のを消滅させるんだから、人間も全て消えますよ。まあ、神の気にいる魂は何処かへ生まれ変わるなどの救済はあるでしょうけどね。まあ、全ては神の意思です。」

「‥‥神は残酷だな。」

「ええ、僕も悪魔達も神が大嫌いです。だから、神の領域でない魔界を作ったんですよ。‥父上や母上の魂はきっと来る事はない世界です。」

「‥お前はそれで寂しくないのか。」

「‥‥別に寂しくなんてありませんよ。母上はもう死んでしまったし、父上は‥僕をあんまり好きではないようだったし‥。だから、何も変わりませんよ。」

「‥‥俺はお前を厳しく育てたが、嫌いじゃなかった。‥俺はお前に何をしてやればいいのか分からなかったんだ。」

「そうですか。」

「‥クロノス、俺の魂が体から出て行こうとしている。お別れだ。‥最後に抱きしめても良いか?」

クロノスは渋々マルキ公の近くに行きました。マルキ公は、マリアが亡くなった時のようにクロノスと抱き合いました。


「‥父上‥?」


そしてマルキ公は、クロノスの腕の中で静かに息をひきとりました。
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