地味令嬢画家とマルキ公爵の秘密

19、前王ザギル公は‥

アバドンと別れた私は、暗い廊下の先へと進みました。すると、これまでこの城内で見た事のない大きな鏡が見えました。

私はその鏡に、悪魔の力がかかっている気配を感じて近づきました。

鏡に映る景色の中に、この廊下にはいないはずの前王のザギル公が見えました。ザギル公は食卓のような場所で、ひたすらに何かを食べていました。

私は悪魔の力で鏡の中の世界へと入り、ザギル公に声をかけました。

「ザギル公、何をしてるんですか？」

モグモグモグ、ゲプッ

モグモグモグ、モグモグ、ゲップッ

ザギル公は私の声も聞こえないのか、ひたすらに何かよく分からないものを食べていました。ザギル公をよく見ると、段々と豚の姿に変わっていきました。暴食の悪魔‥豚の‥ベルゼブブに‥。

「お前は‥‥ベルゼブブ！」

「‥ゲプッ、そういうお前は‥その声は、ルシフェルか。人間の女の格好なんかしてどうした？」

「‥お前こそ、この国の前王様のザギル公の姿をして‥どうしたんだ？」

「ああ、この体はそう言えばザギル公のものだったな。こいつは退屈しのぎに自分の体に俺を召喚したんだが、今はいないかなぁ。俺がこの体をのっとっちまった。

だって、こいつの魂さぁ、食う事ばかりに執着して表へ出てこなくなっちまったんだよ。‥‥きっと、今頃こいつの魂は意識の奥で眠っちまってるよ。腹一杯食べてる夢でも見ながらなぁ。」
　
「‥そうか、なるほどなぁ。」

モグモグモグ、モグモグ、ゲプッ

「じゃあな、ルシフェル。俺はまだ食事中なんでね。」　

「そう言えば、お前が食べているのは何だ？」

「‥ああ、これか。これは、永遠の眠りについてしまって起きる事の無い人間の魂だよ。」

「‥これが？」

「ああ、そんなに美味しくはないが、栄養たっぷりなんだ。‥‥お前にはやらないぞ！」

「いや、私は結構だ。‥では失礼するよ。」

「またな、ルシフェル。」

モグモグ、

悪魔としては高位のベルゼブブまで、この世界に降りてきていたとは驚きました。

‥それに、前王ザギル公の魂が眠りについたまま起きないとは‥。いつかきっとザギル公の魂もベルゼブブに食べられてしまうかもしれません。

私は何とも言えない気持ちになりながらも、鏡の世界から出て、次は王妃を探そうと思うのでした。