あなたの仰せのままに

みるみる

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11、通じ合った思い

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張りつめた空気の中、給仕係が二人のテーブルにワインを持ってきました。

二人は注がれたワインを互いに少し上へ掲げて乾杯をしました。

互いにワインを飲んで少しリラックスしたところで、ついにガナンが先に口を開きました。

「キャロル、今日は君に謝罪をさせて欲しい。」

「‥‥謝罪‥ですか?」

「‥‥まずは君と結婚した日の事から謝罪させて欲しい。‥君と結婚した夜に初夜を拒んだのは‥自分みたいな醜い男に抱かれる事を君が嫌がる姿を見たくなかったから、自分からあんな態度をとってしまったんだ。‥自分が傷つきたくないがために、逆に君を傷つけてしまった。本当にすまなかった。」


「‥‥では、私の事が嫌いなわけではなかったのですね。」

 
「キャロル、本当にごめん。その‥初夜の事以外にも君には色々と冷たい態度をとってしまった。すまない。‥君みたいに可愛い女性と話した事なんてなかったから‥どう話しかけていいのか分からなかったんだ。そして‥そんな情けない自分を隠したくて、わざと君に冷たく接してしまったんだ。‥‥もしそのせいで、君が俺と別れたくなったら、それもしょうがないかなって思ってもいた。」


「‥旦那様は私と別れても良いと思っていたんですか?」


「‥俺は自分に自信がなかったし、君に優しく接する事も出来なかったから‥君が他の男と結婚したくなったら、別れてやるつもりだった。」


キャロルはガナンの話をここまで聞いて、正直がっかりしました。憎まれてたり嫌われてるのかと思いきや、まさか自信がないとかそんな理由で避けられていたなんて、想像もつかなかったのです。

それに、自分が他の男に目移りるような女に思われていたなんてとても心外でした。

「‥旦那様、それなら何故私と結婚したんですか。」

「‥‥父が君との婚姻の話を俺に持ってきた時、実はこっそり君を見に行ったんだ。‥若くて可愛い君を見た時、俺と結婚する事で君の家の借金がなくなるなら‥君が救われるなら何とかしてあげたいと思ったんだ。」

「‥私に同情してくれたんですね。それで、私が借金から解放されたら離婚するつもりだったと‥‥そういう事ですね。」

「‥ああ、そうだ。確かにそう思ってた。」

「旦那様は最初から私と夫婦として仲良くするつもりはなかった‥そういう事なんですね。」

「‥‥すまない。」

「‥旦那様はお優しい方なんですね。‥‥ボランティアで私と結婚して、手を出さずに離縁させて他の男と結婚させようとするなんて‥。本当にお優しい方ですわね。‥‥そうとも知らずに私は旦那様に愛されたいと願って無駄な努力をしていたなんて‥私ってば馬鹿みたい!」

「キャロル‥君が俺と夫婦でいたいというなら別に離縁する必要はないんだ。もしそうなら俺は君の良い夫になるよう努力するつもりだ。」

「‥旦那様はずるい人ですね。私と別れたいなら、さっさと旦那様の方から私の事を振れば良いんですよ!それを私に決めさせるなんて‥。」

「‥キャロル、聞いてくれ。俺は‥。」

「‥夫婦だから悩み事も一緒に悩んで考える‥なんて良く言えたものですね!」

「‥‥。」

ガナンはとうとう何も言えなくなってしまいました。ガナンを睨むキャロルの目にも涙が溢れてきました。

そんなガナン達の隣のテーブルにいた男性が、ガナンに無声音で何かを訴えてきました。

ガナンはキャロルから少しだけ目を逸らして、その男性の口の動きを読み取ろうとしました。

「あ、い、し、て、る、‥?」

ガナンが男性の口の動きを真似してそのまま言葉を発すると、男性はガナンを見て満足そうに頷き返してきました。

「‥旦那様、今なんておっしゃいました?」

その途端、あれほどガナンに睨みをきかせていたキャロルが目を輝かせてガナンを見つめてきました。

「あいしてる‥‥。」

「ああ、どうしてその言葉を真っ先に伝えて下さらなかったのですか。‥旦那様が私を愛してくれてると‥。その言葉をどんなに待ち望んでいたか‥。」

ガナンは、この時になってようやく自分が発した言葉の意味を理解しました。ガナンは無意識にキャロルに愛を告白してしまったようなのです。

黒く日に焼けた顔を紅潮させ、照れたように頭をかくガナンを見て、キャロルは涙を流したまま笑ってしまいました。

「私も旦那様を愛してます。最初は旦那様が怖かったけど、気付けばいつも旦那様を目で追っていました。旦那様のお髭も髪も日に焼けた肌も‥朝早く起きて庭の手入れをしてる姿も‥大好きです。」

「‥キャロル、君は本当にこんな俺を好きだと言うのか?」

「はい。困った時には必ず助けてくれた旦那様が大好きです。」

「‥助けたから好きなのか?」  

「あと、急に外見や態度を変えて私を困らせたり、体が大きい割に意外と気が小さいところも好きです。」

「‥そうか‥。」

二人はそう言って笑い合うと、食事の続きを楽しむことにしました。

ガナンもキャロルも互いに言いたい事を言い合ってスッキリしたせいか、大分打ち解けていました。

グラスワインを持ち上げようとしたキャロルの手にガナンの手が重なりました。

「‥今夜‥君を抱かせて欲しい。帰ったらすぐに準備をして寝室に来て欲しい。」

ガナンはそう言うと、キャロルの手の指をなぞりながら熱をはらんだ目でキャロルを見つめてきました。

ガナンと結婚して以来ずっと待ち望んでいた言葉を聞けたキャロルは‥ガナンとの初夜への期待に胸を躍らせました。

そして‥紅潮した顔を隠す事なくガナンに向けて、満面の笑みで答えました。

「あなたの仰せのままに‥。」

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