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7、男爵の帰宅とガナンの変身

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男爵夫人とキャロルが屋敷に帰ってくると、侍女達がバタバタと忙しく動き回っていました。

「あら、なんだか皆忙しそうね。」

「奥様、お帰りなさいませ。旦那様がお帰りです。」

「まあ!旦那様がお帰りなの?すぐに旦那様のお部屋に行くわ。」

夫人はそう言って、急いで旦那様のもとへ行ってしまいました。

旦那様は、ここの領地以外にもたくさんの領地を持っていた為、時々その全ての領地をまわり、そこの管理人が不正をしていないか、領地に問題はないかをその目でしっかりと確認をしに行っていたのです。

おまけに沢山の商品を他国へ輸出する実業家でもある為、常に港の倉庫へも出向いて荷物をチェックしていたのでした。

そんな忙しい男爵様が久しぶりに屋敷へ帰ってきたのですから、夫人が少しでも早く男爵様に会いたいと思うのも無理はありません。
 
キャロルは婚姻の際に会ったきりで、久しぶりに会う男爵に対して少し緊張をしていました。もしこわい方だったらどうしよう‥そんな風に心配したのです。

キャロルは部屋に戻ると侍女を呼び、急いで身支度を整えて食堂に向かいました。

食堂へ入ると、男爵夫妻が先に席についていました。キャロルは夫妻に一言挨拶を済ませると、自分の席に着いてガナンを待ちました。

キャロルは、まだ食事の席にガナンが来ていない事にほっとしていました。‥男爵様の前でガナンと全く話さない訳にはいかないと思ってはいたのですが、ガナンに何と言って話しかけようかまだ考えていなかったのです。

キャロルが、頭の中でガナンに話しかける言葉を考えていると、食堂の扉が開く音がしました。

「‥お待たせしてすみません。支度に時間がかかりまして。」

扉を開けて入って来たのは、短髪で爽やかな雰囲気の好青年でした。日に焼けてはいましたが、白い歯がきらりとひかり、爽やかな中にも野性味があるセクシーな雰囲気を漂わせていました。

「まあ、ガナン!早速髪型を変えて髭も剃ったのね!良い男になったわね~、ねぇキャロルさん。」

「‥は、はい。」

キャロルの隣の席に、変身したガナンが座りました。キャロルはパニックをおこしていました。なぜ急にガナンが変身したのか、そればかりが気になり会話はおろか、食事にも集中できませんでした。

「‥キャロル、体調が悪いのか?あまり食べてないな。」

「‥‥!」

ガナンが珍しくキャロルに優しく話しかけてきた為、キャロルは驚きのあまりビクッとしてしまい、フォークを床に落としてしまいました。

恥ずかしさと男爵様の前で失敗してしまった事でキャロルは萎縮して動けなくなってしまいました。

真っ青な顔で小刻みに震えるキャロルを、ガナンは本当に心配しているようでした。

「‥キャロル、部屋に戻って寝た方がいいと思う。」

ガナンはそう言うと、キャロルを横抱きにして寝室へ連れて行きました。

食堂に残された男爵夫妻は、ガナンの変身やキャロルを気遣う様子を目の当たりにして、唖然としていました。

「‥ガナンったら、急に変わってしまったわね。外見も中身も。」

「‥‥。」

「あら、あなたもそう思う?」

「‥‥。」  

「ええ、そうね。これでキャロルさんともっと打ち解けてくれると良いのだけど‥。キャロルさんの様子がおかしかったのがちょっと気になるわね。」  

夫人は黙って食事を続ける男爵の微かな表情の変化を読み取り、会話を続けていました。

屋敷の使用人達には男爵が何も言わずに黙々と食事をとっていて、その横で夫人が一人で話してるようにしか見えませんでしたが、男爵が時々夫人に頷き返す場面を見て、お二人がああ見えて確かに会話を続けていた事が分かるのでした。

「‥あなた、えっ?‥やだ、本当?」
 
「‥‥。」

「ホホホホ、もうあなたったら相変わらず面白いんだから。」

使用人達は、男爵が話してるのは‥と言うか全く話してないように見えますが、何の内容なのかとても気にはなりましたが、毎回さっぱり分からないでいました。


この男爵夫妻の謎めいた会話ですが、使用人達の間では、この屋敷の隠れた七不思議の一つとなっていました。



一方、その頃キャロルとガナンの寝室では、キャロルがおおきな悲鳴をあげていました。

「‥何なの、この絵は!?」
 
「‥ダンテの宗教画か。ヴィーナスの誕生の場面かな。」

夫人のプレゼントの絵は、豊満な女性が裸で水辺に立ち、その足もとには同じく裸の男性が横たわる官能的な絵でした。

「それはいいとして。‥キャロル、実は話が‥。」

「‥ところで旦那様、なぜ急に髭を剃って髪型を変えたのですか?」  

ガナンが小声でボソボソ話し始めたところ、それに気付かずにキャロルがガナンの言葉に被せるようにして話しかけてきました。

「‥ああ、髭か。髭は‥。」
  

ガナンは何となくキャロルに嫌われない為だと言うのが、キャロルに媚びているようで恥ずかしかったので、真実を少し隠して話しました。

「‥髭は食事の邪魔になるから、マリーに剃って貰ったんだ。髪型は‥マリーが俺に似合う髪型に切ってくれたんだ。‥それにしても、おかしなものだな。身なりをさっぱりしたら、気分まで上がってきた。」

「‥そうですか。マリーが旦那様の髭や髪型を‥。」

「マリーはいつでも俺の為に頑張ってくれる優秀な侍女なんだ。侍女とはいえ、俺がこの屋敷で一番信頼している人物なんだ。」

「‥‥。」

「‥キャロル?」

「‥疲れたのでもう休ませて頂きます。‥あっ、枕は真ん中に置くんでしたね。よいしょっと。‥おやすみなさい。」

せっかくダンテが優しく話しかけてくれたのに、キャロルはダンテの話しかけてる言葉を遮り、ダンテに背を向けて先に寝てしまいました。

「‥キャロル‥。」

ダンテは、せっかく身なりをさっぱりさせてキャロルに話しかける勇気がでたのに、キャロルが体調が悪いのか‥ろくに話も出来ずに寝てしまった事に対して、少しがっかりしていました。

キャロルと自分を隔てる枕‥これも元はと言えば自分が置いたものなのですが、今晩こそはこれを置いた理由をキャロルに話したり、今までの冷たい態度の謝罪をするつもりだったのです。

ガナンは、先に寝てしまったキャロルにおやすみを言って、明日こそはキャロルときちんと話そうと心に決めて眠りにつきました。
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