あなたの仰せのままに

みるみる

文字の大きさ
上 下
6 / 20

6、キャロルの気持ち

しおりを挟む

ガナンは一人で屋敷へ帰ると、侍女を呼びました。やってきたのはマリーでした。

「‥髭を剃って、髪をさっぱりさせようと思うんだ。‥頼むよ。」

ガナンが頭をかきながら、恥ずかしそうにそう言うと、マリーは腕まくりをしながら目を輝かせてこたえました。

「ガナン様!とうとうその気になられたのですね。‥ええ、ええ、宜しいですとも。私、頑張らせてもらいます!」

「‥ああ、頼むよ。」

こうしてガナンは、自身の外見を変える決断をしました。

一方その頃ダンテのアトリエでは、男爵夫人が一点の絵画を購入し、メグに包装紙で包んで貰っていました。

ダンテが後日屋敷まで届けると言ったのを、夫人が断ってすぐに持って帰りたいと言ったからです。

「お母様、どんな絵画を買われたのですか?」

「ホホホ、帰ってからのお楽しみよ。ガナンとあなたの反応が楽しみだわ。」
 
夫人はそう言って馬車に乗り込みました。キャロルは絵が気になって仕方がありませんでしたが、それよりも屋敷に帰ってガナンに会う事を考えて少し憂鬱になっていました。

「‥キャロルさん、ガナンとはどう?」

「‥どうとは?」

「ガナンを少しは好きになれたかしら?」

「私は初めて会った時から旦那様を好きでしたよ。勿論外見は一般の女性からしたら怖いかかもしれませんが‥‥。でも私はあの髭も髪も旦那様らしくて好きです。それにあの髭も見た目は堅そうですが、長く伸びてる部分を撫でていると案外気持ちが良いのですよ。」

「‥キャロルさん、あなたいつの間にガナンの髭を触るほどの仲になってたの?」

「‥あっ‥違うんです。旦那様とはまだその‥まともに会話すらできていませんが、その‥旦那様が寝ている時に、つい出来心で髭を触ってしまいました。」

キャロルはそう言って、両手で赤くなった顔を隠してしまいました。

「‥キャロルさん、あなたはあのガナンの髭も好きだと言ったわね。」

「‥はい。」

「ガナンの母である私が言うのもなんだけど‥、あのむさくるしい外見と愛想のないガナンが旦那で辛くない?」

「‥私は、愛想が良くて口がうますぎる人が、お父様を騙してお金を奪って行く場面を何度も見た事があるんです。ですから、下手に愛想を振り撒かない旦那様に寧ろ好感を持っています。

それに‥あの強面の旦那様が、赤ちゃん熊みたいに可愛い寝顔で寝てるのを見ると‥何だか猛獣を飼い慣らしてるみたいな気分になるんです。」

キャロルがそう言って、恋する乙女のように目を輝かせているのを見た夫人は、キャロルとガナンが両思いである事を確信しました。


「フフフ。そうなの、あなた達両思いなのね。なら、話は早いわ。

でもあなた達だけに任せてたら、いつ孫に会えるか分かりゃしないから‥私がなんとかしなくてはね。」

夫人はそうやってボソボソ呟きながらほくそ笑みました。

「お母様、何かおっしゃいましたか?」

「フフフ。何でもないのよ、キャロルさんは何も心配しなくていいのよ。」

夫人はそう言って、頭の中にいろいろな計画を立てていました。ガナンとキャロルが仲良くできる様々な計画を‥。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

浮気をした王太子が、真実を見つけた後の十日間

田尾風香
恋愛
婚姻式の当日に出会った侍女を、俺は側に置いていた。浮気と言われても仕方がない。ズレてしまった何かを、どう戻していいかが分からない。声には出せず「助けてくれ」と願う日々。 そんな中、風邪を引いたことがきっかけで、俺は自分が掴むべき手を見つけた。その掴むべき手……王太子妃であり妻であるマルティエナに、謝罪をした俺に許す条件として突きつけられたのは「十日間、マルティエナの好きなものを贈ること」だった。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...