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4、画家ダンテ
しおりを挟む男爵夫人とキャロルが画家ダンテのアトリエに行くと、ダンテが若い娘を台の上にのせて絵を描いていました。
台の上にいる娘は絵のモデルに慣れているようで、キャロル達が入って来ても全く動じる事なく、裸のままポーズを取り続けていました。
ダンテは木炭で器用に若い娘の姿を描いていくと、次は油を調合して絵具をのせていきました。
そんなダンテの作業風景をひたすら見続けていた夫人とキャロルでしたが、一旦庭に出て待つ事にしました。
「ダンテのキリがつくまで、ここで待ちましょう。」
夫人はそう言うと、庭の白いベンチに腰掛けました。
一方キャロルは、庭から見えるアトリエの様子を真剣に伺い見ていました。キャロルはダンテが絵を描く様子をとても神聖化して見ているようでした。
夫人は退屈を紛らわすように、キャロルに話しかけました。
「キャロルさん、私と出会う前のダンテは女性の裸体ばかり描いてるものだから、絵が売れなくて困っていたの。そんな彼の才能に真っ先に気付いて支えたのが私なのよ。彼が描く女性の肌の瑞々しさや、髪の艶やかさに一目惚れしたの。
だから彼に、女性の裸体を描きたいのなら、大義名分として神話をテーマに使いなさいって言ってきたの。
おかげで今では教会の天井にも壁画にも、王都の貴族の邸宅にも、彼の描く女性の裸体の絵が飾られるようになったの。
でもね、彼は女癖が悪いのが玉に瑕なの。
彼の絵に描かれた女の肌の質感や肉感は、女性の肌をよく知っている彼だからこそ描けるものだから、彼の女癖の悪さにもある程度は目を瞑ってきたのだけど‥‥。
‥さっきアトリエにいた娘、未成年だったわね。ダンテに未成年には手を出すなと一言注意をしなくてはいけないわね。」
キャロルは男爵夫人の話す内容がよく理解できないようで、目をパチパチさせていました。
「フフフ。ダンテは画家という肩書をとれば、ただの助平よ。だれにでも手を出しちゃう男なの。だから、あまり神聖化して見ては駄目よ。幻滅しちゃうから。」
「‥はい、分かりました。」
「さて、もうそろそろ行きましょうか。」
夫人はそう言うと、キャロルを連れて再びアトリエに入りました。
アトリエでは、ダンテがキャンバスに下塗りを完成させて寛いでいました。
モデルの若い女性も毛布を羽織って休憩をしているようでした。
ダンテは男爵夫人を見つけると、手をハンカチで拭い、上着を羽織って夫人を出迎えました。
「男爵夫人、今日も美しいですね。」
ダンテはいやらしい笑みを浮かべて夫人の手の甲にキスをしました。続けてキャロルの手も取ろうとしましたが、キャロルは怖くて夫人の後ろに逃げてしまいました。
「‥男爵夫人、また随分と初心な女性を連れてますね。」
「ダンテ、今日は私の跡を継ぐ娘を連れてきたの。彼女は私の息子ガナンのお嫁さんよ。」
「‥キャロル・ヴィンセントと申します。宜しくお願いします。」
キャロルは夫人の背中から顔を出して、恐る恐る挨拶をしました。
「‥キャロルさん、そんなに警戒しなくていいのよ。いくらダンテが女好きとはいえ、あなたに手を出すような馬鹿じゃないわ。それに‥いつでもどんな時でも堂々としてなきゃ駄目よ。」
「‥はい、お母様。」
そんなおどおどした様子のキャロルを、モデルの女性がずっと睨みつけていました。その視線に気付いた夫人がダンテを叱ります。
「‥なんなの、あの無礼な若い娘は。」
「ここの領民の娘です。是非モデルに使ってくれ、と言うので試しに描いていました。」
「‥まだ未成年じゃないの。まさか手を出してないわよね?」
「いえいえ、下手に手を出して結婚を迫られてもたまりませんから‥‥。それに女性には困ってませんので。」
ダンテはいやらしい顔でそう答えると、チラリとキャロルの方を見ました。その顔はまるで、警戒心剥き出しのキャロルを馬鹿にするかのような無礼な顔でした。
キャロルは恥ずかしさで俯いてしまいました。
「なら良いのよ。‥ところで、最近の作品を見せて貰えるかしら?家の新婚夫婦にプレゼントしたいの。」
「それなら‥。」
そう言って、ダンテと夫人が二人で床に置かれたいくつものキャンバスを見て回っている間も、キャロルはモデルの女性にずっと睨まれ続けていました。
そして、そんなアトリエの様子を窓から覗き見する怪しい人物がいました。
怪しい人物は、キャロルを睨む女性を窓の外から睨みつけ、強い殺気を送りました。
怪しい人物、それはキャロルの事が心配でダンテのアトリエまでこっそり跡をつけてきたガナンでした。
ガナンが強い殺気を送り続けた為か、モデルの女性は急に悪寒を訴えて、服を着てアトリエを出て行ってしまいました。
女性はダンテの屋敷から出たところで熊男のようなガナンに行く手を塞がれて、恐怖のあまり気を失ってしまいました。
ガナンはその女性を木陰まで引きずって運ぶと、再びアトリエの窓から覗き見を続けました。
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