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3、ガナンの矛盾
しおりを挟むキャロルは庭での一件以来、すっかり落ち込んでしまいました。おまけにガナンも、キャロルに対して何となく気まずさを感じているようで、キャロルの事をますます避けるようになりました。
そんな二人の様子を見て業を煮やした男爵夫人は、ガナンを呼び出して苦言を呈しました。
「‥ガナン、あなた何故そこまでキャロルさんを避けるの?これではあまりにもキャロルさんが可哀想だわ。」
「‥‥あんなに若くて可愛い奥さんがくるなんて、俺だって困ってるんだよ。」
「‥お前だって、キャロルさんを見て気に入ったから結婚する事を決めたのでしょう?結婚しておきながら、その言い草はないでしょう。」
「‥あんな可愛いのに、家が借金だらけなんて可哀想だと思ったんだ。俺との結婚で奥さんの家が助かるなら‥って思ったんだ。」
「‥なら大切にしてあげなさいよ。旦那様と私も早く安心して隠居したいの。」
「‥‥借金もなくなったんだ。もういつでも奥さんを自由にしてあげる覚悟はできてる。それに‥‥妊娠の心配もない。」
「‥女の再婚なんて大変なのよ。別れることなんて考えないで、もっと大切にしてあげなさいよ。‥あなたに冷たくされてどれほどキャロルさんが傷ついてるか分かる?」
「‥それは‥申し訳なく思ってる。でも、どうやって声をかければ良いのか分からないんだ。‥それに、今まで避けてたのに急に馴れ馴れしい態度を取れば、向こうだって戸惑うだろ?‥‥こんな気の利かない俺よりも、奥さんにはもっと良い男がお似合いなんだよ。」
「本当に、頑固な子ね。‥そんな格好つけてないで、これからはもっとキャロルさんに優しく接しなさいよ。絶対にね。」
夫人はそれだけ言うと、すぐに席を立ちました。
「‥母さん、お急ぎでどこかへ行くんですか?」
「これからキャロルさんと画家のダンテのアトリエに行くのよ。」
「ダンテってあの‥女性の裸体を描くハレンチな画家の?」
「あら、神話がモチーフなら女性の裸体だって描いていいみたいよ。教会だって彼に宗教画を依頼してるもの。」
「‥まさか、奥さんがモデルになるなんて事ないよな?」
「さあ?ダンテがキャロルさんを気に入れば、声をかけられるかもしれないわね。でも、それって素晴らしい事なのよ。彼に描いて欲しいという女性は沢山いるんだから。」
「‥‥奥さんには家に残って貰う。」
「駄目よ。ダンテのような才能あふれる芸術家を保護する事も、この男爵家の夫人として先祖代々受け継がれてきた大切な使命なの。キャロルさんにも受け継いで頂かなきゃ。」
夫人はそう言って笑顔でガナンを一瞥すると、すぐに馬車の方へ向かって歩いて行きました。
ガナンは夫人と共に馬車に乗り込むキャロルの姿を見つけて、ずっとキャロルを見つめていました。
キャロルを避けているはずなのに、つい目でその姿を追ってしまう矛盾に気付き、ガナンは自嘲してしまうのでした。
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