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1、キャロルとガナンの婚姻
しおりを挟むライン伯爵家の一人娘キャロルのもとに、ヴィンセント男爵家から婚姻の申し込みがありました。
「キャロル、うちは事業の失敗が続いてしまい、一生かかっても返せない借金を背負ってしまってるんだ。‥頼む、この婚姻話を受けてくれ。」
ヴィンセント男爵家が、長男ガナンとの結婚と引き換えに、ライン伯爵家の借金を肩代わりしてくれると言うのです。
ヴィンセント男爵ガナンと言えば、真っ黒に焼けた肌の巨体で無精髭を生やした『熊男』として有名な男でした。その風貌のせいで30歳を過ぎても婚約者はおろか、いまだに恋人の一人もいないのだそうです。
キャロルはもともと男性に対して憧れも何もなかったので、今回の婚姻話に全く嫌悪感は抱いていませんでした。それに、ヴィンセント男爵家と言えば、広大な領地に加えていくつもの事業に成功している大資産家でしたので、貧しい生活をしてきたキャロルにとっては夢のような婚姻話でした。
ですが、その夢のような婚姻話が自分の父親の借金の肩代わりによるものだと思うと、少し悲しい気持ちにもなりました。
「‥お父様、だからあれほど色々な事業に手を出さないようにと忠告しましたたのに‥。」
「すまない、キャロル。今度こそ失敗しないようにする。だから、この婚姻話を受けてくれ。」
「‥分かりました。お父様の言う通りにします。」
その後、キャロルとガナンは互いに婚姻に同意し正式に結婚しました。
そんな二人が初夜を迎える時の事、ガナンはベッドの上でキャロルに向かい、冷たく拒絶の言葉を放ちました。
「キャロル、悪いが君を抱く事はない。」
「‥えっ?」
「君を抱く事はないけど、妻としての役割はきちんとこなして貰うつもりだ。君の家の肩代わりした分の働きはしてもらうつもりだ。」
ガナンはそう言って、意地悪な笑みを浮かべてキャロルを見ると、すぐさまキャロルに背を向けて眠ってしまいました。
キャロルは、悲しさと悔しさでこみ上げてくる涙をグッと堪えて、ガナンに言いました。
「‥分かりました。あなたの言う通りにします。」
キャロルはそう言うと、ガナンの隣に横になり眠りにつきました。
キャロルが横になった時、ガナンは枕をキャロルと自分の間に境界線がわりに置きました。
キャロルは、ガナンにそこまで拒絶される自分の事が悲しくて情けなくて、その日は眠れずに朝を迎えたのでした。
その翌朝からキャロルは、領地や屋敷の管理を義理の母である男爵夫人から学ぶ事になりました。
「うちはそんじょそこらの貴族達よりも沢山の資産を持ってますの。うちを成金呼ばわりするものもいますけど、先祖代々受け継いできた領地を、私達が更に頑張って拡大してきましたのよ。」
「はい、お母様。」
キャロルは、ヴィンセント男爵家の領地の広大さに圧倒されつつも、必死になって経営や管理方法を学びました。それに、屋敷の人事から経営管理、ガナンの生活習慣や好みなども教わりました。
「‥ガナンとは昨日の晩はうまくいきましたの?」
「‥‥。」
キャロルには、男爵夫人が何を聞きたいのかすぐに分かりました。初夜を無事に迎えられたのかを聞きたかったのだと‥‥。
キャロルは、なんと言えば良いのか分からずに涙ぐんでしまいました。
「‥はぁ、そんな事で泣いちゃだめよ。例えまだ体の関係がなかったのだとしても、常に虚勢を張ってなきゃ。‥まぁ、私の前でなら大丈夫なんだけどね。」
夫人はキャロルを優しく抱きしめてくれました。
「キャロルさん、ガナンはあなたを嫌ってる訳ではないのよ。ただ少しその‥‥自分に自信がないのよ。ガナンもそのうちきっとあなたを求める日がくるわ。」
キャロルは、ガナンが自分を抱かない理由を聞きたい気持ちを必死におさえて、無理やり作った笑顔で夫人に言いました。
「はい、お母様。ガナン様が私を求めて下さる日をいつまででも待つことにします。」
キャロルはガナン様と結ばれる日を夢見て頑張ろうと決意したのでした。
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