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ランクス王太子の結婚式

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ニーチェ様と私は自国を離れ、隣国に来ていました。隣国のランクス王太子の結婚式に出席する為です。そういえば、ランクス王子はこの度王太子となりました。



ランクス王太子の結婚式は、歴史ある礼拝堂で行われました。

沢山の参列者が見守る中、お二人は永遠の愛を誓いあいました。

美男美女の王太子夫妻に、外で集まった民衆はとても興奮した様子で終始歓声がやみませんでした。

お二人が馬車に乗り街中をパレードすると、街道の両脇に集まった大勢の民衆も口々にお祝いの言葉をかけ、終始お祝いムード一色でした。

そして、夜になると王宮で披露宴が行われました。王太子夫妻は挨拶に忙しそうです。

私とニーチェ様は、真っ先に隣国の王太子夫妻へのお祝いの言葉を伝え、要人達とも挨拶を交わしましたので、今はゆっくりとバルコニーで結婚式や披露宴の余韻に浸っていました。

「ルナール、僕は今日ここへ来られて良かったよ。僕達の結婚式もこんな風に出来たら素敵だと思わないか。」

「そうですね。ランクス王太子夫妻はこんなにも祝福されて、本当に国民に愛されているのですね。」

「僕達の結婚式だって、きっと国全体が祝福してくれるさ。」 

「‥私が悪役令嬢でさえなければ‥。」

私はうっかり呟いてしまった弱音を誤魔化すかのように、慌ててニーチェ様に笑って見せました。ニーチェ様は少し困った顔をされ、私の頭を撫でて下さりました。

「飲み物を頼んでくるよ。君はジュースで良いかい?」

そう言って私の分の飲み物をとりに行ってしまわれました。



「ルナール?」

私がバルコニーから王宮の夜の庭園を眺めていると、後ろから声をかけられました。この声は‥ランクス王太子でした。

「ランクス王太子、この度はご結婚おめでとうございます。」

「ああ、ありがとう。でも君ももうじきニーチェ王子と結婚式をあげるんだろう?」

「はい。ランクス王太子がニーチェ王子に、自国へ戻り私と結婚する様にと仰って下さったお陰です。私はやっとゲーテ様と婚約破棄ができました。今はニーチェ様との結婚が待ち遠しいです。

ニーチェ様は、聖なる魔法を使う為の魔力が無くなった私でも良いと言って下さいました。私は幸せ者です。」

私が少しはにかみながら答えると、ランクス王太子は、少し辛そうなお顔で私に尋ねました。

「僕がニーチェに君との結婚を勧めたと、ニーチェ王子が言ったのかい?」

「はい。」

「ニーチェ王子は、君の魔力がもう無くなってしまったと言ったのかい?」

「はい。」



ランクス王太子は驚きました。


ニーチェ王子がこの隣国にいた時、ニーチェ王子を呪いから救ったのは、ランクス王子でした。治癒魔法と聖魔法を使って救ったのです。

ところがニーチェ王子は、呪いを解くのではなくて、呪詛返しをして欲しいとランクス王子に頼んできました。ランクス王子は、それに応えました。

ランクス王子がルナールの所へ行っていた頃、ニーチェ王子は、ひそかにランクス王子とルナールが恋仲ではないかと疑念を抱いていました。

そして、ランクス王子が隣国へ戻ってくるなり、ルナールとの関係を聞いてきたのです。ランクス王子がルナールを愛していると正直に伝えたところ、ニーチェ王子は急いで自国へ戻ったのでした。そして、ルナールと婚約したのです。

それからランクス王子は、一度はルナールのもとへ向かいましたが、魔物騒ぎとリリーの口からこの事を知った事で、失意のまま帰国してすぐに親の勧めていた婚約を受け入れ、結婚に至ったのです。そして、ランクス王子は王太子となりました。

けれども、何よりも一番ランクス王太子を驚かせたのは、ルナールの魔力が消えたとニーチェ王子が言った事です。

同じ聖魔法が使えるランクス王太子だから分かる事ですが、今こうして見てましても、ルナールの魔力はとっくに戻っていました。むしろ力が漲っており、体の輪郭からキラキラと黄金のオーラを放っています。

これは‥一体どういう事なのだろう?

それに‥ランクス王太子には、もう一つルナールに聞きたい事がありました。

「ルナール、以前僕と会った時に君が言っていた事を覚えているかい?

君が前世で犯した罪とは何だったんだい?その為に君は自分を犠牲にして、悪役令嬢とまわりに呼ばれてもひたすら耐えて、自国の為に、ゲーテの為に尽くしていたじゃないか。今こそ僕に教えてくれないか。」


ランクス王太子はそう聞かれて、ルナールは困ってしまいました。


今のルナールはその「前世で犯した罪」というのが、何なのか思い出せないでいました。それにルナール自身何故あんなにも自分を犠牲にして、悪役令嬢と呼ばれても、ゲーテ様と自国の為に尽くしていたのか分からないのですから。

ルナールはランクス王太子への返答に困ってしまい、何となく居心地の悪いような気分になりました。

すると、飲み物をとりに行っていたニーチェ様が戻ってきてくれました。

ルナールは思わず最高の笑顔を浮かべて、ニーチェ様を見つめてしまいました。‥まだランクス王太子への返答をする前でしたのに。

「あっランクス王太子、失礼しました。私はその辺の記憶が少し曖昧なのです。実は、以前ゲーテ様をお助けした際に一部の記憶を失ってしまったようなのです。ですので、ランクス王太子の質問にも何とお答えして良いのか‥‥。」

ルナールは失礼をお詫びした上で、何とか質問に応えたつもりですが‥‥ランクス王太子は依然府に落ちない顔をされていました。

すると、ニーチェ様が助け舟を出して下さいました。

「ランクス王太子、今日はご招待頂きありがとうございました。素敵な結婚式と披露宴でした。私達の結婚式にも王太子夫妻を是非ご招待させて下さい。

‥それでは、妻はまだ病み上がりの為これで失礼させて頂きます。」

ニーチェ様はそう言って、ルナールを連れてこの場から離れました。

すると、後ろからランクス王太子がルナールに向かい、

「ルナール、君が今幸せなら僕はそれで良い。僕はあえて何も言わずにいよう。君の幸せをずっと祈っているよ。」

と言って微笑んで下さいました。

「ありがとうございます。私もランクス王太子夫妻の幸せをずっと祈っております。」

ルナールはランクス王太子に精一杯の祝福の気持ちを込めて、そう言いました。

ランクス王太子とルナールの久しぶりの再会は、お互いに笑顔でのお別れとなりました。
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