令和百物語

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第八十九夜 ストーカー

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私は大学に通うようになってから、ずっとストーカー被害にあっていた。

ストーカーは、私の自宅や駅の駐輪場に停めた私の自転車に、私を怖がらせるような内容の手紙を入れてくるのだった。

今日も自転車の荷台には、一枚の紙が入れられていた。内容は、私の私生活の事や私に対する脅しであった。

『ミサキ、お前の事は全て知っている。間違っても俺から逃げようとするなよ、それは不可能だからな。‥それに、俺はお前が死ぬ瞬間までお前の味方だ。それを忘れるな。

お前に良い事を教えてやる。‥お前の彼氏の典之は、お前の親友と浮気してるぞ。‥疑うなら、今日の夜そいつの部屋に行ってみるんだな。』

恐ろしい事にストーカーは、私の人間関係を全て把握していた。それどころか私ですら知らない事まで、時々こうして私に忠告もしてきたのだった。

「‥典之が浮気って、しかも私の親友と?」

私は半信半疑だったが、とりあえずいつも一緒にいる友達の紗栄子と雪野にLINEを送った。

「ねぇ、今日の夜一緒にご飯食べない?」

ブー、ブー、

「ごめん、バイトだわ。」

「ごめん、私もバイト。」

二人共バイトだからと断りのLINEが来た。

‥‥どっちが怪しいんだろう?

私はとりあえず典之にもLINEを送った。

「典之、今日そっち行って良い?」  

ブー、ブー、

「今日は友達と家で飲むから無理だわ。」

‥‥典之にも断られた。‥これって怪しいのか?

私はストーカーの言う事を信じる訳ではないが、典之のアパートへ抜き打ちで向かう事にした。

ピンポン、ピンポン、ピンポン、

典之のアパートの部屋には電気が付いていたが、チャイムを鳴らしても反応はなかった。

試しに扉のドアノブを掴んでみると、鍵がかけられてなかったので、私は躊躇なく中へ入った。


「典之~ごめんね、やっぱり来ちゃった。‥‥って、紗栄子も一緒だったんだ。」
    
抜き打ちで訪れた典之の部屋では、典之と紗栄子が裸で抱き合い、良い感じでクライマックスを迎えようとしてる最中だった。

「きゃあっ。」

紗栄子は、典之のベッドの上のシーツを手繰り寄せ、必死に体に巻き付けようとしていたが、裸の姿はちっとも隠しきれていなかった。

典之は、下着だけを急いで履くと私に言い訳を始めてきた。

「ごめん、さっきまで皆んなで飲んでたんだけど、紗栄子が酔って介抱してただけなんだ。」

酔った紗栄子を裸で介抱しただなんて、ありえない言い訳をする典之に、私は心底呆れた。

それに‥

「紗栄子、あんた私がLINEしたら、今日はバイトって言ってなかった?」

「‥バイトが急遽なくなって‥。たまたま典之君の家の近くを通りかかって‥‥。」

‥‥紗栄子の言い訳も苦しいものだった。

問い詰めると、二人共何ヶ月も前から時々体の関係を持っていた事を白状した。

「紗栄子、あんた隆人に言いつけるからね。」

「‥それだけはやめて!隆人は関係ないでしょう?あんた達と違って、私と隆人はラブラブなの!」

「‥それは許されないでしょう。ねえ、典之?」

「‥‥ミサキ、ごめん。」

「ちょっと‥典之、隆人には言わないって言うから寝たのに!」

‥‥言い争い続ける紗栄子と典之を無視して、私は典之のアパートを出た。

自宅に戻るとすぐに、典之のLINEをブロックし、連絡先を消してから寝た。


翌朝目覚めると、私の枕元には例のストーカーの書いた紙のメモが置かれていた。紙には所々血がついていた‥‥。

『ミサキ、お前のカタキはうってきた!喜べよ!!あのアホ女とすっとぼけ男は、俺が殺してきた!アハハハ、‥‥楽しいなぁ。お前も俺から逃げようとしたら、まじで殺す!アハハハ‥。』

‥狂ってる!私のストーカーは、とうとう殺人まで犯してしまった!

私は震える手でテレビをつけて、ニュースを確認した。ニュースでは、典之と紗栄子の殺人事件の事が報道されていた。

典之のアパートの防犯カメラに映った映像も公開されていた‥‥そこに映る刃物を持った人物は、私の服を着ていたし、どことなく私に似ている気がした。

「‥あれは‥私?」

私はハッとして、自分の両手をみた。‥爪のまわりによく見ると、洗い落せなかったのだろうか‥‥血が付いていた。

「‥やだっ!‥まじで‥私?」

私は心臓がバクバクと激しく動悸するのを感じた。

「‥どうしよう。覚えがない。じゃあ、このメモも‥これまでずっと私が書いていたと言うの?じゃあストーカーの正体は‥‥‥私だったの?」

私はそう言って、血のついた紙のメモをもう一度手に持ち、よく見てみた。筆跡はよく分からないが、この紙は、間違いなく私がよく使うレポート用紙だった。

私はショックのあまり、そのまま気絶してしまった。


「‥‥ミサキ?まさか‥もう目覚めないつもりか?俺を独りぼっちにするのか‥‥。」

遠のいた意識の中で、私は無意識に自分が喋っているのを、他人事のように聞いていた。

「‥独りぼっちは嫌だ!お前を殺して俺も死ぬ!」

そう言って、私は自分で自分の首を絞めていた。


その日、警察が典之と紗栄子の殺人事件の容疑者として、私のアパートを訪ねて来た時、私は自分の手で首を絞めて死んでいるところを発見された。

事件は、私が痴情のもつれで二人を殺した後に自殺したものとして処理された。

ただ不思議な事に、司法解剖の際、私の首を絞めた跡が、女の人の力ではあり得ない力で絞められた跡だった事が分かった。

それはまるで、男の人の力で絞められたような跡だったらしい‥‥。

それでも‥私の部屋には内側から鍵がかかっていたし、首には私の手が添えられていたので、私の死はやはり自殺と断定されたのだった‥‥。
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